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第37話 ミッションコンプリート

本日もよろしくお願いします。


(御馳走、御馳走♪)


 何処かで見たことのある光景に既視感を覚え、シュリ二号と名付けた自分の直感に手応えを感じた。

 それはともかく、一人、いや、一頭だけルンルンと燥ぐシュリ二号さんを傍目に、俺とシュリは助けた男性と共に、倒れた馬車の復旧作業に取り掛かっていた。

 幸い大型というわけではない馬車の車体は、男手二人とハッスルフィーバー中の二号さんの協力で、何とか立ち上げることが出来た。


「良かったよ。岩場とはいえ、積み荷が上手くクッションになったみたいだね。車体は壊れたけど、車輪は無事みたいだし、走るのには支障は出ないようだよ」


 彼が言う通り、その車体は亀裂が入り、所々が破損してしまっていた。

 俺とシュリも手伝って、放り出された積み荷を馬車へと戻すのも手伝った。


「馬車も壊れかけているし、積み荷の一部は放棄して行くよ。無理に乗せてもっと酷くなったら、町まで辿り着けないかもしれないしね。放棄するのは、重い割に価値はそれほど高くないものだから、そう痛手にはならないしね。それから、車輪は無事とはいえ、町まではゆっくりと走ることにするよ」


 さっきまで馬車の下敷きとなっていたというのに、彼は何事も無かったかのようにテキパキと動いている。

 心配だったので、まだ無理しないようにとは言ったのだが、本当に大したケガも無かったようで、何ら支障無く作業を進めていた。


「いやあ、本当に助かったよ。下敷きになったときは、何日も動けないかもしれない、最悪はそのまま死ぬかも、と覚悟していたんだよ。まさかこんなすぐに人が来て、しかもその場で出られるなんて想像もしていなかったね」


 この人は運が良いのか悪いのか、愛馬(?)のお陰でケガも無くピンピンしていられるわけだ。

 そもそも、なぜこんな往来から遠く離れた場所で横転していたのか気になったので、尋ねてみた。


「それがねえ、島の東の村落に商売に行った帰りだったんだけどね。街道を走っていたら、沿道からモンスターが向かって来たんだよ。最近じゃ、見ることも無いのに、珍しくね。それで()()()が驚いて暴走しちゃって、道を外れて制御不能のままここまで来て……というわけなんだよ」


 モンスターだって? この前の状況とそっくりだ。

 しかしながら、助けたのも二号さんなら、原因も二号さんなのか。

 モンスターに襲われなかったのを考えると、ホント、運が良いんだか悪いんだか。


「モンスターは、どのくらいの大きさだったんですか? 馬車を襲えるくらい?」


「いやあ? 私の腕くらいかね。このくらいだよ」


 彼が両手で表現した大きさは、本当に彼の腕くらいだった。

 小~中型の犬くらいじゃないか?


「ええ? その大きさのなのに、そんなに驚いて暴走しちゃったんですか?」


(怖かったノヨ。見た瞬間かラ、ぞわぞわって鳥肌が立ったノヨ。ワタクシが必死に逃げたお陰で、襲われズニ済んだんだカラ!)


 そりゃそうかも知れないけど、少し大げさ過ぎないか? 二号さん、踏みつぶし一発で勝てそうだけどな。

 それから、アナタ馬っぽいのに鳥肌って立つの?


「ははは。普段見ることの無いものだったから、コイツも警戒したんだろうね。結果オーライだよ」


 のんきに笑ってるけど、俺たちが来なきゃ死んでたかもしれないんですよね? なんて大らかな人なんだろう。

 そういえば、アルル様の言っていた商人って、この人で良かったのかな?


『テッテレッテテーッ! ミッションコンプリート! 咲也は無事、商人を助けたー!』


 おっわ!? 急に何だ、ビックリした!

 アルル様、もしかして今まで忘れてたんじゃ?


 でも、やっぱりこの人で良かったみたいだ。

 結局、急にミッションを告げたのは、この人を助けるためだったのかな?


『わ、忘れてなんていませんよ? ええ、それはもう。あなたが落ち着くまで待っていてあげた優しさですよ。神の優しさ、すなわちGOD・YASASISAですよ!』


 いや、ですよ!じゃなく。英語苦手か!


 それより、今はこの商人さんを助ける方が先だ。


「この後はヴィアジルドに向かわれるんですよね? 俺たちじゃ護衛にもなりませんけど、何か手伝えることもあるかもしれないので、同行させてください。シュリも、それでいいかな?」


「うん。もちろん」


「そうかね? 君たちは東へ向かうわけじゃないのかね?」


「……えーと、ちょうどこの子と散歩していたら、たまたま……鳴き声が聞こえたので。この後は町に戻るつもりでしたよ」


 またしても、苦しい。東に向かうわけでもないのに、散歩で町に外には出ないよな、普通。

 シュリ、そんな怪しむ目で見ないでくれ。


「ふーん? それなら、お言葉に甘えようかね。近くにまだモンスターがいないとも限らないし、君たちがいてくれた方が心細くないからね」 


 そうして同行することが決まり、復旧を終えた馬車の準備も整った。

 耐久性の問題から、俺たちは歩いて付いていくことにしたのだが、シュリだけなら御者台に一緒に乗せられると言われた。

 モンスターの件もあるし、その方がシュリも安全だと思う。

 シュリに相談すると、彼女もOKしてくれた。


「俺はいざとなったら走って逃げられますから、シュリをお願い出来ますか?」


 そう言って、御者台に座った商人さんへとシュリを抱き上げて渡した。

 商人さんはヒョイとシュリを預かると、自分の膝の上へと座らせた。


「なんだか、子供の扱いに慣れた感じですね? 娘さんでもいらっしゃるんですか?」


 その質問に、商人さんはハッとした表情になった。


「ご、ごめんね? つい、癖で膝の上に乗せちゃったよ。娘が一人いたんだけど、私は小さい商売しかやれない器なもんで、うだつの上がらない生活に呆れて、妻が娘を連れて去ってしまったんだよ。だから、以前は娘もこうやって膝の上に乗せていたもんだから、つい、ね」


 わーお。予想外に重い話だった。迂闊に聞いちゃ駄目だったか。

 シュリの()()()で、そんな話をしないでほしい。


「ごめんね? 君も嫌なら降りてく……」


「サク! この人の膝の上、凄く座り心地いい! サイコーです!」


 聞いていなかったのか、気を遣ったのか、シュリは一人燥いでいた。

 いや、シュリに限って気を遣って燥ぐってのは無いか。


「娘と同じことを言って……! シュ、シュリちゃんだっけ? 私は構わないんだけど、このままで出発して本当にいいのかね?」


 あ、あんたもイチイチ重いわ!

 だが、そんな不穏な空気など、うちのシュリにかかれば一瞬でほんわかだ。

 「ぜひ! こんな良い椅子は初めてなので!」と言っているが、それは椅子ではありません。商人さんです。


 そうして、漸く馬車は出発することになった。

 道中は、シュリを中心に楽しい雰囲気だったことは言うまでもあるまい。



  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「いやあ、本当に助かったよ。シュリちゃんもありがとう。私はこれから商会の伝手で、馬車をなんとかしてみるよ。何かお礼をしたいのだけれど、何が良いだろうね?」


 そんなのいいですと遠慮したのだが、彼、豚の獣人の商人さんは、商人の端くれとして恩人にお礼をしないのは恥だと言うので、後日に改めて食事を奢ってもらうこととなった。

 今日のところは事故の後処理やらモンスターの件の報告やらで忙しいようだし、場所と大まかな日時を決めて別れることにした。


 結局、町への道中ではモンスターに遭遇することはなく、少し緊張感はあったが何事も無く戻って来ることが出来た。

 だが、東門では気になる話を聞いた。



「モンスターが出た? またなのか? 先日も南側で乗合馬車が遭遇したって話だし、最近妙に多いんだよな。今までなんて、この島じゃ年に五~六回も見れば多い方だったのに、今年はすでに二十件以上の報告が上がっているんだ。そのほとんどは害の無いような小型のものらしいんだが、こうも増えるってのは、何かの前触れか? ……なーんて、まさかな! 考え過ぎか!」


 ゲラゲラと笑っていた門番さんだが、その乗合馬車の一件は「害の無い」とは言えないものでしたよ?

 だって、俺が乗っていたやつですもん、それ。

 そうは思ったが、商人さんのためにも話を広げずにさっさと町に戻りたかったので、言わなかった。


 商人さんとは明日の昼頃に約束をしてしまったので、この町を出る予定は延期だ。

 今日のところはシュリも疲れたようだし、俺も疲れていたので、早めに宿でゆっくりすることにした。

 実のところ、宿ではもう一つやりたいことがあったので、シュリが了承してくれて助かった。


『何ですか? まさか、ついにシュリちゃんの未熟な果実を摘み取ろうと……?』


 エロ小説かよ。

 こちらから呼びかけるまでもなく、目的の人物()が登場した。

 当然ながら、アルル様に聞きたいことがあったのだ。


『何です? 私のスリーサイズなら秘密ですよ? まあ、どうしてもと言うなら……』


 違います。そんで、どうしてもって言ったら教えてくれるのかよ。


 疲れのせいで夢の世界へと旅立ったシュリの隣で、アルル様に心の声で気になっていたことを聞いてみることにした。

 俺、動物と話せてたみたいなんですけど、そこんとこ詳しく、と。



商人さんは語尾(?)をなるべく「ね」と「よ」で揃えてみました。

そういうのが口癖の人って、たまにいますよね。

……どうでもいいって? 失礼しました。


次話は5月11日の午前9~10時頃の予定です。

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