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第48話 とある再登場とトラウマの再構築

本日二回目の投稿です。

よろしくお願いします。


「これ、美味しそうだね」


 もう日も暮れかけだったが、町の散策を開始して、目に付くものを二人で話題にして楽しんでいく。

 今更ながら、九歳児の友達ってのも、どうなんだろ?

 関係は友達でも、少し歳の離れた妹だと思うことにする。その方が、素直に楽しめそうだ。


「サク! あれも美味しそうだよ!」


 相変わらず、食欲優先だ。

 立ち並ぶ装飾品の露店には目もくれず、食べ物屋台だけにロックオンしているようだ。


「あ! あれは?」


 ……次も、やっぱり食べ物だった。

 この子の将来が、少し心配になる。


 とは思いつつも、適当に買いながら食べ歩きする。

 異世界の料理は全体的に薄味だが、素材の味が活きてて、俺は結構好きだ。

 商人さんと三人で会食も控えているので、ほどほどにと注意しつつ、通りを進んで行く。


「あれ? これって……」


 ふと、とある屋台が目に入り、足を止めた。

 それに気付いて、シュリも足を止める。


「兄さん、いらっしゃい! どうだい、食べるかい?」


 それは、前にバーバムでも食べたものだった。

 確か……そう、()()()()()って言ったっけ?


「すまんが、あと二本しか用意してなくてな。材料から捌けば用意出来るんだが、とりあえずこれ食って待っててくれるか?」


 そう言って、屋台の主が、焼きあがった串焼きを差し出してきた。

 まだ買うとも捌いてくださいとも言ってなかったんだが、せっかちな人だな。

 だが、ちょっとだけ懐かしいものなので、受け取ってシュリと食べることにした。


「これ、なぁに?」


「これはね……」


 そんなシュリの疑問に、自分に聞いたのかと思った俺と屋台の主が、同時に答えた。


「アカアレ・チキンドリって言うんだよ」

「アカアレチ・キンドリの串焼きだぜ、お嬢ちゃん」


 ……ん? 今、何か違和感が……


「アカア……?」


「そう、アカアレ・チキンドリ」

「そう、アカアレチ・キンドリ」


「アカアレ?」


「そう」

「違う」


 うん? 何が違うんだ?

 そう思って屋台の主を見やると、彼は、はっきりと言い放った。


「アカアレじゃなく、アカアレチ・キンドリだぞ? キンドリ!」


 その説明に、シュリは「ふーん」と言って、串焼きを食べ始めた。

 一方俺は、衝撃を受けて、串焼きを持ったままポカンとしていた。


「これ、チキンドリって言うんじゃないんですか?」


「はあ? それだとチキンと鳥で意味がダブってんじゃねえか。キンドリだって。割とメジャーな食いもんだろ?」


 果たして翻訳スキルでどう訳されているのか分からないが、チキンと鳥が同じ意味だな、とは俺も思っていた。

 だが、区切るところが違っていたようだ。それなら合点もいくな。


「なるほど、赤・荒地・キンドリなんですね。知りませんでした。でも、赤荒地はともかく、キンドリって何ですか? 金の鳥?」


「はあ? 兄さん、相当田舎もんかい? キンドリってのは、金を盗むって意味だよ。金盗り、だ」


「金盗り?」


「そう。金鉱山でよく見かけるらしくて、金を盗みに来たんじゃないかってんで、そんな呼び名らしいぜ。実際は盗まねえけどな。」


 なんて一方的な偏見だ。可哀想に、金盗り。

 だが、疑問も生じた。そんなところに生息するものだろうか?


「でも、何で鉱山なんかに、そんなに()が?」


「いや、だから、鳥じゃねえって。名前の誤解に引っ張られてんぞ?」


 店主さんは、そう言い残すと、屋台の陰の荷物の方へ、何かを取りに行った。

 そうして、これから捌くのであろう()()を、俺たちにも見せてくれた。


 ……見せてしまった。


「ほら、これだ。この()()()みてーなのが、金盗りだ」


 ……背筋に、首筋に、腹の中に、足の先から頭の先までヒヤリとしたものが走る。

 じっとりと冷や汗が流れ出す。

 肩口の傷が熱を持ち、痛みが戻って来た気がする。

 現実とは違う場所へと引っ張られて行き……


 ……要するに、トラウマ直撃だった。

 串焼きを持ったまま、硬直する。


「これ、捌きたてだと、また美味いんだぜ? 待ってろ、今捌いて……」


「モッ、モンスター!?」


「何!? 何処だ!?」

「えっ!? 嘘でしょ!?」

「そ、そんな馬鹿な!?」

「ここ、街中よ!?」


 たまたま通りかかった通行人の一部が、辺りを見回してザワザワとする。

 暫し時が止まったかのように緊張が走る……が、何も起きなかったためか、通行人も呆れた顔をして、元の通りに歩いて行った。

 「何だ、イタズラか」「人騒がせな」と文句を言いながら去っていく人々。

 だが、こちらは冗談でも何でもない。


「……兄さん? 何の冗談だ? 何も居ねえじゃねえか……」


「そ、その手に持ってるの……」


「あァ? これが何だよ? 普通のキンドリじゃねえ……か……って、まさか、これをモンスターだと思ったのかい?」


 その問いに、全力で頭を縦に振る。

 店主さんは、はあっ、と溜息をつき、呆れ顔で頭を掻いた。


「あのな? これの何処がモンスターなんだよ? ただのトカゲ、キンドリだろうが。冗談が過ぎると、営業妨害で保安官呼ぶぞ?」


「で、でも、同じ姿で……」


「あァ?」


 かくかくしかじか。

 この町の外で、モンスターと遭遇した時の話をして説明する。

 俺の目には、どう見てもモンスターと同じ姿にしか見えなかったのだが。

 すると、店主さんがさらに呆れた表情をした。


「なるほど、モンスターに襲われた恐怖で、コイツもモンスターに見えたってわけか? だがよ、あいつらは()()が違うだろうが。こいつを見て、そんなもん感じるか?」


「空気?」


『咲也さん。後で説明しますので、その辺で』


 突如、アルル様の声が聞こえた。

 背中のバックパックの図鑑からだ。


 アルル様が声を掛けてきたってことは、こちらの世界の()()()があるってことだろう。

 これ以上は話していても、この店主さんの邪魔になるか。


「すみません、何でもないです。騒がせて、申し訳ありませんでした」


「お、おう? まあ、そっちがいいならいいけどな? そんで、どうするんだ? コレ捌くけど、食っていくか?」


 そう言われて店主さんの持つキンドリを見るが、最早恐怖感しか湧かなかった。食欲どころではない。

 二本分の料金を払って頭を下げ、屋台の前を後にする。


 俺たちが去った直後、そちらの方から、ダンッ!と包丁を振り下ろしたと思われる音がした。

 俺は振り返らず、そのまま前だけを見ていた。


 ……っと、シュリは!?


 あまりのことにシュリの存在が頭から抜けていたのだが、ふと横を振り向くと、何事も無かったようにシュリが俺を見上げていた。


「ご、ごめん。急なことで、驚かせたよね?」


「ううん? サクが急に叫び出すのはいつものことだから、慣れてるよ?」


 ……それもどうなのかなーと、急に冷静になる。

 そのお陰でトラウマからは脱したが、テンションが下がったままなのは変わらない。

 俺、そんなに奇人変人に見られてんの……?


 そういえば今更だが、俺が手に持っていた串焼きが無いな?

 さっきの騒ぎで、落としてしまったか?


「も、もしかして、串焼き探してるの? さっき、ポロッと手から落としてたから、キャッチしておいたよ? ……ごめんなさい。なんか食べそうにない雰囲気だったから、勝手に食べちゃった」


 ……シュリ?

 ポロっと落したところを見てて、すぐに空中でキャッチしたってことは、さては食べたくて狙ってたな?

 そんで、黙って食べたって、流石にそれは駄目だよ。マナーを教えるためにも、そこは叱っておいた。

 まあ、多分食べれなかったとは思うけど、それはそれ、これはこれ。


 そんなひと騒ぎもあったが、気を取り直して、シュリとの食べ歩きを続けた。

 食欲は減退したが、良く考えればキンドリとやらに罪は無い。俺の食わず嫌いだ。

 申し訳無いことをしたと心の中で謝罪し、次はちゃんと食べるから、と付け加えた。

 カントローの時に続いて、またも「結局食うのかよー」と言われそうだな。


 そんなことも考えつつも、シュリとの最後の時間は、楽しく過ぎていった。



  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 で、空気って何ですか、アルル様?


 シュリがトイレに行っている間に、さっきのことを心の声で尋ねてみた。

 俺の目には同じような姿にしか見えなかったので、気になっている。


『あなたが魂だった時にも説明しましたよね。こちらの世界には魔法やスキルがあり、()()がある、と』


 はい、覚えてます。

 簡単にではありましたが、そこら中にマナというのがあって、それを使って魔法などを使う、とか。


『はい、良く出来ました、と一応褒めておきましょう』


 一応、は言わなくてもいいんじゃ?

 確かに雑な答えではありましたが。


『それで、例の話ですが、モンスターというのはマナ、所謂“魔力”というものを大量に纏っている存在なんですよ。こちらの世界の人たちはマナがあるのが当たり前の環境で進化し、育ってきているので。身に纏う量の違いなどは、感じ取ることが出来るわけです。もう、お分かりですね?』


 なるほど。それで、空気と言ったわけか。

 マナを大量に纏っている生物を見れば、それがモンスターだと気付ける、と。

 もしかしたら、二号さんがいち早く発見してたのも、その辺が関係しているのかも。


 だけど、同じような見た目だと、区別出来ない人もいるのでは?

 死んだあとなら、なおさら。


『マナは死んでも急には減りませんから。それと、ここからは長くなるので割愛しますが、マナの量の違いは死後の体にも違いを生むので、間違えることは無いでしょうね』


 ううむ……? 分かったような、分からないような……?

 やっぱり世界が違うと、分からないことも多いのかなあ。


『まあ、いずれ咲也さんにも違いが分かるようにしてさし上げますから。焦らず、待っていてください』


 してさし上げますって、ちょっと怖いんですけど。

 そう思っていると、シュリがトイレから戻って来た。


「サク、お待たせ」


「よし。それじゃあ、行こうか」


 アルル様との話は終え、再びシュリと歩き出した。


 もうすぐ、シュリとは別れることになる。

 独りになって時間が出来たら、またアルル様に色々と教えてもらえるようにお願いしよう。


 俺は、この世界のことをもっと知らなきゃならない。

 旅をさせてくれるアルル様のためももちろんだが、無知なせいでシュリのような友達が出来た時に恥をかかせるわけにいかないから。

 そして、無力なせいで、その友達を危険な目に遭わせたくはないし、守れるものなら守ってあげたいから。

 このトラウマだって、克服しなければ。


 今はまだ、自分の身すら守れないけど、ここはファンタジーな異世界なんだ。

 努力して、少しでも強くなりたい。


 無邪気に笑うシュリを見て、俺の心にそんな気持ちが生まれていた。

 俺の異世界生活も、もう二週間が経過しようとしている。

 ほんの少しずつではあるけれど、目標のようなものが見え始めていた。



 ――――この時の俺には、本当は何も見えてなどいなかったのに。



次話で、シュリとはお別れです。

そして、物語の最初の区切りでもあります。

ここは、丁寧に仕上げたいところ。誰か、俺に、才能を貸して……!


いやまあ、今ある実力で出来得る限り頑張りますので、もう少しお付き合いください。


次話の投稿は、5月23日の21~22時頃になります。

よろしくお願いします。

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