6
―――…カチッ…カチッ…カチッ…カチッ…カチッ…!
転換時計の音が鳴り終わった時、周りの景色はすべて静止していた。
日傘を差し、汗を拭き拭き、遊歩道を歩くずんぐりしたおばさん。縁田川を泳ぐ黒や朱色の鯉たち。川面を低く飛ぶ鳥。そして、川の流れすらも。
未来側の操作で時間が止められたのだ。
「どうなってるんだよ、これ…」
唖然とするみなみ。だが、それも束の間のことで再び英麻とハザマを振り払おうとする。暴れ馬さながらの勢いだった。
「エエイ、しょうがないネエッ」
ニコが英麻の肩から飛び降り、すぐさま地面を蹴った。ピンクのゴム毬状になったニコがみなみにボヨンッと体当たりする。
「うわっ!」
みなみはバランスを崩し、ドアが開けられたシリウス328の中へ倒れ込む。はずみで背負っていたスポーツバッグから一枚のカードらしきものがひらりと落ちた。
ん?このカードの図柄、知ってる気がする。何でだろ。
英麻が拾い上げたそのカードには、水色のどこか変わった衣装を着た、やたらと瞳の大きな可愛い女の子のアニメ風イラストが描かれていた。やはり水色の三角帽子をかぶり、メルヘンチックなデザインのほうきと杖を手に持っている。
みなみはカードを落としたことには気がついていなかった。
「何だよ、こいつ!?豚の妖怪か?」
「ムウ、失礼ダネッ。この第八部隊のキュートでお茶目なアイドル、ニコ777を妖怪呼ばわりするなんてエ」
「んなこと言ってる場合かっ。ニコも早く押さえるの手伝え。おい、おまえは何してるんだよ、ぐずぐずするな!」
「えっ…ああ、ごめん!」
ひとまずカードをポケットにしまい、英麻はシリウス328に乗り込んだ。
「ミサキ先輩!は、発進の準備をっ、お願いします!」
「了解」
ミサキが気のない返事をして操縦桿を握った。全員が乗り込んだシリウス328が青い光の帯に包まれ始める。
時刻はついに午後四時ちょうど。
英麻は、なおもじたばたするみなみをハザマとニコとで必死で押さえつけた。
遊園地、ファンタジードームから強引にタイムスリップさせられた時の状況が頭の中に蘇っていく。このせわしなさ。ドタバタ感。ニコのタックル攻撃。すべてに身覚えがある。
ああもうっ。これじゃ、初めてタイムスリップした時と同じ展開じゃないのよ。もっとスマートな感じでいきたかったのにっ。
必死でみなみのげんこつをよけつつ、英麻は情けない顔で天を仰いだ。
喧噪の中、青い光と共にシリウス328は縁田川沿いの空き地から消え去った。