第38話 翻訳スキルの上手な扱い方
本日もよろしくお願いします。
(なンダ、ニんゲン? やンノか、オラ!)
(うーわ、ここ、メッチャ日当たり良いっすわー。天国っすわー。って、日ぃ暮れたー。残念、また明日ー)
(((オイ、ニンゲン! オマエ、ハダツヤ、ワルイ! スミニクイゾ!)))
「五月蠅ーい!」
何を一人で騒いでいるかって?
実は、アルル様に《翻訳スキル》について尋ねてから、ちょっとした実験をしていたのだ。
このスキルは正式には《翻訳スキル・全》。
すなわち、意思疎通さえ試みれば、あらゆる生命体とコミュニケーションを取ることが出来るという超絶スキルなのだ。五万ポイントと引き換えに。
とりあえず、部屋の中にいた羽虫、窓際に置かれた植物、自分の肌にいると思われる微生物をターゲットにやってみたのだが、結果は見ての通り。
羽虫は何故か喧嘩腰だし、植物は超マイペース、微生物たちからは生活環境の改善を訴えられた。
微生物に関しては、個々に的を絞れず、俺が意識した範囲にいた多数の反応が返ってきてしまった。これが、五月蠅いのなんの。
『まあ、そんな感じで、意識すれば誰が相手でも意思や言葉を理解し、お互いに意思疎通することが出来ます』
アルル様から教えてもらいながら実験を繰り返してみた結果、分かったことがいくつかあった。
先ず、耳に入った人の声。
これは今まで特に気にはしていなかったのだが、自動翻訳されている。
当然ながら、こちらの世界の言葉で話しているらしい。俺には区別出来ないが。
次に、動物の鳴き声など。
これも、実は自動翻訳されていた。今回意識してみて、初めて気付いたわ。
聞く機会もほとんど無かったのだろうが、そういえば、こっちに転生して来てから動物の鳴き声を聞いた覚えが無い。
唯一聞いたものといえば、この前遭遇したモンスターが最後に上げた雄叫びくらいなのだが、あれは断末魔の叫びだったので翻訳されても意味を持たなかったらしい。
人間相手でも「ギャー」なんて叫び声だと翻訳しても「ギャー」だからな。
続いて、鳴き声を聞くことの出来ない虫や植物など。
これはもう、自分から意識するしかないようだ。相手が明確にこちらに意思表示でもしない限りは、常時翻訳されることは無いらしい。
それは当たり前だし、同時に、俺としても助かる。
そこら中から声が聞こえていたのでは、落ち着かないし疲れるよ。
(オーケーおーケー、こコハひトつ、仲良クしヨウぜ? 争イは、ナニも生マねエ)
さっき話しかけた羽虫が、向こうから話しかけてきたので、《翻訳スキル》が仕事してくれた。
向こうから明確に意思表示してくれると、こうなるわけだ。
協力してくれたお礼に、回復薬を一滴指に垂らして、舐めさせてあげた。
(ウんめー! サんキュー、相棒!)
いつの間にか相棒にランクアップしたようだ。
正直、要らない。
さておき、最後に微生物のような目に見えない相手だと、こちらも強く意識を向けないと駄目みたいだ。
学校の授業やテレビで、肌には常在菌というのがいると知っていたので、試してはみたのだが。
結果として、自分の肌荒れを知ったぐらいなものだ。 とりま、ありがとう。
『使いこなせたら大したものですが、まあ、動物ともお話し出来るくらいに思ってていいんじゃないでしょうか。常時適用される人間や多くの動物はいいのですが、存在によっては、話にならなかったり、話しかけると厄介な相手もいますから、積極的には多用しない方がいいと思いますよ』
そうなのかな?
だが、今ならなんとなく分かる気がする。
懐いてくれたのは嬉しいのだが、さっきから羽虫さんがブンブンと周りを飛び回ってて鬱陶しい。
安易にこちらから話しかけない方がいいのは、身をもって知った。
(栄養をモらッタおかゲで、ビンビんダぜ、相棒! チョッと、子作リに行っテくるワ!)
そう言って、羽虫さんは窓から外へと出て行った。お幸せに。
さて、落ち着いたところで、スキルの効果もある程度分かったし、俺も一休みしよう。
アルル様、ありがとうございました。
『い~え~い~え~。お~やす~みな~さ~い~。素敵な夢を、見~てく~ださ~いね~♪』
シュリの横で仮眠を取った俺は、その後で夢を見た。
蚊の大群から、「血ぃ吸わせてよ、美味しそうなお兄さ~ん」と追いかけられる悪夢だった。
何の根拠も無いのだが、ただなんとなく、アルル様が何かしたのではと疑ってしまった。
《翻訳スキル》を持つ俺にとっては、現実で正夢になりそうな光景だけに、マジ笑えない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
昨日は仮眠の後で、シュリを起こして夕食を軽めに済まし、本格的に床に就いた。
そんなこんなで、異世界生活十二日目。
今日はブランチ、朝昼兼用で食事を摂ってから、商人さんとの待ち合わせに行く予定だ。
俺の、シュリの朝支度の手伝いも慣れたもので、手際も良くなってきたように思える。シュリの肌艶や髪の毛も、良い状態に改善されてきていると思う。
シュリと一緒に着替えを済ませると、折角なのでここでしか食べられないものも食べてみようと誘い、ショッピングがてら店探しをした。
名物として、海産物と内陸部の食材を合わせたこの町ならではの創作料理があるというので、それを食べてみることにしたのだが、結構なお値段だった。
味の方はかなり上品で、俺は美味しいと思ったのだが、シュリの子供舌には合わなかったのか大して喜んではいなかった。残念。
それでも、完食している辺り、シュリらしいけど。
食事を終え、早々と待ち合わせ場所へ向かうと、商人さんはまだ来ていなかったので、周辺の店でウインドウショッピングをして時間潰しをすることにした。
それなら、商人さんが来たら見付けられるかと思ったからだ。
だが、予想以上に熱中してしまっていたようで、逆に俺たちを見付けた商人さんの方から声を掛けられてしまった。
シュリが意外とアクセサリー類に興味を示していたので、珍しいなと思って一緒に選んでいたのが仇となってしまった。
「すみません。つい夢中になってしまって」
「構いませんよ。私も今来たところでしたし、まだ昼前ですからね」
「おじさーん!」
「やあ、シュリちゃんも昨日ぶりだね」
彼の膝の上が気に入ったのもあってか、シュリもよく慣れたようだ。
商人さんも自分の娘と同じ年頃のシュリのことを可愛がってくれている。
一緒に食事というのは緊張も無いと言えば嘘になるのだが、この感じならシュリを中心にまた楽しくやれそうで安心だ。
「馬車の方は大丈夫でしたか?」
「いやー、それがねえ。 底板まで壊れてしまっていて、修理代が嵩むから、新しく買い直すことにしたよ。今までの幌付きからはランクダウンして、雨避け無しの荷馬車になっちゃうんだよ、トホホ……」
あらー……お気の毒に。
モンスターに襲われなかったのは良かったけど、積み荷のことといい、なかなかの痛手になってしまったのではないだろうか。
二号さんのビビりが、こんな結果を生んでしまうとは。
「そういえば、二ご……あの動物はどうしました?」
まさか、資金の足しに売られてしまったとかじゃないよな?
「ああ、あの子は厩にいるよ。一応、命の恩人だからね、美味しいご飯をたらふく食べさせてあげているよ。新しい馬車も、また引いてもらわないといけないからね」
良かった。優しい飼い主さんで助かったね、二号さん?
「それじゃあ、後の話は店に入ってからゆっくりしようかね?」
そう言って歩き出した商人さんに続いて、俺とシュリも食事のために店へと向かって歩き出した。
他人に奢ってもらうのに、シュリがいつもの調子で食べ過ぎないか心配しつつも、俺自身も楽しい食事を期待して行くのだった。
翻訳された内容は( )で表現していますが、( )にカタカナだと読み辛い……
虫など以外ではやらないようにします。
手探りなので、翻訳の表記の仕方やスキル内容についてご意見を頂けると助かります。
次回の投稿は、5月13日の午前9~10時頃の予定です。よろしくお願いします。




