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劇中劇とエンドロール  作者: 遠禾
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可愛そうなお姫様の話 1

休み時間になると暁は早速葵に貰ったノートを広げた。横から何度か漢字や送り仮名の手直し、文脈の乱れなどを指摘したものの、内容には全く関知していない。登場人物の名前が洋名だった事だけ把握している為、日本が舞台じゃない事だけは知っているが。

作者本人が同じ教室にいるのに彼の作品を読むのもなんだか気恥ずかしく感じるが盗み見た葵はやっぱりこちらの様子を気にするでもなく、新作の制作に集中しているようだったのでまあいいかと考え直した。

ノートの最初のページを捲ると、白紙の中央にぽつんとタイトルだけ書いてあった。

文字を読み、その意図する意味を把握した暁は無言で眉をしかめた。


『可愛そうなお姫様の話』


タイトルだけで不穏な気配が漂ってくる。作者本人が宣言していたように、誰が死ぬのかも。

この物語を読む事に対して、ノートを開いたばかりなのに重苦しさを覚えてしまい暁は頭を抑えた。幾らなんでもタイトルから直球過ぎる。読むだけではなくこれからこの物語を演じるのかと思うと恐ろしさを感じてしまう。

「……そういえば、私の役決めるとか言ってたよな」

今朝の葵との会話の中でも言っていたが、自分が演じる役とはどんなものなのだろうか。原作者は死なないとは言っていたが、死なないからといって、幸せになるとも限らない。

不安を感じながら、しかし読まないという選択肢は存在しない。次のページを捲る。すると、そこには登場人物らしき数名の名前と、その横に簡単な説明が書いてあった。劇として台本に書き起こす際には大変役立つ情報である。ほっとしてそこから目を通そうとして……暁は眼を剥いた。

「はっ?」

そこに書かれていた言葉に動揺が止まらない。周りが不自然に一人大声を出した暁を不審そうに見てきたが、元凶は全く知らん顔であった。

登場人物の説明は、主人公であるお姫様から順番に彼女の恋人と、恋のライバル……中性のヨーロッパが舞台なのか、王様や召し使い、魔女などのファンタジー小説のような羅列が続く中に暁の名前が注釈付きで載っているキャラクターがいた。


名前はリリィ。お姫様の侍女。気が弱く、自分の意見が持てず何時もお姫様の顔色を窺っている……そこまでは、良い。どんな役でも自分はがむしゃらに演じるだけだ。だが、問題は演じる役にある訳ではなかった。

リリィという名前と、紹介の直ぐ下に走り書きで役は尾根暁と書いてある。自分のフルネームを葵が覚えていた事に若干の感動を覚えたがしかし見過ごす訳にはいかない。

この物語のタイトルは可愛そうなお姫様の話である。見開きにでかでかと書く程の主張の強さと、登場人物の説明はお姫様から始まっている。姫君が主人公なのは間違いないだろう。

「何で?」

今度は席は遠いがはっきりと葵を睨み付けながら言葉を発したが、反応はなかった。無視したというより集中していて聞こえないのだろう。この話を書いている最中だって、暁が葵の傍まで近寄って初めて会話が成立する位彼は周囲に対する注意力が低いのだ。

あーなんだこれ。物語の前に厄介な物を発見してしまった。この、自分の名前だけ消して提出してはいけないものかとも思うが、どうせ葵が演劇部に来てこのリリィという役を暁に割り振られていなければバレるのだ。


リリィ……エリザーベトの侍女。気が弱く姫の言いなり。ヒロイン。役者は尾根暁。

「なんだ、このヒロインって……なんだ」

ヒロインとは女主人公の意ではなかったのか。ならば、普通はそのまま主人公であるお姫様の紹介部分に記されるべきだろう。何故だ。

理解出来ない。

葵を問い詰めようかと余程思ったが、この物語を読んで理解しなければ。考えようによっては、ヒロインという程活躍する役に抜擢してくれたと期待が出てきた。


微かに震えているような錯覚すら覚える指で、文字を辿る。暁は彼の、加百 葵の物語に真剣に入り込む。

休み時間の度にページを捲る。昼休みは昼食もそこそこにノートを開いた。梓には面白い?と聞かれたが途中だからなんとも言えんと言葉を濁す。兎に角放課後、部活までに読み終えていたかった。

そして、知った。ノートを閉じて暁は断言出来ると思った。

あいつは、加百 葵は多分ヒロインの意味がわかっていない。それか書き間違いだ。何でか知らないがペンが滑ったんだろう。そうだ、そうに違いない。

結論から言えば暁に演じろと指定された役は解説そのままで、それ以上も以下もなかった。お姫様の下でめそめそうじうじしている下働きの女だ。これのどこがヒロインだというのか。


ぬか喜びというのか、それとも友人の伝手で良い役を貰ったなどと非難される事はまずなさそうなのでほっとするべきか。

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