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第7話 やらかした


『では、カードに向かって《使用》と念じてください』


 言われた通り、両手で持ったポイントカードへ念じる。すると、魔法鞄の時と似たような画面が目の前に現れた。


『鞄の場合もポイントカードでも、その画面は咲也さんにしか見えませんので。周りに人がいる時は注意してください。それでは、ポイント使用を選んでください』


 見ると、メニューにはポイント総数、ポイント獲得履歴、ポイント使用履歴などの文字が並んでいる。銀行などのATMに似ている気がする。

 その中にポイント使用という項目があったので、魔法鞄の時の要領でその項目を念じて選択する。

 選択した項目が展開し、アイテムやスキルなど新しい項目が表示された。ポイントを何に使うのか選ぶのか。

 この操作、現代っ子の俺に使いやすくて分かりやすい。もしかして俺に合わせて作ってくれたのかな。


 続いてスキルの項目を選ぶと、必要ポイント順にスキルが一覧表示された。

 ズラリと並ぶスキルを見ると、ゲームのようにHPアップや筋力アップ、属性耐性などがある。表示されている一番下の文字が見切れていたので、もっと下にもあるのだろうと画面を下にスクロールしてみると、思い通りに画面が動く。

 試しに次のページを表示したいと念じると、パッと画面が切り替わり次ページだと思われる画面が表示された。


 これは楽しいな。自分の思う通りに操作出来るから、ストレスがない。

 何より念じるだけでいいから、めっちゃ楽。

 そんなところに感動していると、アルル様からストップが掛かった。


『ゆっくり見るのは時間がある時にしましょう。今は目的のスキルを手に入れてください』


 おっと、つい楽しくて忘れていた。今は《翻訳スキル》を手に入れるんだった。


「でも、こんなに沢山あると探すの大変ですね」


『そんな時は、条件やキーワードで絞り込めます。《翻訳スキル》で絞り込みを念じてください』


 本当に便利だ。

 言われた通りにやってみると、画面が切り替わって《翻訳スキル》のみが表示された。

 だけど、これは……。


「えっと、色々あるんですけど」


 《翻訳スキル》に絞り込まれたものの、画面には《翻訳スキル・鼠人族》や《翻訳スキル・蜥蜴人族》などズラリと並んでいた。

 これは種族ごとに翻訳スキルが必要ってことか。


『種族というか、言語ごとです。言語が同じでも種族や文化が違ったりしますが、翻訳する上で支障はありませんので。あなたの故郷で例えるなら、同じ英語を話すからと言って……いえ、日本人にとっては関西弁も沖縄弁も九州訛りも東北訛りも同じ日本語でしょう?と言った方が分かりやすいですかね』


「例えるなら英語の~の方がぴったりだったと思いますが、日本語例えの方が身近だし嬉しかったです。故郷に寄せてくれてありがとうございます」


 とりあえず表示された言語を順に見ながら、下へスクロールしていく。

 それにしても多いな。スクロールしてもしても終わりが見えない。


『咲也さんの故郷に比べたら、種族も言語も様々ですから。とは言っても、主要な言語はそれほど多くはありません。その一覧には人族系以外も含まれているから多く見えるんですよ』


 そう言われてスクロールを止めてよく見ると、《翻訳スキル・海豚(イルカ)》や《翻訳スキル・蝙蝠》などが並んでいた。そりゃ多いわけだ。

 てゆーか、動物とも話せるようになれるの!? 流石、異世界!


 そして、下に行くほど会話が想像つかないような種族になっていく。

 虫や植物系のものまである。あ、蚤もあった。


「こうして見ていると、《〇〇人族》とかはともかく、動物の名前は元の世界と同じのが多いですね。異世界だから未知の生物ばかりかと思ってました」


『まあ、あなたが生存適応出来る環境を考えると、似通ったものになりますからね。ここは候補の中でも特に地球に似てはいます。厳密に言うと違う生物なのですが、姿かたちはそっくりなので、翻訳上は地球上の相当する生物名になるようにしてあります。こちらにしかいないような生物なら、適切な名前に自動変換されますよ』


 なんか、至れり尽くせりって感じの転生だな。ありがたい。

 確かにスライム系の生物メインの世界とかだったら生きていける自信無かったかも。


 そうしてスクロールしていると、急に画面が動かなくなった。

 状況が分からず何度もスクロールしていて、漸くその理由に気付く。


「ここで最後なのか」


 リストの一番下には、《翻訳スキル・全》があり、そこで終わりになっていた。


『そこで最後ですね。今必要なのは人族相手の翻訳スキルですので、条件の合う中から好きなのを選んでいいですよ。主要人族とか、全人族というのもあります』


「どうやって取得するんですか?」


『取得したい項目を選ぶと、必要ポイント数とスキルの詳細が表示されますから、その項目を取得したいと念じれば完了です』


 選んで……おっ、詳細が出た。


 …………この状態で、「取得したい」と念じ……


『ストーーーーップ!』


 ビクッとして、操作を止める。

 だがその瞬間、俺の耳に機械的なメッセージが飛び込んできた。


【《翻訳スキル・全》を取得しました】


「えっ?」




『あーあ、遅かったですね。……ま、いいでしょう』


「えっ?」


 そのスキルは、たった今俺が選択したスキルだった。

 だが、何故取得出来たのか理解出来ず、呆然としていた。


『まあ、やってしまったものは仕方ありません。目的の《翻訳スキル》を取得したことに変わりはありませんから、気を取り直してさっきの門番のところへ戻りましょう』


「……アルル様、取り消しって出来ますか?」


『私の力で出来なくはないですが、()()()()()()はデリケートなので、あまり弄りたくはないですね。悪いことではないですし、今回は諦めてください』


 なんだろう、この感じ。何とも言えない不安感が拭えない。もしかして、俺――――


「……アルル様、さっきのスキル、何故取得出来たんですか?」


『ポイントが足りていて、取得可能だったからですが?』


「そんなはずありませんよ。さっき、善行一回につき一ポイントって言ってたじゃないですか。この世界に来てからまだ何も良い事してないし、ポイント足りてるはずがありません」


『すみません。その辺は宿に着いてからでも遅くないかと思ってまして、私のミスです。ポイントは、()()()()()()()()()()()()()()と先に伝えるべきでした。それに、『例えば一回につき一ポイント』と言っただけで、当然ですが善行の内容によって変わります。一回で一ポイントではなく、十ポイントになる場合もあります』


「だって、だって……」


『気持ちは分かりますが、諦めてください。良かったじゃないですか。これであなたは、あらゆる者の言葉を理解出来るようになったんですから。ここまで来たら、言葉というより意思ですよ、もはや。 妖精でもミジンコでもスライムでも対話可能なんて、凄いですよ』




 ――――これは、あれだ。

 取り返しのつかないやつだ。


「なんで俺、五万ポイントも持ってるんですか!?」


 そう、この《翻訳スキル・全》、なんと五万ポイントもしたのだ。それを取得してしまった。

 自分の保有ポイントなんて知らなかったが、アルル様に尋ねるよりも何よりも、俺は今、()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。新しいスマホ買ったばかりの時のアレだ。

 だから、後先考えるよりも好奇心が勝った状態で操作を進めていた。

 試しに《翻訳スキル・全》の項目を選択した時、五万ポイントと表示されたのを見て、一番下にあって五万ポイント必要なら万が一にも取得は無理だろうと思っていた。

 だから、操作の練習だと思ってそのまま取得を念じたのだ。迂闊過ぎ。


 取得出来ない場合にどうなるのかを見てみたい気持ちもあったのだろうと、後になってからだと思う。 何故、そんな軽はずみなことをしたのか。

 後悔先に立たず。


 つまり、これは所謂アレなのだ。

 俺、やらかした。


 嘘だ。夢だ。

 いや、現実だ。

 五万ポイント……一瞬で――


 ――その時、ある可能性、一筋の希望の光が差し込んだ。そうだよ、冷静になれよ。

 使ったのが五万だからと言って、それが多いとは限らない。お金と似たような感覚で考えてしまっていた。

 俺の保有ポイントが二十万とかだったなら、五万使ったところでまだ……


『保有ポイントは五万とんで五百八十六ポイントでしたね。今は残りが五百八十六ポイントです』


 ……希望は潰えた。そして、俺は死んだ。


 考えてみて?

 五万五百円持って、修学旅行に来ました。

 目的地に着いて最初に立ち寄った店で、五万円使いました。

 たかし君は、残りいくら持っているでしょう?


 どうだい? 絶望だろう?


『残り五百円ですね』


「解答ありがとうございます。そして正解です」


『それはいいんですが、仮にも神から授かった評価ポイントをそんな俗っぽい例え方しないでくださいます? 流石に怒りますよ?』


「そうでした、ごめんなさい」


『素直でよろしい』


 危なーい!

 ショックの余り、とんでもないことを言っていた。


 それにしたって、俺の五万ポイント。

 これって、前世の十六年分が一瞬で消えたってことでしょ?

 マジ何してんの俺。


『普通の人間なら、十六年だと多くて一万ポイント超えるくらいでしょうか』


「そんなに俺を評価してくれたってことですよね。もの凄く嬉しいし、ありがたいです。でも今は追い打ちになるので、違うタイミングで聞きたかったです」


 俺、人の五倍のポイントを一瞬で……。


「アルル様、好きなの選んでいいって……」


『町で通用すれば、なんでもいいという意味だったんですが。私も仮にも神ですから、あなたが操作してるのも見ていたし、やらかしかねないのも読んでいたんですが、そこまで躊躇無(ためらいな)くやらかすとは予想外でした。つい呆気にとられて止めるのが遅れました。神の予想を超えるなんて、なかなかやりますね。誇っていいですよ』


「誇る以前に思い返したくないですし、フォローになってないです」


 はあー、アルル様を責めるような言い方したって、悪いのは自分なのに。

 異世界なんだから、浮かれてないでもっと慎重に行動しないと駄目だよな。

 でも、五万ポイント……。

 落ち込んで天を仰ぐ。ああ、夕日が目に染みるぜぃ。




 ……夕日?


 そこでハッとなり空を見上げると、空は赤く染まっていた。

 次の絶望が、すぐ傍まで迫っていた。



明日は夜7~10時頃の投稿予定です。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ポイント制をある程度知っていながら、この展開(5万ポイント使用)は、無理がありすぎです。 面白い展開だったので、期待しながら読んでいましたが、こんな序盤で詰まって残念です。
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