第3話 主人公は魔法のアイテムを手に入れた
本日四回目の(ry
初日はここまでとさせていただきます。
「さて、と」
周囲を見渡し、危険が無いことを確認し、さっき出てきた場所――どうやら小さな洞窟だったようだ――の傍へ腰を下ろした。
転生直後に大泣きしたことは、俺の黒歴史として記憶の片隅へと封印させてもらう。周りに誰もいなくて本当に良かったと思う。
冷静に思い返せば、高校生にもなって延々と泣いていたのは恥ずかしいよな。
それはともかく、泣き疲れたこともあって一休みしようと思ったのだ。
今後のことも考えないといけないが、先ずは身体と持ち物のチェックをしないと、だな。
「あー、本当に異世界転生したんだなー。夢とかじゃないんだ」
さっき泣いた影響もあってか、嬉しさ、淋しさ、恥ずかしさなどごちゃ混ぜの感情に困惑させられていた。
自分を落ち着かせて気持ちを整理したいのもあって、独り言を呟いて自らに言い聞かせる。
魂の状態からは一変し、冷静さの欠けた普段通りの俺に戻っていた。
「これが、生きているってことか……」
誰もいないのを良いことに、厨二病臭い独り言で感傷に浸っている感を出していた。
とりあえず、声はちゃんと出ることが確認出来たから、OK。
少し落ち着いてきたので、手足を動かしたり屈伸をしたりして、身体の動作確認をしてみる。
最初から何の異常も感じられなかったのだが、何かして早く心を落ち着けたかったのだ。
動作よし!と言ってみる。
それにしても、本当に生前そのままだ。
外見も、死ぬ直前に着ていたのか服装は上下学生服で、スリーウェイタイプの学生鞄を持っている。
いつもの登下校時と何ら変わりない。
「学校帰りにでも死んだのかな?」
そんな予想を立てつつ軽さに妙な違和感のある鞄を開けてみると、中は空だった。
「あれ? 教科書も無い……」
いつも入っているはずの教科書やノート、筆記用具すら無いことを不思議に思い、鞄の底目掛けて右手を突っ込んでみた。
すると、そのとき不思議なことが起こった。
鞄の中の手は、底に触れることなく消えてしまったのだ。
「うわっ!?」
慌てて手を引き抜くと、何事も無かったかのように俺の右手が俺の右手の位置に付いていた。そりゃ当然か。
首を傾げ、見間違いかと思っていて、ふと思い当たることがあった。
異世界転生の定番、“魔法のアイテム”。
つまり、“魔法の鞄”だ。
そーっと右手を鞄へと入れてみると、鞄の底に着く直前で指先が消える。
腕を引くと、指が現れる。
もう一度、今度は手首の辺りまで入れてみる。
揺らめく水面に手を付けているかの如く生まれ出た微かな波紋を境に、手首から先は見えない。
だが、感覚はある。
そのまま、感覚を頼りにもう少し奥まで探ってみると、不意に、とある変化が起きた。
目の前に、パソコンのディスプレイ画面のようなものが現れたのだ。
「なんだこれ?」
その画面には、アイテム一覧と表示され、そのリストと思われる名称が並んでいた。
・異世界の教本(高校テキスト) ×7
・異世界の上質紙の束(授業用ノート) ×4
・異世界の上質紙の束(未使用ノート) ×2
・異世界の上質紙(授業用プリント) ×7
・異世界の???(筆入れと筆記用具一式) ×1
・異世界の革製品(財布) ×1
・???(スマートフォン) ×1
・女神印のポイントカード
・全知全能の図鑑
思った通り、魔法の鞄――――所謂、ストレージとかインベントリ。 俺の手が入っている謎の空間に、所持品が収められてるみたいだ。
ゲームでもお馴染みのアイテムに、感動を覚える。
教科書などは名前が「異世界の〇〇」になっているようで、それはなんとなく理解出来るのだが、一部は「?」になっているのは何故だろう?
それよりもさらに気になるのは、見覚えの無い二つだ。
・女神印のポイントカード
・全知全能の図鑑
女神印って時点で、女神様が持たせてくれたに違いない。それに、全知全能なんて大仰な名前は、いかにも魔法のアイテムって感じだし。
先ずは、実験がてらスマートフォンの取り出しから始めてみることにする。
「スマートフォン」
……。
「スマートフォン、取り出し」
……何も起きない。
「スマートフォン、来い!」
「スマホ、出ろ!」
「携帯電話、来て!」
「スマートフォン、いらしてください!」
……何も起きない。
NA・ZE・DA!?
あ、もしかして、異世界の〇〇って方の名前じゃないと駄目とか?
その場合、名前が「???」になっているスマートフォンは取り出せない可能性が出てくるけど。
「異世界の革製品」
……。
「異世界の革製品、来い!」
「異世界の革製品、出て来て!」
「異世界の教本、取り出したいんですけど!」
「もしもし、どなたかいらっしゃいませんか!?」
……何も起きない。
くっそ、NA・ZE・DA!!
他のならどうだ?
「女神印の魔法薬!」
「女神印のポイントカード、お願いします!」
「異世界の革製品(財布)、返してください!」
「なんでもいいから、ください!!」
……何も起きない。
本当にNA・ZE・NA・NO??
えー、まさか言語が違うとか? 俺、こっちの言葉なんて知らないし。
他の可能性は、英語とか?
試しに《スマートフォン》は――
――不意に右手に、スッと何かが触れる感触がした。
「スマートフォンを英語にすると……え?」
手に触れたものを掴み、それを鞄から出してみると、俺の右手にはスマホが握られていた。
「は? なんで!?」
時間差なのか、キーワードが合ったのか。
取り出せた今でも、NA・ZE・NA・N・DA!?
目の前に出ていた魔法鞄の画面は消えている。
もう一度鞄にスマホを入れて手放し、再挑戦を試みた。
目の前に再びディスプレイ画面が表示される。
「スマートフォン」
「スマホ」
「携帯電話」
……何も起きない。
そのまましばらく待ってみるが、取り出せる気配は無かった。
さっき、何がきっかけで成功したんだ?
確か、英語で《スマートフォン》って――
右手にスッと、何かの感触がした。
――なんて訳すかを……
「んん?」
右手を引き出すと、スマホがあった。
そこでハッと気付き、スマホを鞄に戻す。
そして右手を離した後、目の前のディスプレイ画面を見ながら心の中で念じてみた。
《スマートフォン》
俺の手には、スマホが握られていた。
《財布》
《異世界の教本》
《全知全能の図鑑》
次々と、俺の手に吸い寄せられるように名前を念じた物が来た。
声に出さず、念じれば良かったのね。そして、元の名前でも新しい名前の「異世界の〇〇」でも出て来たのだった。
「やっと使い方が分かったよ」
『随分長くかかりましたね』
バッと振り向き、辺りを見回す……が、誰もいなかった。
……おや? 誰かの声が聞こえた気がしたんだけどな。気のせいか?
気を取り直して、手にしたアイテムを確認する。
「スマホは、やっぱ圏外で使えないよな」
俺の手の中のスマホは、電源は入っているものの、圏外と表示されて機能も制限されていた。
一部のアプリは立ち上がるものの、通信が必要なものは使用不可能のようだ。
まともに使えるのは、カレンダー、方位磁石、電卓、メモ、時計など。
だが、カレンダーも日本の暦のままだし、方位も異世界でどこまで通用するかも分からない。時計も微妙だ。
電卓やメモ帳、簡易辞書、音楽プレイヤー、カメラなど使えそうなアプリも多いが、何より電池切れしたら、二度と充電出来ないだろう。
電源をオフにし、鞄にしまっておくことにした。
「財布は、持ってても意味無いよなあ……」
中の金は、当然日本のものだ。紙幣や硬貨もだし、カード類もこの世界では無価値だろうな。
もしかしたら硬貨なら価値があるかもしれないが、ここの常識をある程度学ぶまでは人前に出さない方がいいだろう。
ラノベなんかじゃ、異世界のアイテムが高価だったりすると、衛兵事案でそのまま領主様の下まで連行イベントなんてのがテンプレだ。注意するに越したことはない。
これも、鞄に戻した。
「あ! カードと言えば……」
再び鞄に手を入れると、《女神印のポイントカード》を念じて取り出す。
俺の手には、虹色のカードが握られていた。
「これ、どうやって使うんだ?」
結論から言うと、何も分からなかった。
五分くらい色々試してみたが何も起きず、傍から見て独り言を呟くだけの怪しい人になってしまっていたので、諦めることにした。保留。
鞄に戻しておいた。
はい、次!
その後も検証を続けたのだが、教科書やノート、筆記用具は何の変哲もなかった。
名前が《異世界の〇〇》になっていたし、少し期待していたのだけれど、結局何も起きなかった。
もしかしたら転生効果で魔法の書物に変化してるんじゃないかと思い、「ファイヤー!」「サイクロン!」「サンダーボルト!」なんて独りで叫んでいたなんて事実は無い。
……無い!
「さて、と」
全知全能の図鑑。これで最後だ。
正直、何も無いわけがないと思っている。
てゆーか、何かしらあってくれないと困る。ここからどこに行くとか何を頼りに行動開始するとか、未だにノーヒントのままなのだから。
この本、A4サイズくらいの大きさで辞書に似たつくりだが、数百ページはあるように見えるのに、見た目に反して軽々持てる。
この大きさを俺が片手で軽々持てている時点で、普通じゃないだろう。俺は怪力自慢の運動部の部員などではないのだから。
手に取って開いてみるが、何の変哲もない本にしか見えない。全部のページが白紙なのを除けば、だが。
「何も書かれていないし、何か書き込めばいいのかな?」
鞄から筆記用具を取り出し、ボールペンで適当に文字を書き込んでみる。
だが、書き込んだ文字は数秒と保たず消えて行った。何度か書いてみたが、やはり消えてしまった。
日本語だからか?と思い、数字、アルファベット、うろ覚えのギリシャ文字や図形なんかを書き込んでみたが、結果は同じ。
開いた時と変わらない白紙のページへと戻ってしまっていた。
「こちらの文字じゃないと駄目なのか? そもそも、書き込むんじゃなく呪文に反応するとか?」
何か呪文……と暫く悩み、意を決して適当に唱えてみた。厨二心を全開にして。
「我、汝に命ず! 古の契約に従い、我が願いを叶え――――」
『ブプーーーッ! アハハハハ! もう無理! アハハハハハーーッ!』
バッと振り向き、辺りを見回す。
けど、誰もいなかった。
でも、気のせいなんかじゃない。
何故なら、今もゲラゲラと大笑いする声が聞こえ続けているから。
声の出所を探っていると、周囲からではなくもっと近くだと気付いた。
すぐ傍、まるで俺の手元から聞こえているような……。
恐る恐る目線を自分の持っている本へ落とすと――
『ハーッ、ハーッ。 古の契約って何? プッ、アハハハハ! お腹痛いー!』
――手の中の本、《全知全能の図鑑》が、喋っていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今後はリアル都合(仕事とかいう呪い)によって、1~4日に一回程度の投稿を予定しております。
最初の基点まではだらだらと旅する予定なので、ご了承いただけるとありがたいです。
今後もよろしくお願いいたします。