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劇中劇とエンドロール  作者: 遠禾
34/65

7

粗筋を読み終えた部員達は皆一様に複雑そうな表情を浮かべていた。その理由は暁にも容易に想像がつく。オリジナルを読んだのだから、尚更だ。


結論を言ってしまえば、姫君は外見こそ大層美しい絶世の美女だがそれ故に周囲から持て囃され甘やかされちやほやされ続けた為に、内面はすっかり増長し、自身の為に世界が回っていると信じて疑っていない、自分の身だけが大事な我儘放題の悪女だったからだ。

悪女らしく最後には自業自得の結末が彼女を待つが、こんな人物を主人公に据えて良いのかという気持ちが少なからず暁にはある。勿論世の全ての物語が善人が中心ではない。ピカレスクというジャンルもある。

しかしこの主人公にはあまりにも同情の余地が無さすぎる。観るのはほぼ暁達と同年代の少年少女。このような内容が評判になるとは思えない。それにタイトル。自分の行いが返ってきて不幸になる主人公に対してかわいそうなお姫様の話と題するのは、微妙にミスマッチな気がする。

そして、何より。

「副部長、いいですか?」

ぴんと背筋をのばし、指先から肩の付け根までも垂直に手をあげた一人の女生徒がいた。

「いいよ山木、どした?」

気さくに許可を出した柚葉にありがとうございます。と律儀に頭を下げてから口を開いたのは、先程から律儀に山吹の自由勝手な振る舞いに苦言し続けていた1年生だった。彼女の顔にも困惑の色が見てとれる。

「お姫様……エリザーベト役は部長になってますよね。大丈夫ですか?ちょっと、部長のイメージに合わないような気がして」

言いながらも弱気になってきたのか彼女、山木 歌乃は顔色を窺うように光がいるこちらをちらりと見る。さらさらの栗色の髪が、彼女を追うように揺れる。

しかし議題に上がった本人よりも、部長の反応が早かった。というよりも、暁が見る限り部長は話の中心に出されてもぴくりとも反応してはいない。

「問題ないと思うよ」

「あ……そう、ですか」

にこやかだが、反論は許さない断定的な口調だった。上から、下の者を押さえ付ける独特の強い声音。

断言されてはそれ以上何も言えない。当然だ。歌乃は虚を突かれたような表情で、条件反射で頷いたもののポカンとしている。

そんな歌乃の肩をにやにやしながらつついた者がいる。山吹だ。

「何だ、お前のがスゲーじゃん」

「はぁ?何がよ」

いやらしい発言をしますと言わんばかりの彼の表情に、嫌そうに言葉を切り返す歌乃に山吹は続ける。

「副部長の采配が間違ってんじゃねーの?ってきいたんだぜ、お前?俺よかよっぽど大物じゃないと許せねえ発言じゃん?昔も昔だったら打首だろ」

「なっ、何、それっ」

カッと、描いた絵のように見事に歌乃の頬が朱に染まる。怒りより、羞恥か、狼狽えたような言葉は仮初めの強さを押し出すような語気の強さはあったが、全く反論にはなってない。

見かねたのか柚葉が2人に向かって声をあげた。

「そこケンカ続けるなら席離すよ。柏、俺はそんな偉い人じゃないから」

「あーはーい」

気のない返事であったが、山吹も漸く本格的に黙った。歌乃の方は気持ちの収まりどころがない様子だったが、山吹の方が矛をさっさとしまってしまった以上どうしようもないのだろう。こちらも唇を噛んで、恥ずかしそうに俯いた。


実際1年生のどちらの発言も理解は出来た。

暁だけではなく殆どの、少なくとも率いる立場でこそないが、それなりに演劇部に時間と努力を割いてきた2年生には、歌乃に共感出来たものは大勢いた筈だ。

光は部長として、そして演劇部の文字通りヒロインとして様々な役をこなしてきた。だがこんな徹頭徹尾反省のない悪人まで光にやらせるのは、仮に恋人だとしても贔屓が過ぎるのではないかと思っても仕方ないと、暁も思った。

それを入部してから然程経験を積んでいない、突出した何かで演劇部で立場を確立した訳でもない1年生が口にして指摘するのはまた別の問題という気もする。


指摘され、あっさり却下したものの柚葉は山吹に告げたようにたいして気にしてはいないのか何時ものように、配役についての説明を続けていく。

今のところ決まっている役はふたつだけだ。

この物語の最大の悪人にしてヒロインである姫君、エリザーベトを光。

エリザーベトの侍女であり、彼女の我儘や悪意に振り回され続け傷付き、疲弊してゆく哀れな娘リリィを暁が。

淡々と進む解説を聞きながら暁の脳内に浮かぶのはあの、仏頂面で何を考えているのか良くわからない、物書きの男。

(あいつなんで私にこの役を推薦したんだ?)

特に意味なんかないかもしれない。

……ないんだろうな。単純に女性の役で二番目に目立つからクラスメイトのよしみで指定してくれただけかも。少しでも部活で目立てるようにと。

葵の思考回路を覗き込もうとしたところで、無駄だ。


暁はあっさり気持ちを切り替えた。葵はそういう奴だ。多分。


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