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毒林檎を食べた白雪姫は、何故か変態王子に買われて溺愛されることになりました。  作者: 奏 舞音
第二章 白雪姫は王子様とデートする

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 帰りはオルスが教会まで馬車で迎えに来た。

 しかし従者である彼は御者席に座り、エリネージュはレクシオンと二人きりだ。


「今日は楽しんでもらえたかな?」


 レクシオンがにっこりと微笑み、エリネージュの手元に視線を落とした。

 エリネージュの手にはガーベラの花束がある。


(なんだかんだ楽しかったのよね……不覚にも)


 絶対にレクシオンには言えないけれど、エリネージュにとっては初めてのことばかりで実はとても楽しかった。

 欲を言えば、一緒にいるのが変態王子でなければもっと楽しかっただろう。


「僕のことも、少しは知ってもらえたかな?」


 そう問われて、そういえばこのデートの目的はレクシオンのことを知るためだったと思い出す。

 本当は色々とレクシオンに対する認識に変化はあったのだが、それをそのまま言う愚行はしない。

 エリネージュは澄ました顔で口を開く。

「そうね。やっぱりあなたは乙女心が分からない失礼な男性だということが分かったわ」

 つい先程会ったモルト伯爵令嬢は、レクシオンに好意を寄せていた。

 ちゃんと貴族令嬢にも好かれているではないか。

 それなのに、彼女の目の前でエリネージュを特別扱いして……。


 ――僕の大切な女性です。


 あんなにはっきりと宣言されてしまった。

 レクシオンの声音まで脳内で再生されてしまい、鼓動が速まる。


「酷いなぁ。少しは見直してくれたと思ったのに」

 レクシオンはくすりと笑って肩をすくめる。

 その仕草さえも様になっていて、エリネージュはムッとした。

「あのカフェでのこと、絶対にわざとだったでしょう!?」

「だって、逃げるつもりだっただろう?」

「……うっ」

 エリネージュの考えなどお見通しだったようだ。

 なんだか気まずくて、エリネージュは窓の外に目を向ける。

 馬車が走る石畳の道の脇にも、色とりどりの花がきれいに植えられていた。

 それだけで、少しだけ気分が和らぐ。

 しかし、段差にさしかかったのか、馬車がガタンと揺れた。


「きゃっ!」


 急なことに身体が傾きかけた時、レクシオンにぐっと手を引かれた。


「……な、な、離して!」


 エリネージュの身体はすっぽりとレクシオンに抱きかかえられている。

 木から落ちた時に同じような状況になったのに、今はあの時以上に心臓がバクバクとうるさくわめく。


「駄目。リーネは危なっかしいから、僕が捕まえておく」


 にっと悪戯っぽく笑われ、心臓が止まるかと思った。


(天使の美貌でその表情はずるいわ!)


 全部全部、レクシオンの顔がいいのが悪い。

 なんて滅茶苦茶なことを思いながら、エリネージュは自分の体に触れる彼の身体や体温から意識を逸らす。


「も、もう本当に大丈夫だから!」

 叫んだ瞬間、また馬車がガクンと揺れた。

 整備されていた道を走っているはずなのに、どうしてこんなに揺れるのか、ということに気づかないくらい、エリネージュは冷静さを失っていた。

「どこが?」

 エリネージュの抗議に対し、レクシオンは悪びれもせず、抱きしめる腕に力を込めた。

 より密着してしまい、エリネージュは心の内で悲鳴を上げる。


(これ以上は心臓が持たないわ……っ!)


 なんだか泣きそうだ。

 顔は熱いし、心臓は痛いし、体すらも熱を持ってきた。


「リーネ、なんだか顔が赤いよ。もしかして、熱があるのかな?」

「~~~~っ!」

 あろうことかレクシオンは自らの額をエリネージュの額に当ててきた。

 両手がエリネージュでふさがっているからこその行動だろうが、心臓が爆発しそうだ。


(お願いだから、早く城に着いてよ……っ!)


 もういっそのこと気絶したい。

 エリネージュは自分の心臓の音がうるさすぎて、レクシオンの心臓も同じようにバクバクと鼓動を速めていたことにはまったく気づいていなかった。


 ***


 レクシオンからのデートを終えて貴賓室に戻ったエリネージュは、ぐったりと疲れていた。

「まあ。お嬢様、大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃないわ。何あの破壊力抜群の顔は……中身は変態のくせに」

 心配そうに声をかけてくれたカトリーヌに、投げやりな気持ちでエリネージュは答えてソファに沈み込む。


(結局ずっと抱きしめられたままだったわ……)


 気絶することもできず、エリネージュは緊張状態のまま、レクシオンに心臓の動きを狂わされっぱなしだった。

 もう二度と一緒に馬車には乗らない。そうエリネージュは心に誓った。


「素敵なガーベラですね」

 心の内でレクシオンに悪態をつきながらも、贈られた花束はしっかり持ち帰った。

「ふふ、お嬢様は本当に愛されていますわね」

 花瓶を用意しながら、カトリーヌがニヤニヤと笑う。

「どういうこと?」

「ガーベラの花言葉をご存知ではないのですか?」

 カトリーヌに問われ、エリネージュは首を横に振る。

 宝石言葉ならば知っているが、花にも意味があったのか。


「ガーベラの赤は”神秘の愛”、黄色は“究極の愛”ですわ。レクシオン様からの愛がたっぷり込められている花束ですわね」


 そう言って、ささっとカトリーヌがガーベラの花を手ごろな花瓶に生けてくれる。

 もらった花言葉の意味を知って、いっきに顔が熱くなる。

 当然、レクシオンは花言葉を知った上で渡したはずだ。

 とんでもないものをもらってしまったのではないか、と少しの後悔と気恥ずかしさに襲われる。


(でも、やっぱり花ってきれい……)


 カトリーヌが花を生ける様子を眺めながら、花がある生活って素敵だなとぼんやりと思う。


 グレイシエ王国では華やかなものといえば、シャンデリアなどのキラキラした金銀細工や宝石だった。

 生きた花は、いつか萎れて枯れてしまう。

 “永遠の美”を究極と考えるグレイシエ王国では、花は愛でるものではなかったのだ。

 だから、宝石できらびやかに模られた花しか、エリネージュの身近にはなかった。

 ダイヤモンドの永遠の輝きよりも、今この瞬間に美しく咲いている生花の美しさにエリネージュは惹かれる。


(でも、あの王子は違うのよね……)


 レクシオンは、死体であったエリネージュを愛そうとした。

 それに、墓地にいる時が一番安心できるのだと。

 裏を返せば、生きた人間と一緒にいると安心できないということだ。

 命を失った肉体に、彼は安心感を求めている。

 生きているからこそ、支え合うことができるだろうに。


 ――リーネに出会うまでは、だけどね。


 レクシオンの前からエリネージュが消えれば、彼は生きた人間から目を逸らして生きていくのだろうか。

 それは嫌だと思った。

 エリネージュにはいろんな表情を見せる彼が、他の人間には不愛想で近寄りがたいと思われているなんて。

(そうだわ! 彼が私に執着しなくなれば、森へ帰してくれるのではないかしら)

 暗殺者を捕える、などという話も忘れるはずだ。

 エリネージュはにやりと口元を歪める。


「ふふふ、見てなさい。私がいなくても安心できる場所を、あなたに作ってみせるから!」


 題して、『レクシオン安心計画』。

 ぐっと拳を握り、エリネージュは高らかに宣言した。

 陰ながらその宣言を聞いていたカトリーヌは、その無謀な計画を生暖かい目で見守ることにした。


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