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目覚めのキス

白雪姫をモチーフにしたラブコメディ(?)です!

どうかお楽しみいただけますように。

 エリネージュの目が覚めたのは、唇にあたたかくて柔らかなものが触れたからだった。

「あぁ、生き返っちゃったのか」

 まだぼんやりとする意識の中、そんな言葉が耳に届く。

「おはよう、美しい人」

 絵画から飛び出してきた天使かと見まがうほどの美形が、目の前でにこりと笑う。

(なんてきれいな人なのかしら……)

 金色に輝くさらさらの髪、中性的な美を備えた貴公子。

 こんなイケメンをエリネージュは今まで見たことがない。

 夢うつつで見惚れていると、彼は笑みを浮かべたまま、唇を寄せてきた。

 ちゅ。

 その感触があまりにリアルで、エリネージュは瞬時に覚醒した。

 夢じゃないっ!?

 突き飛ばそうと思ったのに、手にまったく力が入らない。


「もう意識は戻ったみたいだね。でもまだ無理をしない方がいいよ。君はさっきまで死んでいたんだから」


 見ず知らずの女性を襲っているというのに、彼の優しい笑みは変わらない。

 というか、死んでいたとはどういうことか。

 ますますパニックになる。


「大丈夫。君の小人たちには許可をもらったから」


 だから悪くないとでも言うのだろうか。


「いやいや、私の許可はっ!?」


 身体に力は入らないが、声は出た。

 宝物にでも触れるように、そっと彼はエリネージュの黒檀の髪を撫でる。


「言っただろう。君はさっきまで死体だったんだ。君は、死人に許可を求める?」

「でも、私は生きているわ」

「そのようだね。本当に、何も覚えていないの? 君は毒で倒れたそうだよ」


 そう問われて、エリネージュは眠る前の記憶を引っ張り出す。


(……あ。私、あの時に林檎を食べて、意識を失ったんだわ)


 小人たちがエリネージュのために、街のお土産で買って来てくれた真っ赤な林檎。

 まさかそれに毒が入っているなんて思わなかった。

 きっと、小人たちも知らなかっただろう。

 彼らは、命を狙われて行き場を失くしたエリネージュを匿ってくれた、優しい心の持ち主だから。

 その優しい小人たちが何故、死んだと思われたエリネージュをこの男に渡したのかは考えたくもないが。


「ん? ちょっと待って。あなた、私が死んだと思っていたのよね?」

「そうだよ」

 まったく悪びれずに彼はにこりと笑う。

「他人の死体を連れて帰るなんてどうかしているわ! それに……キ、キス」

「あぁ、君の唇は柔らかくて、あま」

「いやーっ! それ以上何も言わないでっ!」

 エリネージュは叫び、男の言葉を遮る。


(見ず知らずの男にキスされたなんて……最悪だわ)


 何もかも、夢であってほしい。

 これ以上深く考えたくなくて、エリネージュは男から目をそらす。

 天井には美しい絵画が描かれ、今エリネージュが横たわっているベッドはふかふかだ。

 こんなベッドに横たわるのは久しぶりだ。

 そう思うと、やはり現実に意識が戻ってくる。

 あきらかに、ここは小人たちと暮らしていた山小屋ではないのだから。

 彼の装いを見るに、貴族で間違いないだろう。

 エリネージュは、あまり貴族に関わりたくはない。王族などもっての他。

 それに、この男は死体にキスする変態だ。

 とんでもないイケメンだとしても、今すぐ逃げ出したい。

「死んでいる君があまりに美しくてね、我慢できなかった。驚かせてごめんね」

「今すぐ森へ帰らせて」

「駄目だよ」

 そう言って、男はじっとエリネージュを見つめる。

「黒檀の髪に、透き通るような白い肌、かわいくて甘い唇。君のすべては僕のものだ」

「私は誰のものでもないわ!」

 無理やりにでも飛び出したいのに、毒の影響が残っているのかまだ動けない。

 せめてもの抵抗で男を睨む。

 彼は少し悩むような仕草をした後、エリネージュの白い手を取った。


「君以上に美しい死人にはもう会えないだろう。僕のために、死んでくれないか?」


 その言葉を理解しなければ、まるで愛の告白でもしているかのように熱い眼差しがエリネージュに向けられている。

 本気で自分を求めているような切実さがあった。

 しかし、エリネージュにとってそれは殺害予告でしかない。


「絶対に、お断りですっ!」


 精一杯の拒絶を込めて、エリネージュは叫んだ。

 あまりにも力んだからか、また意識が遠のく。


(このままじゃ、殺されちゃうかもしれないのに……)


 エリネージュは数年前からずっと、命を狙われていた。

 逃げて、逃げて、ようやく穏やかな生活を手に入れたと思っていたのに、やはりどこまでいっても命が狙われるらしい。

 でも何故か、彼は今までの暗殺者とは違う気がする。

 だって、暗殺者に美しいなんて言われたことはなかったから。


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