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劇中劇とエンドロール  作者: 遠禾
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 侍女や召使の女衆がこんなところにいると、要らぬトラブルに巻き込まれやしないかと暁はひやひやしていたが、一方歌乃の方は平然としているのが異質に見えて致し方ない。

 誰かに見られたらどうするんだ、としきりに周りを気にしているうちに、歌乃が小さく叫んだ。出て来た!と。


建物の陰から現れた小柄な男は、兜も被ってないどころか、甲冑らしい格好には到底見えなかった。歴史の教科書で見るような布を重ね合わせたような上着と、ズボンらしき布を脚に巻いている。

「大丈夫大丈夫」

 良くわからないが、そんな事を周りの人間に言いながら近付いてくると、隠れている暁と歌乃前まで堂々たる足取りでやってきた。

 そして周囲の視線や自分達の状況など意に介した様子は一切なく、愛想良く言い放った。

「お待たせー。見に行こうぜ」

「見に行くって、何を?」

 何だこいつ、という疑問符が暁の頭の中に浮かんだ。

暁のように状況に付いて行けずに、この世界に振り回されるでもなく、光や柚葉のようにこの世界が葵の書いた脚本の世界だといち早く悟り、役になりきる事でこの世界に異物と悟られぬように演技に徹するでもない。


 爽やかに笑顔を浮かべ、飄々としている。何時もの山吹のようにも見えるが、絶対に違う。寧ろ演技していてくれなくちゃ困ると思う。でなければ、この余裕綽々とした態度は理解が出来ない。

 こいつ、本当に見た目も中身も柏山吹か?

無意識に疑念の目を向ける暁に、山吹の顔をした男は爽やかに言い放った。

「決まってんじゃん。処刑だろ」

 ざあっと血の気が引く。

 先程まで頭の中を支配していた感情と、疑惑が再び頭を持ち上げる。

暁の顔色が変わったのもわかっているだろうに、男は変わらずにやにやしながら両手に抱えた布を持ち出して見せた。

「全く、趣味悪いよなあ。姫様を傷付けた奴の死に際見に行きたいとかさあ」

「……」

「でもお姫様の従者がその役目放棄していたのバレたら不味いんだろ?これ被って行けよ」

 暁が言葉を失っているのも構わず、山吹は布を暁と歌乃に放り投げると歩き出した。

「処刑場に行こうぜ、もしもバレたら俺が付き合わせた事にしてやるよ」

「わかったから、早く行こう。先輩」

 歌乃が暁の手をひいて歩きながら、山吹の後に続く。そうしながら放った言葉に、暁は我に返る。

処刑場に梓はいる。劇のシナリオ、フィクションの為に命を落とそうとしている。

 この異常な状態の所為で梓が万が一命を落とす事でもあれば、気が狂うかもしれない。泣き出しそうな気持ちを奮い立たせて、重たい靴を持ち上げて山吹の後を追った。


 堂々とした態度かつ、常に笑顔の山吹の後ろを付いて歩いていく為か誰も騎士と侍女が一緒になって歩いていくのにも見咎められる事はなかった。

 山吹に渡された布でメイド服を覆い隠しているのもあるかもしれない。歴史の授業について、通り一辺倒の知識しかない暁にはそもそもこの実際の歴史に似て見えて全く違うファンタジっクな世界に於いて、自分のような下働きの娘が兵士と並んでいるのは不自然なのかどうかもわからない。

「こっちこっち」

 手招きする山吹に付いて行くと、門番らしき男と軽快に会話しながら通り過ぎる山吹の後を足早に行く暁と歌乃は止められる事なく城を出る事が出来た。

「これ、どうしたの?」

「これで何とかしたんだけど」

城を出た途端、不自然な陽気さは鳴りを潜め山吹が真顔で振り返った。指で円マークを作って見せる。お金、という事か。

「いや、どっからお金調達したっての!」

「それが、金持ってたみたいなんだわ」

 追及する歌乃に山吹は、頬をかいた。本人も、少しばかり違和感を覚えているらしい。

「田舎出身騎士って設定だったけど、武勲をあげたみたいな前提あったでしょ。褒美をわけてやるってあちこちに話したら、まあ皆愛想良くしてくれたわ」

何処でもモノを言うのはこれですわ、と半笑いでつらつらと語る山吹に、思わず暁は突っ込みを入れた。

「そんな事言って、いざお金渡してとか言われたらどうするの。設定だからって、本当にお金あるの?」

「知らんよ。だって俺ここに来たばっかだし」

 そんな事はわかっている。だからこそ心配しているのだ。

「いやだから、お金渡せないなんてわかったらどんな目に遭うか……」

「そんな事言ったって。この悪夢か冗談みたいな環境で、いちいち躊躇ってたらどっちみち死ぬでしょ。どうせ」

 死ぬ、なんて言葉使わないで欲しいのが本音だったが暁は後輩の生意気かつ、後ろ向きな発言を咎める気にはならなかった。


 梓の事ばかりで頭がいっぱいだったが、暁自身この世界では自由らしき自由なんて与えられていないのはわかりきっている。うまいこと歌乃に会えたから良いものの、そうでなければこの侍女は無作法者だ、と城から身一つで捨てられて途方に暮れるか下手すれば暁自身が処刑場れるような立場に立たされるやもしれない。

「口八丁でもなんでも、やり過ごして上手い事ここから逃げ出すチャンス見付けるしかないでしょ。常識なんか何の役にも立たねえし」

「柏、先輩に言葉が悪過ぎ!」

「いや、ごめん。その通りだ」

 余裕綽々に見えた山吹だったが、そんな筈がないのだ。強がって、自身を保とうとしている。そうする事で状況を冷静に分析しようとしている。暁にはそう思えた。暁への口の利き方に怒り出す歌乃を宥め、山吹に謝罪を告げた。

 そう考えると、柚葉に止められたのも今となっては理解出来る。一人飛び出した自分を彼等も心配している。命の危機にあるのは、きっと梓だけじゃない。ほんの少しの躊躇いや選択間違いがこの世界では命の危機に繋がる。

「不敬罪で、即座に死刑を言い渡される世界だもの……何が起きるかわかったもんじゃない」

 こちらはそこまで考えが至ってなかったのだろう。歌乃の顔色が目に見えて悪くなった。

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