第4話 チートアイテム……?
知性を持つアイテム。ゲームでもメジャーな存在だ。
一般的にそれらは、インテリジェンスアイテムなどと呼ばれる。
長い年月を経たアイテムが自我を持つに至ったもの、アイテムに意識体が宿ったもの、最初からインテリジェンスアイテムとして生み出されたもの、など出自は様々だろう。
だが、今現在俺の手の中にある《喋る本》は、そのどれも当てはまらなかった。
なんと説明すべきか。何故そう思うかというと、このアイテムから聞こえてくる声には聞き覚えがあったからだ。
前世の知り合い?
前前世の宿命の相手?
前前前世の運命の人??
いえ、さっき会ったばかりの方です。
「……女神、アルル様?」
『さあ、なんのことでしょう? 私は超絶美少女型アイテム《全知全能の図鑑》に宿る意志です』
この感じは間違いなく女神様だろう。転生直前まで話していたから分かる。
本型なのに美少女型とか意味不明なこと言ってるあたりが、そっくりだ。
『まあ、失礼ですね。神に向かって無礼です。天罰を与えます。あなたは地獄行きです』
「やっぱり!」
そして相変わらず読心出来るわけで。
たいへん失礼いたしましたー。
『微妙に心がこもっていないですが、まあいいでしょう。無事転生できたようで、おめでとうございます。新しい世界はいかがですか?』
「まだ何もしていないので分かりません」
転生後もサポートしてくれるって、こういうことだったのか。
この本、インテリジェンスアイテムというより通信機と言った方がしっくりくるな。
「ですが、生きていることの素晴らしさは感じられた気がします」
『そうでしょう。なにせ、あんなに涙を流して喜ぶほどで……いえ、今のは忘れてください』
「見てたんですか!?」
『マ、マサカー。あなたが黒歴史として記憶の片隅へ封印するようなことを、盗み見てるわけがないじゃないですかー』
「ばっちり見てた上に、心の声まで聞こえてたんですね……ってことは、魔法の鞄に手古摺ってたのも見てたんですね。なら、もっと早く助けてくださいよ」
『甘えてはいけません。サポートするとは言いましたが、基本的には自分で考えて行動してもらわないと。何時如何なる時でも助けられるというわけではないのですよ』
きっと、二十四時間三百六十五日見てはいるのだろうけど。こっちの世界の時間の流れは、二十四時間三百六十五日と違うか?
そう心の中で思っていたら、不自然で芝居掛かった口笛が聞こえてきたので、何時如何なる時でも見ているのは図星なのだろう。
「それで女神様? これらのアイテムは、女神様が持たせてくださったんですよね? ありがとうございます」
話を切り替え、お礼と確認に移る。
『いえいえ、どういたしまして。それより、敬語なんていいので気楽に話していいですよ。私のことも女神様でなく、気軽にアルルと呼んでください』
「え……流石に神様に対してそれは……」
『だって、この先に街中で本に向かって「女神しゃま~」なんて話しかけていたら、怪しいでしょう?』
「本に話しかけてる時点でヤヴァイですけどね。あと、そんな情けない喋り方してませんから」
『まあいきなりは無理でしょうから、徐々に砕けていってもらえばいいですよ。私はそれで構いませんし、失礼があっても死後に地獄で苦役を与える程度で許してあげますから』
「これからも敬語で宜しくお願い致します、女神様!」
どんどん話が脱線している気がする。
『ふふふ、冗談です。まあ、あなたが話しやすいように、でいいです。ですが呼び名は、人前で下手に女神女神と言うのはよろしくないので。アルルであれば、神の名とは気付かれないでしょう』
なるほど、確かにそうだ。
どこの世界でも、人前で神様神様言っている人はヤバそうだもんね。
「そういえばこの世界にも宗教はあるんですか? 例えば女神教とかアルル教みたいな」
『ピンポイントで私を信仰しているようなものはありませんね。私は人々にとっては、あまり有名ではない神ですので。あなたの元いた世界ほど大規模ではありませんが、地域や土地ごとに信仰はあります。崇拝する神は違えど世界中何処にでも大なり小なり、ね。時代によっても変化しています』
「んー、それじゃあまあ、アルル様と呼んでいた方が良さそうですね」
宗教なんて授業で習った程度しか分からないのだが、神様に関することは神様が言う通りにしていて間違いはないだろう。
『むぅー。呼び捨てで構わないのですが……まあ、それで妥協しましょう』
「はい。それではアルル様、お聞きしたいのですが」
女神様改め、アルル様に本題を切り出す。
雑談になってしまっていたが、それよりも魔法の鞄の中身について聞きたいことが山ほどあったのだ。
アイテムは、地球から持って来たものとアルル様から貰ったものの二種類がある。
それから暫くアルル様と問答を交わし、その結果、地球産のアイテムには変化は無いということが分かった。強いて言うなら名称が変わっているが、こちら視点での名称に変更されているそうだ。
例えば「異世界の教本(高校テキスト)」なら、こちらの世界からみたら「異世界の教本」。
「高校テキスト」の部分は、アルル様が俺に分かりやすいようにサービスで付けてくれたのだそうだ。
なので、この時代の技術目線では、現代日本のノートやプリント教材は「上質紙」となり、未知の物質で作られた筆入れ、筆記用具、スマートフォンなどは当てはまる名称が無いため、「???」と表示されていたのだ。
因みに財布は、辛うじて革製品と認識されるらしい。
スマホが魔法アイテムに変化していたり、スマホ操作で魔法が使えるようになっていたりとラノベや漫画のような展開にはならなかったようだ。
そして次に、アルル様がくれた謎多き品々についてだ。
先ずは《全知全能の図鑑》だが――
「これは、アルル様との通信機のようなものってことですか?」
『それは機能の一つですね。その他にも、条件を満たせば様々な情報が閲覧可能になります。試しに、一ページ目を見てみてください』
言われた通り開いてみると、そこには初めてとなる白紙以外のページがあった。
最初に開いた時には一ページ目も全て白紙だったから、条件が満たされて閲覧可能になったということか。
そこに記された内容は――
《女神アルル:超絶美少女な女神。その姿を見たものは、あまりの美しさと神々しさに昇天するとかしないとか。彼の者、才色兼備、眉目秀麗、品行方正、文武両道、清廉潔白――――》
――パタン、と本を閉じる。
『ちょっと、最後まで読んでくださいよー。神の情報が読めるなんて滅茶苦茶“チート”なんですよ?』
「どこがですか。チート要素ありませんでしたし、自画自賛の内容しかありませんでしたけど?」
紹介文が、恋愛漫画の生徒会長ヒロインみたいになっていたし。
それより、神なのに清廉潔白って紹介はどうなの?
まさかこのアイテム、あんまり役に立たないんじゃ……
『失礼な。万物を記す神の書物ですよ。あなたが閲覧条件を満たしさえすれば、その名の通りいずれ《全知全能》を記したものになる……かも知れませんよ?』
本当かなぁ? 一つ目がアレだったから不安なんですが。
確かにそう聞くとチートアイテムには違いないんだろうけど、なんだかなあ。
『他にも機能はありますが、使用していくうちに徐々に覚えるでしょう。さっきも言いましたが、何から何まで教えてしまってはつまらな……あなたのためになりませんので。ご自分で試行錯誤するのも大切なことですよ』
本音が出かけてましたね?
「じゃあ、次は、えーっと」
『いえ、説明はこの辺で』
「え?」
確かに、自分で試行錯誤してと言われたばかりだったな。でも、もう少し色々と教えてもらいたかった。
そういうことかと察していたのだが、どうやら、そういうことではなかったらしい。
『アイテムの説明は後でちゃんとします。それより、そろそろ移動しましょうか?』
「移動……ですか?」
意味がよく分からず首を傾げていると、アルル様が少し呆れたような声で――
『このまま説明していると、転生初日から野宿ですが? それでもよろしいですか?』
――そう告げたのだった。




