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劇中劇とエンドロール  作者: 遠禾
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炎に消えた魔女 1

全てが憎たらしかった。全ての人間が憎かった。毎日が楽しそうなクラスメイトは勿論、テレビに映る笑ってばかりの芸能人や下手すれば通りすがりの小学生や、のんびりと散歩を楽しむ老夫婦さえ嫉妬の対象だった。

誰もが自分が欲しいものを持っている。自分だけが惨めだ。楽しくなんてない。笑うことなんて出来ない。どうして笑えるのかわからない。笑えるような出来事を得ている全ての人間が自分を見下している。そう思えて仕方がなかった。

苦しい、毎日が苦しい。お前らが何の気なしに浮かべる笑顔をどうしてどれだけの努力をして、頑張っても上手く作れない。

きっと自分はこの儘だ。何も、人生で何かを成し遂げることもなく落ちぶれた儘、何時か情けない大人になれ笑われながら年を取るだけ。


自分が悪いのか?それならもう、何も希望なんかない。皆皆、助けてもくれない。



誰かが口を開いた訳でもないのに誰かが呟いた声が聞こえたような気がした。

「やっぱり、見た目だけか」

舞台で口火を切るべき台詞を梓は覚えていたものの、役作りには至らなかったようだ。これまでは読み合わせなどは、どれだけ台詞が少ない役でも、出番が僅かでも暁が付きっきりで一緒に練習していたのだから、当然といえば当然だ。クラスメイトには打ち解けてきて多少の会話が出来ても、部活動も暁と親しい部員には何かと構って貰っても個人練習に付き合って欲しいと言える程、梓は他者との接し方は上手じゃない。

たどたどしい言葉の羅列は朗読にしても下手と言わざるを得ないひどいものだった。覚えていただけ偉いと言うべきなのか。

「あれ、やばくないか」

柚葉に市民役の男子が話しかけている。気遣ってか練習中だからか、小声だ。柚葉も苦笑いを浮かべている。

彼らがそういった手厳しい会話を交わすのは当然の話だった。この物語は魔女の高らかな宣言から始まる。


この国は滅びる。他ならぬ姫の愚行によってである。天は見放す。主は見過ごさぬ。悪は血によってしか拭えはしない。姫を捨てられぬのであれば、遠いところへ、姫の愚行に耳を貸すものがおらぬとおいとおいところへとー


長い台詞だ。朗々と、呪文を唱えるように彼女は語ったと、元の小説にはあったが、梓の口から溢れた言葉はそんな大層なものではない。親に読めと言われて渡された感想文を訳がわからぬまま読まされている子供である。どもり、不自然な吐息が混じりくぐもった低い声は聞き取り難いったらない。

こんなみっともない魔女の台詞から始まる劇を、素人とはいえ見たい者がいるだろうか。

暁が何も知らない一般客なら、多分見ない。この感じでずっと続くのかと思うと他の演者の出番を待つのすら無駄だと思ってしまうかもしれない。

やはり台詞が少ないからと重要な役目を梓に当てはめるのは無理があったのだ。でなければ、脚本を多少変えて梓の芝居の酷さがなんとか誤魔化せるように調整するか。

「ああ!」

ハラハラしながら舞台を見守っていると、急に近くで大きな声がした。舞台は魔女の不敬な予言に怒る王の命により、魔女が兵士に捕らえられるところであった。今日は王の役の三年生がいない為彼の台詞は抜きで劇は進んでいく。



姫の前に魔女が引きずり出される。暁も少しだけ出番がある為舞台に上がる為壇上横の階段からそっと上がる。

暁が舞台の袖に辿り着いた時、姫の前で姫の罪を叫ぶ魔女と魔女の世迷い言に深く傷付いた姫が泣き崩れるところだった。

(残酷だ)

傷付いた訳でもなく、同情する訳でもなく暁はそう思った。

涙を流しながら首を振り、小さくか弱い少女は白く細い両手を顔から離した。

本当に泣いている。

光は泣いていた。練習だとか、そんなの彼女には関係ない。目が彼女から離せない。直ぐ傍に先刻まで部員全員の心を釘付けにしていた梓が、最早役割抜きに道化にさえ見えた。


「ひどい」

たった一言だ。それでも心を痛め付けるだけのいたいけな、悲しみに濡れた震えた言葉が胸をうった。髪を振り乱して少女は儚げな眼差しを舞台へと向けた。

「わたしが、なにをしたというのですか」

頬を真っ赤に、目元も同じ色に染まっている。声は悲しみに沈んでいるのに、耳に届く声は綺麗に収まった。

ああ。ああ。なんてかわいそうなんだろう。

怯えたように少女は、梓から離れる。震えた指がドレスを握ろうとして、何度も引っ掻く。動揺に、ショックに収まらない繊細な心が悲鳴をあげている。その心を表すかのように。

そして彼女は言う。魔女を死刑にすると王が怒りに燃えて叫ぶ、その火種となる言葉を。


「そのひとを、わたしから離して……」

あ。誰かの声がした。もしかしたら、暁の声だったのかもしれない。

光の纏うドレスが視界で翻る。同時に風が吹いた気がした。嫌な、湿った風だった。


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