第63話 セシウェル①
短いですが、本日もよろしくお願いします。
「ゼエゼエ、ハアハア……」
「おう、遅かったな、サクヤ」
「待ちくたびれて、白骨化するところだったぞ」
「もうヤダ! この双子!」
次なる目的地であるセシウェルの入口へと到着した息も切れ切れの俺を待っていたのは、全く呼吸の乱れぬ二人だった。
俺が必死で全力疾走して来たというのに、この二人は涼しい顔でとっくの昔に着いてましたという雰囲気を醸し出しているじゃないか。
絶対、俺をおちょくって楽しむためだけに、本気で移動したな?
▷結局、実質的に、咲也は逃げられなかった。
端的に言って、これが今の俺と双子との力量差ってことだよな?
俺も、いつかこんな達人みたいに強くなれるんだろうか?
想像がつかないよ。
「まあ、なんにせよ、これで同行も終わりだな」
「すげえ楽しかったぜ! こんないいオモチ……旅の仲間は初めてだったぜ!」
「オモチャって言いかけたな、おい!」
三人でふざけて笑い合い、一緒に町へと入る。
本当に、濃い旅路だった。主に修業が。
この先、これに勝る経験なんてあるのか、なんて思うほどだ。
修行はきつかった……いや、凄くきつかった……いやいや、死ぬほどきつかったけど、俺も楽しかった。
一緒にご飯食べに行ったり、買い物して歩いたり、ショーを見に行ったり。
修業の楽しい思い出? 寝言は寝て言ってもらえる?
ともかく、忘れられないものになったよ。
……あ、やべ。ピエロまで思い出しちゃった。
「それじゃあ二人は里帰りするんだよね?」
「ああ、そうだな」
「この町にあるんだよね? どの辺なの?」
「……ええと、それは、だな……」
「うん?」
急に歯切れが悪くなり、もごつくフレイ。
「あ、うちの家族は……昼間は仕事でいないんだよ。だから、適当に時間潰してから帰ろうと思っててな?」
代わりに答えてくれたフレイヤ。その表情は、何故か少し引き攣っていた。
「へー、そうなんだ。ご家族は何の仕事を?」
そんな何気無い質問に、何故か顔を見合わせる二人。
さっきから、少し変だ。
「それは、ほら、俺らもしばらくぶりの帰省だから、今は何してるか分からない、っつーか……」
「む、昔は昼間はいなかったから、念のため、な?」
「それなら、一度訪ねて行ってみればいいじゃない。もしかしたらいるかも……」
「それよりも! サクヤはこれからどうするんだ?」
「そうそう! 今夜はこの町に泊まるんだろ?」
「えっ? ああ、うん。そのつもり」
「なら、最後になるし、一緒に飲みにでも行かねーか?」
「そうそう。送別会みたいなもんだ」
「送別会って……」
急に話題を変えられた感じに、あまり聞かれたくないのかも、と思った。
あのオープンな二人が避けるってことは、触れずにいた方がいいかな。
それより、酒か。一応、飲んでもいい年齢ではあるんだろうけど、アルル様からも止めておけと言われているしなあ。
どうしたものか……
『いいですよ、今日ぐらいは』
突然、そのアルル様から、許可が下りた。
前回と真逆のことを言っているようだが、何故だ?
『いえ、常用しなければいいだけですから。こんな機会もあまり無いでしょうし、二人との思い出作りだとでも思って、お勉強させてもらいなさい』
やけに優しいアルル様はともかく、確かに二人が折角言ってくれているのだから、無下に断るのも失礼か。一回だけだし、それじゃあお言葉に甘えて、初めての酒の味を体験させてもらおうかな?
「うん、それじゃあ、よろしく頼むよ」
「おっしゃ! そうこなくっちゃ!」
「そうと決まれば、このまま行くとするか!」
「え!? 今から!? 早くない?」
そう言う俺を「まあまあ」と宥めながら、二人のオススメだという店へと連れて行かれた。
店へ入ってすぐ、双子のお任せの注文で、木製のカップに並々と注がれた酒と、いくつかの料理が運ばれてきた。
さてさて、初めてのお酒は、どんなものなのかな……?
……
「スヤァ……」
「早っ!?」
「弱っ!?」
飲み始めて十数分、まだ一杯目で、俺は眠りに就いたのだった。
当然と言えば当然か。ここ数日、まともに休めないまま修業し続けて、そのまま飲酒だもんな。
後々、何故アルル様があっさりと許可を出したのかも理解した。一杯目で終了してたんじゃ、体にいいも悪いも関係無いからね。
そのまま店じまいまで目覚めることなく、初めての飲酒体験は終わりを迎えてしまった。
因みに双子は、そのまま店じまいまで俺の隣で飲んでいたそうだ。
強っ!?
飲酒は成人してから。
日本では今でも二十歳からですよね? 今後変わるのかな?
外国だと十五とか十六歳からの国もあったはず。
異世界の物語って、その辺の匙加減が難しいものですね。
これはフィクションですので、悪しからず。
次話は、明日の18~22時の投稿予定です。
どうぞ、よろしくお願いします。




