第61話 双子ーズ・ブートキャンプ
本日もよろしくお願いします。
異世界生活十九日目。
ピエロの悪夢から目覚めた最悪の気分な朝。
俺を待っていたのは、絶望の一日だった。
「お早う、二人とも」
「「お早う、サクヤ」」
ここまではいい。爽やかだ。
「それじゃあ、乗合馬車に行こうか。時間は?」
「「必要無い」」
ここで初めて、違和感を覚えた。
昨日の時点でなら分かる。「時間を調べておく必要が無い」という意味だったなら。
だが、今日の時点でこの会話はおかしくないか?
「えっと……?」
「「必要無い」」
この時、俺は漸く、察したのだった。
その、不穏な空気を。
この時点ではまだ確証には至っていなかったのだが、とりあえず逃げておいた。
そんな俺を、地と空から、二人が襲った。
残念なことに、この瞬間になって漸く、確証に至ったのだった。
もう、手遅れだったのだが。
「……二人とも、何をしているのかな?」
「「お前が逃げるのが悪い」」
「なんて言いがかりだ! いいから一旦放してくれない? もう逃げないから、ね?」
「「嘘つきの目をしている」」
「ホント息ピッタリだな!?」
頭の中のピースが、漸くはまった気がした。 遅いって。俺の脳よ。
そうか、これを見越して、含めて、この二人は俺に「申し訳無い」「この先もよろしく」と言ってたわけか。
あと五分早く気付けていたら……それでも捕まっていた未来しか見えないのは、何故だろう?
「さあ、行こうか。サクヤ!」
「輝かしい、未来へ!!」
「地獄で鬼に囲まれている絶望の未来しか見えんなあ?」
「「ははは、違いねえ!」」
「笑い事じゃねーよ!!」
ズルズルと二人に引きずられて町の門を潜る俺を、不審そうに見つめる門番さん。
だが、結局止めることなく通してくれた。いや、助けてよ。
てゆーか不審者だよ? 通さないでよ。
そんな、俺の悲痛な心の叫びは、誰にも届くことは無かった――――
『ププーッ! 見事に騙されましたね! ゲラゲラゲラ!』
――――ただ一人を除いて、だが。
気付いてて言わなかったな、あの女神様。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おい、師匠?」
「「師匠に向かって、なんだ! その口の利き方は!」」
「ノリノリだな!?」
中心都市のグラベンダミトを出てから間もなく、当たり前のように街道から外れていく双子に、待ったをかけた。
もう、分かり切ってはいるのだが、最後の抵抗をしよう。
「ねえ? 俺の稽古って、終わったんじゃなかったの?」
「「修行の日々に終わりなど無い!」」
「かっこいいなあ。これで拉致犯じゃなければ、素直に受け入れられるんだけどなあ」
未だ、俺の両脇は二人によってガッチリとホールドされていた。
拉致だ。誘拐だ。
おまわりさん、こちらです、だ。
だが、助けは来ない。逃げられない。
俺に、もっと力があれば……!
強く、なりたい……!
「諦めろ、サクヤ」
「俺たちを超えてみせろ、サクヤ」
強くなるには、この二人の特訓を受けるしかない。
超えろ? 無理に決まってるだろ?
一日二日で達人になれるなら、この世は達人で溢れかえってる。
瓶の蓋が回せなかった主婦も、数日でホラ!この通り!なんてCMみたいなことも出来ちゃう。
あら~? 栓抜きが見当たらないわ~? じゃあ、手刀でいいかしら。 フンッ!
お帰りなさい、あなた。今日の夕食は、私が狩って来た猪の肉のステーキよ。 ハアッ!
そんな奥さん見たいか?
……見てみたい気もするなあ。
話が逸れた。俺の脳が、現実逃避を始めていたようだ。
ともかく、だ。 この修行という名を借りた虐待からは、逃げられないようだ。
諦めて、素直に受け入れるしかないか。
たった二日と覚悟を決めて、頑張るか……。
「今回は、なんと……」
「……四日コースです!」
これまでで、最高の動きが出来た。
教わったことをフルに活かし、全ての力を逃げることだけに注いだ。
▷それでも、今回も逃げられなかった。
「いいぞ、サクヤ! 今までで一番いい動きだった!」
「ありがとうございます! サー、イェッサー!」
「だが、まだまだ初速が遅すぎる! それじゃあ亀の方がいくらか速いぞ!」
「すみません! サー、イエッサー!」
段々、二人との掛け合いも良くなってきた。
師弟の絆ってやつかな? へへっ!
壊れてる? 誰が?
俺は至って正常だが?
……いや、嘘です。タスケテー、ダレカー!
そうだ、アルル様!?
このままではアルル様の予定が狂ってしまいます!
こいつら、四日コースとか巫山戯たこと言ってるんで、天罰下してやってください!
神のプランを狂わせようなんて、罰当たりもいいとこですよねえ!?
『アーッハッハッハッ! あー、面白い! 笑えるから、許可します。四日で足りなければ、もっとやっててもいいですよー』
神は死んだ。
うん、期待した俺が馬鹿でした。
これ知っててスルーしてたんだもんね、この神様。
頼る相手を間違えました。
『まあ、神に対して何たる無礼な態度!? これは天罰が必要ですね。この修行で遅れた分は、不眠不休で走らせましょうかね?』
「理不尽にもほどがある! 解せぬ! 解せぬよ!?」
「はあ? 急に何言ってんだ?」
「ついに壊れたか? 思ってたより早かったな」
つーか、不眠不休で走らせる方が効率悪くて遅くなるでしょ?
海もあるんだから、そこは泳げとでも?
あと、二人にはアルル様の声、聞こえてないから、そこはゴメン。
だが、壊れかねないって前もって分かってるなら、もう少し優しく――――
――――ええい! ツッコミが追い付かんわ!
『楽しそうですね。充実しているようで、何より。転生させた甲斐があるってもんです』
「節穴!?」
「おい、誰が節穴だ!? 修業の量、増やしてやろうか?」
「とばっちり!?」
「まあまあ。サクヤも、修業が楽しみ過ぎて、舞い上がってるんだって。八割り増しくらいで許してやろうぜ?」
「こっちも節穴!? そんで増量分多いわー!!」
久し振りに、混沌だ。
てゆーか、俺、気付いちゃった。
これ、マジモンのいじめじゃね?
あれ? 人生初のいじめられっ子ルートなのか?
しかも、人と神様からっていうレアケース?
そんな困惑する俺に、現実は容赦無かった。
二人とも揶揄い飽きたのかな? ついに、修業後半戦の火蓋が切られたのだ。
「さあ、行こうぜ?」
「ピリオドの向こう側へ!」
「意味が分から……ぎやああああーー!!」
ここから四日間、俺は、自分の行いを後悔し続けることになった。
「俺に稽古をつけてくれないかな?」
「少しでも強くなりたいんだ」
「俺に才能が無いのは分かったんだけど、それでも、俺を鍛えてはくれないだろうか」
「それでも、諦めたくはないんだ」
そんなことを軽々しく言っていた過去の俺を抹殺したい。
そんなことしたら今の俺も消えるのだが、そんなことすら忘れるほどに、修業に明け暮れた。
師匠である二人の動きも色々と見ることも出来た。 深夜の就寝中でも気配を見逃さない、とかな。
もちろん、逃げ出す俺の。
…………
――――そうして、四日後。
異世界生活二十二日目。
「……これで、教えられることは全て教えた」
「……もう、俺らに出来ることは、何も無い」
「はい。ありがとうございました、師匠」
傾き始めた太陽を背にした二人を前に、拳を合わせて敬礼する。
四日間の移動で近付いたセシウェルの町のすぐ近くで、修業の終わりを告げられた。
最初は稽古だったのが、気付けば特訓を経て、修業になっていた。それがランクアップなのかは分からない。
だが、この四日間で得られたものは、大きい。
「サクヤ、師匠として、最後に言わなければなるまい!」
「この四日間、いや、六日間、よく頑張ったな!」
「痛みに耐えて、よく頑張った! 感動した!」
「ナン〇ーワンにならなくてもいい。もともと特別なオン〇ーワン!」
ありがとう、師匠。
だが、何故そのネタを知っている?
フレイの「感動した!」は未だしも、フレイヤのそれは言いたいだけだろ?
まあ、いい。これで、修業は終わったのだから。
「そしてサクヤ。もう一つ、告げよう!」
「やっぱりお前、才能無い、無さ過ぎるわ! ここまでとは、驚いたぞ!」
「……ふふっ。ならば、死ねええええ!!」
彼らから学んだ全てを使い、彼らに襲い掛かる。
ウプス! ゴヘエ! ボゥエ!!
だが、三秒で地に沈んだ。
……ねえ、今、三発も攻撃する必要あった? 君らなら一発で済むでしょ?
おい師匠、コラぁ?
サブタイトルが古い? 何も聞こえなーい!
今日は、もう一話投稿します。
20~22時頃の予定です。




