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第28話 孤児院④

本日二回目です。よろしくお願いします。


予約投稿を試してみました。失敗してたらごめんなさい。


「シュリ。落ち着いて、よく聞いてね?」


 取調官さんたちに同行してもらい孤児院に紹介してもらう、その予定通りに孤児院の前まで来たのだが、俺の優柔不断さのせいで未だにシュリには話せていなかった。

 だが流石にここで話さないと、扉を叩いてからでは手遅れだ。


 取調官さんにはわけを話して時間を貰ったのだが、「そんな大事なこと、なんで先に話しておかねーんだよ」と怒られてしまった。まあ、怒られて当然だろう。

 狸の取調官さんからシュリを降ろしてもらい、少し離れて俺たち二人だけにしてもらった。

 さあ、覚悟を決めなければならない。


「なぁに?」


 シュリは泣くだろうか?

 傷ついて口を利いてくれなくなったらどうしよう……。

 そんな不安で口を開けずにいると、シュリの方から声を掛けてくれた。


「サク、大丈夫だよ。ちゃんと聞くから、ちゃんと話して?」


 うう、シュリの方が余程しっかりしてるじゃないか。

 しっかりしないと。しっかりしろ、俺!


「シュリ、あのね……」


 ……そうして俺は、遂に彼女に、お別れしなければいけないことを告げたのだった。



  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ふーん。でも、シュリも世界いっしゅーに付いて行っちゃ駄目なの?」


 ふーん、って。

 あれ? 思っていたほどショックを受けて無さそうだぞ? 何故だ?

 タフなのか? やせ我慢してるのか? それとも俺と別れるのは寂しくないのか?


「いや、まあ。連れて行ってあげたいんだけど、シュリの年齢で世界一周は無理があるよ。途中で体壊したり病気になったりしたら命に係わるかもしれないでしょ?」


「うん、それじゃあ仕方ないね。シュリ、頑張ってサクがいっしゅーしてくるの待ってるから、帰って来たら、また美味しいもの一緒に食べようね?」


 ……うーわ、あっさり。

 この子、思っていた以上にタフなんだろうか?

 俺の存在価値って、美味しいもの食べさせてくれる要員?

 泣けてくるぜ、それは。


 俺が悩んでいたのが馬鹿らしくなるほどに、シュリはあっさりとしていた。ショックも受けているようには見えない。

 泣かれたり行かないでと駄々こねられるよりは良かったかもしれないのだが、拍子抜けしてしまった。


「うん……。 じゃ、じゃあ楽しみに待ってて。そういうわけだから、シュリをこの先見てくれる人を探そうと思ってね。それでここの孤児院に来てみたんだ。どうかな?」


「うん、いいと思う。わたしはどこでも大丈夫だから、心配しないでね」


 シュリ、聞き分け良すぎない? 女の子って、俺が思っている以上にしっかりしているのかな。

 この年頃の当時なんて俺はガキだった。それに比べて、俺の妹もそうだったが、女の子は早熟だよね。


「ありがとう。正直離れるのは淋しいけど、シュリは大丈夫そうだし安心したよ。シュリならどこに行ってもやっていけそうだね」


 その言葉の後で、シュリは急に俯いてプルプルと震えて始めてしまった。

 シュリ、急にどうしたんだ? 今日は食べ過ぎてないはずだけど、どこか体調でも悪いのか?


「……その辺にしてあげてください」


 そう女性の声がしたので振り返ると、そこには一人の穏やかそうな女性が立っていた。

 鹿に似たその姿にはちょっとした既視感があったが、それより今言われたことの意味がよく分からず、どう答えていいものか迷ってしまっていた。

 そんな俺を尻目に、その女性はシュリの前へと進むと、膝を折ってシュリと目線を合わせた。


「……初めまして、シュリちゃんっていうのね? 私はそこの孤児院をやっている者よ。たまたま通りかかって少し見させてもらっていたんだけど、シュリちゃんはとっても強い子なのね」


 丁度いいタイミングで、孤児院の人だったのか。

 話についていけず置いてけぼりの俺を余所に、彼女はシュリへと微笑みの表情を向けていた。

 俺が挨拶しようと女性に近付くと、彼女はジェスチャーで俺に待ったをかけた。


「でもね、シュリちゃん。あなたはまだ子供なんだから、そんなに我慢しなくてもいいのよ? 言いたいことがあれば言っておかないと、彼がいなくなってからいっぱい後悔しちゃうわよ?」


「で、でも、それだとサクが……」


「大丈夫。お姉さんも一緒に聞いてあげるから。サクさんが困るようなら、お姉さんが助けてあげるから、お姉さんに任せて。 だから、あなたは遠慮せずに言ってごらん?」


 彼女からそう言われると、シュリの表情に変化が現れた。

 まるでダムが決壊するように徐々に顔が歪み、シュリは涙を流し始めた。

 なにがどうなっているのか未だ分からない俺に、孤児院のお姉さんが声を掛けてくれた。


「傍から見させてもらっていたんですけど、シュリちゃんはあなたを困らせないように無理しているのは明らかだったので。差し出がましいようですが、声を掛けさせていただきました。出しゃばってごめんなさいね?」


 そう言われ、漸く事態が呑み込めた。

 最初に思った通り、やけに聞き分けがよくてあっさりしていると思ったのは、シュリのやせ我慢だったんだ。

 ……俺は馬鹿だ。本当に。

 シュリがどれだけタフでも、淋しくないわけがない。まだ数日しか一緒にいなかったけど、一番近くでこの子を見ていた俺が気付かなきゃいけないことだったんだ。

 それなのに気付くどころか逆にシュリに気を遣わせるなんて、何をやっているんだろう。


「私は職業柄、人に比べて子供の機微に敏感なだけだから、気付けなかったからってあまり気に病まないでね? あなたが気付かなかったってことは、シュリちゃんがそれだけ頑張ってたってことなんだから、シュリちゃんを褒めてあげて?」


 そう言われてシュリを見るが、彼女は懸命に声を上げないように我慢してすすり泣いていた。

 申し訳無さと、シュリを愛おしく思う気持ちに同時に襲われ、自然と体が動いてシュリを抱きしめた。

 お姉さんも、シュリと俺を包み込むように一緒に抱き寄せ、シュリに「我慢しなくていいのよ」と声を掛けてくれた。

 俺も同じように声を掛け、続けて一言「シュリ、ありがとう」と言った。

 その言葉をきっかけに、シュリは声を上げて俺の腕の中で泣き出した。

 シュリが泣き止むまで、彼女をギュッと抱きしめてあげた。俺に出来ることはそのぐらいしかなかったから。

 街の片隅に、彼女の泣き声だけが響いていた。



  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 シュリが泣き止むまで背中を摩ってあげていたが、暫くすると泣き声は止み、代わりに鼻水をすする音に変わった。

 孤児院のお姉さんは俺たちから一旦離れると、小さい布切れを取り出してシュリに「鼻をかんで」と差し出した。

 シュリは泣き腫らした顔で俺から離れると、鼻をかんで落ち着いた。


「それで、シュリちゃんは何を我慢していたの? サクさんに話せるかな?」


「……うん。サクは世界中を旅するって言ってたの。サクはシュリのこと助けてくれたしご飯も服もお薬もくれたし大好きだけど、わたしとは他人だから、わたしが我がまま言って困らせたら駄目だと思って、我慢してたの。色々してくれたお礼も出来ないのに、これ以上迷惑かけられないから、せめてサクが安心して行けるように大丈夫だよって言おうって」


 シュリが健気過ぎて天使に見えたので、話の途中だが、シュリを抱きしめた。

 シュリに「苦しい」と言われて正気に戻り、離して話の続きを聞くことにした。


「世界いっしゅーって初めて聞いた時から、なんとなくお別れしなきゃいけなくなるんだなって分かってたから、心の準備してたつもりだったんだけど、結局泣いちゃってサクを困らせちゃって、ごめんね?」


 そ、そんなに前から考えていたなんて……! それで馬車に乗る時も様子がおかしかったのか。

 あの時も感付いてしまってショックなのを必死に隠していたのか。なんて健気な。

 もう一度抱きしめようとしたのだが、俺の体はもうすでにシュリを抱きしめていた。自動運転。

 シュリに「苦しい!」と少し怒られた。何度もやるのは流石に駄目だったみたいだ。


「なるほど、そういう事情だったんですね」


 孤児院のお姉さんはシュリの頭を撫でながら、持っていた布切れでシュリの涙や鼻水のあとを拭いてあげていた。慣れた手付きだ。


「で、だ。姉貴の孤児院に預けられねーか尋ねてみようってんで、俺が連れてきたわけよ」


 急に背後から声がしたので振り返ると、いつの間にかオグロジカの取調官さんがいた。

 今、姉貴って言った? 既視感があると思ったら、この人の姉だったのか。

 姉弟揃って人の背後取るのが上手いですね。


「ああ、なるほど。それでは、立ち話もなんですし、中で少しお話ししましょうか? シュリちゃんもおいで?」


 こうして、俺とシュリ、二人の取調官さんとお姉さんは、孤児院の扉を潜ったのだった。




明日は21時頃の投稿予定です。

午前中にも投稿出来るように頑張ってみますが、期待しないでください。

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