第96話 修業と書いて「死刑」と読む
俺は今、見知らぬ小島にいる。
意味が分からない? 俺もだ。
食事をしようとお師匠さんと店に入った後、気付いたらここに居たんだ。
理解不能? だから、俺もだって。
「やあ、目が覚めたかね?」
その声に振り返ると、そこにはお師匠さんが静かに立っていた。
「あの、これは一体……?」
わけが分からず問いただす俺に、お師匠さんは優しく語り掛けてきた。
「君、私の弟子の修業を六日も受けたんだよね?」
「え? ええ、まあ……」
「それで、モンスター一匹とすら、戦えない程度なんだよね?」
「……そうですね……」
「弟子の不祥は、師が責任を持って改めるべきだよね?」
この感じ、想像が付いた。
双子が俺を修業した時と同じだ。
逃げ出そうと後ろを振り返る。
だが、お師匠さんは既にそこに居た。
▷絶望的な力の差がある。咲也は決して逃げられない。
くっそぅ……久しぶりだな、この感じ!
「大丈夫だよ? ここは孤島だから、逃げ道は端から無い。逃げ出そうと考える労力は必要無いから、その分を修業に回せるね」
「何が大丈夫なんですか!? てゆーか、そんなところにいつの間に!? どうやって!?」
「なあに、ちょっと料理に眠り薬を仕込んで、君が寝ている間にササッと連れてきただけだから、大丈夫だよ?」
「大丈夫要素が皆無だ!? あなたの「大丈夫」、逆に怖いんですけど!?」
「ふふ、大丈夫大丈夫。それで、修業して行くかい? それとも一人で取り残されたい?」
ああ、駄目だ。この人も双子と同じ、いやそれ以上だ。
まるで話にならないから、この人の修業とやらを素直に受けて連れ帰ってもらうしか、道は無いようだと悟った。
『良かったですね。これで強くなれますよ? 淋しい時は、私が話し相手になってあげますから』
おいい! あなたもグルだな!
私を信じろって、こういうことだったのか!
『いやあ、そこの彼、この世界の人族の中でも五本の指に入る存在なんですよ。そんな人に鍛えてもらえるだなんて、ちょっとなかなか無いでしょう? 折角の機会だから、是非にと思いまして』
俺の意思は!?
『テヘッ』
ああ、信じた俺が馬鹿だった……。
前方には笑顔の鬼、後方にはテヘペロの鬼。もう、逃げ場は無い。
「……因みに、期間は……?」
「たっぷり三世もあるんだろう? 私、全力で頑張るからね!」
全力で逃げ出すが、俺が振り返った時には、もうお師匠さんはそこにいる。
▷どう足掻いても逃げられない。咲也の運命は一択だ。
こうして、俺の長きに渡る真・修業の日々が幕を開けたのだった……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「師匠、これ以上は死にます! もう止めてください!」
「まだ死んでないでしょう? 死んだら止めるから、死んだら教えてね?」
「死んだら教えられません! た、助けてください!」
「分かったよ。じゃあ、すぐ死んでしまわないように、もっと鍛えてあげるね?」
「ぎぃやああああーー!!」
双子のフレイ・フレイヤのお師匠……いや、鬼神さんに何故か修行を付けてもらうことになり、早三日が経過した。だが、これは修業ではない。もう、イジメですらない。
「大丈夫だ、サクヤ」
「俺らの師匠は、もっとハードだった」
またしても、フレイとフレイヤの言葉が蘇ってくる。
あれ? てゆーかこれ、走馬灯じゃないよね?
「強くなれないなら、一度半殺しにしてみたらいいじゃないか」
「いいじゃないか、の意味が分かりません! 俺はサ〇ヤ人じゃありません!」
「サ〇ヤ人? よく分からないけど、前例がいるってことだよね? なら、大丈夫さ」
「大丈夫の意味が……ぎょわああああーー!!」
これは修業じゃない。リンチでもない。
修業という名を借りた、ただの拷問だ。刑の執行だ。
「まだ死んでないから、大丈夫! まだやれる!」
「む、無理です! これ以上は……本当に死にます!」
「それ、昨日も聞いたよ。でも、まだ生きてるじゃない? 嘘吐きには、罰として修業追加だ!」
「いやああああーー!!」
もう、拷問の方が楽な気すらしてきた。
この人、この世界で五番目とかに強いんでしょ? 俺の相手してないで、有能な弟子を鍛えた方が世のためだよ? どう考えても。
「因みに弟子は、双子以外は全員逃げ出した」
「で、でしょうねー!」
「双子も、帰省すると出て行ったっ切り、戻って来ない」
「け、懸命な判断です!」
「それで暇だから、いくらでも付き合おうじゃないか!」
「フレイ! フレイヤ! 今すぐカムバーーック!!」
あ、あいつらも逃げ出してたのかよ!
まあ、気持ちは分かるが、それなのに俺を扱くとか、ないわー。
「因みに、スキルが取得出来ないとか言っていたけど、スキルなんぞに頼っているうちは半人前だ!」
「ぜえ、ぜえ……」
「そう考えると、スキル皆無の君は、ある意味で一人前とも言えるな! よし、じゃあ免許皆伝ってことで、一度本気で手合わせしてみようか?」
「もう嫌だこの人! 師匠、死ねええええーー!!」
学んだ技術をフル活用し、鬼神さんへと逆襲を果たす。
だが、そこから十数分、俺の攻撃はかすりもせず、空を切り続けた。
「うん、いいぞいいぞ! この調子なら、ハエといい勝負が出来ると思うよ!」
「モ、モンスターじゃないんかい!?」
「それは無理です」
「きゅ、急に冷静な返しをするなー! 泣きたくなるからー!」
「まあ、そんなにモンスターと戦いたいなら、それに合わせた修業にランクアップするけど?」
「いやあ、俺のライバルのハエと渡り合えるなら、それ以上は望みません! 十分過ぎますね!」
「よーし、じゃあ今からランクアップね?」
「望みませんって言ってるでしょうがあーー!!」
こんなに扱かれてて、やけに元気だって?
この鬼神さん、俺に凶暴化の状態異常掛けてるんだよ。
それが魔法なのかスキルなのかすら分からないが、疲れ知らずですとも。
因みにその状態異常が解けると反動で死ぬほど消耗するんだが、アフターケアで回復魔法らしきもの掛けてくるから、翌日も元気に修業に励めるってわけさ。
こんな弟子想いの師匠、見たこと無いよ。そのまま見えないまま、隠れてれば良かったのに。
「なんか、失礼なこと考えられた気がするから、追加ね」
「そんな言いがかりをー! まあ、当たってるけどおーー!」
そうして、漸く修業が終わりの日を迎えた。
……え? まだ四日?
はははっ、まっさかー!
だって、三か月って、四日のことでしょう?
『ああ、咲也さん、とうとう頭が……』
うっさい! 頭が、とか言うな!
……
そうして、漸く八日、二期が過ぎた。
「さて、準備運動は昨日で終わりだよ。今日からは本格的な修業に入るからね」
音よりも早く、逃げる。
だが、この鬼神さんは、多分マジで音よりも早い。
▷咲也には彼の動きは見えない。つまり、逃げられない。
「無理です! これ以上は耐えられませんから! 二期もあんなに扱かれたのに、それが準備運動とかって……」
「因みに、百年位前まで一世は、四節が七期じゃなく、七節が四期だったらしいよ?」
「へ、へえ。それは勉強になりました」
「時代によって、暦も変化して来たんだねえ……」
「そうですか……。で、それがどうしたんです?」
「今逃げ出されたら、私ショックの余りボケちゃって、「一世って七節七期だっけ~?」とか間違えちゃう予感がす……」
「さあ師匠! 早く修業を始めますよ! 一か月四十九日になんてされてたまるかっ!」
そんな豆知識を学んだところで修業はマジでキツくなって行き、最早死刑をも超えたレベルへとランクアップして行ったのだった。
お分かりの方はすぐ分かるでしょうが、この修業パートのノリは小〇館から出ている松〇名先生の「ケ〇イチ」という漫画を参考にしています。
というか、作者がこの作品好きすぎて、(コメディタッチな)修業と言えばこれしかイメージで湧かなかったんです。
全61巻と長いですが、絶対面白いのでお勧めです。
ちょっと話が逸れましたが、この後も投稿します。




