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毒林檎を食べた白雪姫は、何故か変態王子に買われて溺愛されることになりました。  作者: 奏 舞音
第七章 白雪姫は王子様の死体コレクションを見る

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 兄レクシオンが部屋から出ていった後、アレックスはオルスと二人きりとなった。


「お前は、兄上についていかなくてよかったのか」


 てっきり兄を追いかけていくだろうと思っていたのに、兄にだけ忠実な従者はここに残った。

 オルスは無表情で、こくりと頷いた。

 兄がいつからか側に置くようになったこの従者は、とてもきれいな顔をしている。

 素性は何も明かさずに、兄が庇護下に置いていた。

 弟であるアレックスのことには無関心なのに、どこの誰とも知れない少年は守るのか。

 そうやって兄への何とも言えない苛立ちが募っていた。


(俺はただ、兄上の関心を向けてほしかっただけだったんだな……)


 ――アレックス、僕はこれから逃げる。あとは頼んだ。


 兄がまっすぐに自分を見て、名を呼んでくれた。

 初めて、笑いかけられた。

 それだけで、アレックスの内側にはじわじわと喜びにも似た感情が広がった。

 だから、今なら兄の側にいるオルスに対しても、嫉妬心を抱くこともなく、話ができる。


「兄上がどこへ逃げようとしているのかは、分かっているのか?」


 再びオルスは頷いた。

 自分には分からない兄の行動が、この従者には分かるのか。

 少しだけムッとしたが、ここで怒れば本当にただのガキでしかない。


「そうか。それなら、兄上は俺に何を頼んだのか、分かるか?」


 あとは頼む、と言われても何をすればいいのだろう。

 兄がモルト伯爵令嬢との婚約を望んでいないのは分かる。

 しかし、王命だ。

 今まで兄を避け続けてきた父がいきなり王命で婚約させたことにも違和感があるが、アレックスは国王である父に逆らったことなど一度もないのだ。


(それに、あの美しい人も、兄上と添い遂げるつもりはない、と……)


 兄の片思いのようだ。それにしてはかなり強引な様子だったが。

 好きな人ができれば、皆ああなるのだろうか。

 恋愛経験のないアレックスには分からない。

 しかし、あの兄が手に入れると決めたのがあの美少女ならば、彼女はきっと逃げられないだろう。

 兄は、諦めることはあっても、自分から欲しがることは滅多にないから。

 そう思えば、人に頼むこともなさそうだ。

 ということはやはり、兄の婚約について頼まれたということだろうか。


「もしかしなくても、父上の説得とかではないよな?」

「…………」


 責めるようなアクアブルーの瞳に、アレックスは狼狽える。


「な、なんだよ、その目は!?」

「…………」

「あ~もう、何か言ってくれよ。ってか、え、やっぱりそういうことなのか!?」


 父は厳しい人だ。

 国を治める重圧に、母を亡くしてから一人で耐えているのだ。

 自分にも他人にも厳しい。そして、兄にだけは特別に厳しい。

 アレックスも、褒められることよりも叱られることの方が多いのだ。

 父はまだ、兄と自分のどちらを後継者とするのか指名していない。

 だから、今回の婚約話は王太子とするための準備段階ではないかとも思えるのだ。

 王族の婚姻には、政略的な意味しかない。


「でもさ、お前も分かるだろう? 父上はきっと、兄上を王太子にしようとしているんだ。四国同盟の代表としてたった一人で兄上をグレイシエ王国へ行かせたのも、それだけ信頼しているからだと俺は思う。でも、兄上にはきっと伝わっていない。分かりにくいんだよ、兄上も、父上も」


 かくいう自分もけっして分かりやすい方ではないだろう。

 だからか。オルスから向けられる視線がかなり痛いのは。

 はあ、とアレックスは大きなため息を吐く。


「……父上と兄上の溝はかなり深いっていうのに。でも、そうだよな。今まで弟らしいことなんてせずに、兄上を責めることしかしていなかった俺も、悪い……」


 母の死を兄のせいにすることで、悲しみや絶望から心を守っていた。

 理不尽に責められているはずなのに否定しない兄の態度にも、腹が立った。

 怒ってくれたら。否定してくれたら。悲しんでいる姿を見せてくれたら。

 自分を変えようとせずに、兄が変われば歩み寄れると自分勝手に考えていた。


「今からでも、間に合うかな……」


 ぽつりとこぼした呟きに、返ってくるはずのない返事があった。


「大丈夫。間に合いますよ」


 その可愛らしい声に驚いて顔を上げるが、オルスは相変わらずの無表情だった。


「まさか、幻聴が聞こえるほどに俺は追い詰められている!?」

「本当にめんどくさい人ですね。覚悟を決めたならさっさと動いてください」

「えっ!? はぁ!? やっぱりオルスか。声、かわ、もがぁっ!?」


 かわいい、と言葉にしようとしたら、おもいきり口を抑えられた。

 その力は強い。やはり男だ。

 降参だ、と両手を上げると、オルスはゆっくりと手を離した。

 しかし、その目はアレックスを睨んでいる。


「ごめん。じゃ、父上と話してくるよ。うまくいくかは、自信ないけど」


 正直、かなり気が重いが、今まで放置してきた自分にも責任がある。

 アレックスはようやく、部屋から出ようと足を踏み出す。


(もし俺も父上に避けられるようになったら、兄上に助けを求めようかな。なんてったって、弟だし? 兄上に頼られたから、頑張る訳だし……!)


 心の中でたくさんの保険をかけながら、一歩一歩前へ進む。

 そんなアレックスを励ますように、ぽん、とオルスが背を叩いた。


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