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第34話 シュリの行く道②

お早うございます。本日もよろしくお願いします。


「向こうの孤児院は、ここに比べたら恵まれた環境なはずだし、シュリちゃんを受け入れてくれるといいわね。無事に入れることを願っているわ」


 院長さんは、笑顔でそう言ってくれた。これで、秘密のお話も終わりになる。


 寄付の件に関しては、すんなりとは収束しなかった。

 寄付の額が額だけに、釣り合うだけのお礼をとも考えてくれていたようで、すぐには納得してもらえなかった。だが、さっきの助言やシュリに対する思いやりで十分釣り合っていると伝えてお礼を言った。

 取調官さんには「思いやりで飯は食えねーんだぞ?」と言われたが、あまり恩義を感じられても逆に重荷になると話して二人には半ば無理矢理に納得してもらい、寄付は無事終了した。


 応接室から出ると、狸の取調官さんがシュリや孤児院の子供たちと遊んでくれていたらしく、みんなに押し潰されて息絶えていた。

 「衛生兵! 衛生兵!」というオグロジカの取調官さんの叫び声に「呼んだ?」と狸の取調官さんがムクリと起き上がり、「いや、お前かよ!」というツッコミが入るところまでが定番のネタだったらしく、子供たちが「またやってる」とケラケラと笑って楽しんでいた。シュリにもウケていたようだ。

 ホント、ここに入れたら良かったのにと心残りは消えない。


「お話終わった?」


 シュリが駆け寄って来て、俺を心配そうに見つめる。

 自分のことで何かあったのかと勘ぐってもいるのだろうが、この結果次第ではここでお別れかもしれないし、今一緒に遊んでいた子たちと一緒に暮らすかもしれないのだし、複雑な心情だろうと思う。


「シュリ、ゴメン。やっぱり、ここの孤児院は余裕が無くて、シュリを受け入れるのは無理だって。折角他の子とも仲良くなれたのに、残念だよね?」


 だが、俺の予想に反して、シュリは明るい表情をしていた。


「じゃあ、まだサクと一緒に旅して美味しいもの食べられるんだね?」


 そのセリフに、取調官の二人が笑いを必死に堪えていた。

 小声で「飯要員」と言ったのを聞き逃さなかったぞ?


「ふふ。シュリちゃんの照れ隠しですよ。あなたと一緒に居られて嬉しいのを、素直に言うのが恥ずかしかったのでしょう」


 子供相手は百戦錬磨の院長さんだし、そうかもしれない。だが、シュリに限っては見たまんまじゃないかと思ってしまう。

 だって、食い気の申し子、シュリですよ? ジュルリとヨダレを垂らしていても違和感無いよ。


「シュリちゃん、ごめんね。ここで暮らすのは無理だけど、いつでも遊びに来ていいから、機会があったら寄ってね」


「うん。ありがとうございます」


 シュリは仲良くなった子供たちにバイバイと手を振り、俺の手を握ると孤児院に背を向けた。

 俺も挨拶をして、孤児院と院長さんに別れを告げた。

 取調官の二人は、引き続き俺たちの監視兼案内役として同行してくれることになった。


「で、結局何の話し合いだったんだ?」


「……聞くな。思い出すと、疲れがドッとぶり返すから」


 狸の取調官さんは不思議そうに首を傾げていたが、本気で嫌そうなオグロジカの取調官さんの表情を見てそれ以上は触れようとはしなかった。

 うん、バレずに済むから良いことだよ、きっと。


 ……ホント、なんかスイマセン。



  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 折角の中心都市の観光なのだ。満喫しない手はない。

 というわけで、孤児院から出た後は、ショッピングに食べ歩きに見物にとこの町を楽しませてもらった。

 取調官の二人にも奢るからと一緒に楽しんでもらった。さっき金銭感覚について注意されたばかりなので、一応自分の物を中心にセーブはしたつもりだ。

 俺の(ふところ)事情を知らない狸の取調官さんは最初、「子供から奢ってもらうわけにいかない」と遠慮していた。だが、オグロジカの取調官さんに「折角のご厚意だし、ありがたく受け取ろうぜ。それに、気ぃ遣うだけ無駄だし」と説得され、首を傾げながらも奢らせてくれることになった。


 女の子とのデートというわけではないので服やアクセサリーは奢らないが、食べ歩きや遊び方面で奢り、喜んでもらえていた。

 シュリも、溜め込んでいたいたものを打ち明けられたお陰か、いつも以上に元気に燥いでいた。

 きっと、別れの時が来るのを分かって、それまで精一杯明るくいようと気を張っているんだろうな。健気だ。

 そんな俺の想いなど何処へやら、実際のシュリは大きい町の見たことのない食べ物屋台に興奮し、次から次へとおねだりしては腹の中へと納めていっていた。


「え? この子、こんなに食べて大丈夫? うちの子と同じくらいの歳だけど、うちの子はこんなに食べれないよ?」


 狸の取調官さんが驚いた表情でシュリを見ていた。

 まあ、一つの量はそれほど多くはないし、今日だけってことで甘やかそう。

 魔法薬の件でシュリ自身も懲りているはずだから、俺にも気を遣ってセーブするだろう。


「サク! 次、あれ食べたい!」


 ……セーブするはずだ。信じてるよ、シュリ?


 この日は夕方近くまで散策を楽しみ、その後、取調官の二人に付き添われながら再び役所へと報告のために顔を出した。


「出来ていますわよ」


 例の彼じょ……もとい担当官さんが、俺とシュリの身分証を交付してくれた。

 早くない? こんなすぐに出来るものなのか?


「異様に早くねーか?」


 その疑問は取調官さんも同じだったようで、彼女に質問を投げかけた。

 狸の取調官さんも、同じように不思議そうな顔をし、何か考え込んでいた。


「そんなことはありませんわ。まあ、多少は急いだかもしれませんけど、誤差の範囲内ですの。これで、あなたたちもお役御免ですわね。明日からはこんなムサい男二人に付きまとわれなくなって、彼もこの子も清々するのではありませんの?」


「ムサっ……? お前なあ……」


 またしても一触即発な空気を醸し出してはいるが、正直この場にいる皆は二人の関係を知っているので、またやってるなーぐらいにしか思っていない。

 そんな和やかな視線に感付いたのか、彼女はいつもと違うものに戸惑いの表情を見せていた。


 それにしても、隠しているとはいえ恋人同士なのに酷い言われようだ。


『この取調官は、明日は仕事が休みなんですよ。彼女もちょうど休みなので、全力で急いで身分証を用意して、明日は二人っきりでイチャイチャしようという魂胆ですね。素直じゃないですねー』


 なるほど。そんな裏があったのか。

 彼女も結構天邪鬼なタイプなのかな。天邪鬼同士って、大丈夫なのか心配になるんですけど。


『二人きりの時は別のようですし、深く考えずともいいですよ』


 そうですか。大人の世界……なのかな?

 俺もいずれ彼女ができたら分かるのかな?


「良かったですね。明日は俺もシュリも面倒は掛けませんから、ゆっくり仲良く満喫してくださいね」


 担当官さんにも聞こえるように取調官さんへと向けて声を掛けると、彼はまだ分かっていなかったみたいで、「はあ?」と頭に疑問符を浮かべた。

 反対に担当官さんはその言葉の意味を暫し考え、そして即座に察したようで、見る見る顔が赤くなっていくのが分かった。ちょっと可愛い。


「なっ、あなた、何でっ、いつから……? べ、別に、そういうので急いだわけじゃ……」


 普段の冷淡な感じからは一変した様子に、ギャップ萌えってやつを感じた。可愛いな、この人。


「……意外に鋭いんですのね。あなた、何者……?」


 彼女の疑念の眼差しに一瞬たじろぐが、さっさと身分証を受け取ってお礼を告げた。

 余計なことを言ったと反省しつつも、足早にその場を後にしたのだった。


「おい、待てって。何だったんだよ、今の……」


「こらこら。この前も言ったけど、プライベートなところを弄ったら可哀想だろ? ああいうのは察しても、温かい目で見て楽しむのがマナーだよ?」


 当然の狸の取調官さんの忠告に、俺もオグロジカの取調官さんも驚き、彼を見た。

 この人、アルル様と同じように気付いていたのか。凄いな。

 そして、腹黒い。やっぱりこの人、()()()だ。

 どこの世界のマナーなんだよ。


「おい、何の話…………あッ、そういうことか、てめーら!」


 漸く事態を察した彼は、俺たち二人を恨めしそうな顔で睨んだ。

 この場でシュリだけは、意味が分からずキョトンとした表情をしていたのだった。




明日でゴールデンウイークも最後ですね。お試しとはいえ、毎日投稿は辛かった(笑)


次話は明日投稿の予定です。時間は17~22時と幅を取らせてください。

手が空き次第、なるべく早めに投稿します。

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