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特待生、ダンジョンの超速クリアを提案する

「良く聞け部員共、このままだと廃部することが決定した」


「は?」


「決定しました、マジで……」


 放課後、ダンジョン部に集まった四人。

 そこで部長の金剛大和から発せられた一言が――“廃部”だった。

 白目を剥きながら口から魂がはみ出ている大和に、明志は冷静に質問をした。


「部長。部員が四人になったから、廃部は避けられたのではないのか?」


「そ、それがね、それがねぇ~……」


 ザコメンタルモードになった大和は涙目で語り出した。


「部員数による廃部は免れたけど、最近のダンジョン部としての実績がないから、このままだと廃部確定に……」


「なるほど。その日の米は確保したが、電気もガスも止まっている状態みたいなものか」


「その貧乏たとえは良く分からないけど、とにかくピンチなの……もうダメだぁ~……」


 コテン……と死んだように倒れる大和に、優友が珍しくまともな質問をした。


「大和ちゃん、廃部までの期限と、具体的にそれを回避できる実績は提示されなかったのかい?」


「んぇあ~? ……廃部までの期限は一週間……ふふへへ……。それを回避できる一番簡単で……ぜんっぜん簡単じゃない実績が、学校の練習用ダンジョンをクリア……ふへふへ……」


「うーん、つまり一週間で練習用ダンジョンをクリアすればいいんだろう? よく知らないけど、なんか簡単そうじゃね? 練習用って名前だしさ」


 そこで、それまで口をつぐんでいたむすびが、顔面蒼白で叫んだ。


「そ、そんなの無理に決まってるでしょー!!」


「うわっ、ビックリした……。むすびちゃん、急になんだよ~?」


 むすびは張り詰めた表情で、指をビシッと立てて説明し始めた。


「いい? 練習用ダンジョンは安全が確保されているとはいえ、この学校の在学中にクリアできればいいという難易度よ? そりゃ、プロ冒険者からしたらなんとかなるでしょうけど、私たちはただの学生冒険者……。数年分を、一週間に縮めろって言っているようなものよ……!?」


「あちゃ~……。それはきついっぽいな~」


 普段は楽観的な優友でさえ、その説明で渋い表情になってしまった。

 ザコメンタルの大和も、現状を説明されてさらに絶望を感じ取り、ゾンビのように倒れてうめき声をあげていた。


「あう゛ぁ~、お終いだぁぁぁあ~……」


「……いや……その条件ならクリアできる」


「「「え?」」」


 明志が呟いたあり得ない言葉に、三人が一斉に反応した。


「ふ、副部長……今なんて……!?」


「田中明志、一週間でクリアできるって本当なの!?」


「親友、さすが親友! 信じていたよぉ~!」


 その反応を不思議そうに見ながら、明志は提案をした。


「みんなが、少しだけ頑張ることが要求されそうだが……三日あれば十分だろう」


「「「三日!?」」」


 学生が数年かけて攻略する練習用ダンジョン、それを一週間でも常識では考えられないのに、さらに短縮して三日でクリアすると告げた。

 普通なら無理と一蹴される言葉なのだが、それでも三人は明志ならやってくれるかもしれないと信じられた。


「さすが私の恋人ね……! やっぱり、私たち二人がパーティーを組めば無限の可能性が――」


「いや、俺はパーティーは組まないが?」


「は?」


 思わぬ否定をされたむすびは口をポカンと開けているが、明志はいたってマジメだった。


「俺は妹のために、危険なダンジョンに入ってケガをしたくない。今回は外でサポートするだけだ」


 それを聞いて泣きついてきたのはむすびではなく、意外にも大和だった。


「副部長ー! お願いだから一緒に来てくれぇぇぇ!」


「むぅ……、部長……」


 部長に抱きつかれた形になっている明志は、身長と体重が似通っている妹をイメージしてしまった。

 大切な家族である妹が、こんな感じで泣いて困っていたら……と。


「し、しかし妹……ではなく、部長。俺の硬い意思は崩すわけにはいかないので……」


「――そうだ副部長! なんでも言うことを聞いてやるというアレ! たしか小学生の妹の友達になってほしかったんだよな!」


「は、はい……。妹は友達がいないので……」


「ならば、パーティーを組んでくれれば、オプションで……その……あの……なんだ……。ら、ランドセルを背負ってやろう!」


「ッ!?」


 大和、苦渋の決断だった。

 小学生の友達というロールプレイを深めるために、高校生がランドセルを背負うという屈辱のプレイ。

 ザコメンタルの大和は頭がフットーするくらい恥ずかしかったが、それでも我が身を生贄に捧げる事によって、ダンジョン部の廃部を回避できるかもしれないのだ。

 大和は、チラッと明志の顔を上目遣いで眺めた。


「くっ!? ……部長。わかりました……そこまでの覚悟がお有りとは……」


「えっ? なんか恋人の私のときと、部長とでリアクションが違いすぎない?」


 むすびが禍々しい嫉妬を込めた眼で抗議をしてくるが、当たり前のようにスルーされた。


「部長……ただし、パーティーを組むのは、練習用ダンジョンの中だけという条件でお願いします」


「うん、わかったよ! あたしは“どこぞのお嬢様”と違って、わがままクソ野郎じゃないから!」


 そう言い放つ、素晴らしい笑顔の大和だった。

 その後、大和とむすびが取っ組み合いのケンカになったが、明志と優友の男二人は、それを横目に三日間クリアのスケジュールを組み始めたのだった。

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【書籍情報】
j0jdiq0hi0dkci8b0ekeecm4sga_101e_xc_1df_
『伝説の竜装騎士は田舎で普通に暮らしたい ~SSSランク依頼の下請け辞めます!~』カドカワBOOKS様書籍紹介ページ
エルムたちの海でのバカンスや、可愛いひなワイバーン、勇者の隠された過去など7万字くらい大幅加筆修正されています。
二巻、発売中です。
ガンガンONLINEで連載中のコミカライズは、単行本一巻が5月12日発売予定です。
よろしくお願いします。

【新作始めました!】
『猫かぶり魔王、聖女のフリをして世界を手中に収める ~いいえ、破滅フラグを回避しながらテイムでモフモフ王国を作りたいだけの転生ゲーマーです~』
聖女(魔王)に転生したゲーマーが、破滅フラグを回避するために仕方なく世界を手中に収めるという勘違い系物語です。
― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の能力が接近戦特化すぎてインフレの波について行けなくて死にそう モンスターに対処出来ないのが致命的だ……1人で複数スキル持てるのか?今後が楽しみです!
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