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劇中劇とエンドロール  作者: 遠禾
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12

 暁達がいる場所にも炎の勢いは感じられた。

 多数の人間同士で揉みくちゃにされている状況だ。それなりに距離もある。温度そのものは暁達の元にまで届いているかは、わからない。だが地上に引き摺り出された人間が燃えている。その様は、戦中を知らない暁の目には、下手くそなフィクション、作り物のように見えた。

 それは往生際の悪い、暁の願望でしかないだろう。涙を垂れ流し、髪を振り乱したみっともない顔で暁は炎がやがて小さくなるのを見ているしかなかった。

 

 処刑場に詰めかけた人々は、炎が消えていくのを見て少しずつ姿を消していく。何の感慨もない。ちょっとしたショーを鑑賞しに来たというような風情だ。彼等の敬愛している姫君を侮辱した魔女を葬ったという喜びすらないような気がする。先程あがった歓声も、ただこのショーを楽しんでいただけとばかりに彼らは各々の生活に戻って行く。

 本当に?

 この世界は所詮、葵の創作物なのに彼らは生活を営んでいるのか。暁の視界から外れた瞬間、糸の切れた人形のようにばたばたと倒れ、次の出番まで動かないのではないか。自分の出番を待つ演者と同じように。

「尾根先輩どうしよう……」

 ゆっくりと隣を見ると、歌乃が困ったようにあちこちをきょろきょろ見渡している。

 そういえば自分は歌乃と一緒に来たのだ。そこには山吹も含まれていた。

「柏を探してるんですけど、見付からないんですよ。やっぱりはぐれちゃ駄目だったと思うな……お城に行った方が良いのかな」

 大きめの声でとめどなく独り言を繰り返しながら、しかし柏と合流するのを諦めていないのか。首が痛くなりそうな程周囲を繰り返している。

 山吹は自分達を巻き込んで何がしたかったのか。直接的に友人が異様な状況下で殺されるのを見せられた事は、暁の心を酷く傷付けただけで他に有益な事は何にもない。

 それでもここにいて、ずっといてもどうにもならない事だけはわかっていたが何も考えたくない。

「城ってどこだ」

 ぽつんと歌乃が呟いた。山吹に促される儘人の流れる方向に向かって歩いて来たけれど、建物も道の作りもどれも同じように見える。城への道筋など覚えていない。

 涙を拭いつつ暁も反射的にあたりを見渡してみる。

「あそこじゃない?」

 ここは高台になっているのでなだらかな坂を下り、見える街並みの向こうに灰色のずんぐりとした大きな塊が見えたのであそこを指差すと、歌乃が本当だと頷いた。

「でも、出る時も柏がいたから上手くいった感じしましたよね。わたし達だけでも戻って大丈夫なんでしょうか」

「わからないよ」

 投げやりな気分になっていた為、口調も態度もぞんざいになる。悪いとは思うが、どうしても梓の事が頭から離れなくてこれからどうしようかなんて考えもつかないのだ。

「もう、本当にわかんない」

 足元を見つめる。未だに立っていられるのが不思議なくらいだった。何を言えば良いのかわからない、といった様子で黙り込んだ歌乃の表情に微かに心が痛んだ気もしたけれど、それ以上の痛みに押し潰されそうなのだ、今は。

 涙を拭い、再び地面を見つめる。

 未だ処刑台の方を向いて立ち尽くす暁を、他の人間は不審そうな顔をしながらも特に何か言うでもなく町に引き返していく。その中で不意に暁の耳に入り込んだものがあった。


「それにしても期待外れだったな」

「ああ、魔女の顔だろ?エリザーベト様よりも美しいなんて噂だったから、そりゃ殺すの勿体ねえなとか思ったんだけどな。どうだいあんな地味で貧相な女とは思わなかった」

「本当にな。見に行って損したよ」

 その会話が聞こえた方を振り返ると、力仕事で生計を立てているのか小柄だが筋骨隆々とした中年の男が話をしているのが視界に入った。

 貧相な女?

「歌乃ちゃん」

「え。は、あいっ?」

 殆ど言葉を発さず泣き濡れていた暁に唐突に名前を呼ばれ、驚いたのか歌乃が裏返った声を出したが構っている暇はない。暁は、歌乃の肩を掴んで問い掛ける。

「ねえ、うちの部で一番綺麗なのって誰だと思う?」

「え……そりゃ、黒神先輩なんじゃ、ないですか?」

 不審そうにしながらも答えてくれる歌乃に、暁は大きく頷く。

「そうだよね。わたしもそう思う」

 友人の欲目とかではなく、客観的な事実として、梓は演劇部はおろか学年でもトップクラスの美貌の持ち主だと思う。

 この世界の人間の審美眼に疑いの余地はあるものの、そこまで考えてはいられない。

「梓が魔女なら、魔女を見て貧相な女とか言わないよね絶対」

「た、多分」

「だよね!」

 希望が見えてきた。処刑された魔女とやらは、梓ではないのかもしれない。

「いや、でもわたしの個人的な感想で、皆そうかはわかんないです……」

 珍しく小さな声で付け加えてくる歌乃の言葉も耳には入らなかった。暁は高台に向かって歩き出した。


「先輩?何処に行くんですか?」

「梓かどうか、確かめてくる」

「そんな!」

 歌乃が悲鳴のような声をあげた。

「魔女って言われた人、燃やされちゃったんですよ!?そんな……どんななんて、怖いです、絶対。それに……黒神先輩だとしたら」

 足が、止まりそうになる。

 一応暁の後を追ってくるものの、半泣きで歌乃は言い募る。

 暁も歌乃も平凡に生きてきた高校生であり、事件や事故に巻き込まれた経験は一度もない。死体を目撃した事も当然ある筈がなかった。


「……やめませんか?」

 歌乃自身怖気づいているのが大半の気持ちなのだろうが、言いたい事もよく分かる。

 魔女が、処刑された魔女が梓だったら凄惨な友人の死体を目撃する事となる。暁は、自分の精神がそのショックに耐えられるか自信はない。

「でも、行く」

 今にも泣き出しそうな顔をしたが、歌乃はもう止めては来なかった。後は無言でついてくる。

 希望がなければ、動けない。梓の為というより、自分の為に梓に生きていて欲しい。

 

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