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毒林檎を食べた白雪姫は、何故か変態王子に買われて溺愛されることになりました。  作者: 奏 舞音
第二章 白雪姫は王子様とデートする

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 甘く、可愛いお菓子に集中し、レクシオンのことを頭から追い出したエリネージュだが、どうにもむず痒い心地になる。


(本当に、この人は私のことを愛しているの……?)


 会ったばかりなのに。

 しかし、それはレクシオンには通用しないのだろう。

 何せ、死んでいたエリネージュを妻にしようとしていた人なのだから。

 レクシオンは変人だが、悪い人ではないと思う。

 すっかり冷めきったレモンティーに口をつけながら、ちらりとエリネージュは彼を観察してみる。

 中性的な美しい顔立ちに目がいきがちだが、その身体はしっかりと鍛えられているし、エリネージュに触れた手には硬い剣だこがあった。

 人込みでもエリネージュが普通に歩けたのは、レクシオンのエスコートがあったからだ。エリネージュが花に目を留めた時は待っていてくれたし、今もエリネージュのために女性客がメインのカフェに連れてきてくれた。

 周囲からの熱い視線には気づかず、本人はエリネージュに微笑みかけているが。

 これだけの美貌と王子という立場があれば、国内外の令嬢が放っておかないだろう。

 それなのに何故、彼は今まで独身だったのか。

 カトリーヌの話によれば、エリネージュに出会う前までは結婚するつもりなどなかったらしいし。

 やはり性癖の問題なのだろうか。

 ぐるぐると答えの出ない問いを巡らせていると、レクシオンが目の前で噴き出した。


「ふははっ……リーネ、そんな可愛い顔をして、一体何を考え込んでいるの?」

 人の顔を見て笑わないでほしい。

 誰のせいで悩んでいると思っているのだ。

「あぁ、拗ねた顔も可愛いな。本当に、君は見ていて飽きない」

「~~っ! 何なのよ、もう!」

 まっすぐに目を見て「可愛い」を連発され、エリネージュは耐えきれなくなり、おもいきり顔を背けた。

 ちょうど目の前にはピンクや赤のガーベラがあり、少しだけ心を落ち着かせてくれる。

 何故か熱くなった頬も、次第に元の温度へと戻っていく。

「ねぇ、教えて。さっき何を考えていたのか」

「あなたがどうして今まで結婚しなかったのか、不思議に思っただけよ。絶対にモテるでしょう? 立場的にも、婚約者がいてもおかしくないのに」

 視線をガーベラに向けたまま、エリネージュはできるだけ興味を持っていないように意識して問う。

「たしかに、僕はもう二十四だし、婚約者がいてもおかしくないけど、僕と婚約したいという令嬢は今まで一人もいなかったよ。僕自身、結婚する気はなかったからね。だから、心配しなくても僕はリーネ一筋だし、結婚しても浮気なんて絶対にしないよ」

 何故か嬉しそうにレクシオンが笑っている。

 これは絶対に勘違いされている気がする。

「そういう心配をしていた訳じゃないから」

「僕が他の令嬢にとられるかもって、妬いてくれたんだよね? 嬉しいなぁ……ふふ、そう睨まないでよ、僕の可愛いリーネ」

 これでは本当にエリネージュがやきもちを焼いて怒っているのを、レクシオンがなだめている図ではないか。

 違う。断じて、エリネージュはレクシオンがモテていたことや過去に恋人がいたかなんて興味はない。

 ただ、婚約者がいた方がエリネージュを諦めさせることができるかもしれないと思っただけで……。


(わ、私は本気でこの王子に愛されたい訳じゃないんだからっ!)


 変なことを言われたせいで、少し混乱しているだけだ。

 きっぱりはっきり何度でもお断りしなければ、きっとレクシオンは分からない。


「あなたのものじゃありません!」

「でも、僕はもう君のものだよ」

「いりません」

「だめ、返品不可だから」

 爽やかな笑顔でウインクをされてしまった。

 変態王子など頼んだ覚えはない。なんという押し売りだろう。


「だから、そろそろ名前で呼んでくれない?」


 挙句、上目遣いでこういうお願いをしてくるなんて。


(本当に二十四歳なの……!?)


 エリネージュより七歳も年上なのに、一瞬でも可愛いと思ってしまった自分に驚く。

 変態王子と一緒にいるせいで、エリネージュの頭もおかしくなっていきているのかもしれない。

 このままでは駄目だ。

 うまく席を外して、そのまま逃げてしまおう。

 王都は人が多いから、レクシオンに気づかれずに店から出ることができれば人込みに紛れられる。


「ちょっと、お花を摘みにいってきます」

 エリネージュは笑顔で立ち上がる。

 さすがのレクシオンも、トイレまでついてくる変態ではないだろう。

「あぁ、いいね。僕もきれいな花を摘んで、君に花束を贈ろう」

「違う! 本物のお花じゃなくて! お手洗いに行きたいの!」

 思わず大きくなってしまったエリネージュの声は、店内まで聞こえたらしく、くすくすと笑い声が聞こえる。

 乙女のエチケットが台無しだ。

 エリネージュの顔は、羞恥で真っ赤になる。

 

(酷くない!?)


 店内の客や店員にも、エリネージュがトイレに行くことを知られてしまった。

 本当はこっそり抜け出したかったのに。

 だから、違う方向に向かえば、親切心でトイレの場所を教えてくれるのだろう。

 エリネージュはトイレ以外に行けなくなった。

 まさか、これが狙いだったのか。

 そう思い至り、レクシオンを見ると、実にいい笑顔で手を振っていた。


「迷子にならないようにね」


 そうしてエリネージュが青筋を立てながら店内のトイレへと向かい、テラス席に戻った時にはレクシオンは何故か花束をその手に持っていた。

 そして。


「僕のもとへ帰ってきてくれたお礼だよ。花よりも可憐で、美しい僕の愛しい人」


 甘すぎるセリフとともに、レクシオンは跪いてエリネージュに赤や黄色で彩られたガーベラの花束を差し出す。

 周囲の客たちに何故か祝福され、またもや受け取らざるを得ない状況に陥ってしまった。


(花に罪はないものね!)


 やけになって、エリネージュは花束を受け取る。

 近くで見ると、丸く花開いた姿は本当にきれいだ。


「次は、僕のとっておきの場所に案内してあげる」


 レクシオンは立ち上がって、エリネージュの耳元で低く囁いた。

 どうやら変態王子による王都デートはまだ終わりではないらしい。

 ため息を吐きたくなったが、もう少しぐらいなら付き合ってもいい。

 そんな風に思えるぐらい、ガーベラの花束だけは嬉しかった。

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