好感度ロールプレイング 〜モテモテ先祖のとばっちりで女に嫌われた超絶イケメンは、好感度上昇アイテムで這い上がる。 メンタルを犠牲にして〜
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「ねーねー、鈴乃ぉ」
「んー? なぁにー?」
「この前の飲み会さ、武村くんめっちゃ言い寄ってきてたのになんでリリースしたの?」
「り、リリースってー……」
「だってもう釣れてたじゃん! あんなイケメン余裕でキャッチじゃん! リリースする獲物じゃないじゃん!?」
「……あのねー、男の子は魚じゃないのよー?」
飲み会という釣り場での話題で盛り上がる女子二名。 一人はこの部屋の主である佐条鈴乃、もう一人は……まあ、その女友達だ。
「武村くんならマグロでもいい! まな板というベッドに寝かせたら後は板前がおいしく捌いてみせますっ!」
「もー、いい加減海から上がってきなさいー」
「えっ、川魚でやった方がよかった?」
「海水魚かー、淡水魚かー、とかじゃないよー?」
鈴乃くん、友達は選んだ方がいい。 彼女は少々コミカル過ぎる。
「あっ! これ卒業アルバム? 見ていーい? 見るねっ!」
「もー、『あっ!』の段階でー、既に開いてたよー?」
この仲睦まじい二人は、同じ大学に通う女子大生。 やっとお酒を飲めるようになったばかりの二十歳、所謂JDというやつだ。 決してジャック〇ニエルの略ではなく、それが作者の旧ペンネーム……いや、何でもない。
「へー、中学の頃から鈴乃は可愛いねぇ」
「そんなこと――」
「謙遜は鋼錬のゾルフ・〇・キンブリーより嫌い」
「………」
「どーせこの頃からそのおっとりしたしゃべり方で男子達に『守ってあげたい!』、とか『癒される~』、みたいなクソふざけた幻想お届けしてたんでしょ」
うん、何と仲睦まじい二人だ。
「……わたし達ー、お友達、だよねー?」
「なーに言ってんの、大学からの大親友じゃないっ!」
大学からの大親友、そして彼女達は二十歳。 まあつまり、絆というのは共有した時間の長さではないという……
「鈴乃はさ、服とか小物とか女らしさ丸出しでツラも可愛いから」
「ツ……」
「だからモテて当たり前だって! わたしも大好きだよっ!」
「もー」
……お友達は恐らく、言葉のチョイスが所々乱暴なだけなのだろう。
「おっ!? なにこの超絶イケメン!?」
「えー?」
「これこれ! 秋山涼真くん? 鈴乃仲良かった!? 絶対今絶品に仕上がってるって!」
絶品のイケメンに興奮した友達は、アルバムの写真、その秋山君の顔面に指を押し当てて鈴乃に『商品説明をしろ!』、と息巻く。
「……秋山くん、はー……」
腹ペコの友達は目の前のごちそうに鼻息を荒くしているが、鈴乃はどこか物憂げな表情で目を半分伏せ口篭っている、と―――
「なになに? ここは迅速に対応してよね――あっ、もしかしてアレ? 元カレ?」
「ち、ちが――」
「あーそりゃもう美男美女で良くお似合いですね、学校中の憧れのカップル? 二人で生徒会回してた? ハッ! ――――漫画かッ!!」
マシンガンを乱射する大親友。
皆もお友達は慎重に選ぼう。
「ほんとー、そんなんじゃなくてー……」
「ねえ鈴乃、羨望の眼差しのシャワーって熱いの? 冷たいの? 味とかある? わたしわかんなーいおしぇーてー?」
僻み、妬み、嫉みのシャワーですね?
「言ったでしょー? わたし、お付き合いした事ないってー」
「どんな高値で自分売るつもりだっつーの」
「えー?」
「ううん何でもない。 じゃあさ、秋山くん紹介してよー、喰ってみたーい」
ボソッと暴言を吐いた後、このごちそうをテーブルに運んで来てくれ、と困ったお客様から注文が入る。
「……やめた方がー、いいよー……」
「あ?」
―――『あ?』って……。
「嫌な思い、するよー?」
「はぁ? なにそれ、つまりわたしみたいなんじゃ相手にされないって事?」
「そ、そうじゃなくてー」
「あっ、わかった! イケメンだけに自信満々で性格悪いってヤツ? 大丈夫、わたしちょっとぐらいの汚れ物ならば残さずに全部食べちゃうタイプだからっ!」
どうやら、あるがままの心で生きるタイプらしい。
「違うのー、秋山くんはねー……」
◇◆◇
築六年、まだまだ綺麗な賃貸マンションの一室。 男の一人暮らしには十分だろう1Kだ。
「……喉が、カラカラで……頭が、割れそうだ……」
虚ろな目で天井を見上げ、そこまで外したなら脱げよ、と言いたくなる程はだけたワイシャツ姿の男がベッドで呟く。
「悪酔いしてクビ……だったらまだ、良かったのにな………ハハ……」
どうやら二日酔いのようだが、乾いた笑いを零す彼に、昨夜一体何があったのか。
「オレは………イケメン、だ……」
突然どうした、普通自分で言います?
「……イケメン、だ……」
自分に言い聞かせるように再度呟く。 まあ構うことはないだろう。 部屋には自分以外誰も居ない、勝手な事を言おうが誰の気分を損ねる訳でもない。 それに実際、彼は……
――――イケメンなのだから。
そう、彼が噂の秋山涼真。 身長180センチ、細身で筋肉質とスタイルは抜群。 その顔面偏差値はイケメン東大をまさに顔パスで首席卒業しそうなスペックだ。
では、何故そんなイケメンが酔い潰れて一人、負け犬の遠吠えを水中でミカヅキモがしたようになってしまっているのか。
本人の心の声を聴いてみよう――――
◇
……オレは、――――イケメンだ。 (それはさっき聞いた)
多分……だけどな。
この “多分” 、っていうのには理由がある。 それは、男友達がオレの写メを知り合いの女の子に見せると、必ずカッコイイ、紹介してと言われるらしいからだ。
でも、オレは……
――――全くモテない。
二十歳になったが、今までモテた試しが全くない。 彼女いない歴は当然世界トップタイ。 これは、一度でも彼女が出来れば一気に順位が下がるシステムになっている。
………んなくだらない事はどうでもいい。 問題は、なんで見た目の良い筈のオレがモテないのか。
紹介して欲しいと言った女の子と実際会うと、写メや写真では気に入っていたオレを全力で拒否してくる。 これは例外なく、全ての女の子がそうだった。
何故だ……会いたいって言ったのはそっちからだろ……。
昔からそうだった。
女の子はオレの事が嫌い、大嫌いだ。
女の子というか――――女性は全てオレの事が嫌いだ。
歳の近い女の子は勿論、子供の頃皆で駄菓子屋に行った時、店のお婆さんまでがオレを嫌がった。 そんなに嫌かとシワだらけの眉間に更にシワを寄せ、こんな高さから落とすか? って高さからお釣りを落とされた。 アレはある種のゲームだ、お陰でキャッチ力には自信があるぜ。
………はぁ。
そんな事が続き、いつしかオレの方から意識して女性に近づかないようにし始めた。 まあ、それを決定的にした事件もあったしな。
あれは、オレが小学校一年生の時だった―――
たった一人、こんなオレと話してくれる女の子がいた。 まあ、顔は引きつってたけどな……。
その子はとても可愛らしい子で、名前はすずちゃん。 おっとりとした話し方の、誰にでも優しい天使のような女の子だった。 ちょっと話すには不自然な距離があったけど、それでも話してくれるだけでオレは嬉しかった。 大袈裟じゃなく、死ぬ程に。
そして運命の日……それは、運動会の演し物の練習。
男女でペアになって踊る演し物で、オレのパートナーはまさかのすずちゃん。 正直、オレは嬉しくて踊る前から既に躍ってたよ……。
今でも鮮明に覚えている。 体操着の彼女が笑顔で近づいて来て、オレとの距離が縮まるにつれ顔が引きつっていく。
でも、彼女は辛そうにしながらも傍に来てくれた。 いつもよりかなり近い。 オレの心臓は8ビートから16ビート、しまいにゃ電子機器じゃなきゃ刻めないレベルにまで達して……!
……でも、達したのは――――オレだけじゃなかった。
何とか笑顔を作り、
『りょ、りょーまくんー、い、いっしょに、がんばろ――』
その後、最後の『ろ』、が『ろろろろろろ』と繋がり、すずちゃんの可愛らしいお口からレインボーが飛び出した。
その日、オレの最初で最後の恋は終わったんだ。
◇
だそうです。
一体、彼の何がそんなにも女性に忌み嫌われるのか、謎は虹の彼方……という冗談は不謹慎ですね。 失礼しました。
「もう、やめよう……二十歳になって、勇気を出してやってみたけど……迷惑だよ……女性に……」
二日酔いの原因。 それは、中学卒業後男子校に通い女性を避けてきた彼は、高校卒業後も二年間女性のいないバイト生活を経て二十歳になったある日、このままオレは彼女いない歴世界トップタイを続け、防衛回数世界一を目指していいのかと一念発起。 突然ホストクラブの門を叩きその容姿から即採用。 ヘルプとして必死に人気ホストの先輩の席で酒を飲むも、お客の女性達から猛ヒンシュク、『こいつに飲ませるのにだけは金を払いたくない』、と言われクビになった翌日なのだ。
「これからも、ずっと一人………か」
涼真、諦めたらそこでBLだぞ。
「最近のニューハーフって、可愛いんだってな……」
ああ、そうきたか。
「ばっ、ばかやろう!!」
おっ?
「そこにまで嫌がられたら……オレは……っ!」
ああ、そうきたか。
「……とりあえず、今は何も考えないで眠ろう。 起きたら……全身脱毛でも調べるか……」
え? そっち?
なるほど、逆転の発想だ。
見た目は良い訳だし、絶世の美女になれる可能性はある。
《……い》
「――ん?」
《……ーい、りょーまー》
「……飲み過ぎだ、幻聴が聞こえ――」
《おーい! りょーまっ!!》
「――んな……! な、なんだぁ!?」
二日酔いの頭に響く大声。
昔に某有名芸人が主演したドラマのタイトルか。(分かる人何人いるかな?笑)
明らかに自分を呼ぶ声に飛び起きる。 しかし、辺りを見回してもそこには誰も居ない。
《はーっはっは! やーっと聞こえたかぁ!》
「ど、どうなってんだ!? 誰も居ないし、声……っていうか、誰かが直接頭に伝えてくるような……」
《オレだよ、オレ!》
これは、絶対に許してはいけない犯罪ですか?
「お、オレって誰だよ! 何なんだ!? これ……夢? もうオレは寝ちゃってて、それで……」
《ちげーよ。 お前は起きてるし、オレは怪しいモンじゃねえ、ちっと落ち着けって》
「……なこと言われても、な、何がどーなって……」
《いいか、オレはお前が生まれてからずっとお前といる。 んで、お前の遠い親戚だ。 もう死んでっけど》
「親戚? で、もう死んでる?」
そう声は語り掛けている。
それを聞いた涼真は、
「もしかして……」
《おう、もしかして?》
「絶望的にモテないオレを助けに来てくれた守護霊!?」
二十歳になって再度希望を無くし、藁にもすがる人間とはこうも非・現実を受け入れ易いものか。
《おお! そうそう、まさにそれよ!》
「……マジか、マジなのか……」
《さーっすがオレの子孫、話が早くて助か――》
「ぃやーーったぜぇッ!!」
《――おお!?》
「なんか見た事あるもんこういう漫画っ! やっと……やっとオレにも救いの手が……!」
全力のガッツポーズを繰り出す涼真。 その瞳には、これまで傷ついてきた苦労が報われると、美しく光る物が輝いている。
《いやぁ、そんな喜ばれると悪い気しねぇな》
「ずっと、ずっと待ってた……オレを救ってくれる何かを……!」
やっと救われる。
今まで原因も解らず苦しんできたモテないイケメン。 その救世主は御先祖様だ。
《よし、まずは自己紹介だ。 オレは是澤巧、お前の遠い血筋にあたる男だ》
「なるほど、だから名字違うのか」
《まぁな。 さっきも言ったけどよ、お前の自己紹介はいらねぇよ、ずっと見てきたから》
「そっか、なんか……恥ずかしいな」
《だろうな、こんな悲惨な人生ねぇわ》
おお、辛辣。
御先祖様は遠慮が無いタイプのようだ。
「――なっ!? ちょ、ちょっとは気を遣ってくれよじいちゃん!」
《じいちゃん、ってのは好きじゃねぇな。 オレ死んでからすぐお前生まれたからよ、そんなに昔の先祖じゃねぇんだ。 巧でいいよ、巧で》
「そ、それじゃなんか同級生の友達みたいだけど……」
友達感覚の守護霊様とは珍しい。
「そんな事はどうでもいい! でっ! どうしたらオレは女の子と仲良くなれるんだ!? そもそも何でオレはこんなにも嫌われるんだよ!」
《おいおい落ち着けよ、っても無理もねーか。 今まで散々悩んでたもんな》
恐らく、物心つく前から食らっていたエンガチョ。 その謎が解けるかも知れないとなれば落ち着いてなどいられない。 その光景を寧ろ涼真よりも長く見てきたのだ、先祖である巧も心を痛めているのだろう。
《中学の時男友達に訊いてたもんな、『オレって体臭臭いのか!? 頼むっ! それなら言ってくれッ! 嫌われる理由がわからないんだッ!!』って》
「……そういうのいいから、とにかく理由を――」
《『オレの事カッコイイとか言ってるのはほめ殺しなのか!? テレビで見るイケメン俳優やらアイドル達は幻覚か!? あれが人気ならオレと大差ないだろう!?』、なんて自慢みてーな――》
「やめろって言ってんだろぉ巧ぃぃッ!!」
うん、これは巧じいちゃんが悪い。
《おお、やっと巧って呼んでくれたな》
「はぁ、はぁ、はぁ………いいから、理由を教えてくれ……頼むよ……」
一人暮らしのベッドの上、二日酔いで弱ったモテないイケメンは項垂れる。
《よし、よく聞け。 お前が女から嫌われるのは、臭いからでも幻聴でも幻覚でもない》
「じゃ、じゃあなんで……」
《臭いに関しては気にし過ぎてフローラル過ぎるぐらいだ》
「頼むから先進んでくんない?」
《いいか、何で男前のお前が女に嫌われるか、それはな……》
「あ、ああ」
ついに語られる謎。 高身長で超絶美形、その上女性から忌み嫌われていた為、全く天狗にならずに女性に気を遣う男、その涼真が何故こうもモテないのか。
その理由とは―――
《―――呪いだ》
「……の、呪い?」
「ああ、お前にはモテない呪いがかけられてる」
「はぁ!?」
原因は『呪い』。
俄には信じ難いが、死んだ御先祖様が言うのだから信憑性はある。
《かけられてるっつーか、取り憑かれてるって感じ?》
「おい、そんなライトな口調ありか?」
《しょーがねぇだろ、そうなんだから》
そう軽く言われても、これまでの人生を台無しに……
「簡単に言うなよなッ! 何でオレがそんな呪いをかけられなきゃなんないんだッ! 生まれてすぐ、なんの罪も無いのになんで……ッ!!」
そうなりますよね、当然です。
《だよな》
「だよッ!!」
《ホント、神様ってのはひでぇ奴だよ》
犯人は神様らしい。
《なーんも悪いことしてねぇのに》
「そうだッ! こんな理不尽なことあるかッ!」
神様大バッシング、という展開になってきたワンルーム。
《オレもお前も》
「そうだッ! ………って、なんで巧じいちゃんも?」
まるで、自分も何か呪いをかけられているような言い振りをする巧。
《オレもよ、神様に次転生させてやんねぇって言われてんだよ》
「そう……なのか」
何と、神様というのはこんなにも無慈悲なお方なのか。
《ひでぇだろ?》
「ああ、何が神様だ。 ただの嫌な奴じゃないか」
《ホント、ただ生涯働かずに女達に食わせてもらっただけだっつーのによ》
「――は?」
は?
《何が悪ぃってんだ、全く》
「……なぁ、巧じいちゃんが転生させてもらえない理由って……何?」
少々気になる発言があり、涼真は訝しんだ表情を作り問い掛ける。 すると、
《いやな、それがひでぇ話でよ。 オレはただまともに学校も行かねーでよ、いくつになっても働かずに生きてた訳よ》
「……そう」
果たして、それを “ただ” 、と言っていいのか。
「家が金持ちだった……とか?」
《いんや? オレはすげぇ男前だから女が勝手に寄ってきてよ、欲しいモンは買ってくれっし、食いたいモンは食わせてくれるし、いつか痛い目見るぞって親とか友達に言われてたけどよ、結局死ぬまで何人もの女に面倒見てもらって楽しく暮らして、んで八十一歳で死ぬまで何の苦労もしなかった訳よ》
「……あそう」
《まあ死ぬ時もアレだ、十人以上の女が泣きながら寄り添ってたなー》
「……それで?」
《で、死んだらよ、神様がお前の人生は認められねぇとか言いやがってよ》
「ああ、神様とオレの意見は一致してるな」
《でよ、お前は転生させないとか言うからよ、ふざけんな! って言ってやったんだよ》
「そうか、よく言えたな」
《したらよ、どうしても転生したいなら、お前の血筋にまたすげぇ男前が生まれるから、そいつはお前みたいにならないようにモテない呪いをかける。 そいつを結婚させられたら転生させてやるって、こう言いやがってよ》
「……それ、って……」
《ああ、お前だよ涼真》
「………」
涼真の目に暗めのスクリーントーンが貼られ、部屋には静寂が訪れる。
「……なあ」
《あ?》
「巧じいちゃんの墓って、どこ?」
《ああ? 何でよ?》
巧のお墓の場所を訊く涼真。
御先祖様を供養するとは、何と良い心掛け―――
「てめーの墓ぶっ壊してやるッ!! んで掘り起こしてもっかい殺してやんだよッ!!!」
……まあ、そうなっちゃいます?
《おいおい、昨今の若者はえらい罰当たりになっちまったな》
「罰が当たったのはお前だろがッ! オレはそのとばっちりを受けてんだよッ!!」
《嘆かわしい、じいちゃんぴえん超えてぱおんじゃよ》
「死後流行った言葉使うんじゃねぇクソじじいッ!!」
じいちゃんからクソじじいにモデルチェンジした御先祖様。
嫌われ地獄から救ってくれる筈の救世主は、何とその元凶だったという事実が発覚した。
「じゃあ何か? オレが今まで苦しんできたのは―――会った事もない生涯ハッピー紐じじいのせいだっていうのか……?」
《異議あり! 神様のせいですっ!》
「却下だバカヤロウッ!」
さて、相手はもう死んでいるとはいえ、これは一応――――家族会議になるのかな?笑
「お前のせいでどんだけ苦しんだかわかるか!?」
《いやだから、生まれた時から一緒って言ったじゃん。 そんなの知ってるってウケる》
「神様ぁあ! 死人に殺意ってどう向けたらいいですかぁ!?」
天井を見上げる涼真。 その虚ろな瞳は精神崩壊を起こし、黒から灰色へと薄れている。 ぴえん超えてぱおん超えてグレー? 失礼、不謹慎でした。
《りょーま》
「ああ? 黙れよ死人に口なしだっつーのー」
《おいって》
「うるせーハッピーライフ紐じじい。 お前にオレの気持ちなんてわかんねーよ、こっちはお陰でノーガールライフだっつーの。 あはははー」
呪われたイケメン秋山涼真。 二日酔いで顔も洗わず、絶望して力無く笑っていてもその姿は――――イケメンだ。 モテないけど。
《だらしねぇな、聞けよりょーまッ!》
情けない子孫に御先祖様の喝が炸裂。
「誰のせいだクソじじいッ!」
……するも、リターンエースを返す子孫。 じじいが悪い。
《ずっと呼びかけてきて、やっと今日声が届いたんだぞ!? じいちゃん嬉しいっ!》
「じいちゃん嫌だったんじゃねーのか!?」
《おう、巧って呼んでくれ♡》
「わかったよクソじじい♡」
すっかり二人の関係性は拗れてしまったようだ。 しかし、このまま喧嘩をしていても問題は好転しない。
《とにかくだ、オレはお前を結婚させなきゃならねぇ。 でも、お前はモテない》
「誰のせいだ」
《だが安心しろ、そんなお前をモテる男にする為のアイテムがある》
「――まっ、マジか!?」
ベッドの上で立ち上がるイケメン。 はっきり言って傍から見れば、長い独り言を言っているヤバい奴だが。
《おうっ! それが……こいつだ!》
「――おっ?」
目の前を何かが通り過ぎ、音も無くベッドに落ちた。 涼真は屈んでそれを拾い、見てみると―――
「……何だこれ? 種?」
《ああ、そいつがモテないお前を救ってくれる『好感度の種』だ》
「好感度の種? モテないを連呼すんなじじい」
落ちてきた一粒の種、それが呪われたイケメンをどう変えるというのか。
《この理不尽な試練を乗り越える為「お前のせいだけどな」、こっそり神の部屋からくすねてきたブツだ》
「……お前、罰当たりの超エリートだな」
そりゃ神様も転生させたくないだろう、と呆れ顔の子孫。
《さあ、そいつを食え》
「食え……っても、大丈夫なんだろうな?」
《大丈夫だ、これ以上モテなくはならねぇって! 底辺なんだからよっ》
「あはっ、そっか! ……殺すぞじじい」
もう死んでます。
怪しみながらも種を口にする涼真、果たして『好感度の種』とは一体どんな物なのか。
「……食ったぞ」
《よし、んじゃ目を閉じろ》
言われるまま目を閉じる。
あー、これもイケメンだ。
《いいか、今から女に対するお前の好感度を見せてやる》
「お、おう。 すげーな、そんなこと出来んのか」
期待と不安が混じる中、目を閉じた涼真の頭に浮かんで来た物は―――
◇◆◇
秋山涼真 20歳 称号 <生理的に無理>
0~10歳 ♡ -100
11~15歳 ♡ -100
16~20歳 ♡ -100
21~30歳 ♡ -100
31~40歳 ♡ -100
41歳以上 ♡ -100
◇◆◇
「……何だ、これは……」
《……いや、ゼロじゃないんだな。 マイナスなんだ……》
そのステータスは “絶望” 。
流石の巧も言葉を失う程だ。
「是澤さん……でしたよね」
《はい……》
「お陰様で、オレの初期設定はこのザマですよ」
《………》
怒る気にもならない現実、数字は残酷に語ってくる。 『モテる訳ねーだろ』、と。
「これを見ていると、何だか足掻いていた自分がバカみたいですね。 何を必死に清潔感を出そうと入念に身体を洗ったりしていたのか、何を必死に……」
《りょーまくんっ、1から始めましょう、いいえゼロか――》
「マイナスなんだよッ! それも100だッ!! ゼロにするまで階段100もあるんだぞッ!? あと称号<生理的に無理>はあんまりだろッ!!」
怒りに目を開くと、浮かんでいたボロカスのステータスは消える。
《一段一段登って行けばいいじゃない! その足は何の為にあるの!?》
「お前誰だよッ!」
《アタシにはその足が無いのよ!?》
「霊だからなッ!」
これは、霊ならではの持ちネタか。
「そもそも基準がわかんねぇ! ゼロになったら普通なのか? 平均ラインを教えろよ!」
《んなモン、体感でわかんだろ》
「感じるのが怖いの……! 分かるでしょずっと見てたんだから……っ!」
どうやら、この一族は時々オネエ言葉になるらしい。
《ビビってたら一生モテないままだぞ? いいのか?》
「そんな事言っても、大体どうすりゃいいんだよ……今まで何してもステータス上がらなかったって事だぞ?」
弱音も吐きたくなる、見せられた数字は明らかに生まれてから変動無しだったのだ。
《カッカッカッ!》
「笑うなじじい」
モテない元凶、迷惑な御先祖様の高笑いが腹立たしい。
《りょーま、いいか?》
「良くねーよ」
《その為の――――『好感度の種』だ》
◇
駅前に、一人のイケメンが立っている。
《お前さ、相変わらず準備なげーって》
「しょ、しょうがないだろ……!」
涼真の支度は長い。 入念に身体を洗い、清潔感のある服装に着替え、バッチリ髪をセットして適量の香水を付ける。 全ては女性に不快感を与えたくないからだ。
《よし、行け》
「簡単に言うなよ……! こ、心の準備が……」
涼真が一体何をしようとしているのかというと、
「フラれた事なんてないんだぞ!? 告白するまでの関係にすらなれないんだから……」
フラれようとしているらしい。
何故こんな事をするのか、それは何とあの『好感度の種』、フラれる度に好感度が上昇するというアイテムだったのだ。
《ウダウダ言ってる場合かよ、誰でもいいからさっさと告ってフラれてこい》
「……お前、ろくな死に方しねぇぞ」
《幸せしかない人生だったが》
「お前の墓どこだ」
やめよう涼真、復讐は虚しさを残すだけだ。
《しょうがねぇな、オレが選んでやる。 よし、あのOL行っとけ》
巧が指定した女性は、二十代半ば程の綺麗なお姉さん、といった感じだ。
「あ、あれはレベル高いだろ……」
《ウケる、どんなレベルでも結果一緒だろマイナス100なんだから》
「ツルハシとシャベル買ってくる」
涼真は墓荒らしグッズを買う事を決心した。
《待て待て、ここで踏んばりゃ初彼女ができるんだぞ?》
「――か、彼女……!」
何と甘美な響きか。
それは、彼の足を止めるに十分な言葉だった。
「女性と話す事すら難しい俺に、彼女が……」
《そうだ。 好感度さえ普通ならよ、見た目イケてるお前は入れ食いだって》
「おっ、オレは別に、一人傍にいてくれれば……」
《――は? 何言ってんのお前? とりあえず四、五人作っとけよ、それでもオレの子孫か?》
だから苦労してます。
「モテたいけど、こいつを転生させるのは絶対反対です神様」
《いいから行けよ》
「わ、わかってるよ!」
意を決し、目標の女性に向け歩を進める。
(はあ、疲れた……もうさっさと寿退社したい……)
タイミング良くか、目標の願望はこちらと似通っているようだ。
(――ん? ……何あれ、ちょーかっこいいんですけど……――えっ? 私を見てる? 嘘……こっち、来る……)
迫る涼真との距離は現在10メートル。 長身、美形のイケメンと目が合い、OLは胸を高鳴らせて身動きが取れない。
そして、その距離が声を掛けられる程度に近付いたその時―――
「――ゔッ……!」
涼真が声を掛けようとした瞬間、突然OLは顔を顰める。
「あっ! あのっ、ちょっと待っ……」
手を伸ばす涼真。 だが、女性は口を手で押さえ足早に去って行った。
「………」
《あー、ステータス変わってねーわ。 やっぱちゃんと告ってフラれなきゃダメか。 おい涼真、何やってんだ次行くぞ》
何をやっている? 見たら分かるだろう。
「………」
―――落ち込んでいるんだよ。
「オレには……フラれる事すら許されないのか……」
《そうだな、猛ダッシュで行って『付き合ってくれ!』って言うしかねーんじゃねーの?》
それは、最早イタズラのレベルじゃないスかね?
「はは……やっぱり無理なんだよ……マイナス100だもんな……」
《おい、いいから次行くぞ》
セコンドはリトライを促すが、当の選手はかなりメンタルをやられているようだ。
「……3.1415926535」
《コラ、きーてんのかダメ子孫》
突然謎の数字を並べ始める涼真、巧の呼び掛けも耳に届いていない様子。
「8979323846……」
《……なあ、その偶にボソボソ言ってんの何なんだ?》
蹲り、絶望の声音でまさに呪いの呪文を唱えているかのようだ。
「……距離、だよ」
《……何の、だよ》
数字の正体は距離。 だが、一体何の距離だと言うのか。
「オレを遠くから見る女の子は、確かに好意的な顔をしてると思う」
《ああ、オレには負けるがお前も男前だからな》
「でもな、さっきみたいに距離が縮まると……いきなり表情が変わるんだよ」
《呪われてっからな》
お前のせいでな。
「何度も、何度も……それを経験して、分かった事があるんだ」
《ほう》
「オレを拒否するタイミング……その距離―――3メートル14センチ……」
《……あそう》
新事実が明らかになった。 呪いの発動距離は3メートル14センチらしい。
「オレを軸にして、半径3メートル14センチから女性は苦しむって訳だ……」
《ふーん、3メートル14センチ………んー? ――あっ! はは、てことはアレか? ボソボソ言ってたのは円周率ってか!?》
「そうだよ……」
呪文の正体は円周率だった。
それに気付いた巧は……
《カッカッカッ! なーに言ってやがんのかと思ったら! じゃあ何か? お前は円周率エンガチョ男って訳だっ!! そりゃπには縁がねぇなっ! パイパイ達が逃げる訳だぜ! ひーっひっひっひ……!》
……この先祖、これはもう悪霊ですな。
《お!? どこ行くんだりょーま》
「……帰る。 オレの人生を捨てても、お前のような外道を転生させる訳にはいかない」
よく言った涼真、君こそ神の使徒だ。
《待てって! 悪かったよ、二人で横暴な神を見返してやろうぜ!》
「神の意思は正しい。 二度と世に放ってはいけない悪しき存在、それがキサマだ是澤巧」
決意は固く、神の使徒は自宅へと向かい駅前に背を向けた。
《いいのか、電車にも乗れねえ生活から抜け出せるんだぜ?》
「――ッ……!!」
駄目だ涼真、悪霊の誘惑に耳を傾けてはいけない。
《女のいなそうな店を選んで飯屋に入る事もない》
「ぐぐ……っ!!」
《それどころかよ、お前程の男前なら……》
「な、何だよ……」
聞くな、耳を傾けてはいけない。
《誘ってくるって、女から》
「―――んなぁああッ……!!?」
涼真しっかりしろ。
考えるな、妄想してはいけな………――――
『ねえ、最近入社した秋山くんってちょーカッコよくない?』
『うんうん! でもさ、あれじゃ絶対彼女いるって』
『いや! そうでもないかも……』
『『ど、どうして?』』
『彼って女子社員と話さないじゃん。 もしかして、イケてるのにすっごくシャイで女性経験無いのかもよ?』
『じゃあ……も、もしかして早い者勝ち的な!?』
『なくは無い』
『わ、私誘ってみる!!』
『あっ! ちょ、ちょっとズルいってA子ぉ!』
『あ、あのぉ』
『――え……は、はい』
『秋山さん、今日の仕事終わり……空いてます、か……?』
『とっ、特に予定はない、ですが……』
『『秋山さんっ!』』
『び、B子にC子……!』
『A子と三人でご飯行こうって言っててぇ、良かったら秋山さんもどうかなぁ……って話してたんですぅ』
『ちょっと! 私は二人で秋山さんと――』
『ダメですかぁ? お話したくって、秋山さんと……』
『ぼ、僕は構いませんが……』
『やったぁ♡ じゃあ終わったら誘いに行きますねっ、帰らないでくださいよぉ?』
『は、はい』
『もうっ……でも秋山さんの隣は私だからね!』
『ま、参ったなぁ』
――――――――――――
――――――――
――――
「……ってなるのかぁ!?」
ならない、とは断言出来ないが……せめてマイナス一桁になってから考えよう。 あと妄想長いわ。
《なるな》
「マジ!?」
《でよ、三人はお前に猛烈なアピールをしてくる訳よ》
「ど、どんなだよ!」
落ち着けマイナス100。
《そらもう手作りの弁当持ってきたりよ》
「それもう結婚だろ!」
違うだろ。
《抜け駆けしてこっそり休日誘ってきたりよ》
「添い遂げるだろ!!」
重いわ。
《それもよ、ここで逃げてちゃ手に入んねぇわな》
「うっ」
《でも忘れんなよ、お前には元々その価値があるって事を》
価値下げたの、だーれだ?
「巧……」
《おう》
目に情熱の炎を灯し、本来絵になる男は言い放った。
「次のターゲットは誰だ」
《おお、それでこそオレの子孫だぜっ!》
神の使徒は、悪霊の甘言に負けました。
「すみません! オレと――」
「ぶふッ……」
「あのっ!」
「ガはァ……ッ!」
それから何度か失敗を繰り返し、心を削られながらも涼真は戦い続けた。
そして―――
「すみません! 突然ですがオレと付き合ってくださいッ!!」
「ぅゔッ……! ムリ……ぃ……」
毒ガスを吸わされたような顔をして、女性は命からがら去って行った。
《おいりょーま! 今のはフラれたんじゃねぇか!?》
「だっ、だよな!! オレ今フラれたよな!!」
うん、振られてこのはしゃぎ様。 ハードルが下がり過ぎて地に埋まるとこうなるらしい。
《目を閉じろ、ステータス確認するぞ!》
「わかった!」
遂に初めての成果が出たかも知れない。
目を閉じた涼真、そして二人が見たそのステータスは―――
◇◆◇
秋山涼真 20歳 称号 <生理的に無理>
0~10歳 ♡ -99
11~15歳 ♡ -100
16~20歳 ♡ -100
21~30歳 ♡ -100
31~40歳 ♡ -100
41歳以上 ♡ -100
◇◆◇
「……是澤さん?」
《……はい、何ですか秋山さん》
「これは、どういう……」
ステータスは、変化している。
《良かったな、上がってるじゃん》
「そうじゃなくて、分かりますよね?」
上がっている、それは間違いない。
問題は―――
「なーーんで0~10歳が上がってんだって言ってんだよぉッ!!」
《んなモン知らねーよ!!》
「フラれた人明らか二十代だったよなぁ!!」
《ランダムなんだろ!? いいじゃねーか子供にだって好かれたいだろ!?》
「んで “1” しか上がってねーんだよ!! オレに何回こんなゲリラ告白させる気だ!?」
《一日5上がりゃ一年で全年代モテモテじゃねーの?》
「メンタルがそこまで持たないんだよッ!! 運悪く0~10歳にだけ偏ったらどうする!!」
《そん時ゃお前、ランドセル背負った彼女と――》
「喋んなクソじじいッ!!」
なんという事か、やっとの思いで手に入れた成果は恋愛対象外だった。
その後、腐っていても仕方がないとフラれ作業を再開した結果―――
◇◆◇
秋山涼真 20歳 称号 <生理的に無理>
0~10歳 ♡ -99
11~15歳 ♡ -100
16~20歳 ♡ -99
21~30歳 ♡ -100
31~40歳 ♡ -100
41歳以上 ♡ -99
◇◆◇
「……もう、今日は勘弁してくれ……」
路地裏に座り込む、精神をボロボロに痛めたイケメンは項垂れる。
《そうだな。 まあ初日としてはこんなモンだろ》
元気なのはノーダメの悪霊だけ。
《良かったじゃねぇか、16~20歳も上がったんだからよ》
「……1、な……」
それでも前に進んだのは間違いない。 疲れ果てた戦士は、今日の戦いを終え帰還しようと立ち上がる。
その時だった―――
《――ん? あの女は……》
誰かを見つけたじじい、いいから子孫を休ませてやれ。
《りょーま、ラスボスを見つけたぜ》
「は? 何言ってんだ、オレはもう限界……だ……?」
涼真は大きく目を見開く。
一体、巧が見つけたラスボスとは―――
「いーじゃん! わたしは鈴乃のお下がりでも気にしないよー? イケメン秋山食べたーいっ」
「だからー、そんなんじゃないってー」
捉えたのは、二人の女子大生だった。
「……すず、ちゃん……?」
呟く涼真の脳内では、過去のトラウマが蘇っているのだろう。
《お前の一番デカい傷、まさか初恋の相手を見つけるとはな》
「お前、変な事言わないよな……」
そう思いますか?
こいつ悪霊ですよ?
《りょーま………――――行け》
ほら、言った。
「ッ……く訳ねぇだろ!! 大体初日にラスボスなんて――」
《あいつにフラれたら10ぐらい上がるんじゃねーか?》
「オレはダメージ億食らうわ!!」
それは立ち直れない、塵と化すね。
《メンタルHPあとどんぐらいあるんだよ?》
「とっくにゼロだ! 何ならマイナス営業だっつーの!!」
《マイナス100? 持ちネタですか?》
「地獄に堕ちんかい……ッ!」
なるだけ深くに堕ちて頂きたい。
「何? なんか一人で怒鳴ってるバカいるけど―――あら! 何あのイケメン♡」
「ちょっとー、やめなよー」
残念ながら、ラスボスの取り巻きに目を付けられてしまったようだ。
《向こうから来るぜ、腹括れよりょーま》
「くっ……首を括ってしまうわ……!」
始めたばかりのロールプレイング。 ゲームならば有り得ない、始まりの町付近でラスボスとガチバトルとなってしまった。
「何してるんですかぁ? 良かったらわたしと色々すっ飛ばしてまぐわりましょうイケメンのお兄さ――ぐぼあぁ……ッ」
まず、取り巻きは呪いにより消滅した。
「……うそー、秋山……くんー?」
「ひ、久しぶり……すず――佐条さん……」
二人の距離、現在4メートル30センチ。
《オラ、さっさと懐に飛び込んで散ってこい》
「お前は労り度マイナス100だ……!」
どうだろう、見た感じそれ以下だが。
「あの、ねー。 わたし、秋山くんにー、謝りたいのー……」
「え……謝りたい? オレに?」
思い当たる節は無い。
寧ろ不快感を与えてレインボーさせてしまったのはこちらなのだから。
「小学一年生のときー」
「そ、その話はいいよ!」
掘り返して欲しくない過去、涼真が掘り起こしたいのは巧の墓だ。
「す、鈴乃……わたしを連れて逃げてぇ……イケメンから毒電波がぁ……」
「運動会の練習のときー、わたし、吐いちゃったでしょー?」
友達のSOSを無視し、こちらがレインボーと伏せていた努力までも無視する。 流石ラスボス、脅威の突破力と言ったところか。
「……うん、オレの方こそ謝らなきゃ……ごめん……」
「ううんー、あれねー」
まさか、原因は涼真ではなかったのでは……
「秋山くんにー、我慢出来なくてー」
―――そのまんまやないかい。
「ごっ、ごめんなざい……!」
泣くなマイナス100。
いつかスタートラインが見える日も来る。
《キツっ》
億のダメージを目の当たりにし、悪霊じじいも思わず引いてしまう。
「謝りたいたいのはねー」
「きっ、来ちゃダメだ!! また嫌な思いさせちゃうよ……!」
近付いて来る鈴乃、その距離4メートル。
「わたしのー、中途半端な優しさでー」
「頼む佐条さん! これ以上は新しい悲劇を生むからッ……!」
3メートル40センチ。
「余計にー、秋山くんを傷つけてー」
「いいから! オレが悪いんだから!!」
《確かに》
おい、じじい。
「秋山くんはー、とってもいい人なのにー」
3メートル20センチ。
呪い、発動間近。
「何でー、あんなになったのかー、分から――」
「そこで止まれぇぇえええッ!!!!」
「――きゃ!」
全身全霊で放ったストップ。
現在、二人の距離は……
「……3メートル、15センチ……」
《よく分かんな、それこそ特殊能力じゃねぇか?》
お陰様で、と憎まれ口を叩く余裕は無い。
「……なにー、それー?」
「あと一歩でも近付けば、君を……また苦しめる事になる」
《お前もな》
黙れ元凶。
「いいんだ……あんなに辛そうなのに我慢して、佐条さんはあそこまで傍に来てくれた……オレはそれだけで――」
「いーっぽ」
「だからアカンてぇえッ!!」
なんという事か。 涼真の忠告も聞かず、鈴乃は呪いの射程圏内へと踏み込んでしまった。
恐れていた現実を見ていられず、目を逸らし全身を硬直させる。
(もうダメだ……! またおニューのトラウマが……ッ!)
涼真は視線を戻せない。 また初恋の人が自分で苦しむ顔など誰が見たいだろうか。
(……何も聴こえない……どこか、行っちゃったのかな……)
それならそれでいい、見ないで済むなら傷も浅いのだから。
(もう、居ないよな……?)
恐る恐る視線を戻すと―――
「うげぇー」
「あ゛あ゛ああああああぁぁぁ!!」
「……って、ならないよー?」
「――は?」
なんと、鈴乃はその場に未だ立っていて、呪いに苦しんでいる様子でもない。
「そんな……もう射程圏内……なのに……」
《射程圏内って……》
私もそう思ったが、#巧__お前__#は思う権利は無いぞ。
「わたし達ー、もう大人だよー?」
「そ、そんなことって……」
信じられない。
何故なら鈴乃の友人は、やはり呪いにやられて転がっているのだから。
「まさか……佐条さんにだけは……初恋の君にだけ呪いが解けたとか……」
神様、あなたも粋な事をする。
青春を謳歌する筈の学生時代をセピア色に過ごした彼に、二十歳のプレゼントを贈ったのですね。
「秋山くんー、カッコよくなったねー」
「ほっ、ホント!?」
「うんー」
「佐条さんもだよっ! 前から可愛かったけど、今はもっと可愛くなった!! よ、良かったらオレと……
呪いが解け、有頂天になった涼真は羽が生えて止まらない。
初恋のあの人に想いを伝えようと、迷わず希望の一歩を……
――――付き合ってくださいッ!!!」
「うげぇー………」
「……………佐条……………さん……?」
ラスボスは――――逃走した。
《生きてるか? りょーま》
「………」
返事が無い、これは――――死んだ?
《多分だけどよ、ステータスだぜ》
「………」
《16~20歳、マイナス99になっただろ? で、前よりちょっと近付けたんじゃねーか?》
「………」
《良かったな》
新しい傷、おニューのトラウマが刻まれたのは確実だが。
「……もう、いい」
《あ?》
「一人でいい、ひっそりと……暮らしていきたい……」
《何言ってんだお前。 そうだおい! ステータス見てみようぜ!》
そっとしといてやろうぜ。
《――おおおっ!? すげぇ!! 10も上がってんぞりょーま!!》
「……あそ」
《それも16~20歳だぜ! マイナス89だっ!!》
「どうでもいい」
恋愛対象どストライクゾーンだというのに、傷心の彼に今は響かないようだ。
《どうでもよくねーだろ、てことは今の女とだって前より近付けるじゃねーか》
「――ッ!! そっ、そーか!!」
響いたな。
「そうだよな! 諦めることないよなっ!!」
《おうよ! この調子で行きゃいつかモノに出来るぜ!》
次にその年代が上がる保証は無いが、努力を続ければ確かに可能性はある。 涼真のハートが壊れなければだが。
《明日のお前は今日より、明後日はもっと好かれる訳だ》
「お前……初めて良い事言ったな……まるで守護霊じゃないか……」
登場からここまで、完全に悪霊丸出しだった先祖を少し見直す子孫。
《さあ、明日からまた頑張ろうぜ。 オレとお前は一族最高のイケメンなんだからよ》
「巧……」
世代を超え、二人のイケメンに友情が芽生えた。
生きる時代は違えど目標は同じ。 これからまたフラれ続け、傷つき倒れる事もあるだろう。 だが、その苦労がいつの日か必ず、生涯を共にする運命の人へと繋がっていく筈だ。
―――フラれろ涼真!
そして立ち上がったその時、お前は間違いなく過去の自分を超えているのだから。
《まあ、あの女二十歳だから、次の誕生日で21~30歳になるんだけどな》
「――ん? 何か言ったか?」
《いや? なんでもねぇよ》
これは思わぬ落とし穴。
現在21~30歳は……
――――マイナス100。
鈴乃の誕生日、それは振り出しに戻るという事か。
「鈴乃ぉ……お、置いてかない……でぇ……ぇ……」
ああ、お友達を忘れていました。
鈴乃、ちゃん後で回収してやれよ。 それとも……
―――友達を選んだのか、な笑
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