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第八章2 ~死告龍の眷属・八つ首の竜~

 上空には禍々しい姿をした八つ首の竜。

 そのすぐ下に聖女・清澄聖羅と大妖精・ヨウが、幾何学模様の結界の中に捕らえられている。

 さらに彼女たちの下、地面に出来たクレーターの中心部に、子犬ほどに小さくなった死告龍・リューが横たわっていた。


 そんな場に駆けつけたのは、四人の人間と、数多の魔物たち。

 ルィテ王国の姫・テーナルク、北の国ログアンの姫御子・アーミア、南の湖国の獣人姫・ルレンティア、東の大国ザズグドズの戦略家にして書記官・バラノ。

 彼女たちは各国の要人である。

 ヨウの眷属である大鹿。その雄々しい角の片方は折れ、いまにも倒れてしまいそうなほど消耗している。

 ヨウの眷属は大鹿の他にも数体その場に集っており、主たるヨウの危機に気炎をあげていた。


『貴様……っ! 我が主を放すでござる!』


 満身創痍でも気力だけは衰えていないのか、大鹿が八つ首の竜に向かって吠えた。

 空に浮かぶ八つ首の竜は、そのハ対の瞳で、地上にいる者達を見下ろしている。


『ふん、いまさら貴様ら眷属風情が何匹集まろうと無駄なこと』


 八つの首がそれぞれ魔法を唱え、首ごとに違う属性の魔法を紡ぎ出し始める。

 その膨大な魔力の渦を前にして、相対した者達の身体が強張った。


『くっ……! 雷よ!』


 大鹿は力を振り絞って対抗魔法を唱えたが、魔法が激突した結果、衝撃波が襲いかかってその巨体がなぎ倒される。

 その他の魔法については、大鹿以外の眷属が迎撃したり、結界術を得意とするアーミアが防いだりしたが、力の差は歴然だった。


「なんて強さだにゃ……! いままでの死告龍の眷属に比べて、桁が違いすぎるにゃ!」


 全身の毛を逆立て、ルレンティアが唸る。


「でも、おかしいです! 死告龍様と大妖精様は契約を結んでいるはず……なら、眷属同士が争うことはしないはずですのに……っ」


 侵略国家であるザズグドズ帝国に所属するバラノはそう呻く。

 侵略が国是である帝国では、侵略する対象は人間の国家だけではない。

 むしろ魔物が治めている地域こそ、帝国にとって積極的に攻略する対象だった。

 それは魔族との戦いが頻繁に起こるということでもあり、当然その魔物に対する対策というものが積極的に練られている。

 その常識からすると、一時的にとはいえ、主同士が一定の友好関係にある場合、眷属同士でも争うことはなかった。

 通例を踏まえた疑問に、八つ首の竜は平然と応える。


『なに、簡単な話ですぞ? 確かに主の交わした契約はその眷属にも影響を与える……ですが、その眷属が主を超えた存在になれば、主の交わした契約に縛られる道理などありません』


「主を超えた、存在……?」


 四人の人間の中で、魔物の眷属に関して最も詳しいのはアーミアだ。

 特定の魔物とその眷属と交流を古くから続けているログアンの姫御子である彼女は、それだけ魔物と眷属との交流も深い。


「眷属の力が強くなりすぎて、主の眷属じゃなくなるってこと……? そんなこと、聞いたことない」


『普通はないでしょうな。……実際、我が主がその力の大半を失わなければ、超えることなど、とても敵わぬことだった』


 得意げに、しかしどこか寂しげに八つ首の竜は呟く。

 その瞳の一部は、地上のクレーターの中心に倒れたまま動かないリューへと向いている。


『しかし、こうなった以上は儂こそが、この魔界の主に相応しい力を有する――誰にも邪魔はさせませぬ』


 八つの竜から、再び膨大な魔力があふれ出す。

 そのあまりに強大な力を前に、居合わせた者達の間に絶望が広がった。





――少し時間は巻き戻る。


 大鹿を説得する役割を担い、単独で森の中に入った清澄聖羅。

 大妖精の元まで案内するように大鹿に頼むことには成功した聖羅だったが、話の中で死告龍が弱体化していることを大鹿に話してしまい、大鹿に決死の覚悟を決めさせてしまう。

 自分の命と引き替えにする覚悟を持った大鹿によって聖羅は森の中に拘束され、置き去りにされてしまったのだ。

 そんな彼女を助けてくれたのは、彼女の夢の中にたびたび現れる『月夜の王』アハサ。

 彼は聖羅を拘束していた植物の蔦を枯らして彼女を解き放ち、さらには魔力の流れを見ることが出来るようにする『目』を貸し与えた。

 そのアハサの助けのおかげで、無事大妖精・ヨウの元にたどり着くことに成功した聖羅であったが、そこで想定外のことが起きた。


 大妖精・ヨウの元には、先客が存在したのだ。


 ヨウは彼女を守るように展開する植物の蔦の籠の中で丸まり、目を瞑っていた。眠っているようにも見える。

 そんなヨウの前に、人型の『何か』が立っていた。

 それは一見、人間の老紳士のように見えたが、その場違いなほど余裕のある態度や、森の中を進んで来たとは思えない豪華な衣服など、違和感の大きな姿だった。

 そしてなにより、月夜の王・アハサから借り受けた『目』を有する聖羅には、その老紳士が警戒しなければならない存在だと理解出来た。


(こ、この人の全身から……明らかにおかしい量の魔力が溢れ出してます……! 顔が、よく見えません……!)


 聖羅の接近に気付いて振り返った老紳士の顔は、その身体から立ち上る怪しげな光によって、覆い潰されていたのだ。

 明らかに普通の人間ではありえない、と聖羅は直感していた。

 聖羅にとって、魔力が見えるようになってから初めて見る人の姿であったが、その確信があった。

 魔力を感じられない聖羅には、その魔力らしき光が本当に禍々しいのかどうかまではわからなかったが、見た目だけでも十分警戒するべき対象に見えたのである。

 思わず固まってしまった聖羅を、その老紳士も認識し、ヨウの方を向いていた身体を聖羅へと向ける。


「これはこれは……キヨズミセイラ様ではありませんか。貴女様が単独でいらっしゃるとは……少々意外でしたな」


 本気で意外に思っているらしい声音だった。

 聖羅は警戒は解かないまま、茂みをかき分けて老紳士の正面に立つ。


「……わたしのことを、ご存じなんですか?」


「無論、存じ上げておりますとも。我が主が懸想しておられる方ですからな」


 その声音は柔らかく、友好的なように感じる。

 だが聖羅は元の世界で培われた警戒心から、その言動に引っかかるものを感じた。


「あなたはヨウさんの眷属ではなく――リューさんの眷族の方、で間違いありませんか?」


「我が主を、そのような間抜けな名で呼ぶのは止めていただきたいですな」


 強い拒絶の念が、その言葉には籠もっていた。

 いままでその呼び名について、そういった反応を受けたことはなかったため、聖羅は息を呑む。


「……失礼しました。あなたは、死告龍さんの眷属の方ですか?」


「ええ、そうですよ。我が主の最初の眷族として、この魔界に誕生しました」


 誇らしい様子だった。

 だが、聖羅を見る視線には、友好的な気配は微塵もない。

 聖羅は身を竦めながら、問いかけを続ける。


「死告龍さんが弱体化していることを、ご存じですか?」


「ええ、もちろん存じておりますとも。……貴女様のせいでね」


 魔力を感じられないはずの聖羅が、肌に突き刺さるような刺激を、悪寒を感じた。

 聖羅の『目』には、老紳士の身体を覆う光が、一際大きく膨れあがるのが見えていた。

 それは一定の大きさまで広がると、ゆっくりと元の大きさに戻っていったが、それはまるで怒りを堪えて震えているようにも見えた。

 思わず数歩後ずさった聖羅に対し、老紳士が纏う怪しげな光は益々大きく波打つ。


「ああ、本当に貴女様はただの人なのですな。いや、ただの異世界人というべきですか。存在自体は確かに希少も希少。……ですが、本当に解せない。我が主はなぜこのような女をツガイに、と」


 怒りを滲ませてぶつぶつと呟く老紳士の姿を見れば、聖羅も何を問題視しているのか察することが出来た。

 恐る恐る、問いかける。


「あなたは、死告龍さんがわたしを気にかけているのが、気に入らないのですか?」


 その問いかけが届いた瞬間、老紳士の輪郭がゆらりと揺らいだ。


「……逆にお聞きしますが、貴女如きが、我が主に気に入られてしかるべきだとお思いで?」


 声には憤怒が籠もっていた。


「我が主は至高の存在。この世界において並び立つ者のいない、究極の存在なのです。人間の王は無論、いかなる魔王も我が主に並び立つには力不足……だったというのに!」


 爆発的に老紳士の質量が増大し、その本性を露わにする。

 八つの首を持つ大きなドラゴン。太い四つ足は像よりも逞しく、その尾は鋭いトゲも相成って凄まじく攻撃的だった。八つの首を支える胴体には巨大な翼も生えており、ただでさえ巨体の身体を更に大きく見せている。

 本来の死告龍の大きさをも遙かに超えた巨躯は、八つ首であることもあってか、威圧感は八つ首の竜の方がよほど大きい。

 八対の目から睨み付けられた聖羅は、身体を縮ませ、息を呑むことしか出来ない。

 そんな聖羅の、人間としては真っ当な反応。

 それに対し、八つ首の竜の全身から、より強い憤慨が燻る。


『こんな程度の! 我が真の姿に怯えて動けぬ程度の! 愚かでか弱い人間に懸想しているなど! そんなことが許されるとお思いで!?』


 聖羅は死告龍という存在と交流を深める内に、ドラゴンの姿には慣れていた。

 しかし、いま聖羅が目の前にしている八つ首の竜は、死告龍を相手にするのとはまるで違う。

 彼は敵意を持って睨み付けてきているのだから当然だ。

 飼い犬と毎日触れ合い、犬という存在に慣れている人間でも、他人が飼う大型犬が牙をむき出しにし、吠えてきたら恐怖を感じずにはいられないだろう。

 まして、いま聖羅が相対しているのは、人間を一呑みに出来そうなほど巨大な竜なのだから。

 牙から滲んだ毒液が、地面に落ちる。その部分の地面が溶け、湯気があがった。

 その恐ろしい形相も相成って、聖羅は何も応えられなかった。

 聖羅の一般人としては極普通な反応を受け、八つ首の竜は不満げに呟く。


『我が主は究極にて至高……でなければ、私が仕える価値がない。貴女のような凡人に現を抜かすようなことは許されないのですぞ』


 ゆえに、と竜は続ける。


『我が主が、儂の主として不適格であるならば――望ましい主に儂がなればいい。そのために、主を惑わし、力を切り離させ、さらに力を蓄え、魔界に対する支配力を増したのです』


「そんな……無茶苦茶な」


 思わず聖羅はそう呟いていた。

 この眷属は、主が気にくわないから、その主に成り代わろうとしている。

 理屈としては、まず主を諫めるのが順番として先ではないのか。

 自分に相応しい主を得ようと、自分が主になるというのは、破綻した理論ではないか。

 そう思いはしたものの、目の前に敵意溢れる竜の頭部がある状態では、相手を刺激するようなことは口に出来ない。


『我が主と儂の力関係はすでに逆転しております。いまだ主と眷属の関係に縛られる部分はありますが……それも時間の問題でしょう。主が切り離した力の大半を儂が取り込んだ時、儂は全ての柵から解き放たれ、究極の存在へとなれる』


 八つある首の内ひとつが、聖羅を喰らわんと動いた。


『貴女に何が出来るとも思えませんが……勝手に動かれても面倒です。ここで捕らえておきましょうか』


 当然ながら、魔法の使えない聖羅がそれに対応することなど出来るわけもなく。

 迫る顎を呆然と見詰めることしか出来なかった。

 だが。


『――させないわ!』


 その場には、彼女を守護することを誓った大妖精・ヨウがいた。

 何重にも展開した蔦の結界の中から飛びだしたヨウは、破砕した結界の光を目くらましに、一瞬で聖羅の元に移動した。

 だがそれは、八つ首の竜の想定内であった。


『ようやく、出て来てくれましたか』


 聖羅を抱えて逃げようとした大妖精の周囲を、八つ首の竜が生み出した結界術が囲む。

 結界は大妖精の移動を制限し、聖羅ごとその場に縛り付ける。

 大妖精もまた魔法を唱えてその結界に抵抗しつつ、上空に向けて光弾を撃ち出した。


『すべての眷属に告げる! 私の元に来て、セイラの守護を最優先! 彼女を護って!』


 上空に撃ち出された光弾は煌々と光り、彼女たちの場所を周囲に知らしめる。

 だが、八つ首の竜は動じなかった。


『いまさら無駄な足掻きを……』


 そうしている間にも、聖羅と大妖精を包む結界は十重二十重に練られ、彼女たちの自由を指先のひとつに至るまで奪っていく。

 全身を締め付けられる息苦しさを感じつつも、大妖精は不敵に笑った。


『残念だけど、こうなった以上は、賭けるしかないのよね……』


 その言葉と同時に、森の一角が吹き飛んだ。

 瞳を真っ赤に輝かせた、死告龍が現れた。

 八つ首の竜は即座にそちらに向き直った。


『おお、我が主! ずいぶんと、お労しいお姿で!』


 言葉だけなら、主の身を案じる忠臣の姿だ。

 だが、聖羅はそこに嘲りのニュアンスを感じた。

 それは死告龍・リューにも伝わったのだろう。

 益々その瞳を激怒に輝かせる。


『おまえ……! セイラに、なにしてる!』


 一喝すると同時に、いまの死告龍の体格からすれば、凄まじいサイズのブレスを一呼吸で放った。

 黒い光が宿っていないそれは、即死属性をあえて込めなかったのだとわかる。

 森に即死のブレスが当たらないようにという配慮が見えた。

 そんなブレスを、八つ首の竜は空中に飛び上がることで避ける。


『我が主よ……それは愚行でありましょう!』


 上空に逃れた八つ首の竜が、それぞれの首の口からブレスを死告龍に向かって放つ。それもまた即死属性が込められていない素のブレスであった。

 リューはそれを打ち消そうと連続でブレスを吐いたが、体格の差と数の差は如何ともし難く、為す術もなく押し切られる。

 複数のブレスに押し潰されるようにリューが地面に激突し、大爆発が起きた。


「リューさんッ!」


 聖羅の悲鳴が森の中に木霊する。

 砂煙が晴れた時、森の中に出来た巨大なクレーターの中心に、リューが横たわっていた。

 そこにようやく、ヨウの眷属達と、四人の人間達がやって来た。


 しかし、彼女たちが加わっても――八つ首の竜を止めるには至らなかった。





 捕らえた人々から膨大な魔力を吸いあげ、さらに強大な魔法を放とうとする八つ首の竜。

 ヨウと共に捕らわれている聖羅は、何も出来ずにそれを見詰めるしかなかった。


(このままでは、皆さんが……!)


 八つ首の竜という、あまりに強大な魔族を前に、テーナルクたちは満足に動くことも出来ないようだ。

 聖羅は彼女たちがリューと相対したときのことを思い返す。

 あのとき、リューは友好的な態度とは言いがたかったが、それでも彼女たちに対して敵意や殺意を抱いていたわけではなかった。

 それでも、強大な存在を前にして、ルレンティアに至っては体調を崩すほどの重圧を受けてしまっていたのだ。


 その時のリューに匹敵する存在の八つ首の竜が、殺意を向けている。


 彼女たちの身体は蛇に睨まれた蛙の如く、硬直してしまっていた。

 頼みの綱だった大妖精のヨウは聖羅と共に囚われの身にあり、とても彼女たちを助ける余裕はない。

 彼女の眷属たちは魔法の発動を止めようとして突撃を仕掛けているが、八つ首のいくつかが軽くあしらっていた。

 大鹿はすでに死に体であり、死告龍本体は地面に横たわったまま動かない。


(誰か……!)


 死告龍相手でも臆することのない存在は限られている。

 聖羅は、その数少ない存在である、この国の王族達を思い浮かべたが、ルィテ王国の国王たるイージェルドは、魔界の外に脱出しているとアハサから聴かされていた。

 その弟で、軍事関係の責任者であるオルフィルドは魔界にいるはずだったが、彼がいまどうしているかはわからない。すでに囚われている可能性もある。

 死告龍レベルの魔物に対抗出来る者はそうそういるものではない。

 仮に騎士や兵士が無事に残っていたとしても、助けにはならないだろう。

 そこでふと――聖羅は思考の隅に引っかかるものを感じた。


(あれ? そういえば『あの人』は、リューさんに、全く怯んでなかったような……?)


 当時、聖羅はリューやヨウと意思疎通が出来なかったため、そのことを気にする余裕もなかったが、死告龍や大妖精といった存在を相手にしても、全く怯んでいなかった存在がいたことを思い出した。

 いまから考えれば、それはとても不自然なことだった。

 各国の要職に就いていて、対策をしていたはずの四人の女性達ですら、死告龍や大妖精相手に怯んでしまったというのに。


 何も持っていないはずの『彼』は――彼らに怯んでいなかった。


 そのことを聖羅が思い出した時、地面に倒れたままだったリューが起き上がる。

 大きく口を開き、黒い光がその口内から溢れた。

 今度は、即死属性を有するブレスだ。上空を飛ぶ八つ首の竜に向かって放てば、森にブレスは当たらない。

 それにいち早く反応した八つ首の竜は、三つの首の口内にブレスを溜める。


『無駄なことを……! 儂もまた即死属性を持つということをお忘れか!』


 残りの五つの首の内、四つが魔法を放つ動作を続けている。

 例えリューが即死のブレスで押し切ったとしても、同時に放たれる魔法がリューたちを穿つだろう。

 攻撃と防御、両方同時に行うことは、いまのリューには出来ない。


 リューのブレスと、八つ首の竜のブレスが激突する。


 八つ首の竜は、リューのブレスを相殺することを狙っていたらしく、同等の力を持つブレス同士は触れあった瞬間、大きな爆発を起こした。

 本命はその爆発の中で放たれた強力な魔法攻撃だ。

 攻撃の直後で動けないリューや、動く余裕もないテーナルクたちを八つ首の竜の魔法が襲う――寸前で打ち消された。


『なにっ!?』


 八つ首の竜が驚く。

 ルィテ王国の王族のひとり――完全武装したオルフィルド・ルィテが、テーナルクたちを庇う位置に立っていた。

 その身を覆う鎧には幾何学模様が浮かび上がっており、魔法を打ち消したのはその力であると、魔法の知識の無い聖羅でも察することが出来た。

 それだけではなく、オルフィルドはリューに向かって手を翳しており、それが生み出したと思われる結界が、リューへの攻撃も防いでいた。


「叔父様!」


 思わず、といった様子で歓喜の声をあげたテーナルクに、オルフィルドは微笑みを返した後、その鋭い目で八つ首の竜を睨み付ける。

 八つ首の竜は新たに現れ、自分の攻撃を防いだ存在に警戒心を持ったが、人間ならばいまの彼にとって恐れるほどの存在ではない。

 だから、ほんの少しだけ、気が緩んだ。

 その気の緩みは、戦場において致命的な隙だった。

 空を飛ぶ八つ首の竜より、さらに上空からの奇襲を見逃してしまうくらいには。


 空から降ってきたその者――ヴォールドの渾身の一撃が、八つ首の竜に炸裂した。


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