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第62話 特殊な人

本日二回目です。

よろしくお願いします。


「びええーーん!」


「泣くな、サクヤ」


「才能無いのは最初から分かってただろ?」


「この修業の意味はー!?」


『「びええーーん」って、あなた……』


 双子の修業を終え、その直後に才能無いと言われた俺は、泣いていた。

 四日、いや六日も扱かれて、最後にそう言われるだなんて。

 せめて、言わずにおいてくれたら、まだ救いはあったというのに。

 やっぱりいじめか? いじめなのか?


「スマンスマン。ハッキリ言い過ぎたぜ」


「フォローになってない! うえーん!」


「だが、本当のことだ。というか、異常な才能の無さだ」


「これ以上追い打ちかける!? びえーん!」


「「さっきから、「うえーん」とか「びえーん」って……」」


 ホント、そこまで言うかね?

 最早、冗談では済まない域に入っている。

 本気のいじめじゃないか、こんなの。


「スマン。いや、違うんだ。異常なんだって、それは」


「はあ?」


「だから、ここまでやってスキルの気配すら無いなんて、いくらなんでもおかしいんだって。本当に人間なのか、お前?」


「酷ッ……」


 またもいじめだ、そう思って二人を睨むが、こと今回に関しては、二人は本気で言っているようだった。


 この世界の人間は、恐らく誰もがスキルを修得する。俺が今回やったのと同じことをやったら、きっと才能の有る無しに関わらず、何かしらの芽生えがあるのだろう。

 だからこそ、二人も不気味なのに違いない。何も芽生えることのない俺が。


 俺が異世界人なのが関係しているのだろうけど、これはちょっとマズいか?

 今からでも、ポイントカードを使ってそれっぽく偽装してみるか?

 ……いや、アルル様も言ってたけど、このタイミングで急にスキルを得たりしたら、それこそ怪しまれるかもしれない。

 どうする……?


「……お前、どこの生まれだ?」


「ずっと猿人族だと思って来たけど、何の種族なのか聞いてもいいか?」


 二人の、俺の奥底を探るかのような視線と、投げかけられる問い。 それに耐えかね、目を逸らす。

 それが余計に二人に不信感を抱かせたであろうことは、俺にでも分かった。


 緊張して、心臓の鼓動が煩いくらいにドキドキする。

 異世界人だとばらすわけにもいかないし、何の言い訳も思い浮かばない。


 くっ、万事休す!




「……ふふっ」


 意図せず、思い出し笑いをしてしまった。

 この状況じゃ、相手の不信感が増すだけだろうに。

 だが、焦っていた俺の脳裏に、バーバムで初めてこちらの世界の人と話したときの光景が蘇ったのだ。

 あの時も、こんな感じだったな。そう思ったら、少しだけ冷静になれた。


「……俺は、ただの猿人だよ。尾は無いけどね」


 もう、なるようになれ。そんな心境だ。

 だが、諦めたわけじゃない。別に終わったわけじゃないし、二人が俺をどうにかしようと思っているわけでも無いだろう。

 先ずは、正直に話してみるしかない。異世界人であることは言えなくとも。


「……じゃあ、何でスキルを獲得した気配が全く無いんだろうな?」


「……普通の猿人族なら、こんなことはあり得なくないか?」


「そんなの、俺が聞きたいよ。自分が無能、それも異常なレベルだなんて、今まで知らなかったし」


 会話する中で、徐々に活路が見えてきた。

 そうだ、俺は無能かもしれないが、()()()じゃなかったんだ。


「それに、今回は何も獲得してなかったかもしれないけど、前に獲得したことはあったんだよ?」


「なに? ホントか?」 


 嘘じゃない。ポイントカードを使ってだが、確かにいくつかのスキルは持っていたんだった。

 《疲労回復促進》、《体力強化》、《脚力強化》とかだったはず。全部、最下位だけど。


「疲労回復促進とか、体力強化だったよ? 確か」


「は? 誰かに見てもらったのか?」


「え? えーと……まあ」


「スキル名が見れる能力持ちなんて、今じゃ貴重なのに。よく見てもらえたな?」


 おや? そういうのもあるのか?

 俺の場合はポイントカードでしか取得してないから、カードのメニューでも確認出来たはずだ。

 それ以外の自然に修得した場合は、それを確認するスキルが必要ってことか――――


 ――――あれ?


「じゃあ、二人は自分の持ってるスキルを確認したこと無いの?」


「「おう」」


「それなら、自分の能力って知らないまま修行してるってこと?」


「それは、あれだ!」


「勘ってやつだ!」


「君らこそ人間か!?」


 漸く、元の空気に戻って来れた。

 だが、凄いな。勘でスキル察知出来るとは。それだから、俺にスキルの気配が感じられないとか言えたのか?

 今思えば、凄いことなのかもしれない……。


「いやいや、そのぐらい出来るやつ、結構いるぞ?」


「毎日走り込みしてて、ある日突然急加速したりしたら、それだけで脚力強化系の何かスキルが生えたなって分かるだろうが」


 ああ、なるほど。そういうことか。

 それなら気付ける人も大勢いそうだな。


「でもそれだと、他人のスキルの有無って、どうして分かるの?」


「「それは俺らが天才だから」」


「ここまで言っておいて、結局それか! 自分で天才とか言っちゃったね!?」


 これは……そういうスキルを持ってるってことなのかな?

 しかし、天才なのは本当かもしれない。自分らで言ったから台無しだけど。


「でもよ? 俺らに分からないって、どういうことだろうな? この六日間で、間違いなく疲労回復、体力強化なんてのは発動しただろうに、なあ?」


「もしかして、スキルのランクが弱すぎて、俺らにも感じられないとかじゃないよな?」


「はあ? まっさかー! あははははは……」


 最下位だから、あり得る。そう思ってしまった。

 待てよ? ということは、逆に、だ。

 今回の修業でも、実はスキルを修得していたのでは?

 全部最下位のランクだから、師匠たちにも分からなかったのでは?


 ということは、だ。

 俺は無能ではなかったってことじゃないか!?

 イヤッフー!!


『取得出来てませんね。正真正銘、無能です』


 イ……ヤッ……フー……。

 ぬか喜びにしても、もう少し放っておいてほしかったな……。

 神様に言われたら、確実過ぎて涙も出ないじゃないか。

 絶望さん、いらっしゃいませー。


『冗談です。あなたはあなたが思っていた通り、()異世界人ゆえに特殊なだけです。そのうち取得出来る()が来ますから、嘆く必要はありませんよ。私が保証します』


 一転して、今度は神様からの確証をもらってしまった。

 希望さん、お待ちしておりました。VIPルームへどうぞ。


「てことは、サクヤは無能と言うより、スキルの修得が異常に遅い特殊体質ってことなのかもな」


「なるほど、それなら分からなくもない。難儀な体質だけどな」


 二人は、漸く疑念が晴れたようで、さっきまでのピリついた空気はもうどこにも無かった。

 俺のことは尾無しの猿人族で納得してくれたみたいだし、一件落着、かな?


「なら、サクヤ。四日じゃ足りなかったな」


「人の三倍遅いとしても、三倍努力すればいいってことだからな。良かったな! 希望が見えたな!」


「「というわけだから、追加でもう八日……」」


 命を燃やせ!

 俺の力が足りないというなら、命を削ってでも力に変えるんだ!

 今、躊躇したら、未来は無いぞ!!


 連日の修業の疲れなど吹き飛ばし、限界を超えて走った。

 ここで逃げられなければ、俺は死ぬものと本気で考えた。

 てゆーか、どこから出てきた()倍なんだよおおおおー!



「いや、流石に冗談だって。けど、これまでに無い、いい走りだな」


「ああ。遅いけどな。本当に鍛えがいのあるやつだったな」


 二人が追って来ていないことに気付かず、俺は無駄に全力の走りを披露していた。

 何はともあれ、本当にこれで修業の日々は終わったのだった。

 

 

朝に投稿した分を、何箇所か直しました。

「人生初のいじめっ子ルート」誤→正「人生初のいじめられっ子ルート」など、細かい部分です。


次話は明日投稿予定です。

申し訳ありませんが、時間は未定とさせてください。

ではでは、明日からも、よろしくお願いします!



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