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毒林檎を食べた白雪姫は、何故か変態王子に買われて溺愛されることになりました。  作者: 奏 舞音
第六章 白雪姫は王子様の婚約騒動に巻き込まれる

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 目の前には、焼き立てのパンとふわふわのオムレツ、野菜たっぷりのスープ。

 酷い怪我を負い、死にかけていたレクシオンのために、と栄養ある食事をオルスが運んできたのだ。

 そして何故か、エリネージュも一緒にテーブルにつくことになった。

 一人でゆっくり食べた方が良いのでは、と思ったが。


「……」

 オルスにじっと見つめられ、なんとなく席を立つことができなかった。

 何より、向かい合わせに座るレクシオンがとても幸せそうに笑っている。

「リーネと一緒に食事をとるなんて、なんだか夫婦みたいだね」

「ち、違うから!」

「照れ屋な奥さんだな」

「変なこと言ってないで、早く食べたらどうなの?」

「うん。そうだね」

 そうして二人で食事を始める。


(随分と顔色が良くなってきたわね)


 スープを口に運ぶレクシオンを見ながら、内心でエリネージュはホッとする。

 目覚めたばかりの時は、血の気がなかった。

 そんな彼に無理に話をさせてしまったのはエリネージュだ。

 あの時はいっぱいいっぱいだったので、彼の体調を慮ることができていなかった。

 しかし、話ができたおかげで、レクシオンに対する疑心や警戒心は薄れている。

 エリネージュのことも、グレイシエ王国の王女で、魔女だと知った上で側においていた。

 まだ自分のことはすべて話せた訳ではないが、レクシオンならばすべて受け入れてくれる気がしている。


(でも、問題は何一つ解決していないのよね……)


 グレイシエ王国が関わっているという、前王妃の死や不審死のことが気がかりだ。

 レクシオンがずっと一人で抱えてきたもの。

 これは、エリネージュも無関係ではない。

 むしろ、毒の件でいえば当事者だ。

 ただ眠っているだけのような死をもたらす、不思議な毒。

 もし、グレイシエ王国内で作られた毒ならば、アルディン王国で何の解決もできないのも無理はないだろう。

 ユーディアナの目的はやはり戦争なのだろうか。

 しかしそれにしては回りくどい気がする。

 いつも一方的に命を狙われるだけだったエリネージュは、ユーディアナのことをよく知らない。

 しかし、噂だけなら王城の下働きの時に聞いたことがある。

 ユーディアナは、魔法薬を作るのが得意であると。それも、毒薬を。

 食事を終えて、エリネージュは改めて口を開く。


「グレイシエ王国と関わりがある誰かに心当たりはあるの?」

 毒を作ったのはユーディアナで間違いないだろう。

 しかし、ユーディアナ本人がアルディン王国まで出向くはずがない。

 アルディン王国に潜入している共犯者がいるはずだ。

「これまでに疑わしい人間はいたが、すべて空振りに終わったよ。人の心の声が聞こえるといっても、リーネの声が聞こえないように、僕の力は万能ではないからね。僕が聞くことができるのは、僕に意識を向けているか、僕に対して心を動かしている者に限定される」

 レクシオンはそう言って、苦笑を漏らす。

 その力のせいで多くのものを失ったのに、必要な時に役に立たない。

 エリネージュが自分自身を守ることしかうまくできないように。

 持って生まれた特別な力も、万能ではないのだ。

「……そうなのね」

「でも、だからこそ、犯人はただの素人ではなく、暗殺のプロだろうと予測できた。母上が殺されたのは警備が厳しい王城内だし、外部からの侵入は難しいだろう。内部の人間の犯行だと考えていたが……」

「もしグレイシエ王国が関わっているのなら、魔法で侵入することは可能でしょうね」

「あぁ。グレイシエ王国の関わりを視野に入れてしまうと、容疑者が絞れなくて途方に暮れていたんだ。だから、四国同盟の使者に指名された時は驚いたけれど、探るチャンスだと考えた」

 戦争を終わらせるための平和条約を結ぶため、レクシオンはグレイシエ王国へと足を運んだ。

 しかし結局は、ユーディアナに会うこともできずに追い返されることになる。

 そしてその帰り道、レクシオンはエリネージュを運ぶ小人たちに出会う。


「グレイシエ王国の関わりを確信したのは、君の小人たちの心の声を聞いたからなんだ」


 まさかここで小人たちが出てくるとは思わず、エリネージュは少し緊張する。

 毒林檎を食べ、仮死状態になったエリネージュを棺に入れて運んでいたという小人たち。

 彼らと過ごした時間は、エリネージュにとって久々に落ち着いたものだった。

 金貨と引き換えにエリネージュをレクシオンに引き渡した彼らを思うと、少しだけ胸が痛む。

 それに、グレイシエ王国へとその棺を運んでいたというのだから、ユーディアナとの繋がりも疑いたくなる。


「彼らは、グレイシエ王国で女性が幸せになる魔法がかけられている林檎だ、と聞いて、いつも家事をしてくれるリーネへのお礼のためにと七人でお金を出し合って一つだけ買った。それが毒林檎だとも知らずに」


 思いもよらないレクシオンの話に、エリネージュは固まった。


「彼らは林檎を食べて心臓を止めたリーネを見て酷く驚き、林檎売りに聞けば何とかなるかもしれないとグレイシエ王国へ向かっていた。その時、僕とすれ違ったんだ。僕は小人たちに話しかけて、ある程度の事情を察した。僕と話したことで少し冷静になったのか、彼らはエリネージュのことを、僕に託してくれたんだ。君は自分たちと不可侵の森でいていい人じゃない、とね」

「……じゃあ、お金に目がくらんで私をレクシオンに引き渡した訳ではないの?」

「彼らは自分たちを悪者にしたかったみたいだね。もしも息を吹き返すことがあったら、金貨と引き換えに身柄を引き渡したことにしてくれ、と。きっと君が自分たちの元へ戻ってこないようにしたかったんだろう。もちろん、僕は彼らへの感謝の気持ちを込めて無理やり金貨を渡したけどね」

 情がない訳ではなかった。

 共に過ごした時間が無駄ではなかった。

 小人たちはエリネージュの幸せを願ってくれていた。

 だからこそ、レクシオンに託した。

 けっして短くも長くもない時間。しかし、エリネージュは小人たちとの生活が好きだった。

 彼らと賑やかにとる夕食も、きれいに掃除をした部屋を喜んでもらえるのも、何気ない会話が楽しかった。エリネージュには分からない、普通の家族みたいで。


(小人さんたちに、今すぐ会って、抱きしめたい……)


 彼らの笑顔を思い出すだけで、涙が溢れてきた。

 そんなエリネージュの目の前に、白いハンカチが差し出される。

 レクシオンだ。


「なんだか、妬けるな」

「……あなたのためにも泣いたでしょう」

「うん、そうだった。リーネは意外と泣き虫さんだ」

「うるさい」

「一緒に、不可侵の森へ行こうか」

「え」

 レクシオンの言葉に耳を疑った。

「彼らに元気なリーネの姿を見せてあげないとね」

「本当に、いいの?」

「だって、元々行こうと約束していただろう」

「そうだけど……」

 あの時と今とでは状況が違う。

 不可侵の森で話さなければと思っていたことは、もうレクシオンの知るところだ。

「うん、もちろん今すぐにとはいかない。彼らに危険が及ぶ可能性もあるし、すべてが落ち着いたら、一緒に行こう」

 だから早く解決しないといけないね、とレクシオンが笑う。

 その言葉に、優しさに、エリネージュも自然と笑みを浮かべ頷いていた。

 その時、扉の外からドタバタと足音が聞こえてくる。

「あぁ、面倒なのが来た」

 レクシオンがぼそりと呟いたのと同時に、部屋の扉を開けたのはアルディン王国第二王子アレックスだった。


「兄上! モルト伯爵令嬢と婚約したとは本当ですか!?」


 彼の発言に、エリネージュだけでなくレクシオンも大きく目を見開いた。

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