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第四章3 ~やっとズボンを履けたと思ったら爆発しました~

 何を言っているのかわからないと思いますが、何が起きたのか私が一番訳がわかりませんでした。もう一度言います。


 ズボンを履いたら、そのズボンが爆発しました。


 幸い、その爆発は熱くもなんともなかったので怪我はしていませんでした。

 ズボンを引き上げる際の手の動きのまま、固まってしまいます。

 手に掴んでいたはずのズボンは、足を通した膝のあたりまで吹き飛んでいました。

 足首辺りにズボンの裾の残骸のようなものは残っていましたが、もはやズボンとは言えません。


(この世界のズボンは爆発するんですか……?)


 そんな馬鹿なと言いたいところですが、ここは異世界。

 ズボンに爆発物を仕込むのがトレンドなのかもしれません。

 そういう衣服もひょっとしたらあるのやも。

 現実逃避気味に考えていた私は、下半身が妙に心許ないことに気づくのが遅れました。

 ズボンを履きかけていたために、それが急になくなったことによる違和感かと思いましたが、見下ろしてみてそうでないことは明白でした。


 なぜなら、さっきまでバスタオルに覆われていたはずの私の下半身が、丸出しになってしまっていたからです。


 私が愛用しているバスタオルは寸法が大きめなもので、胸からお尻の下くらいまでをきっちり覆えるくらいの大きさがあります。

 そのため、いままでは自然と胸と股間の両方を隠すことが出来ていました。

 ところがいま、そのバスタオルの丈が短くなっていて、どんなに頑張っても、おへそくらいまでしか隠せない状態になってしまっていました。

 そのことに気づいた私は。


「ッ――きゃあああああああああっ!?」


 思わず、大声で悲鳴を上げてしゃがみ込みました。

 それまでだって頼りない状態であったことは確かですが、普通にしていれば胸も股間も隠せていただけに、いまの状態になってしまった衝撃は激しいものでした。

 心臓がばくばくと音を立てて暴れ出し、恥ずかしさのあまり、顔に血流が集まって真っ赤になるのがわかります。


(なんでっ、なんでこんな……もしかして、さっきの爆発!?)


 しゃがみ込んだ状態で改めてバスタオルの裾を見ると、なにやら不思議な感じに光っています。

 その光は、さっきの爆発が起きた時に見た光とよく似ていました。

 このことから、私は嫌な発想にたどり着いてしまいます。

 先ほどの爆発は、このバスタオルが『別の衣類に対する拒絶反応』を起こした結果なのではないかと。

 だってそれまではなんともなかったんです。

 なのに、ズボンを履こうとした瞬間、それを嫌うかのように爆発したんですから、そうとしか思えませんでした。

 違う理由があるのだとしても、私にそれはわかりません。

 わかるのは、このバスタオルを身に付けている限り、他の服は身につけることすら出来ないということ。


(なん、で……なんでこの世界はこんなにも不親切なんですか――ッ!!)


 何の説明もなく、バスタオル一枚で放り出されただけでも不親切なのに、そこに来て「バスタオル一枚の姿以外は許さない」というような現象が起きました。

 もはや不親切を通り越して、理不尽だとすら感じます。

 やり場のない憤りを、その辺りにぶつけてしまいたい激情に駆られました。

 ですが、それすら許されませんでした。


 突如、私の頭の上をものすごい『何か』が通り過ぎていったからです。


 わかりやすく現代で例えるなら、新幹線が真横を通り過ぎていった時のような感覚でしょうか。

 私はその余波らしき衝撃で地面に押さえつけられて「うぎゅ!」と、ものすごく無様な声をあげてしまいました。

 しゃがみこんでいた体勢で、そこから上からの力で押さえつけられたせいで、まるで土下座でもしているかのような状態になってしまいました。

 しかも、いまの私はお尻が露わになってしまっている状態なので、情けないやら恥ずかしいやら。

 大変なのは、そこからでしたが。


「グルオオオ――ッ!!!」


 大音声で吼えるドラゴンが、瓦礫を踏み潰しながら、すぐ目の前までやって来ました。

 あれ、家は、ということは考えるまでもありません。

 さっき私の頭上を通り過ぎていった何か。それはドラゴンの放ったブレスだったのです。

 一瞬前まであったはずの家は木っ端微塵に吹き飛び、頭上に青空が広がっていました。

 恐る恐る顔を上げて後ろを振り返ってみると、どこのバトル漫画ですかといいたくなるような、強力な熱線が通り過ぎていったらしき跡が遠くまで続いています。

 無論、その軌跡の途中にあった建物は、見事に円の形にくりぬかれるように消滅しています。


(あの地下空間のところではこんな破壊は……いえ、そういえばありましたね。こういう跡)


 私もろとも魔王達に向けて放たれた時はこんな破壊は生じませんでしたが、ドラゴンさんがあの地下空間に飛び込んで来たらしい穴がこんな感じでした。

 あのときも思いましたけど、とんでもない破壊力です。

 あそこだと非現実的すぎて実感が湧きにくかったのですが、町並みが破壊されているのを見ると、その破壊力を肌で感じられます。

 現実に例えると、『大型の竜巻が通っていった跡』というのが一番近いですね。

 消滅しているのですから、それ以上の破壊力だと言っていいでしょう。


(恐ろしすぎです……人々やヨウさんがこのドラゴンさんをあんなに恐れるのも無理はありませんね……)


 いまのブレスに人が巻き込まれてないことを祈ることしかできません。

 ドラゴンさんを見た段階でたくさんの人が逃げ出していたので、範囲外まで逃げたと信じましょう。

 ブレスの跡は相当遠くまで伸びていた上に、その先で爆発まで起こしたのか、クレーターが見えたので望み薄だとは思いましたが。

 そんな風に、起きてしまった惨劇に呆然としていたのが、良くなかったのでしょう。

 私の様子を伺っていたドラゴンさんが、唐突にその舌を伸ばして来ました。


「ひ、あっ!? うあっ、ちょ、やめっ!」


 べろん、と身体の側面を舐め上げられます。

 くどいようですが、私とドラゴンさんでは体格差がとんでもないのです。

 ドラゴンさんの舌、というのは、表面積にして車の座椅子並の大きさがあります。そんな大きさの舌で舐め上げられるところを想像してみてください。

 当然、私は耐えきれず、横倒しにされてしまいます。ドラゴンさんはそんな私をさらに舐めて来て、家の残骸の中に埋め込まれてしまうかと思いました。


「ちょ、まっ、やめっ、やめてくださいっ!」


 手で押しのけようにも、ドラゴンさんの力には叶いません。踏ん張った手の分、さらに押しつぶされるように押さえつけられてしまいます。

 腕の骨が折れなかったのは、バスタオルの加護があったからこそでしょう。そうでなかったら全身の骨が砕かれて悲惨なことになっていました。

 あまりの力の差に抵抗を諦めると、ドラゴンさんはひとしきり私の身体を舐めたあと、少し離れてこちらの様子を窺っているようでした。

 体中ドラゴンさんの唾液でべとべとです。バスタオルの力か、すぐに消えていきましたが。


(……心配してくれている、ん、ですよね?)


 相変わらずドラゴンさんの表情はとても読みづらいものでしたが、初対面の時のように突然襲いかかってくる心配まではしなくなっていたので、細かな変化を見る余裕がありました。

 それからすると、やはり心配してくれているのは間違いなさそうです。

 いきなりとんでもないブレスを吐いたのも、私が悲鳴を上げたからでしょうし。

 下手したら巻き込まれていましたけども。

 理由は相変わらず不明ではありますが、少なくとも気遣ってはくれているようです。


(よくよく見ると、動きにちゃんとした知性が感じられますし……)


 あまりに外見の圧が強すぎて感じる余裕がなかったのですが、犬や猫のような動物とは全く違うのが確かに感じられました。

 考えてみれば、このドラゴンさんとヨウさんは会話が出来るんです。

 つまりドラゴンさんの方も言語を解するだけの知性はあるわけで、私の言葉が通じていないだけです。

 そうなると、ドラゴンさんを化け物みたいに考えるのは間違いかもしれません。

 例えるならば、日本語の出来ない超大柄な黒人さん、みたいな感じでしょうか。

 何か違う気もしましたが、いっそのことそう考えていた方が気が楽になります。


(向こうは気遣ってくれてるのに、こっちがいつまでも怯えていては気分も良くないでしょうしね……フレンドリー精神を心がけましょう)


 それでも体格差を考えて欲しかったですが。

 バスタオルの加護がなかったら何度死んでるかわかりません。

 瓦礫に埋もれた状態からなんとか起き上がり、手を伸ばして近付いて来ていたドラゴンさんの鼻先を撫でます。

 まだ少々怖いですが、とりあえずこれくらいならなんとか。

 大丈夫だという意思が伝わったのか、ドラゴンさんは首を離して、少し高い位置から私の様子を見守る姿勢に戻りました。


(さて……とりあえずバスタオルは、と……)


 私の胸からおへそくらいの丈になってしまったバスタオルを改めて確認します。

 ずっとこのままだとしたら絶望するところでしたが、キラキラ光る裾をじっと見つめていると、ほんの少しずつではありましたが、再生しているような気配があります。

 時間はかかりそうですが、自己修復機能があると考えていいでしょう。

 バスタオルに服を被せるまでは平気だったのですから、下半身が露出している今なら、ズボンだけは普通に履けるかもしれません。

 けれど、爆発の条件が不明な以上、これ以上爆発が起きるかもしれない行為は避けるべきでした。


(このバスタオルを失うわけにはいきませんからね……)


 とはいえ、下半身丸出しの格好というのも悲惨です。

 私は悩んだ末、バスタオルが再生するまでの間、バスタオルの残った部分は腰に巻くことにしました。

 こうすると胸が隠せなくなるのですが、片手で隠そうと思えば隠せますし、上を隠すほうがまだ動きやすいはずという判断です。

 トップレスかつ、ノーパンスカートという痴女スタイルではありますが。

 なんで私がこんな辱めを受けなければならないのでしょう。


(うう……でもこれからどうしましょう)


 人とのコンタクトに失敗し、服の入手にも失敗してしまいました。

 やれるはずだったことにことごとく失敗し、私は途方に暮れてしまいました。

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