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劇中劇とエンドロール  作者: 遠禾
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「慰めにもなんないけどさ、ちょっとこれ見てくれない?」

 暁の隣にいた少女が躊躇いがちにスマートフォンを取り出して、何か操作を始めた。彼女は舞台班ではなく、どちらかというと舞台の衣装や小物なのどの細かい作業を担っている。なんでも、創作のアクセサリーやちょっとした衣装がイベントで毎回完売するレベルらしい。暁はそういった関係に疎いので一度手伝いが出来るならやりたい、と言ってみたところ遠い目をした彼女に断られた「尾根ちゃんには、刺激が強過ぎると思うからさ……」との事だった。言われた事はよくわからなかったが、多分ど素人の自分は足手まといだからと、遠回しに断られたのだと納得した。

 製作担当の彼女が演技の面で何かアドバイスしようとするとも思えないと思っていたが、暁の予想通りで彼女が見せてきたのはある俳優のネット記事だった。日付は今より五年程前である。

屋敷やしき とおる離婚報告、親権は母親に』

 屋敷透は今より更に十年程前に深夜帯のドラマがヒットした事で注目を浴び、個性派俳優として今も名を広く知られている芸能人だ。勿論暁もこの人物の出ているドラマや映画を幾つも見た。スタイルこそ良いが美形というよりは強面と言われる類の顔立ちで、暁は彼の出演作も芝居も楽しく見ていたから、その風貌通り妻に対する暴力的な言動が原因で離婚となったというニュースを目にした時は落ち込んだものだ。そんな事をする人間の芝居を好ましく思っていた、屋敷透の人間性に気付かなかったのが、悲しかった。

 周囲の人はいかにもやりそうじゃん、とか芸能人の離婚で何落ち込んでるんだなどと言っていて、全くその通りだと納得したのに、どこかで自分の尊敬や好意が裏切られたような思いは燻った儘だった。

 だから、暁は芸能人の惚れた腫れた事件を起こした何だ、例えおめでたい情報でもなるべく目に入れないように努力していた。お笑い芸人やアイドルとは違う、俳優は演じている姿が全てだ。プライベートな姿など見たくはない。


 やはり実力があれば大なり小なりスキャンダルが取り沙汰されるものだし、現に今もこの俳優は第一線という程の勢いではないもののメディアに引っ張りだこだ。暁は意識して避けるようになったから、どんな芝居を今見せているのかは知らないが。


「それがどうしたのよ」

 芸能人の離婚も暁のちょっとしたトラウマも今の話題にはそぐわない筈だ。首を傾げてみると、彼女は続けて違う画面を保存したものを取り出した。

「何これ。昔の……ドラマの情報みたいだけど」

「あ、これ知ってる。人情者好きなうちの親がハマってた」

 暁は知らないドラマだが、何年か前に放送された一つの家庭を軸にした群像劇らしい。所謂お涙頂戴もので、嫌いな人間は嫌いだが流行りやすい題材でもある。皆でスマートフォンの液晶の細かな画像を覗き込んだ。

 演者の名前と役柄、役の詳細がプロフィール写真の横に羅列されている。その中の一つ、彼女が指差した。

「これ、この子役の子」

「この子?」

「この子、柏くんじゃない?」

「ええっ?」

 解像度は高いものの所詮は手乗りサイズの液晶だ。山吹かどうかなんてわかりにくい。髪は日本人の平均的な黒髪だし、この年頃の子供は山吹に限らずこんな可愛らしい顔をしている気がするし、暁には判断出来なかった。

「芸名なんかな?名前違うぜ」

 男子が指差す箇所を見る。確かに件の子役の名前が示されている。

「なんて読むの、これ……とぎこな?」

「とのこ、らしいよ。とのこはるつぎ。明らか芸名だよね。確か屋敷透の方が本名だった筈だから、親子でもおかしくないよ」

「でも、証拠がないじゃん」

 放送された年を見ると、丁度暁が小学校に入学した年である。年齢で考えればこの子役の子供が山吹でもおかしくはないが、それだけで決めつけられない。

「ん~柏くんお芝居が桁違いに上手な理由が現役俳優の子供で役者経験あるってのは説得力はあるけど、現実そんなんあるかな?」

「それにさ、今柏が演劇部に入ってきたという事は少なくとも今は芝居してないって事だろ?二世俳優とかどんなけ演技力ヘボでも仕事あるもんじゃん」

「高階それ偏見だと思うよ」

「そうかなあ」

 男子とそんなやり取りをおしていたが、とうの彼女はこの子役砥粉 春次が屋敷透の息子で尚且つ柏山吹本人だと信じて疑っていないようだ。

「わたし、一年に弟いるんだけど結構有名みたいだよ。柏くんが屋敷の子供で、この子だって」

 彼女がいうには、屋敷透の離婚原因は妻ではなく、息子への虐待であり見かねた母親が夫から息子を守る為に離婚したのだというのだ。


「そいや。俺、聞いたことある。前インタビュー番組で屋敷透がふざけて言ってた。離婚してから息子を嫁が会わせてくれなくて、仕方ないからこうやってテレビでアピールしてるって。そしたら黙らすために渋々会わせてくれるけど滅茶苦茶怖いって」

 それだけ聞くと親権を奪われた可哀そうな父親であるが、虐待が事実なら元妻は勿論子供本人が会いたくないと思っているのではないだろうか。未だに人気俳優であり、普段は気さくな様子で強面だが人当たりの良い人物像を抱いている人も少なくはない。離婚騒動も暁が子供の頃の話だ。確か、まだ中学に進学する前だったように思う。

「でさ、柏くんてお父さんいないらしい」

「そんなとこまで?」

 流石にプライベートの深堀りが過ぎる。デリケートな話題だろう。

 芸能人も勿論だが、知り合いの知らないところで知り合いの情報を知りたくなかったなあと思う。今更ではあるが。

「見逃してよ暁、知っとかないと、部活やりにくくなったら困るじゃん」

「困るか?」

 暁の言葉は無視された。

「それに本人も隠してないみたいよ。うちの弟が言うには、ふつーに弁当美味しそうだねって言ったら、俺の手作り母ちゃん一人で働かせてるからさあみたいな事言ってたんだって」


 ところどころ符号が合う部分はあるが、決定的な証拠は出ない。砥粉春次ではなく、本名の柏山吹なら納得がいくがあくまでこの少年の名前が別物である以上、探偵でもない自分達には推測しか出来ない。


「ところで、なつきさ、柏くんが元子役だったらなんて言いたかったの?」

 本題は山吹が芸能人だったかではない筈だ。

 山吹が演技で手抜きをしてプレッシャーを与えているという疑惑。事実なら、何故そのような事をするのか。


なつきは困ったような微妙な愛想笑いに似た笑顔を浮かべて、答えた。

「元でも、プロの人だったら芝居に対するスタンスとか、違うんじゃないかなってのと……元プロだったら演技上手すぎても、当たり前だし比べるのも違うんじゃないかなって」

「あ、そう……」


言わんとする事は分からないでもないが、気休めでしかない上に推測でしかない為結局は慰めにもなっていない。

 沈痛、とも違う奇妙な空気が彼らの居場所を充満していた。


 

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