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第32話 両替機能付き女神

短めです。よろしくお願いします。


「あー、もう疲れてきたから、コイツの真偽はともかくお前の厚意ってことでありがたく受け取らせてもらうわ。姉貴は壊れかけてるし」


「だ、大丈夫。私はまだ、大丈夫よ……」


 完全にカオスな状況になってしまったが、漸く寄付できることになった。

 院長さんが現実を受け入れるまではもう少しかかりそうではあるが。


「でもな、一つ問題があるんだわ。いや、この白金貨の価値を分かった上でポンと出してることも大問題なんだが、そりゃまあ置いといて、だ」


「というか、他人の前にこんなもの出して、盗まれるとか強奪されるとか、最悪お金目当てに殺されかねないとか思わなかったの?」


「え? あー、いやー。……そういう可能性もあり得ましたかね?」


 俺のあっけらかんとした言葉に、二人は頭を抱えて深い溜息を吐いていた。

 いいですよ? 我慢せずに馬鹿で阿保で世間知らずの変人だと罵っていただいても。

 もう慣れてきたから、どんとこい。


「……で、話は戻るが、問題なのはこれを両替え出来ないってことなんだ。これがもし本物だったりした場合、どこに持ち込んだとしてもすぐに足が付いちまう。そうなれば、こんな無防備なボロ孤児院なんて悪人共の格好の餌食にされちまう。姉貴もどんな目に遭うか……」


「うわっ! そこまで考えてなかった!」


「うん、だろうな。そういうわけで、真偽に関わらずコイツは日の目を見ることはないと思うぜ。せっかくの厚意だが、リスクを考えると危ない橋は渡れねえよ。悪いな」


 そんな……。これじゃあ寄付の意味が無い。

 一度出したものを引っ込めるわけにはいかないし、今更「やっぱり大金貨一枚で」と言うのもカッコ悪いよなー。失敗した。

 そのまま使うことも出来ないだろうし、俺がどこかで両替してきたとしても、尾行でもされたりしたら同じように危険が及ぶだろう。

 困った。絶対に足の付かない両替えなんて、出来るわけがない。

 そんなこと、出来るわけ――


 ――アルル様? ちょっと、相談が。


『その白金貨、一度鞄に戻してもらえます? 使用しやすいように、金貨九十九枚と小金貨十枚でいいですよね』


 いたよ、ここに。 両替機能付き女神様が。

 読心のお陰で、話が早すぎて困っちゃって嬉しい。

 ありがとうございます。助かります。


「すみません。一度、返してもらってもいいですか?」 


 未だ目の前に置かれたままの白金貨を、回収して鞄に戻させてもらった。

 アルル様から即座に完了のお知らせが届いた。早過ぎ。


「おっ、なんだ? やっぱり諦めたのか? まあ、それが一番いいと思うぜ」


「ああ、いいですよ。受け取るとは言いましたけど、正直、ホッとしましたよ。もし本物だったとしたら、持っていても気が気じゃなかったでしょうから。本当に、お気持ちだけで嬉しかったですから、気にしないでくださいね?」


「ホント、ヤベえよ。しかし、もし本物だったとしたら、惜しいことしたな、姉貴。もう一生拝めねえだろうな」


「いいわよ、別に。 あんたこそ、もし本物だったとしたら、ちょっと触らせてもらっといた方が良かったんじゃない?」


 二人は緊張が解けたのか、和気藹々と話し始めた。

 状況終了の空気が流れていたのに、なんかスイマセン。

 二人が顔を見合わせて話している間に、魔法鞄から取り出した金貨九十九枚と小金貨十枚が、すでにテーブルの上に並べられてしまっていた。


「あ、あはは。やっぱり夢よ。夢を見てるんだわ。こんなこと、あり得ないもん」


「……すまん姉貴。こんなとんでもないやつ連れてきて。てゆーか本当に現実なのか俺にも分からなくなってきたぜ……」


「……あの、もし触りたいなら、もう一度白金貨出しましょうか?」


「「ちょっと黙っててもらえる!?」」


 これまでで最高のハモり具合で、怒られてしまった。

 いやあ、なんか、ごめんなさい。



次話は、本日19~22時頃に投稿します。

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