3-25 Espion
変更
1-3 面接
グラナダ級雷撃艇
60→120メートル
2式
80→160メートル
オベロン号でも比較的に富裕な乗客たちの為に用意された上層区画には、基本的に従業員も信頼できる要員が配置されている。
本来であれば身元の不確かな難民の子供など使われるはずもないが、短時間の会話でピアソン大尉は、ユル・ススのなにかを見込んだらしい。アンドロビッチ船長に対してその人格を保証し、次いでアンドロビッチ船長もユル・ススの働きぶりを評価し、信任することとなった。船長によって語られたユル・ススの事情は以上のようなものであり、少なくとも表向き、メルト人の子は苦境に負けずに責任ある大人たちの信頼を勝ち取った感心な少年と見做されていたし、それは大半の人々の同情を買うに充分な身の上でもあった。
アンドロビッチ船長の姪っ子ナターシャは最近、知り合ったこの友人に会おうとユル・ススの仕事場を訪れたのだが、聞いていたはずの配置場所にユル・ススの姿は影も形も見当たらない。
親切な古顔の一等船員ピエルジャコモ・スコッティに尋ねてみるも、心当たりが無いと首を振った。
「やあ、お嬢さん。客室係が足りないんだ。ユル・ススがさぼっているなら、連れてきてくれると助かるよ」とピエルジャコモ。
実のところ、さしたる用件がある訳でもないのだが、すっかり腹を立てたナターシャは、高レベルのセキュリティ・クリアランス(此れは本来、オベロン号が事故にあったり、海賊の襲撃を受けた状況で、ナターシャが可能な限り速やかに脱出ポッドや大艇などにたどり着けるようにアンドロビッチ船長が手渡したものだが、努々悪用しないよう釘を刺されたにもかかわらず、彼女は割と気軽に乱用していた!!)を使用して、ユル・ススの場所を検索すると、隣接した従業員控室の使われてない部屋に籠もっていると表示された。
「まあ、あの子ったら。真面目に働いてますよみたいな顔をしてさぼってるのだわ」
自分が学校をサボるからこその決めつけを口にして、益々ぷりぷりしたナターシャが扉を開けて突撃すると、椅子と机だけのガランとした会議室で、ユル・ススが幾つもの3D画面を展開させながら電子端末に向かって歯噛みしていた。
「お姉ちゃんを弄んだら、ただじゃ置かないぞ。もう一曲、歌わせてやる。音声も大きくして」
電脳を弄って、なにやら悪戯で立体画像に写っている男性を驚かしているようだ。
「ちょっと貴方。仕事をサボって。なにを遊んでいるの」ナターシャの呼びかけで不意打ちされたユル・ススが飛び上がった。
「わあ、なにしに来たんだ。それよりもどうやって扉を開けたのさ」
ナターシャの詰問に応えずにユル・ススは3D画像を消しつつ文句を言ったが、ナターシャも自分の言いたいことだけを言った。
「まあ、貴方。仕事をさぼって、船内を彼方此方覗いているなんて感心しないわよ」
ユル・ススの体の周りには、船内各所の監視映像が幾つも浮かび上がっている。公園やら倉庫やらに屯する怪しげな人影の監視映像。恐らくドローンを駆使しているのだろう。人を尾行したり、影から撮影している画像だとナターシャは見て取った。
「邪魔しないで。これも僕の仕事なんだ」ユル・ススが膨れながら、端末を操作して扉を閉める。
「なにを言ってるの?さっきからピエルジャコモが探していたわよ。昼食会の人手が足りないのだわ」
「信じられないよ、君。ピアソン大尉は怒らせないようにって自分で言ってたのに」
ブツブツ言いながらユル・ススが立ち上がろうとして、立ちくらみを起こしたようにふらついて、再び椅子に座り込んだ。
その時、ナターシャはようやく、ユル・ススの顔色が良くないことに気がついた。
「まあ、大丈夫。貴方、この世の終わりみたいな顔をしてるわよ」
「駄目かも」目を閉じたユル・ススは、弱々しい唸り声を上げた。
「世界が滅んだほうがマシかも知れないよ。少しだけ、ショッキングな出来事を目の当たりにしたんだ」
しばらく放心したように天井を見上げていたユル・ススがポツリと尋ねてきた。
「ねえ、ナターシャ。君のおじさんに恋人ができたらどうする?」
「祝福するわ。素敵な人だと良いわね」とナターシャ。
「相手が昔、君を誘拐した犯罪者の一味だったら?」
「複雑な家庭環境になりそうね。素敵だわ」ナターシャは真剣な表情をして言ったので、冗談なのか、本気なのか、ユル・ススにも区別がつかなかった。
「君に相談した僕が馬鹿だったよ」ユル・ススは首を振った。
「気になるけど、仕事もしないと……家に帰る?でも、アリバイが。カバーストーリーを破綻させる」
イヤホンでなにかを聞きながら、ブツブツと呟いたユル・ススが電脳端末を動かした。
「ああ、もう。威嚇しなければよかった。なんだ、これ?布?邪魔で見えない」
眼の前に浮かぶ画面を凝視していたユル・ススが頭を抱えこんで呻きを漏らした。
「うぅ、お姉ちゃん、やだよう。趣味が悪すぎるよ。せめて、もっと相手を選んでよ。なんで、選りに選ってあいつなんだよう」
なにやら一人でウンウンと苦悩しているユル・ススを腕組みして見下ろしながら、ナターシャが言い放った。
「ちょっと、貴方。今日の昼食会の手伝いをするのではなかったの?」
「これも僕の仕事なんだよ」と渋い顔のユル・スス。
「まあ、そんな訳はないわ。伯父様が雇ったばかりの子に船内の監視網を任せるなんて、そんな馬鹿な話を私が信じると思って?」ナターシャが居丈高にツンと言い放った。
「船内の監視じゃなくて……暇があったら、怪しげな連中をそれとなく見張るんだ」
一瞬、仕事内容を言いよどんだユル・ススだが、ナターシャは船長の身内であり、また命令もそれほど秘匿性の高い代物ではないと言われていたので、正直に明かした。
「兎に角、監視対象がそろそろ動き出す頃だもの。離れられないよ」ユル・ススの言葉にナターシャは何故か眦を上げた。
「まあ、監視対象ですって!?伯父様ったら信じられないわ!もう少しマシな大人だと思っていたのに!子供にスパイを手伝わせるなんて、なんて人なの!」
「なにを怒ってるんだい?」
戸惑うユル・ススの腕を掴んで、ナターシャは強引に立ち上がらせた。
「伯父さまには私から言っておくわ。貴方はこんな部屋で一人でジェームズ・ボンドの真似ごとするのではなくて、昼食会の手伝いをするべきなのよ」
ナターシャの物言いと決めつけに、流石に穏当なユル・ススもかちんと来たようだ。先刻から偉そうに土足で踏み入ってくるナターシャに堪忍袋の緒が切れたのか。怒鳴りつけた。
「や!余計なお世話だよ!金持ちのお嬢様め!あれこれ指図しないで欲しいね!一体、君は何様のつもりだい?」
「ナターシャ・アンドロビッチ様よ!」即時に言い返された。
「貴方、今やってる覗き仕事を中尉に知られたら、胸を張れるの?!」
覗きじゃない。諜報だと言おうとしたユル・ススだが、却ってこじれそうなので別の言葉を口にした。
「中尉は関係ないよ!」
「言うわよ」と強気なナターシャ。
「……卑怯なチクリ屋め」言われてひどく傷ついた罵倒を、友情を決裂させる決定的な言葉のつもりで言い放ったユル・ススだが、ナターシャはびくともしなかった。
「それが嫌なら、こっちに来て昼食会の手伝いをするの」と偉そうに胸を張って指図してくる。
ユル・ススは、数瞬を迷ってから降参した。
「分かったよ、マクラウド中尉には知られたくない」
オベロン号の接客業務担当員たちは、サー・ルパート・J・パーシヴァル主催の昼食会の準備に大わらわであった。パーシヴァル卿も人手は出していたが、召使いたちは主に列席者の社会的地位と交友関係から席順を采配するのと、献立内容に口出しするだけであったから、オベロン号の従業員たちからすれば、却って面倒が増えたようなものだった。
駆け込んできたユル・ススにスコッティが怖い顔を向ける。叱り飛ばそうと口を開いた時に、ユル・ススが先手を打った。
「船長に仕事を頼まれていました。船内の……」
言いよどんでから、ユル・ススは言葉を続けた。
「監視カメラの故障チェックです」
「本当かね」スコッティが眉間に皺を寄せたが、ユル・ススはハキハキと応えた。
「船長に聞いてください。ケンダル士官もご存知です」
「まあ、いいだろう。しかし、仕事を言いつけるなら、一言欲しいものだ」
職権を侵されたと思っているのか、スコッティはブツブツと呟いてから、ユル・ススに向き直った。
「兎に角、俺は若い連中のことを任されてるんだ。お前さんもその一人だからね」
スコッティは、人類。特に肌の色の同じ人種には親切な男であり、言葉には優しい調子が込められていて、ユル・ススは少しだが困惑した様子で頷いた。
今回の昼食会は、円形のラウンドテーブルを複数用いた形式となっていた。テーブルクロスを美しく整えるのは存外と繊細な作業であったが、ユル・ススは器用な手先の持ち主であったので、全くこの作業には天性の適任者で、戻ってきたメルト人の子供がひとり加わっただけでチームの作業は格段に早くなり、忽ちに任されたテーブルの全てを美しく整え、コードに基づいて燭台と食器を美しく配置してみせた。
恙無く開かれた昼食会列席者の顔ぶれは主としてオベロンに乗り合わせた軍人や役人、勅許会社の役員に起業家などであったが、幾人かは王立海軍で半給休職に在る海軍士官や辺境艦隊の元軍人なども顔を見せていた。
恐らくは元軍人であるパーシヴァル卿の計らいでも在ったに違いないが、例え相手が中小艦艇の海尉艦長(マスター&コマンダー)であろうとも、艦隊勤務を熱望する地上勤務や休職中の士官にとって、現役艦長の知遇を得るのは、海尉としての任を得る何事にも代えがたい好機であった。しかし、ピアソン大尉は既に3名もの海尉を抱えており、一方でクイン大尉は切実に海尉を必要としていた。
自然、売り込みはクイン艦長へと集中する形となり、二人の美女を伴って遅れて会場へとやってきたピアソン大尉は、両手に花の状態であったが、しかし、常の冷ややかな態度を保ってユル・ススに告げた。
「仕事には慣れたかね」
「一通り覚えました」
足早に、しかし、けして急ぎすぎずに歩み寄ったユル・ススが若干、緊張の面持ちを見せながら、頷いてみせた。
「では、成果を見せてもらうとしよう」
綺麗にセットされたテーブルへと案内されながら、ピアソン大尉は淡々とした口調で告げた。
サービスワゴンを少し離れた位置に停止させてから、ユル・ススは尋ねた。
「食前酒は如何なさいますか?」
「お勧めは?」とミュラ少尉。
「シェリーはいかがでしょうか」
ミュラ少尉は、注がれたワインを一口啜ってから満足そうに頷いた。カペー人の美女は、食事にも酒にも五月蝿く、今回は酒精を強めたアルハンブラ産の甘口ワインを勧めたが、一応の合格点をくれたようだ。
対するピアソン大尉には、ブランデーを用意したが、実際のところ、まろやかな舌触りの果実酒であればなんでも良いらしく、さほど品質には五月蝿くない。単純なジントニック(ジンのソーダ水割)や安物のグロッグなども好む。アルコールに関しては、意外と貧乏舌なのかも知れない。
ソームズ中尉は、スコッチ。或いはスコッチに似た香りの強いウィスキーを好んでいた。何でも飲むが、好みの酒がないと微妙に眉間の皺が深くなる。無表情めいているが、かなり感情豊かだと最近分かってきた。
3人共に上等なブランデーがあれば満足するが、此れは王立海軍の将兵に共通する好みらしい。と言っても、ピアソン大尉はブランデーをソーダ水で割ることが多く、対するミュラ少尉は、必ずストレートで、上官がブランデーにソーダ水を注ぐ行為をまるで酒に対する冒涜だとでも言いたげな表情で眺めている。
それからユル・ススは、ワゴンカートからメニューを取り、丁寧に脇に挟んで歩み寄って三人へと差し出した。
メニューを手に取り、開いたピアソン大尉がしばし眺めてから、ユル・ススに視線を向けた。
「中々の仕事ぶりだ」緊張しているユル・ススをピアソン大尉は淡々とした口調でそう評した。
惑星キャメロット時間での丁度、正午。オベロン号の自然公園。草木生い茂り、穏やかな光降り注ぐ広大な区画に、メルト人の子供ロロは初めて入り込んでいた。自然公園に入場するにはそれなりの料金を払わなければならないが、勿論、ロロにそんな手持ちはない。
空気が美味い。驚くほどに澄んでいる空気は、なぜか、真逆に澱んでいたコンテナの悪臭を思い出させた。
土の上に更にレンガで舗装された道を歩いていると、ドラム缶型のロボットが立ちはだかった。
「うわ、なんだよ!」とロロ。
「ゴミはございませんか?」と合成音。
「ゴミ?」
「ゴミ箱用ドロイドだ。気にするな」
既に機能をチェック済みのドロイドを無視し、先へと進む上官をロロは急いで追いかけた。
彼を自然公園へと連れてきた大人たちがどうやって稼いでいるのか。詳しくは知らないが、解放されてから間もないのに、彼らは既に整った衣服を身につけている。
「無礼のないようにしろ」
自然公園の一角、天井まで届きそうな大樹の根本のテーブル。本を読んでいた老人が顔を上げた。
ロロは、ゴクリとつばを飲み込んだ。
なんと言っても、眼の前には伝説的な軍人がいたのだから。
シシ准将。三十年以上も昔、星の海の彼方に存在すると言われる伝説の銀河帝国の名を騙って、恥知らずにも話にならない条約を提示してきた異星勢力の正体を海賊と喝破し、若手の将校たちと共に決起して、言われるがままに譲歩しようとしていた上層部を押し留めた国家的英雄。異星人襲来の受難の時期も、共和国の精鋭防衛隊を率いて最後まで戦い続けた闘将。四方に散って周囲を固めている護衛たちは、准将と共に地下に潜って戦い続けた共和国防衛隊の生き残りと直系の子孫たち。
「ロロ君だね」老人が頷いた。
「は、はい!」
威風堂々と振る舞う准将の姿に、思わずロロの声が震えた。
「ユル・スス君は来ないのか」
ロロは、少しだけ腹立たしい気持ちになったが、准将の前なので感情を抑制して頷いた。
「あいつは、接客業務って言ってました。子供向けのヒラヒラした可愛い制服着て、俺に3£紙幣見せてチップを貰ったと。一日に30£くらい貰ってるそうです」
「残念だな。だが、ログレス人共。人材の使い方も知らないようだ」
准将がログレスと口にした時、そこに隠しようのない侮蔑の響きを聞き取ることが出来た。
准将もユル・ススに拘っているのが、ロロには少しだけ腹立たしい。
小賢しいユル・スス。何時も大人受けが良く、奴隷狩人に捕まった時も、ロロを庇って一人だけひどい目に遭わされた。何時も自分の正しさを信じて疑わない生意気なお人好し。だけど、人生のいちばん大事な時の決断は間違えた。ログレスの召使いがお似合いだと思った。
じっと見つめてきた准将がロロに穏やかに告げた。
「今は、メルト人で争う時ではない。それは分かっているな?カシィ・ロロ」
「はっ、はい。勿論です」
でも、今は大人扱いされているのはロロの方だった。ユルは小遣いを貰ってはしゃいでいるけど、ログレス人の発行した紙幣なんかにどれだけの価値があるかは怪しいものだった。それに比べてロロは、きっちりと稼いでいる。母さんにだって楽をさせてやれる。
感激に震えるロロの背後で、掃除用ドロイドがゴミを探して歩道を彷徨い続けていた。
上層区画に位置する昼食会の場では、ピアソン大尉と二人の部下がメニューに視線を走らせながら、淡々と会話を行っていた。
「どう思うかね」とピアソン大尉。
「まあまあですね」とソームズ中尉。
「私は、よくやっていると思いますよ」とミュラ少尉。
今回の昼食会では、貴賓席の賓客に対しては専属の給仕人が付いて、料理を運んでくる。
時折、他の従業員が手伝いに廻ってくるが、ユル・ススは、アルゴン男爵でも在るピアソン大尉に付きっきりで給仕して、不足がないようにきっちりと仕事をこなしていた。
色とりどりの前菜がワゴンカートで運ばれてきた。ピアソン大尉は、少量の豆とじゃがいものサラダを所望したが、ミュラ少尉の複数の皿を満たした根菜や揚げ物、サラダを見て眉をひそめた。
「此れは前菜だよ、ミュラ君」
「ええ、前菜です」とミュラ少尉。
微妙に噛み合わない会話を打ち切って、ピアソン大尉は前菜に取り掛かった。遠慮なく料理を堪能しているミュラ少尉とソームズ中尉は、ピアソン大尉が前菜を味わっているうちに、前菜の皿を全て片付け終わり、スープとパンを味わいながら、配された魚料理に取り掛かっていた。
ミュラ少尉も、ソームズ中尉も、共に優雅な作法を保っているのだが、なぜか料理が減るのが早い。ユル・ススは、電脳を操作して二台目のワゴンカートを呼び寄せることにした。
「この間の豚肉は酷かったな」白身魚のフリットを刻みながら、ふと、ピアソン大尉が呟いた。
「食べられないのは一部でしたか?」とソームズ中尉が尋ねた。
「一部だ。だが、その一部はひどく傷んでいる」備え付けのタルタルソースをナイフで伸ばしながら、ピアソン大尉は頷いた。
「どうしても血肉にする気にはなれんな。毒素が発生している。捨てるしか無い」
「料理人はなんと?」とミュラ少尉。
「本人は自分の目利きと腕に絶対の自信を持っている。他の料理人も崇拝していてね」淡々と呟いたピアソン大尉が、赤ワインを飲み干した。
「あら、救いようがなさそう」とミュラ少尉。
「他の店員の給料の上前をはねるし、食材を家に持ち帰るしで、手の施しようがない。本人は、自分を銀河有数のシェフとでも思っているようだが」
そこで言葉を区切ったピアソン大尉が、空になったワイングラスを掲げた。
「どうかね。君の目で見て、あの食堂を立て直せると思うかな?」
ワイングラスに代わりを注いでいる少年を見つめて、名を呼んだ。
「ユル・スス」
「立てなおせると思います。料理長と幾人かの料理人を首にすれば」
ユル・ススは、ピアソン大尉と視線を合わせずに、給仕を行いながら淡々と返答をした。
「君の意見は覚えておこう」
頷いたピアソン大尉が食事の手を休めて、指で食卓を叩いた。
「話は変わるが、リゴンに向かう人々には援助を。ザラに定着を望む人々には、幾ばくかの支援を行うことを考えている」
ピアソン大尉の言葉に、初めてユル・ススが僅かに表情を動かした。
「もっとも予算は常に限られている。あまり期待しないことだ」
「感謝します」ユル・ススの静かな言葉に、ピアソン大尉は微かに頷いた。
「君の知る、信頼できる大人をリストアップしておきたまえ。メルト人集団の中で指導的立場の任に耐えうると思える人物だ」
「試案はすぐにでも提出できます」とユル・スス。
ミュラ少尉が少し驚いてから微笑んだ。話の流れを予期していたらしい。敏い子だ。
ユル・ススの返答は、ピアソン大尉を満足させたらしい。うなずいてから、食事を再開した。
「君自身はどうするね?いっそ、例の店で料理長をやってみるか」
ユル・ススが微かに動揺した。
「ログレス人の私が買い取っても、料理人たちは言うことは聞くまい」
「ぼくは……できれば」
「マクラウド君の傍にいたいかな?それとも身内と話し合ってから決めるかね」
ピアソン大尉の言葉に、ユル・ススはうつむいた。
ピアソン大尉がなにかをいいかけた時に、背後で大笑いする声が上がった。
「まどろっこしいな。鯱張ってないで、食いながら話そう。さあ、お嬢さん。君も遠慮はなしだ」
クイン大尉が、周囲を囲んでいる3人の男女に席に座るように促している。
「下品な」
ピアソン大尉はクイン大尉と、彼と手を繋いだ辺境軍将校の制服を着た若い娘を一瞥し、そう呟いてからユル・ススへと視線を戻した。
ピアソン大尉の言葉は、しっかりと聞こえたらしい。辺境軍の少尉が、何故か、この世の終わりみたいな表情をして椅子にとへたりこんだ。
「まあ、マクラウド君であれば、心配はいらない」ピアソン大尉が淡々とつぶやいた。
兵員食堂は電磁波遮断領域に設置されているが、ピアソン大尉がクリアランスを使用して監視カメラからの直通映像を眼の前に映し出した。
「旦那を勝たせるぞぉ!」
テーブルの上に仁王立ちしたレッケンドルフが叫んでいた。
「おうっ!」
老若男女問わず水兵や下士官までが雄叫びを上げて盛り上がっている。
「彼は大丈夫」とソームズ中尉が初めて微笑みを浮かべた。
「気のいい連中がついている」
物語の構造を分析してみた。
最強系主人公。異性の後輩が二人。
主人公を一方的にライバル視する相手と、同じ部内の成長系の後輩が対戦。
それにヤキモキする家庭の事情を抱えた年下の子。
これ学校系だ!