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毒林檎を食べた白雪姫は、何故か変態王子に買われて溺愛されることになりました。  作者: 奏 舞音
第八章 白雪姫は王子様とハッピーエンドを模索する

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 国王ジルモンドは、レクシオンの姿を視界に入れるなり、顔を赤くして立ち上がった。


「お前はっ! よく私の前に顔を出せたな!」

「随分と頭に血が上っているようですね。シーノに何を言われたのか知りませんが、十年前からグレイシエ王国と通じていたのはシーノ自身ですよ」

「お前の言葉など、信じられるはずがないだろう! 私が知らないとでも思っているのか? フェリエの亡骸をどこへやった!?」


 レクシオンが父とこうしてまともに言葉を交わすのは、数年ぶりだ。

 母の遺体をこっそり運んだことに気づかれていたのか。


『お前のせいで、お前のせいでっ……何故いつも私の大切なものを……私が、何も守れない王だと馬鹿にしているのか……』


 父の心の内は、レクシオンへの疑心に満ちていた。

 エリネージュが言うように、息子である自分を気遣う心など、やはりない。


(あぁ、本当に厄介だな)


 実の息子であるレクシオンの言葉が信じられないのに、他人である宰相シーノの言葉は信じられるのか。

 シーノの言葉が受け入れられるのは、それだけの信頼を築いているからだ。


 レクシオンにはない、信頼――。


 その上、ジルモンドの特殊能力は、“声”だ。

 人を操るようなものではなく、大声が武器となるのだ。

 その声は、振動で空気を震わせ、人の動きを止めるほど。

 本気を出せば鼓膜を破ることもできる。

 周囲にいる人間全員を巻き込むため、ジルモンドがその力をむやみやたらに使うことはない。

 しかし、今はレクシオンへの怒りに我を忘れそうになっている。

 シーノが与えた、起爆剤となる情報のせいで。

 おかげで、直接その怒声を浴びせられたレクシオンの身体は震えている。

 だが、問題ない。

 まだ複雑ではあるが、エリネージュのおかげで、レクシオンはひとつの心の傷を癒すことができた。


「ジルモンド、これ以上レクシオンを責めないでください」


 儚げで、透き通るような声が謁見の場に響いた。

 大きな声ではないのに、皆が耳を傾けざるを得ない声だった。

 その人は、エリネージュに支えられて謁見の場へと入ってくる。

 ゆっくりと、ゆっくりと。

 まだ慣れないその身体をぎこちなく動かしている。


「……フェリエ、なのか?」


 黄金に輝く長い髪、アクアマリンのような瞳。

 色が白く、華奢で、美しい女性。

 王城の肖像画に描かれている、王妃フェリエそのものだ。


 もう二度と会えないと思っていたフェリアの姿に、驚いたのはジルモンドだけではない。

 アレックスも、記憶の中と違わぬ母の姿に涙を浮かべる。

 そして、レクシオンを断罪しようと笑みを浮かべていたシーノの顔は、愕然としていた。


「な、なぜ……っ!? たしかに、毒で、死んでいたはず!」


 シーノにとっても、あり得ない事態だったのだろう。

 初めて彼がうろたえる。


(すべては、リーネのおかげだ)

 

 エリネージュの涙が、眠ったような死をもたらす毒を解毒してくれた。

 奇跡のような出来事だった。

 レクシオンは、今までにないくらい晴れやかな気持ちで元凶である男を見つめる。


「宰相シーノ。今の発言は、王妃を毒殺したことを認めるということでいいね?」


「国王陛下、ち、違いますからっ! 私は何もっ! レクシオン殿下に騙されないでください! きっと、王妃様のお姿も魔女が、魔法でみせている幻です!」


 シーノはレクシオンを見向きもせず、ジルモンドへ訴える。

 ジルモンドの目線は、ただフェリエへと向けられていた。

 

「フェリエ、フェリエっ!」


 玉座から、フェリエとエリネージュが立つ扉へと、ジルモンドがまっすぐに走る。

 そして、その身体を抱きしめた。

 愛しい人の存在を確かめるように。


「フェリエ、お前を忘れたことはなかった! すまなかった! 守って、やれなくて! お前の、望みを、叶えてやれなくて……っ」


 ジルモンドの涙など、誰も見たことがなかった。

 国王でも父でもなく、ただ一人の男として、愛する女にすがって泣いている。


「ジルモンド……わたくしこそ、守れなくて、ごめんなさい」

「本当に、フェリエが、戻ってきた……んだよな?」

「えぇ。レクシオンと、エリネージュ王女のおかげで……だから、これ以上、レクシオンを傷つけないで。わたくしたちは、償わなければならないわ。レクシオンの心を傷だらけにしてしまったことを……」


 フェリエの言葉だけは、頑なだったジルモンドの心に届く。


 心の声を聞かれることに怯えて、避け続けた。

 うまく愛せなかったらどうしよう、という母としての不安。

 それがすべて、自分の息子に筒抜けになってしまう。

 自分の心を見せるのが怖くて、立派な王妃であろうと、立派な母親であろうと思うほどに苦しくなって。

 愛したいのに、遠ざけてしまった。


 そして、フェリエを愛するジルモンドは、原因であるレクシオンを責めた。

 心労によって、フェリエが病に伏せることも多かったから。


 悪循環のはじまりは、いつもレクシオンだった。

 過去に思いを馳せていたレクシオンを現実に戻したのは、あたたかい手のぬくもりだった。



「レクシオン、大丈夫?」


 黒真珠の瞳が、不安そうなレクシオンを映す。

 かっこ悪いところばかりを見せているのに、こうして側にいてくれて、奇跡を起こしてくれた。

 かつては何も感じなかったはずの心が、燃えるように熱い。

 エリネージュへの想いは、どんどん大きくなっている。


「いや、心臓が痛いよ。リーネが愛しくてたまらないんだ」


 彼女を想うと、胸が切なく締め付けられて、愛おしさがあふれてくる。

 ぐっと腰を抱き寄せ、エリネージュの黒髪に手をうずめた。


「ちょっと……っ!? 今の状況、ちゃんと分かっているの?」


 なんて言いながらも、本気で抵抗しないのは、自分のことを心配してくれているから。

 それが嬉しくて、つい調子に乗ってしまう。


「リーネ、本当にありがとう」


 ありがとう、という言葉では足りないほどの奇跡をくれた。

 レクシオンの心に触れ、レクシオンのために涙を流してくれた。

 消えない罪悪感のーー罪滅ぼしのための人生だった。

 自分の人生なんて、どうでもいいと思っていた。

 望んではいけないのだ、と。

 しかし、エリネージュに出会って、初めて欲が出た。

 彼女と生きたいと思った。

 もう、自分には望むものなどないと思っていたのに。


(僕だけの、愛しい魔女(エリネージュ)


 これから先のすべてを、彼女に捧げたい。

 しかし、まだ。

 レクシオンにはしがらみが残っている。


「君がくれたこの奇跡を、僕は絶対に逃さない」


 美しい黒檀の髪に口づけて、レクシオンは近衛騎士に取り押さえられているシーノに目を向けた。


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