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第74話 恵みの島⑧

遅くなり、申し訳ございません。

本日もよろしくお願いします。


 ……結論から言おう。何も起きなかった。


 あれぇ!?

 前にもあったよね、こんなの。久々だわ。

 どういう法則性なのか分からないが、二~三回に一回くらい外れるな、俺のフラグ立ちの予想は。


『何か起きるのではないか、と! その前兆なのではないか、と! なんとなく察してしまった、と! これ、フラグ立ったな、と! ドヤァ!!』


 恥ずかしいなあ、おい! そんな誇張しなくても反省してますから、許したげて!

 まさか、俺を揶揄うためだけにこの神様がフラグへし折ってんじゃないだろうな?


『そんなわけないでしょう。ただあなたが勝手に恥をかいているだけですよ』


 もう止めて、俺のライフはゼロよ!


 峡谷沿いを進み、やがてハピネイルの町が見え始めた頃。

 俺は自らの恥に悶えていたのだった。

 なんのこっちゃ分からない他の乗客たちは、頭を抱える俺を不思議そうな目で見ていた。




  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 天空の恵みの町、ハピネイル。

 峡谷に分かたれたリオネイルとともにナグ島随一の規模にまで発展し、中心都市をも超える賑わいを見せる町。

 リオネイルと双璧をなすこととその規模から、二つの町を「双璧都市」と呼ぶものさえいるほどなのだそうだ。

 中心都市イミオミイ、形無し。


 町に入ると、そこにはローブ姿の魔法使いたちが溢れ……なんて想像していたのだが、見た感じは普通の町だ。人の賑わいを除けば、他と大差ない。

 だが、立ち並ぶ店を見れば、違いは明らかだった。

 魔法に関する書物、それっぽい巻物、魔法のアイテムに装備品。

 魔法使い向けだけではなく、魔法により強化された戦士向けの装備や、一般人向けのアイテム、怪しげなものに、よく分からないものまで多種多彩に取り揃えられている。

 ゆえに、働き手も客も、それに合わせるように多種多彩な感じだ。


 魔法の品で賑わう町なのに、いかにもな鍛冶職人らしき佇まいの人もいるし、聖職者っぽい恰好の人なんかも目に入る。

 そもそもこの世界の魔法というものをまだよく理解していないため、自分の中にあるゲームや漫画の魔法のイメージで考えて見ているのがまず間違いなのだが。

 そのゲームや漫画でだって、鍛冶職人は魔法で身体強化するし、聖職者も神聖魔法を使うのだから。

 先ずは魔法というものを学んでみないことには、何も分からない。


 というわけで、信用出来そうな雰囲気の店で、魔法の入門書を買って読んでみることにした。

 ラノベっぽく、魔法学校に入門して「学園編」が始まったり、魔法使いに弟子入りするなんて展開も妄想はしてみたのだが、そもそもそんな暇は無かった。

 目的は立派な魔法使いになることではなく、旅をする方がメインなのだから。


 そうして、「魔法の歴史」「魔法練習のための基礎知識」「これで君も魔法が使えるブック」「魔法で遊ぼう!」「古代魔法研究と失われた時代の魔法に関する考察・前編」の五冊を買ってみた。

 一冊目と二冊目は、店主さんに聞いてオススメを選んでもらった。初心者なら先ずはこれ!という二冊なのだそうだ。

 三冊目と四冊目の怪しい本は、所謂抱き合わせで仕方なく買った。店主さんに無理矢理勧められて断れなかったのだ。セットで安くしてもらえたから別にいいんだけどね。

 五冊目は、ふと目に留まったのでなんとなく。アルル様の言っていた失われた大魔法という話に何か関係しているかも、という勘だけだ。

 今日のところは日も暮れるので、宿に入ってこれらの本を読んでみることにして、町の散策は切り上げた。この町にはもう一泊してみようかなと思っている。

 折角だから、何か魔法の一つでも使えるようになってから次に進みたいなあ。




  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 異世界生活二十九日目。

 昨夜はずっと、本を読んで過ごしていた。

 翻訳スキルはここでも活躍してくれたようだ。こちらの本も、当たり前のようにスイスイと読み進めることが出来たはありがたい。

 それで内容なのだが――――



・魔法の歴史:神話の時代、古代魔法が生み出され、それを駆使して活躍した魔女が魔法を司る神になり、彼女の眷属によって現在使われている魔法の礎が築かれてどーたらこーたら。ホントの歴史なのか創作の神話なのか、判断に困る。異世界だし。


・魔法練習のための基礎知識:この世には火の空気、水の空気などと同様に、魔法の空気と呼べる「マナ」が満ちており、それを用いてうんたらかんたら。要するに、この時代の最新科学の本らしい。だがアルル様から転生前にもっと詳しく教わっているし、そもそも学校の授業でこの時代より進んだ科学の基礎を学んでいるので、読む必要性を感じない内容だった。


・これで君も魔法が使えるブック:これが意外と役に立った。実践的な魔法を使うための練習法が載っていたので、あとで時間が空いたらやってみたい。


・魔法で遊ぼう!:これも意外と役に立った。単純な魔法を組み合わせたり掛け合わせ、様々な日常生活に活用する方法などが載っていて勉強になった。


・古代魔法研究と失われた時代の魔法に関する考察・前編:一冊目の神話に出てきた古代魔法ってやつを真面目に信じてて、真剣に研究している人が書いた本。やや難しいことが書いているので、読むのに時間がかかる。まだ半分も読めていない。



 ――――こんな感じだった。


 一冊目と二冊目は期待通りにいかず、逆に三冊目と四冊目が役に立った。五冊目はまだ途中なので何とも言えないが、思っていたような結果にはならなかった。

 この調子では、魔法を使えるようになるのはまだ先だろうな。なんだか、学校の授業のように一朝一夕でどうにかなるものではない気がしてきた。

 それならそれで仕方ないので、今日も町の散策をして少しでも魔法の文化に触れ、学び取れるものを出来るだけ吸収して次へ旅立つとしようかな。


『前向きで素晴らしい』


 あら、アルル様。お早うございます。


『お早うございます、咲也さん。あなたの思う通り、すぐに修得するものではありませんから、その方がいいでしょうね。ここで粘っていても使えるようにはなりませんから』


 そうですか。なら、今日のうちに次へ出発ですかね?

 もし良かったら、道中で魔法の練習もしたいので、分からない部分があったら教えていただけませんか?


『ええ、いいですよ。教えてアルル先生、再登場ですね』


 それ、気に入ってたんですね。クスクス。

 

『それにしても、フットワークが軽いですね? もう一泊ぐらいする気かと思いましたが』


 そう思いもしました。

 けど、今はそれよりも世界一周を果たす方を優先しようかと思いまして。

 旅を終えた後で、()()()()訪れることだって出来るでしょうし。


『……そ、そうですか。心境の変化もあったようですものね』


 そうしてアルル様と話しながらも宿を出る支度をし、今日も町へと繰り出した。


 先ず調べたら乗合馬車は午後イチの便もあったので、それまでの時間で町を堪能することにする。

 今回は珍しく食べ歩きやグルメは無しで、アイテムと本を中心に見て回った。とはいっても魔法のアイテムで今の俺に必要なものは無さそうで、魔法薬にしても装備にしても値段も高いし見送らざるを得なかった。

 なので、本をいくらか買って歩き、それで散策も終わりになってしまう。


 ひとつ残念なことに昨日買った五冊目の続き、後編は、昨日の店を含めどこにも置いていなかった。

 他の町で見つかればいいが……現代日本のように、上下巻セットが簡単に手に入る環境ではないんだよなあ。


 そうして折角の魔法文明も満喫し切れぬまま、俺は港町サロへと向かって旅立った。



 ……



 そして、その道中。早速魔法の練習をしてみたのだが――――



「違うわよ、もっとこう!」


「そうして、こうよ。あら……?」


「なんだか、魔法が出る気配がないわね? もしかして……」


「「あなた、才能無いんじゃない?」」



 ――――またかよ。


 馬車の同乗者の、俺が魔法を使いたいと知ったお節介焼きなおばちゃんたちに簡単な魔法のレクチャーを受けていたのだが、デジャブを感じるひと言とともに、魔法に関しても俺の無能っぷりが確認されてしまったようである。

 やる気を出していた俺はがっくりと項垂れてしまい、おばちゃんたちはその姿がいたたまれなくなったのか、フォローをするように「あたしたちが教えた程度じゃ、眠ってる才能も開花しないわよ! へこたれずに、頑張ってこれから先もやり続けなさいよ」と励ましてくれた。

 だが、才能無いと言った後では手遅れではなかろうか?


 そんな風に思いながらも、港町サロを経て、次の島“ヨヅナ”へと向かうのであった。



暑いのは嫌いです。


次話は明日6月20日21時頃に投稿予定です。

どうぞ、よろしくお願いします。



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