第67話 恵みの島①
本日もよろしくお願いします。
港町イルを経て、次なる目的地へと向かう。
港町の職員、それから乗り込んだ船内で暇そうな乗組員さんから、話を聞くことが出来た。
次に向かうは、“恵みの島、ナグ島”。
このナグ島、南北に長く伸びた形状をしていて、島内は地形の起伏も激しいらしい。
一方で、山地や峡谷、それらに連なる森も広がっており、そこから得られる資源や恵みが多いのだとか。
もちろん、そんな場所には危険も多いようなのだが、それに打ち勝って恵みの島と呼ばれるまでに至ったのだという。
話を聞いた俺は、恵みの方よりも危険の方に敏感に反応してしまったのだが、それは仕方ないだろう。
詳しく聞いて、危険というのが地形的・自然的なものや野生動物のことを指すと分かったのだが、そう聞くまでは完全にモンスターのことだと思い込んでいた。
トラウマって厄介。
そうして海の景色を楽しむこと体感で小一時間ほどだろうか。
視界の先に、目的のナグ島、その港が見えてくる。
これまで俺が見てきた港の中では、最大級の規模なのは疑いようが無かった。
流石は恵みの島、といったところだろうか。
入港する船の数もこれまでとは桁違いに多く、島の恵みを輸送する動きが活発であろうことが窺えた。勝手な予想ではあるが。
その船の隙間を縫うように、俺たちの乗った帆船も停泊のために接岸していく。
現代日本のような安定性の高い船ではないので、油断していたら、岸に接触した弾みで跳ねた海水を被ってしまったが、そこは愛嬌。
べ、別に悔しくなんてないんだからねっ。
到着した港から人混みをかき分けて進むと、これまた大きな倉庫街が目に飛び込んで来た。
現代日本とは比べ物にならないまでも、こちらで見た中では断トツに大規模だ。
それに比例して、人、人、人の人だかりもまた、これまでで最大だった。
見ているだけで人に酔いそうなので、さっさと抜けて町に行こう。
人ごみに突入。
かき回される。
一旦離脱。
はい、元の場所。
シュリ、元気でやってるかナー?
あの子と出会ったときも、こんなことあったな。
だが、これでも一応は達人に鍛えられたのだから、以前とは違うってもんだ。
教わった受け流しの技術を応用して、人混みを切り抜けて進む。
数分後、無事に町へと入ることの出来た俺がいた。どうだ、見たか!
……てゆーか普通の人たちはどうやってこれを突破してるわけ? 皆ツワモノなのー?
まあとにかく、こうして俺は、無事に港町“クルデレロ”へと入ることが出来たのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さて、この島に来て、異世界転生後に初となる挑戦をしてみた。
題して、「人から聞いた情報だけで、一マップをどこまで埋められるかな?」であーる。
まあぶっちゃけ、最初に立ち寄った港町でその島の全様が掴めていれば、とても楽だなと思いついたからなのだが。
逆に今までやらなかったのが不思議なくらいだろ?
というわけで、通りすがりの人に聞いてみた。
「はあ!?」
……そりゃあ、いきなり「すみません、ちょっとお聞きしたいのですが。この島にある町村について教えていただけませんか?」なんて見ず知らずの人間が聞いてきたら、不審だよね。
聞き方もマズかった。会話の流れってものがあるんだし、成果を急ぎ過ぎては失敗する。
そもそも通りすがりの人というのは目的があって歩いているのだから、邪魔しちゃ駄目だよね。
というわけで、続いては果物を売っている露店のおばちゃんをターゲットにしてみた。
買い物をして客になってからなら、ついでに聞いても教えてくれそうじゃん?
「……というわけで、教えてほしいんですが」
「何がというわけなんだい? ほら、それ以上買う気が無いなら、商売の邪魔だよ。他を当たりな」
確かに買い物中は客だ。だが、それが終わってから延々張り付いていたら、普通に営業妨害だった。
まさかずっと買い続けるわけにもいかないし、効率も悪い。
以前のように買い物中の雑談で聞く程度がいいだろうな。
改めて、作戦を思いついた。
立ち並ぶ露店を、一件ずつ回るのだ。そして一件につき少しずつ聞いていく。
情報を繋ぐように徐々に聞いていくことが出来れば、最終的には次の島に渡るための港まで辿り着くだろう。
そうなれば、あとは移動するだけ。なんて素晴らしい作戦だろう?
営業妨害にもならないし、世間話程度で迷惑も掛からなくない?
完璧だ! 自分の頭脳が恐ろしいぜ……!
というわけで、実行してみた。
「すみません」
「はいよ?」
……
「すみません」
「何だい?」
……ヒソヒソ。
「すみません」
「……何かな?」
……ザワザワ。
「すみませ……」
「衛兵さん、こっちこっち! コイツです!」
あれえ!?
何故か、衛兵さんに捕まったよ!?
意味が分からない、解せぬ。
悪いことはしてないし、ただ買い物して歩いてただけでしょ!?
「なんで捕まったか分かるかね?」
「いいえ、まったく」
「……並びの露店で、ひとつだけ買い物して島の情報を聞いては、隣に移動するというのを繰り返してる怪しい男が居ると通報があってね。単刀直入に聞くけど、君は新手の冷やかし? それともただの阿呆? そうでないなら、他国のスパイに思えるんだけども……」
諜報員。そうか、そういう見方もあるのか。勉強になった。
……うん、これは久々にやらかしたのかな?
『完璧どぅあ! 自分の頭脳……ププッ! ず、頭脳が恐ろしいぜ……! でひゃひゃひゃひゃ! お腹痛い! 止めて、これ以上笑わせないでください! 神なのに笑い死ぬ……っ』
あ、うん。やらかしてた。これも久々ね。笑わせる気は毛頭ありませんが?
俺、疲れでも溜まってたのかなあ? 最近は常識的に行動出来てたはずなのに。
あと、女神様のはずなのに笑い方がどんどん下品になって来てるのは、どうにかした方いいと思います。
それで、普通にスパイじゃないですと否定したら、即信用された。
え? それはそれで、何故だ?
「まあ、こんなお粗末なスパイがいたら、逆に伝説になるからね? お人好しっぽいし」
それはそれで悲しい。
そこまで分かってるなら、最初から疑わないでくださいません?
思いついた計画を正直に話したら、呆れ顔で釈放してくれた。
「ただの阿呆だったとは……」という呟きは、しっかりと聞こえた。
そして最後に、衝撃の事実を教えてくれた。
「役所かギルドで聞くことが出来るから、そっちに行きなさい」
……そう、ですよね。
なんで公共のサービスを真っ先に思い浮かべなかったのかな、少し前の俺?
そして、そういう時は教えてくださいませんかねえ、アルル様?
こんなんでスミマセン(笑)
次話は明日6月13日の21~22時頃に投稿予定です。
どうぞ、よろしくお願いします。




