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劇中劇とエンドロール  作者: 遠禾
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素人ながら脚本の為に物語や文章を書くのもあって、読書好きなだけあり暁より文章を読むのが遥かに早いのか、少しルーズリーフに目を走らせただけで、暁の持つ小説の内容を彼女はほぼ正確に把握しているらしい。

「違うんだって!これ、私が書いたんじゃないからね!!」

焦る暁に眼鏡の擦れを直しながら、彼女は訝しげな顔をして見せた。

「はあー?どう見ても自分で書いたやつじゃん。手書きだし。あんたが書いたんじゃないなら、誰が書くの」

「いやだから、これは確かに個人の趣味で書かれた話だけど、私は読む?って貸して貰っただけなんだって!書いたのは違う人!!」

第一、暁には文才などない。読書する習慣があまりないのだから書くのなんてもっての他だ。国語の小テストだって平均点はクリアしている程度である。字の上手さは脇に置いておくにしても、一通り読んでみて内容を理解できるような文章及び話の展開など、出来る筈も無かった。


必死に訴える暁を信じているのかいないのかわからない顔をして、彼女はふーんと唸りながら再び暁の手にあるファイルを奪い取ろうとしてきた。

「だあっ!?何よ、借り物だって言ってんでしょうが!」

「だってさー読みたいじゃん」

「は?」

幸い身長なら暁に利があった。背伸びしながらファイルを持った手を天井に向かってのばしてしまえば、小柄な彼女には暁に敵う術などない。

「読みたいの……?」

不可解な発言にファイルを掲げた儘硬直してしまう暁だが、そんな暁に彼女はファイルを奪う事こそ諦めたものの、まだ何も諦めちゃいないとばかりに挑戦的な口調で暁に詰め寄ってくる。押されて暁は数歩下がった。なんだこいつ。

「読みたいからこうやって迫ってんじゃん」

「あ、そうか。でも駄目よ、私以外の人に読ませて良いとか言われてないし」

「ケチ臭いな……じゃあ誰が書いたか教えてよ。直接許可取りに行くわ」

そこまで執着される理由がわからず、暁は相変わらず片手を元気に挙げた儘困惑する。葵には大変失礼な話だが、汚い字で書かれただけでも読む気力は結構失せるというのに、所詮は素人小説だ、内容もプロを凌ぐようなものではあるまい。


そんなものを、わざわざ作者本人に許可を得てまで読みたいとは。

「先刻から様子が変じゃない?ニノ池さ……せめてそこまでして読みたがる理由を教えてよ。面白かったの?ちらっと見ただけでしょ?」

多少面倒臭くなってきたのもある。うんざりした態度と口調で投げやりな質問になってしまった暁に対して、彼女はにこにこしている。やっとそこに行き着いたか!と言いたげだ。


「鈍いね、暁……!書いて貰いたいのよ。その話書いた人に、演劇部の脚本を!」

「え……ええっ!?」

予想だにしない発言に面食らってしまう。この、彼女も見たであろう後味の悪い暗い小説を日常的に書き続けている男に脚本依頼をしたいとは、本気なのだろうか。

「暁が意外な才能持ってんだと思ったら違うって言うんだもん。本当にがっかりしたわ」

「あんたね……」

失礼な、と言いかけたところでニノ池は暁からさっと離れると大声で副部長の名前を呼んだ。

「先輩っ!甲斐せんば~いっちょっといっすか?次の舞台で是非にと使用したくなる脚本があるんすけどっ!」


何時の間に戻ってきたのか、少し制服を着崩した山吹と台本を手に話をしていた柚葉が、山吹も一緒にこちらを見た。

「次の脚本?ニノ池次も書きたいって言ってなかった?」


余りの展開の早さに着いていけない。ファイルを天高く掲げた儘、暁は同級生がへらへらしながら調子良く柚葉の元へと駆け寄るのを、許してしまっていた。

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