第39話 港町へ①
予定外ですが、思いがけず暇ができたので、一話投稿します。
よろしくお願いします。
「積み荷が一部駄目になって、その後で馬車を買い替えてとなると、生活費とかのお金は大丈夫なんですか?」
シュリと共に商人さんに奢ってもらって、食事中。
心配になって、そんなことを聞いてみたのだった。
「心配してくれてありがとね。でも、これでも商人の端くれ。そんなヤワじゃないよ。だから、心配せずに沢山食べなさい?」
いけね。自分たちの食事代を払えるか心配してると思われちゃったのか。
よく考えずに喋ったら、少し失礼な感じになったかもしれない。
「あ、いや、そういう意味で聞いたわけでは……」
「ブフフ、分かっているよ。君はいい人そうだし、単純に心配して聞いてくれたんだよね。私が勝手に読みを利かせ過ぎただけだよ。因みに、商人というのは何かあってもいいように、ある程度の金額は隠しておくのが基本だから、この程度でどうにかなったりはしないんだよ」
へー、そうなのか。
大人相手に心配し過ぎだったかな。
どうでもいいけど、この人「ブフフ」って笑うんだ?
その特徴的な笑い方が気になったのはシュリもらしく、「ブフフ、ブフフ」とモノマネをしている。
その辺で止めたげて。
「それに私の場合、家族を養わなくて良くなった分、自由にお金を使えるからね。独身の強みで、ある程度贅沢しても余裕があるくらいだよ」
今日も重い話キター!
リアクションに困るから、止めてほしいんだけどな。
大人同士なら「それはいいですな、はっはっはっ」なんて愛想笑い出来るのかもしれないけど、高校生の俺には荷が重いよ。
一応、「ハー、ソレハイイデスネ、ヘッヘッヘッ」と愛想笑いはしておいた。
「流石にお金の隠し方とか隠し場所までは教えられないけれど、まあ、そういうわけだから。また地道に稼いでいって、前よりもいい馬車にしてみせるよ」
そう言って、商人さんは目の前の肉料理を豪快に頬張って、余裕っぷりを表してみせた。
逞しいものだな。見習いたい部分も多い。
安心して、今日は素直に奢ってもらうことにしよう。
……シュリ、ブフフはもう止めなさい?
食事が終わり、三人で店の外へと出る。
シュリも美味しい料理に満足してくれたみたいで、ルンルンと歩いていた。
商人さんとはあの事故のことや、当たり障りのない範囲での商売のこと、それから二号さんのことなどを中心に、楽しく話をさせてもらった。
情報収集の意味でも、有意義なひと時だった。
これでお別れというのも淋しいので、商人さんに付き合って仕事の手伝いをさせてもらうことに決めた。
というのも、商人さんは元々、明日には港町アノサで積み荷を預かってヴィアジルドまで運ぶ予定を入れていたのだそうだ。
事故のせいで馬車を買い替えるために一日費やしたが、本来ならばもう港町へと出発しているはずだったのだという。
その話を聞いて、ちょうど行先も一緒だし、これも何かの縁ということで手伝いを申し出た。
「そうか、旅をしているんだっけ? 何かと入り用だろうし、働き分の賃金くらいは出させてもらうよ。予定より遅れていて人手が欲しかったから、ぜひ、お願い出来るかな?」
多分、商人さんの余裕を見るに、人手が欲しかったというのは社交辞令ってやつだと思う。
元々おっとりとした雰囲気の人ではあるのだが、本当に遅れで困っているのなら、俺たちに食事を奢ってくれたり、こうしてゆっくりしていられないだろうし、俺たちに配慮して言ってくれているのが分かる。
俺は資金的には困っていないのだが、ここでそれを言ってもややこしくなるだけなので、お言葉に甘えて働かせてもらおうかな。
そうして話が纏まったところで、今日のところは解散となった。
商人さんは明日の準備もあるだろうし、いつまでもお邪魔するわけにもいかない。
港町での荷物の受け取りは、船が入港する明日の午後。それに合わせて、俺たちの出発も明日、早朝の太陽が昇り切った頃に約束をした。
目覚まし時計の無いこの世界では、早寝して寝坊しないように備えよう。
……もし万が一、寝坊しそうだったら、起こしてもらえませんか、アルル様……?
『はいはい、まだまだ子供ですね。そのくらいならいいですよ』
やった!
これで安心して眠れるな。
こうして、シュリと一緒に宿を取り、明日に備えて早めに就寝したのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ごめんなさい! こんなに遅くなってしまって!」
「いやいや、まだ余裕があるし、大丈夫だよ。こんな朝早いのは慣れていないだろうし、起きるのは大変だったろう?」
異世界生活十三日目の早朝、俺とシュリは約束していた頃合いを過ぎてから、なんとか待ち合わせ場所に駆け込んだのだった。
シュリはもとより、俺も寝起きそのままといった格好で商人さんの下へと到着した。
昨夜は体を拭いた後、すぐに朝支度を終えられるように着替えた上で床に就いたのだが、それがなかったら、もっと遅くなっていたに違いない。
朝、しっかりと目は覚めたのだ。夜明け前に。
だが、迂闊だった。
なんだ、早すぎるじゃないかと油断して二度寝したのが大きな間違いだった。
次に目覚めた時にはもう、太陽が昇っていた。
時計なんて無いこの時代、太陽の位置などで大体の感覚での待ち合わせなのだが、明らかに遅刻なのは寝起きすぐの俺の頭でも分かった。
血の気が引く感覚と共に。
「ア! アルル様!?」
『起こしましたよ? ちゃんとスヌーズ機能風に、小声から始めるという演出までして。けれど、全知全能の図鑑の声は咲也さんにしか聞こえませんし、揺すって起こすこともフライパンを叩くことも出来ませんからね。私の優しい声では、一所懸命に声を掛けることしか出来ず、心苦しい限りです。あ、ついでですが、一所懸命と一生懸命の違いでも説明し……』
「そんな場合じゃねえ! ありがとうございました! お早うございます! でも今は先ず、シュリを起こさないと!!」
『お早うございます、咲也さん。因みに日本の時間で表現するならば、三十分ほど前に商人の方が待ち合わせ場所に到着しましたよ』
「うわあああん!」
……とまあ、てんやわんやだった。
シュリを小脇に抱えて全力でダッシュして、到着と同時に商人さんに平謝りした。
けれど、シュリと俺の組み合わせならそうなるだろうなと予想していたらしく、商人さんとの約束は本来の出発よりもかなり早めだったらしい。
なので、俺たちが遅刻したところで支障は無いそうだ。
「むしろ、シュリちゃんの支度でもっと遅くなると思ってたから、このくらいなら上出来な方さね。新しい荷馬車がそこにあるから、その上でも使ってシュリちゃんの身嗜みを整えてあげるといいよ」
しょ、商人さん。俺の大慌てした時間を返してくれ。
しかしながら、遅刻したことには変わりないので反省するとして、未だ覚醒し切ってないシュリの身支度をしてあげようか。
「あ、二ご……ゴホン、お早うございます。今日もよろしくね」
(あら、お久し振りネ? 御馳走もいっぱい貰ったし、今日はワタクシに任せなサイ! 大船に乗ったつもりで構えているといいノヨ!)
お久し振りって、たった二日振りなんだけども。動物の感覚だと久し振りなのかな?
二号さんの馬車だと、泥舟とまでは言わないが、大船と言うにはちょっとね? 一度ビビッて暴走しているわけだし。
てゆーか「大船に乗ったつもりで」なんて言い回しを使いこなしている辺り、実は利発なのか?
認めん、認めんぞ!?
冗談はさて置き、早朝で周りに人がいないのをいいことに、スキルを活用して二号さんにも挨拶を済ませた。
それからシュリの身支度を手伝ってあげて、二人で簡単に朝食を済ませ、出発まで一休みした。
「そういえば、商人さんは護衛とかは雇わないんですか?」
「ああ、この辺は比較的治安も良いし、余程貴重な物でも運んでいないと護衛は付けないかな? ああいうのも結構金が掛かるから、大店の商会でもこの島じゃ、必要な時にだけ雇うぐらいじゃないかな? あとは乗合馬車くらいだよ」
何度も話で聞いたが、今の時代はモンスターもほとんどいなくて危険は少ないらしい。
この島は治安も良く、護衛を付けるのも大袈裟、と。
モンスターなんて、出ない出ない。安全安全。
って、これ、フラグじゃね?
だが、以前も「絶対フラグだ!」とか思っていたことがあったが、何も無かったなと思い返していた。
この世界は俺にとって異世界で、剣と魔法のあるゲームのような世界。
だが、決してゲームの中などではない。だから、フラグなんて考えても仕方ないのだ。
そんな風に思い、シュリと一緒に準備の出来た馬車に乗せてもらい、俺たちは港町アノサを目指して出発したのだった。
明日は予定通り、午前9~10時頃に投稿しますので、よろしくお願いします。




