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第60話 グラベンダミト③

本日三本目です。

よろしくお願いします。


 飲食店街を出て、次に向かうは見世物小屋。

 現代日本のような凄いマジックショーとかサーカスを期待してると、幻滅するだろう。

 そう思って、心のハードルは下げておいた。


 だが……


「おお! スゲー!」


 現代日本とは違い、規制が緩い。

 魔法もあるから、結構何でもアリ。

 それは、つまり……


「本物の、空中サーカスだー!」


 そう、夢の国、ここに現る。


 心のハードルなんて下げておく必要無かった。

 マジックショーさながらな魔法、いや、本物の魔法(マジック)が駆使され、会場の舞台上もその上空も人と物で溢れていた。



 人、人、人。


 火、水、光、闇。


 玉、ロープ、的、ナイフ。



 なんか中二病の子のノートの中身みたくなったけど、とにかく全てが浮かんでいた。

 人も、火や水の球も、道具も、何もかも。


 こちらの人々にとっては、魔法自体は珍しくないだろう。

 だから、宙に浮く火の球や水の球、光の塊にブラックホールのような暗い空間が見どころなわけではない。

 それらを駆使したショー、つまり、息の合った演技でもって行うことこそが見どころなのだ、と思う。



 ショーが始まると、そこには夢の世界の光景が広がった。


 空を舞う、火のペガサス、水の巨象、光のクジラ、闇の龍。


 舞台上は、一瞬で星空になり、海中へと変わり、光に包まれ、神秘的な森へと変わっていく。


 空を飛ぶ人々が手を取り合うと、その姿は小妖精へと変わり、観客の間近を優雅に舞って行った。



 宙を舞う火の玉が変形し、火炎の輪となり。

 そこを、水の球が変身した巨大な蛇が潜り抜け。

 分裂した火と水のリングが交互に繋がり合い、ぶつかり合い、いくつもの虹を作った。


 光と闇の球体が惹かれ合い、回転しながら離れて、くっ付いてを繰り返し。

 そこから生まれ出た光の子供と闇の子供がダンスを始め。

 お互いの体をぶつけ合って徐々に弾け、最後はお互いの全てをぶつけ合って、俺が見たこともない色の虹を残して消えていった。


 ナイフ投げも、人体切断も、俺の知るマジックとは次元が違った。

 まるでCGのように、投げたナイフがピエロのような人の体を次々貫き、徐々に細切れにしていく。

 千切れた体の破片は、動物や花へと変わっていき、最後はピエロの頭部と動物たちが、花畑で和気あいあいとしているかの如き光景が――――




 ――――いや、最後のはどうなんだ?

 きっと、ファンタジーでメルヘンな世界を演出したかったのだろうが、流石に笑うピエロの生首は受け入れられなかった。

 急に冷静になっちゃったじゃないか。


 それは置いておいて、夢のような時間を堪能して、二人とともに見世物小屋を後にした。

 一部悪夢だけど。

 子供の頃にアメリカのホラー映画を見た時のように、夢に出てきそうだ。あの生首。

 なんで誰も何も言わないの? 子供も見に来てたのに、絶対トラウマになるでしょ?

 映画「イ〇ト」だって、社会現象になるほどにトラウマを残したってネットで見たぞ?

 大丈夫なのか、子供たち。


 なんだか後味の悪い気分で他の娯楽施設も回ったが、舞台や劇、アミューズメント施設のようなものはあるものの、アレを見た後では入りたいとまでは思えなかった。

 おのれ、イッ〇。


 歓楽街にはもちろん近寄れず、あとは魔法のアイテムの展示をしている博物館のような場所を少し見て、娯楽街には別れを告げた。


「ここの名物と言えば、あのショーだからな。あの首はともかく」


「特に子供とか若者向けなのは、あのショーぐらいだからな。あの首はともかく」


「だよね!? だよね!?」


 やっぱり皆、トラウマなようだ。そうして皆、大人になっていく。

 てゆーか、皆がそう思ってるなら、止めたらいいのに。

 あそこまでやったんなら、首も妖精にでも変身させたら完璧でしょ、どう考えても。


「あそこの総支配人の拘りらしくて、頑として変えないんだとよ」


「なんて迷惑な……」


「しかも総支配人は長寿のドワーフだから、永遠にあのままかもな」


「なんて迷惑な!」


 ファンタジーの希望、ドワーフの名をこんな形で聞くことになろうとは。

 この世界のドワーフは、残念種族だったようです。

 なんか、ラノベのタイトルっぽくなったよ。

 誰かこれで、一本書いてほしい。


「長寿と言えば話は変わるけど、エルフって知ってる?」


 唐突だが、ドワ-フとセットで出てくる有名種族なので、聞いてみた。

 異世界だし、是非いてほしい。


「知ってるぞ。超長寿の亜人族だろ?」


 よっしゃー!

 思わずガッツポーズを取った俺を、二人とも不審がってはいたが、触れないでおいてくれた。

 二人の優しさがありがたい。


 だが、その後に続いたのは、俺の予期せぬ言葉だった。


「あいつらは……変わり者過ぎて、一生関わり合いたくは無いよな」


「そうそう。関わるだけ、こっちが損しそうだしな。あっちからも関わって来ないから別にいいんだけどさ」


 おやあ? この世界のエルフは不人気なのか?

 何故かと聞いてみたかったが、それより先に、二人からの追加情報が齎された。


「美人だけど、オッパイ小さいし」


「美人だけど、オッパイ小さいし」


「何でそこはハモらないんだよ!?」


「「大事なことなので二回言いました」」


「そこはハモるんだ!? 凄いね、君たち!」


 まるで芸人のネタでも見ているかのような展開で、エルフのことを詳しく聞きたかったのが、頭から抜け落ちてしまう。

 俺の中に残ったエルフ情報は、「美人だけどオッパイ小さい」だけとなったのだった。

 男性エルフの情報は皆無じゃないか。


「さて、この後はどうするよ?」


「もう遅い時間だし、一泊してからセシウェルに向かうんだろ?」


 二人の提案に、エルフのことは一旦忘れ、これからの予定を決めることになった。

 とは言っても、この町は二人のお陰で十分に堪能出来たのだし、二人の提案通りで問題は無かった。


「そうだね。二人が良ければ、明日の朝に出発しようか」


「おう。俺らは構わんよ? この町にはいつでも来られるしな」


「そうそう。サクヤ次第でいいぜ!」


 そうして、明日の予定もサックリと決まった。

 そこで、一つ気になったことを質問をした。


「乗合馬車の時間って、確認しておいた方がいいよね?」


 二人は顔を見合わせると、素敵な笑顔で答えてくれた。


「「大丈夫! ()()()()!」」


 俺は、二人を信じていた。

 そう、妄信していたのだ。

 それが、あんな結果を齎そうとは。


 二人と夕食も一緒に楽しんだ後、俺は宿で眠りに就いた。

 明日もいい一日になりますようにと願って。



 その先行きが曇っていることを告げるかの如く、案の定、ピエロの悪夢が俺を襲ったのだった。



今日はいっぱい投稿したナー。

暇人ですが、なにか?


お読みいただき、ありがとうございます。

作中に登場する元服・成人につきましては、本作では十五歳とさせていただきました。

元服の意味としては違うかもしれませんが、ご了承ください。


なお、料理名や町の名前などは、ほとんどは特に意味はありません。

大体はテキトーなので、万が一該当する外国語があったらごめんなさい。


次話は、明日6月7日に投稿します。

時間は未定となりますので、ご了承いただけると助かります。

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