表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/444

第45話 シュリの向かう先①

朝は前倒し出来んかった……ガクリ。

悔しいので、昼(休み)に頑張りました。

頑張る意味はあまり無いけども。


本日もよろしくお願いします。



「それじゃあ、行こうかね」


 商人さんの馬車に乗り込み、港町から出立する。

 シュリは特等席である商人さんの膝の上に座り、ケガ人扱いの俺は、荷台の木箱の隙間にワラと布を敷いて横になった。

 商人さんは俺が同行することを見越して、荷積みの時点でこのスペースを空けていてくれたらしい。流石と言わざるを得ない。

 正直、積まれた荷物が崩れたら潰されそうで怖いんだが、それは言わないでおこう。


 門を潜って町から出ると、荷台にいる俺の目にも街道が映り込んだ。

 ヴィアジルドから来るときに一度は通った道のりだが、往路とは全く違って見える。


 理由は二つ。

 一つは言わずもがな、モンスターに襲われて死にかけたからだ。

 今通っている場所も、こんなに穏やかに移動していることが非現実的に感じられる。

 往路で、ここは衛兵さんや傭兵さんたちに守られながら歩いたっけ。

 暫し進んだ先、ここではまさに、モンスターに覆い被さられていた。

 その時の記憶が未だ鮮明に蘇る。


 その記憶に、背筋に、首筋に、腹の中に、足の先から頭の先までヒヤリとしたものが走る。

 じっとりと冷や汗が流れ出す。

 肩口の傷が熱を持ち、痛みが戻って来た気がする。

 現実とは違う場所へと引っ張られて行き……


 ……だが、思いがけない声で現実に引き戻され、トラウマの世界から脱出することが出来た。


(そういえば、まだ説明してもらってなかったワネ。なかなか二人っきりって、なれないものネ?)


 狙い澄ましたかのようなタイミングの二号さん。

 間違いなく俺を気遣ってこのタイミングにしたわけではないだろうが、救われたよ。

 セリフだけ聞いたら秘密の関係を持つ男女みたいだが、実際は人と馬だ。



 ……ああ、違う。こんなタイミング良く偶然が起きる時。それはきっと、あの()()()な女神様が、表立っては見せない優しさでもって、気遣ってくれた時ではないかと思える。

 二号さんが、ふと思い出すようにきっかけでも与えてくれた、とか?


『な、何を、言っているんですか? ……いえ、その、まあ……怖い思いをさせましたから。 このくらいは、ね?』


 やっぱり。何日も見守っていてもらったせいか、少しずつではあるが、分かってきた気がする。


『神を理解した気になるとは、随分と偉くなりましたね。そんな偉い方には、馬車ではなくリムジンでもお贈りし……』


 今も、そうだ。

 俺が、()()()()()()()()()()()()()()恐怖の残る区間。

 垣間見える地形の特徴や、不気味にへこんだ地面の跡。


 それらにトラウマが刺激されないように、揶揄うフリをして、話しかけてくれている。

 結局気付いたから、トラウマは刺激されているけど、大丈夫。

 まだまだ怖いのは怖いけど、見守っててくれるひと(神様)がいると知っているから、大丈夫。


『……まったく、本当に成長してきたみたいですね』


 ……多分。


『そこで絶対、と言い切れない辺り、まだまだです。これは、今後も()()()が必要ですね』


 その言葉に可笑しさを感じ、クスクスと笑っていると、商人さんとシュリが不思議がって「どうした?」と声を掛けてくれた。

 いずれ別れが来るにしても、この人たちとだって確かに絆を紡げているはずだ。それは()()()()()()()()()だろう。

 不安になったとしても、それがあれば大丈夫だと思えるさ。

 きっと。


『…………』


 さて、話は戻って、もう一つの理由。

 それは、往路と違って、馬車は一台だけじゃないからだ。

 心象風景ではなく、実際に大きく異なっていた。

 俺がいる馬車の前後にも他の商人の馬車がいて、隊列の周りに護衛の人たちが付き添ってくれている。


「よう、坊主! さっきは大変だったなあ!」


 俺たちの馬車の近くを並走していた傭兵さんが、声を掛けてくれた。

 二号さんとも違う、足の長い牛のような動物に乗っているその姿は、異世界人の俺には奇妙に思える。

 まるで、人が入った獅子舞にでも乗っているかのようだ。


「おい、聞いてるのか? 大丈夫か、お前?」


「あ、はい。大丈夫です。まだ少し怖いってのはありますけど、皆さんがいてくれるので、安心です」


 あの時はパニックを起こしていたからか、この人の顔に見覚えは無い。

 けれど、あの討伐の時に駆け付けてくれた傭兵の一人らしく、俺のことを覚えていてくれたそうだ。

 お礼を言って、例のモンスターについて少し話をする。


「まあ、今の戦力なら、モンスターの一匹二匹なら後れは取らねえから、安心しろよ!」


 豪快に笑う傭兵さんに心強さを感じ、本当に安心することが出来た。

 きっとこの人も、俺を不安にさせないように声を掛けてくれたんだろう。

 一匹二匹とか言ってると何匹も出るフラグになりかねないから、そこは止めてほしいんだけれども。

 でも、ありがたい。


「それによお、お前にゃ悪いが、こうして仕事も得られて助かってるしな!」


 ――――後々商人さんから教えてもらったのだが、港でモンスターの危険性を話していたのが、この傭兵さんを始めとした何人かだったらしい。

 彼らは港での警備業務が終わると手すきになり、それぞれに次の契約相手を探す必要があったため、纏まって護衛の仕事に就けて、しかも中心都市という先の仕事を探しやすい町までついでに移動出来るチャンスを見逃さなかったのだそうだ。

 その恐ろしさを語って不安感を煽り、中には護衛代をケチって積み荷と自分の命を危険に晒すのかと脅し文句にも取れることを言った輩もいたらしい。なんて酷い営業マンだろう。

 そうでもしないと仕事にありつけないのか、この世界の傭兵さんたちは。


「いやあ、良かったですねー」


 この時点ではそんなことは露も知らず、俺は純粋に傭兵さんの就業を喜んでいたのだった。

 因みにうちの商人さんを始めとした熟練の猛者たちは、そこまで読めていたので、裏で色々と働きかけて、護衛代を()()()値引きさせたのだそうだ。

 「色々と」の内容は、俺にはまだ早い気がするので、突っ込んで聞かずにおいた。

 大人の世界だなあ。


 その傭兵さんも、暫くするとローテーションのために違う位置へと移動して行った。

 また別の傭兵さんが近くに来たが、暇なのか、どの人もうちの馬車の真横につけて話しかけてくるのだ。


 モンスターの討伐に駆け付けた人は俺に声を掛けてくれるのだが、そうではない人たちは、何故かシュリの方に話しかけていた。

 最初は商人さんに話しかけるついでで、シュリにも声を掛けているものと思っていた。

 だが、明らかに一言目に「シュリちゃん」と名前を呼んでいる人もいたため、不思議に思い、隙を見付けて商人さんに聞いてみることにした。


「いやあ、それがね? 港で仕事している最中、流石に荷積みは手伝えないから、その間シュリちゃんは手が空くでしょ? それで、ちょっとしたところに手が欲しい商人がいれば手伝ってみたり、待機中で暇な衛兵傭兵の時間潰しに付き合って話をしたり、それ以外の関係者にも気軽に接していてね。あっという間に、港のアイドルになってたんだよ。凄いよね?」


「そんな馬鹿な!?」


「サク、酷い! 流石に怒るよ?」


 いや、悪かった。

 実際にさっきから、そんな感じで声を掛けてもらっているんだから、本当なのだろう。

 だが、信じられない。ついこの前までスリをしていたシュリがアイドルと化すとは。

 そういえばカントローの“おかわり”をしていた時も、微笑ましい目で見られてたっけ。

 元々、愛嬌もあるし、素養は持ち合わせていたのかもな。


「ごめんごめん。シュリにもそんな才能があるんだなって嬉しくなっちゃって、つい」


 そうしてシュリのことを考えていて、ふと、ある言葉を発した。


「まさか、()()()()()シュリがアイドルねえ……」


「孤児?」


 その言葉にいち早く、商人さんが反応を見せた。

 そういえば、シュリと旅している経緯なんかは、まだ言ってなかったっけ?


「ええ、実は……」


 商人さんに、スリをしていたことは伏せた上で、シュリを食事に誘ってからこれまでの経緯(いきさつ)を掻い摘んで説明した。

 俺が旅人で、シュリを連れて行くことが出来ない理由なんかも加えて話す。



「……というわけで、この子を預けられないかと思って、隣の島の孤児院を目指している最中だったんです」


 そんな俺の説明に、商人さんは俯いてしまっていた。

 何をしているのかと思って注意を向けると、小さくすすり泣く声が聞こえていた。


「おじさん、泣いているの?」


「ズッ、ヒック。だって、ねえ? こんないい子が、そんな苦労していたなんて、ヒック。ズビーッ」


 おっさんの泣き顔、プライスレス。

 いや違う。悪い意味だから、ワースレスって言うんだっけ? つまり、価値が無い、見いだせない。

 シュリも、少し敬遠している。膝の上にいるから、頭上で鼻水を流されるのは嫌だろう、流石に。

 シュリに同情して泣いてくれるのは大層ありがたいし、とても嬉しいのだが。


「そういうことなら、私に任せなさい!」


 泣き腫らした顔でドンッと胸を叩く商人さん。

 その弾みで、涙や鼻水が一部、シュリへと降り注ぐ。

 俺が“えんがちょバリア”の魔法を修得していたなら、守ってやれたろうに。

 シュリ、スマン。許せ。


「きゃああああ! 汚ーーい!!」


 大人の商人さんが子供のシュリに平謝りしている姿は、なかなかにシュールだった。

 シュリもそう怒ってはいなかったようで、商人さんもホッとしている。

 それで、何を任せるのか、本題に移ってほしいのだが、まだそれどころじゃないか?


「ごめんね、話が止まっちゃったけど、それでね?」


 そう切り返して、商人さんが漸く本題に入る。

 だが、商人さんの口から出た言葉は、俺にとってもシュリにとっても思いも寄らないものだった。



「シュリちゃんを、私に預けてはくれないかね?」



 シュリの運命は、俺たちが想像もしなかった方向へと変わっていくのだった。



次話は5月20日の19~22時に投稿予定です。前倒しはしません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ