第二章4 ~森林破壊はやめましょう~
なにやら身体の芯まで震えるような衝撃が走って、目が覚めました。
瞼を開けると、逆さまになった景色が目に映りました。
首が痛いです。私はいま、景色が逆さまに見えるほど、仰け反った状態にあるようです。
「って……な、なんですかこれーっ!?」
慌てて状況を把握しようとして、身体にほとんど自由が利かないことに気づきました。
両手両足が動きません。なにか硬い物が身体の周囲にあるような。
そう思ってなんとか首を起こして自分の身体を見ると、その理由が明らかになりました。
原因は、ドラゴンさんでした。
ドラゴンさんがそのトカゲみたいな前足で、私の身体を掴んでいたのです。
その手は意外と器用なようで、しっかりホールドされているので落ちる心配はありませんでしたが、掴まれているので身動きが取れないというわけでした。
ドラゴンは翼を使い、空高くで滞空しています。そのせいで結構な勢いで上下に揺さぶられて、意識して耐えないと首ががっくんがっくん揺れてしまいます。
(私、よく首がもげませんでしたね……)
咥えて運ぶのはやめてくれたようですが、いずれにしても乱暴な運び方でした。
不意に、ドラゴンさんが勢い良く地上に向かって降り始めます。
当然、急激な落下の負荷が私にもかかり、首がもげて死ぬかと思いました。
地上すれすれのところで翼を使って減速。後脚から地面に接地します。
地震でも起きたのかというほど、凄まじい震動が走りました。
地面がめくれあがり、亀裂が遠くまで走ります。
(うわぉ……めちゃくちゃですね、ほんと……)
やること成すことスケールが大きすぎて、だんだんこちらも感覚が麻痺してきました。
ドラゴンさんが降り立った場所は、どうやら森の中の広場のようです。
いえ、違いました。よく見ると、その場にあった大木らしき森の木々が、ドラゴンさんが降りられるように薙ぎ倒されています。
私の目を覚ました衝撃は、空中からこの木々を薙ぎ倒した時のものだったようです。
あの魔王すら殺したブレスでも放ったのか、吹き飛ばされた木は倒れてるだけでなく、枯れてしまっているようです。
しかし、こんな深い森の中に、わざわざ木をなぎ倒してまで降りたのはなぜでしょうか。
不思議に思っていると、ドラゴンさんは私を地面に降ろしてくれました。
油断していたので、もんどりうって転がってしまいましたが、ドラゴンさんに出来る最大限の優しさは感じられました。
「あたた……降ろすなら降ろすって言って欲しかったです……」
話せないようなので無理な話なのはわかっていましたが。
バスタオルや身体についた、木の葉や土を払いながら立ち上がります。
その際身体を触って気づきましたが、かかったはずのヒポグリフの血の跡はどこにもありませんでした。
真白いバスタオルは真白いままでしたし、顔は見れませんが、肩や腕も綺麗な状態です。
(ん……? いや、ちょっとだけ汚れてる……?)
自分の肩を見た私は、あからさまに血こそ残っていないものの、少し赤みがかっていることに気づきました。
ついた血を洗い流した後、くらいの感じです。
それに対して、もっと汚れが残りそうなバスタオルは真っ白でした。
それが意味することは。
「グルル……ッ」
ふと、頭の上でドラゴンさんの唸り声が響きました。
サイズ差がサイズ差ですから、ただの唸り声も地響きのように感じます。
驚いて上を見上げてみると、ドラゴンさんの視線は私ではなく、森の方を向いていました。
その視線の先を追いかけてみると、何を見ているのかすぐにわかりました。
森の木々の間から、三人の裸の女性が現れたからです。