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玄関では夕飯の支度中だった母の美千代来客を迎えていた。
「んまあー、ちょっと見ない間に大きくなったわねえ。おばさん、びっくりだわあ。大丈夫?雨に濡れてない?風邪ひいたら大変よー」
「いえ、ご心配なく」
「あえええっ!?」
思わず、大声を出してしまう。
玄関に立っているおとなしそうな少年。
英麻は彼を知っていた。まっすぐな黒髪に丸眼鏡。ブルーの腕章付きの深い青色の制服。この前の平安エリアの戦いの際、応援に来たタイムパトロール第八部隊の一人である。ろくに話もしなかったが、確かにそうだ。名前は何だったか―――
「何よ、変な声出して。響くんに失礼でしょう」
美千代がぺしんっと英麻のお尻をはたいた。
「ひびきくん…って誰?」
「やーね、いとこの響くんに決まってるでしょ?」
「い、いとこおッ!?」
「そうよ。幸大伯父さんのとこの四人兄弟の末っ子の」
「なっ、なな何で?伯父さんの子供って三兄弟でしょ?第一、この人」
そこまで言いかけた時、眼鏡の少年がすっと唇に人差し指を当てた。黒目がちな目が静かに英麻を見ている。
黙っているように。
そういう意味だった。
「それでー?今日は何のご用かしらー」
いつも以上に愛想よく美千代が尋ねてきた。少年はにこやかに笑ってこう答えた。
「実は英麻さんにちょっとお話がありまして」