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劇中劇とエンドロール  作者: 遠禾
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3

何時も通りに梓と連れ立って部室へと来てみると、未だ副部長の姿はなかった。既に到着していた3年生にきいてみたところ、依頼していた次の役作品の元となる小説が出来上がったという連絡を受けた為、部長を部活に連れてくるので遅れるとの事だった。一緒に読ませるつもりらしい。

「まあ、直ぐ来るでしょ」

「ですね」

演劇部の部室は面積こそ大きいものの、学年によっておおよその定位置は決まっている。暁と梓も鞄を持って、思い思いの定位置に腰を降ろしす。

「暁、この間話してたドラマ見た?」

「うん。珍しいよね。梓がサスペンス見るのとか。私結構好きだよ。あの主人公役の人」

最近の勉強の調子や先日完成、披露にこじつけた劇について梓と会話をしていたが直ぐ傍に最近は流石に見慣れてきた派手な金髪がちらつき、言葉を飲み込む。

「……何?」

多少警戒しながらも自分の顔を興味津々といった雰囲気を撒き散らしながら覗き込んでくる少年、柏 山吹を見つめ返す。

くりっとつり上がった愛嬌のある瞳。発声練習でも印象的だったはきはきとした高い声、それらとは対称的に自分が視界に入るもの全てを威嚇しているかのような、意識せざるを得ないぎらぎらと光る金髪。

初対面時から印象の悪かったこの1年生は、入部からはや一月程経過したが今でも暁にとって苦手な儘だ。



つい先日、定期的に観客を集い発表している演劇部の公演会に彼、柏 山吹は副部長である柚葉の強い後押しもあって無理矢理後から捩じ込まれた形ながらも、初舞台へと臨んだ。

結果、主要人物の1人を演じていた暁は悔しい思いと不甲斐なさ、その両方を味わう結果になった。結論から言えば、あの時入部したばかりの山吹をシナリオに変更を加えてでも出すという柚葉の意向に違和感を覚えた自分は、道化でしかなかったと思い知らされてしまったからだ。

観劇にステージを訪れた生徒や教師のどよめきが暁は忘れられない。

(あいつ目を引くな。声も聞き取りやすいし)

(あの金髪の子、誰……?凄いかっこよくない?)

(こないだ見に来た時はいなかったぞ。1年?……ええ……誰より生き生きした芝居してるじゃん)


そんなやり取りが、幕が引いた後もざわめきにのって聴こえてきた。劇中も、主演を際立たせていたのは彼の演技あってのものだった。

メリハリと引くべきと押すべきところ。共演者とのバランス。多分、山吹は計算すらしていたと思う。彼が浮かないよう、主演を食わないように本領を押さえていたとすら思う。


素人目でも山吹の芝居はレベルが違うとわかった。どの部員よりも、入部してほんの僅かの1年生の芝居が群を抜いていた。

つまり暁が味わったそれは劣等感だ。派手で、口が悪くて、ただ生意気そうなだけの1年生が間違いなく3年生が引退後の、この夏以降の演劇部を引っ張っていく為の圧倒的な技量、才能を持ち合わせている事への醜い嫉妬心。

あの日不満を口にした暁へ柚葉が見せた笑顔の意味が今ならわかる。見てしまえば暁は何も言えなくなると柚葉はわかっていたのだ。もっと言ってしまえば、暁程度の実力の人間が何かを言える相手ではないと、やんわり釘を刺されていたに等しい。

実際舞台上で暁と同じ事を感じていた部員は他にもいた。あの時同じ舞台に立った同級生は柏 山吹にコンプレックスを抱き、しかし後輩である事と彼の生意気な態度を見ていては素直に認める事も出来ないでいる。精々が当たり障りのない距離を取る事であの日の屈辱から遠ざかる事しか出来ないでいるのだ。


そんな情けなくもダサい先輩の1人である暁に、彼が一体何の用だと言うのか。

無意識に漏れそうになる劣等感から来る嫌悪感を圧し殺すと、どうしても口数が少なくなる。頑張った結果出てきた後輩への挨拶が「何?」なのだから、その努力も押して知るべしだ。

柏 山吹はしかし暁に大した興味などないのだろう。先輩の明らかに無愛想な挨拶を気にも止めず暁の手にあるノートを指した。

「副部長から聞いたけどさあ、次の脚本になる話って、それであってる?」

「そうだけど……興味あるの?」

相変わらず山吹はタメ口だった。しかし発言の内容は意外なもので、暁は目を丸くしつつ、何時柚葉が来ても渡せるように準備しておこうと、鞄から出したばかりのノートと山吹の顔を見比べる。

山吹は暁の反応を呆れたように見返した。コメディアンのような、やたらと大袈裟なリアクションで方をすくめながら。

「あんのないのって言ったらそりゃあるっしょ、普通。読みながら自分はどんな役やんのか考えるのも楽しいじゃん」

これを言ったのが普通の1年生、それも新入部員なら何様のつもりだ、出演出来て当然と思うなと叱りもするが、相手が山吹だから質が悪い。本人は勿論、周囲の人間もその発言は事実を言ってるだけだと理解してしまう。


山吹はきっと、いや間違いなくこの「可愛そうなお姫様の話」においても出演が約束されているだろう。それも端役ではなく、重要な役割を埋める為のキーパーソンとして。暁にもそれはわかる。

「……じゃあ、見る?」

最初の読者が依頼人でなくても良いだろう。他でもない作者の葵自身が暁に最初に読むのを勧めてきたし、あまり気にする事でもなさそうだと思った。

差し出したノートを受け取ると、にこりと笑った山吹の顔は腹が立つ程可愛かった。

「ありがとう」

「どういたしまして」

意外だ。お礼とかちゃんと言うんだと思ったが、山吹はその場で手近な椅子に腰掛けると黙々と読書を始めてしまう。


「ああっ!?」


と思ったら、読み始めて一分もしないうちから山吹の口からすっとんきょうな声が上がった。

なんだなんだと、集まり始めた他の部員の注目を浴びながらも山吹の視線は暁へと真っ直ぐ注がれている。何が何だか分からず、暁も真正面から怪訝な眼差しを金髪の少年へと向けた。

だが、直ぐに思い出す。

深く考えずに渡してしまったあのノート。原作者加百 葵のバッドエンド以外の表現が思い付かないファンタジーな物語。

かつてそれは彼が副部長に許可を得て書き込んだある情報。


しまった、と思った時にはもう遅かった。



「アンタがヒロイン!?」


山吹の甲高い叫び声が部内に響き渡ってしまったのだから。

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