第73話 恵みの島⑦
遅くなってしまい、申し訳ありません。
本日もよろしくお願いします。
追記:前話で、今話でこの島の話が終わると書きましたが、もう一話ありました。ごめんなさい。
目覚めると、翌日の早朝になっていた。
異世界生活二十七日目……と思いきや、実は二十八日目。
目覚めた時に床ではなくベッドに寝ていたのでおかしいとは思ったのだが、どうやら丸一日寝て過ごしていたらしい。
宿の人に確認しに行くと、「部屋に空きがあったからそのまま泊めたけど、困るんだよね」と怒られた。なんでも昨日の朝に部屋を訪ねたら、床に倒れていて死んでるのかとビックリしたんだとか。
意識朦朧としながらも、「大丈……夫、ただの祈りすぎだか……ら……」と意味不明ながらも返事したので、ベッドに寝かせて様子を見ていたらしい。
まさかそんなに消耗するとは。あまり気軽には使えないかもしれないな、あのスキル。
二泊分プラスお礼と謝罪の上乗せをした料金を支払い、謝って宿を出る。
晴れ晴れとした爽快な気分……とまではいかないが、ひと先ずは自分を納得させられたので、現実を受け止めて前に進むことは出来そうだった。
完全に何も出来ない自分。そこからは一歩、いや半歩? いや十分の一歩くらいは前進したものと考え、旅を再開することにしよう。
というわけで、頭を切り替えて、中心都市を堪能する。
頭を切り替えられる程度までマシになったと思うし、存分にこの島最大だという市を巡り歩いて、食材関係を中心に買い漁って行く。
素材系や道具などは、今は必要性を感じないし見送ろう。
軽めのブランチを取り、それから次の町への乗合馬車を探すと、間もなく出発するという便があった。
急過ぎるかとも思ったが、居残っていても何か特別なことがあるわけでもないし、思い切って町を出ることにした。中心都市だし、残ったら残ったで楽しめる場所も多そうだが、まあいいさ。
それより問題なのは、行き先の選択だ。
双璧をなすリオネイルとハピネイルという二つの町。乗合馬車は、それぞれに向かう便が同時に出るようだった。
途中、峡谷によって分断されているが、その手前までは両便とも並走し、そこからそれぞれの町へと別れて行くらしい。
さて、困った。出発まであまり時間も無いが、どちらに行くべきか。
馬車の準備をしている人たちは忙しそうなので、出発前の一服をしていた護衛の人に話しかけ、その違いを聞くことが出来た。
リオネイルは別名「大地の恵みの町」。近くに採掘場もあり、主に鉱物などの資源で成り立っているのだそうだ。それに伴って、金属系の素材が豊富なんだとか。
一方のハピネイルは、別名「天空の恵みの町」。それだけ聞くとなんのこっちゃ分からないのだが、こちらもある程度の採掘資源はあるものの、主に魔法に関係する素材や魔法関係の商売で成り立っている町なのだそうだ。
なんだか、イメージとしては剛と柔、体力と知力、物理と魔法、ムキムキな男たちとローブ姿のお婆さんたちって感じ? いや、偏見が過ぎるか。
だが、行き先は決まった。折角の異世界、魔法に触れられる機会をみすみす逃す手はあるまい。
名前もハッピーな感じだし、ハピネイルに決めた!
ごめん、働く男たちの町リオネイル。ご縁が無かったということで。
――――この時の俺は勝手なイメージと魔法というワードに心奪われて即決していたのだが、実はリオネイル、そちらはそちらで魔法技術による採掘・精製が盛んで、むしろ魔法に長けたハーフエルフの女性や、鍛冶を行うドワーフなど他種族の混在する町であったのを後日知り後悔するのだが、それもまた別のお話――――
――――チクショーッ!!
そうとは知らない俺は意気揚々と、ハピネイル行きの乗合馬車へと乗り込んだのだった。
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ハピネイル行きの乗合馬車。
リオネイル行きの馬車と連なっての進行なのだが、それにしても護衛が多い。
二つの馬車に対して六人もいるのは、少し過剰ではなかろうか?
傍から見れば、盗賊たちに教われている馬車の車列に見えなくもないぞ?
どうも、例の角熊の事件の衝撃が想像以上に大きかったようなのだ。この島には数年来、モンスターのモの字も無いくらい出現がなく、出ないことが当たり前になっていたようなのだ。
それが、安全と言われていた街道に突如、それも巨大な個体が出現したとあっては、皆、心穏やかにいられるはずもない。他の島々では最近増加傾向にあると聞いていたのも拍車をかけ、皆、戦々恐々となっているみたいだ。
時間とともに落ち着きはするだろうが、今は無理もない。こちらとしてもモンスターは怖いし、護衛が多い分には安心だからいいのだけれど。
峡谷に差し掛かり、馬車は二手に分かれる。護衛も半分に減った。
離れていくリオネイル行きの馬車を眺めていると、その向こう側、遠くの空に何かがはためいていた。
目を凝らして見ると、それは思いも寄らぬ神秘的なものだった。日本人の俺は、テレビや動画でしか見たことなど無いもの。
「オーロラ?」
そんな俺の言葉を聞きつけ、同乗していた人たちと、並走していた護衛の一人もそちらに目を向ける。
だが……
「何処? 見えないよ、そんなもの」
「オーロラって、あれだろ? 空にカーテンみたいなのが光るっていう。話にしか聞いたことはないけど」
「見間違いじゃないか? 私には青空にしか見えないな」
その空を覗き込んだ全員が、同じ意見を述べた。
だが、見間違いなんかじゃない。だって、今もハッキリと見えているのだから。
この感じ、覚えがある。
ハッと気付き、マップを確認する。
すると、予想していた通り、それは例の漁業の町スレウトラの方角だった。つまり、あの俺にしか見えない巨大な柱のあった方角だったのだ。
ということは、あのオーロラもそれに関係するものなのか。
そりゃ、見えんわな、他の人たちには。
「あれー? 気のせいでしたー」と若干苦しい誤魔化し方をし、場を収める。
不満そうに散っていく人たちを余所に、俺は言い知れぬ不安を感じ、穏やかではいられなかった。
何か起きるのではないか、と。
あれは、その前兆なのではないか、と。
ここまでの流れで、なんとなく察してしまった。
これ、フラグ立ったな、と。
補足:祈願スキルは特殊スキルのため、「最下位」などのランクは付きません。
次話は明日午後に投稿予定です。もしかしたら前倒しで午前になるかも。
どうぞ、よろしくお願いします。




