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第93話 大魔導国家ジンブルム②

※誤字報告をくれた方、ありがとうございました。



 もう、半年が過ぎたんですね……。


 早いものだなと感傷に浸り、アルル様に話しかけた。


『この半年の間、色々ありましたねえ……』


 本当に色々とあった……。


 転生して、いきなり三十キロ歩かされたり……。


『最初の町の門番との会話でやらかしたり……』


 ケモ耳の獣人さんに驚いたり……。


『宿屋の羊人の女性にやらかしたり……』


 シュ、シュリや商人さんと出会ったり……。


『孤児院で混乱を招いてやらかしたり……』


 モ、モンスターに殺されかけてトラウマになったり……。


『双子の子に無能呼ばわりされて「びええーーん」とか泣いたり……』


 も、もうちょっと良い思い出をピックアップしてもらえます!?


『あなたこそ、殺されかけた思い出とか振り返ってるじゃないですか』


 ふう、こうして女神様とのやり取りをするのも慣れたもんだな。

 以前の俺なら、今のは絶対に声に出してしまっていたと思う。

 ちゃんと心の声でツッコめる辺り、進歩したと言えよう。


『やぁん、アルル、突っ込まれちゃった!』


「つッ……!」


 よ、よし。我慢出来たぞ。

 ツッコむの意味が違うと、思わず発声するところだった。

 今は乗合馬車の中だから、逃げ場は無いんだ。失敗出来ない。


『ちぇっ』


 ん? 神様? 今、舌打ちしたね?


 まあ、ともかく、フレイとフレイヤとの修業も、ガイドさんとのツアーも、《祈願スキル》を得たことや水墓の地を巡ったことも、良い思い出だ。

 五万ポイントとかモンスターとかガイドさんにフラれたこととかトラウマも多いけど、充実した半年だったよなあ。


『あーっ。それ、私が言おうと思ったのに……』


 だと思った! だから先んじて自分で言ったんですよ!

 自分で処理した方が、まだダメージは少ないからねっ!


 そうして思い出を振り返っていると、馬車は港へと到着し、そこから二つの島を経由してそれなりに大きい島へと向かうことになった。


 異世界生活百八十五日目に出港し、その島に着いたのは百九十一日目。

 そのエクサバーンという島で、俺は漸く、目的の物を見付けることが出来た。



「古代魔法研究と失われた時代の魔法に関する考察・後編」



 探し求めていたその本に飛びつき、すぐさま購入する。

 待ち切れず、店を出てすぐに木陰に腰かけ、本を開いた。



 ……



 そうして読み進めること暫し。

 午前中に読み始めたのだが、夢中で読み耽るあまり、気付けば辺りは夕日に染まり始めていた。

 それほど分厚いわけでもないのに、内容が専門的なのとじっくり考えながら読んだのとで、こんな時間になってしまったようだ。


 だが、そのお陰で、全てを読み終えることが出来た。


 その内容は、実に興味深い。

 なんとなく感じた違和感の答えを探して手に取ったこの本だったが、得られたものは期待以上だ。


 一般人も触れられる本にすら、火や水の魔法が載っている。

 なのに、それを使う姿を見たことがない。

 結界の魔法や船を動かす魔法は確かに身近に存在する。

 その歪んだ不自然さは、言葉で上手く説明出来なかった。


 それが、この本には記されていたのだ。


 内容を要約すると、こんな感じ。

 古代魔法から進化してきたはずの現代魔法。なのに、それは古代魔法の上澄みだけを掬ったかのような稚拙なもの。まるで退化。

 一部の魔法、結界や船舶の推進は確立されているのに、攻撃魔法などの魔法は、アンバランスなほど未発達。

 魔法とは、マナを操って様々な現象を引き起こすもの。ならば、同じように研究されてきたそれらが、全く異なるレベルの進化を辿っているのは不自然。

 必要不可欠なものがより研究され、そうでないものは衰退する。それならばおかしくはないが、ならば土木建築に活躍するはずの土や風の魔法まで使い物にならないレベルなのは説明が付かない。

 そもそも神話の魔女の昔話は大袈裟にしても、かつては戦時に用いられ、敵を圧倒するほどだったはずの威力の魔法が、何故未だ戦争も存在する現代では役立たずなものに成り果ててしまっているのか。

 その謎を追い求めた研究者たちは、一つの可能性に辿り着いたのだそうだ。




 “魔法陣”




 本の最後は、こう締めくくられていた。


 「この魔法陣というものが何なのか、それは参考文献の少なさ故、解明出来なかった。だが、今後も我々は答えを追い求め、研究を続ける。不自然に失われた空白の時代、そこにあるものを取り戻すために」と。



 ……読み応えのある本だった。

 前編と合わせて、この世界の()()みたいなものを感じることが出来た気がする。

 その失われた時代とやらがいつなのかまでは書かれていなかったが、きっと本来あるべき魔法の姿は違っているのだろう。それが、この世界に中途でやって来た俺には、違和感として感じられたのかもしれない。

 まあ、感覚的なことだから違っているかもしれないが、俺もこの研究者たちのように考察してみるというのも悪くないだろう。


 ……ち、因みに俺が魔法を使えないのも、この失われた時代とやらが……?


『それは咲也さんの()が原因です』


 ですよねー。


 そんなことを考えながら歩いていると、うっかり脇に抱えていたその本を落としてしまっていたらしく、後ろから声を掛けられた。


「君、これを落としましたよ?」


 振り返ると、そこには小柄で中性的な人が立っていた。

 その手には俺が落とした本があり、慌ててお礼を言って受け取る。


 だが、その人の手は本から離れず、俺をじっと見つめていた。


「あ、あの、何か……?」


「……いや、失礼。君の雰囲気に、私の弟子たちと似たものを感じたものでね」


 そう言うと、その人は手を放して本を返し、去って行った。

 一体、なんだったんだろうか?

 弟子と言われても、俺も双子の弟子ではあるのだが……。


 よく分からないまま、旅を再開させるため、乗合馬車を探して町の出口に向かう。

 乗合馬車の中で出発を待っていると、後から乗り込んで来た客の中に、さっきの人を見かけた。

 向こうも気付いた様子で目が合ったので、「さっきはどうも」と会釈をした。

 そうして間もなく出発した乗合馬車は、何事も無く次の町へ到着――――



(ゲグォッ!)



 ――――とはいかず、またもモンスターの襲撃を受けたのだった。

 この国に入ってから、もう三度目となるカエル型にウンザリしつつも、護衛の人たちがいることに安心し切っていた俺は、身構えることも無く戦闘が終わるのを待っていた。


 まさか、護衛が負ける可能性など、微塵も考えないままで。



この後も時間が空き次第、投稿します。

よろしくお願いします。


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