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第23話 ヴィアジルド

本日もよろしくお願いします。


 ドスッ!


 槍使いの人が突き出した一撃で、()()()()は絶命して動かなくなった。

 俺はシュリを背に庇い、その光景をただ見ていることしか出来ずにいた。

 ヴィアジルドへ向かう道中での出来事であった……。


 モンスター。

 ゲームの敵キャラとして登場する、凶暴な存在。

 こちらの世界に来て初めて目にする存在。

 目の前で息絶えた存在。


 出会いは突然で、俺はすぐには反応出来なかった。

 乗合馬車の行く先に、脇から飛び出してくるのが見えたらしい。

 御者や他の乗客がざわめく中、俺が何だ?何事だ?とオロオロしているうちに、馬車の護衛として備えていた男の人が飛び出し、持っていた槍でモンスターと打ち合い、突き飛ばした……らしい。

 俺が漸く事態を把握して外を見た時には、すでにモンスターは何度も攻撃を受け、満身創痍で威嚇の雄たけびを上げるのが精一杯という感じであった。


「ギュエエエエエー!」


 その声も鳴りやまぬ間に、槍使いの一撃がトドメとなり、その生物は息絶えることとなる。

 オオトカゲと形容出来そうな外見からは、普通の動物にしか見えない。


「お客さんたち、もう大丈夫だぜ。最近じゃあ見ることも無くなってたってのに、珍しいなあ。おい、護衛の兄さん! そいつの処理は任せるからよ、早いとこ馬車を出そうぜ!」


「ああ! こいつはヴィアで解体させてもらうよ!」


 馬車の御者のおじさんと護衛さんはそう言葉を交わすと、お互いの役目を果たすように仕事へと戻り、数分後には馬車は何事も無かったかのように出発したのだった。


「サク! 大きかったねぇ! あのおじさん、強かったねぇ!」


 シュリは、先ほどの戦いにも動じることなく燥いでいた。

 モンスターなんて見慣れているはずもあるまい。タフなものだ。


 それに比べて俺はというと、モンスターというのもそうなのだが、生き物が目の前で殺されたのを見たことがショックで、少し青褪めていた。


「サク……? 大丈夫?」


 遂にはシュリにも心配をかける始末だ。情けない。

 シュリは車内でも沢山話をしたかっただろうが、その後は俺とはあまり話をすることなく過ごすこととなってしまった。申し訳ない。



  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 中心都市ヴィアジルド。

 そこは、これまでの町とは全く違っていた。

 先ず、門と城壁のサイズからして別物と言えた。


「でっかー!」


 シュリが言う通りだ。本当にでっかい。

 門番の数や入門待ちの人の列もこれまで見た町とは比べ物にならない。

 俺たちの乗った乗合馬車も、その列の最後尾へと加わる。

 到着まで体感時間で二~三時間といったところだった。モンスター騒動などもあったというのに、やはり徒歩に比べると格段に速い。

 乗り心地はイマイチではあったが。


「サク、大丈夫?」


 シュリに再度心配されてしまう。

 乗り心地も悪くてあまり回復出来なかったとは言え、そんなに青い顔色をしてるのだろうか、俺は?


「こんな大きい町、見るの初めてなんでしょ? そんなに緊張しなくても、わたしがついてるから大丈夫だからね!」


 シュリの微笑ましい言葉に、乗り合わせた他の乗客からクスクスと笑い声が漏れていた。俺の情けなさも笑われているのだろうか?

 うちのシュリの可愛さは一級品だから、当然車内ではアイドルだったことは言うまでもないだろう。

 俺がモンスターの件で若干グロッキーになっていた時も、シュリは人見知りもせず車内の人たちと話をして、場を和ませていたものだ。


 正直、シュリが周りから「兄妹?」と聞かれた際、「違うよ。シュリはサクのオンナだよ!」などと答えていたら車内の空気は凍りつき、俺はゲームオーバーだっただろう。実際、言いかねないと思った。

 だが、機転を利かせたのか「うーんと……そう、兄妹!」と答えてくれたので、俺は今もこうして生きていられるわけだ。

 変な間があったことまで気にする人がいなくて本当に良かった。


「サク! 次! わたしたちの番!」


 兄妹で何故お互いに名前呼びなのか不思議がる人はいたかもしれないが、それほど気にするところではあるまい。

 そんな可愛いシュリを皆で愛でていたら、あっという間に俺たちの番が来てしまった。

 シュリ、恐ろしい子。


「次! キレートレからの乗合馬車だな?」


 門番さんの声掛けに、同乗していた槍使いさんが先に降り、モンスターの亡骸を見せて話をしている。

 それに驚いた門番さんが別の係員らしき人を呼び、槍使いさんはその人と一緒に行くことになったようで、御者のおじさんと打ち合わせをしていた。

 彼が肩から担いでいたモンスターの亡骸が俺たちの視界にも入り、他の乗客たちは嫌そうに、シュリは興味津々に見入っていたが、俺は素直な感想として「可哀想だな」と思っていた。モンスターが害獣なのかは知らないが、甘い世界で生きて来たから故の甘い考えなのかもしれない。

 俺は、そっと手を合わせて、そのモンスターの死を悼んだ。


(次に生まれて来るときは、モンスター以外に生まれて幸せになれるといいね。助けてあげられなくてごめんね……)


【特殊スキル《xxxxxx》のスキル解放条件を一つ満たしました】


 突然のその声に驚き、ハッと周りを見る。

 今のはスキルを取得した時に聞こえる声だった。

 何かの条件を満たしたと言っていたが……?


 そちらに気を取られていたが、シュリに呼ばれて現実に引き戻される。


「サク! 馬車から降りなさいって? 行こう?」


 気が付くと、周りの人たちは降車の準備をして動き出していた。

 今の声と内容は気になるが、後で落ち着いてからアルル様に聞くしかあるまい。今アルル様と話していると、気を削がれて周りに迷惑を掛けそうで危ないからな。

 シュリに促され、俺も荷物を担いで馬車から降りることにした。


「はい、毎度どうもー」


 乗合馬車は俺たちを降ろすと、一足先に門を潜って中へと行ってしまった。

 残された俺たちは改めて一列に並び、入門審査を受けることに。



 ……あ。

 しまった。


 シュリの身分証ってどうしたらいいんだ?



  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 結論から言うと、通ることが出来た。

 だが、当然と言うべきか。別室へご案内~だ。

 しまったー、だよ。完全に失念していた。

 仮証を持った人間が身分証無しの子供を連れてたら、そりゃ怪しいよなあ。シュリは身元不明、出自不明だろうし。


「お嬢ちゃんは、何歳だい?」


 担当の取調官と言ったところか。保安官というよりは、現代日本の刑事と言った方が近い気がする。

 種族は猿ではなく、鹿系っぽいが。


「シュリは九歳です!」


 だが、そんなの関係無い。

 誰であってもシュリの魅力には敵わなかった。取調官さんもデレデレさ。


『今日は少し親バカが過ぎますね。馬車の辺りから酷いですよ』


 おっと、アルル様。可愛いでしょう、うちのシュリは。


『まったく……。そんな状況でもないでしょう? しゃんとして、目の前に集中しなさい』


 そう言われて現実に戻ると、目の前の取調官さんに睨まれていた。やっべ。


「で? 君とこの子の関係は?」


 うっ、これはどう答えたらいいんだ?

 助けて、アルル様ー。


『それは正直に答えなさい。あなたに助言は出来ても、隣の子と口裏を合わせることは今からでは無理なんですから。下手に嘘ついたら状況が悪化するだけですよ。悪いことしたわけでもあるまいし』


 仰る通りです。

 というわけで、ありのままを話すことにした。




 …………




「……君は、馬鹿なのか?」


 ですよねー。そうなりますよねー。


「もしくは、特殊な性癖の人なのかな? こういう子供が……」


「それは違います。子供の前で変な話をしないでください」


 スマンスマンと謝られたが、まあ彼の言う通り、馬鹿にしか見えないよね。


 見ず知らずの孤児を成り行きで保護し、世話を焼いて一緒に旅する。

 そんなのは美談でも何でもなく、頭のおかしい行動にしか見えなくても仕方ないだろう。

 こんな時代じゃあ尚更。


 みんな、そんな余裕なんて持っていないのだから。


「そういう話はたまに聞くけどよ。アンタみたいな若い奴は初めてだ。将来の花嫁候補か?」


「だから違います。そういう話を子供の前で……」


「まあそれは置いといて。真面目な話、その子は身分証を作る必要があるな。特殊な事例だから、新規での発行となる。幸いにも、ここは中央に行けばあらゆる施設が揃ってる町だ。今日のうちに手続きを申請してしまえば、二~三日以内には出来ると思うぜ」


 話は置いとかれたが、それは僥倖だ。

 ここで身分証が作れれば、俺とお別れした後も困ることは無いだろう。


「まあ、今日は牢屋で一泊だけどな」


 僥倖じゃなかった。

 母さんゴメン。俺、前科持ちになっちゃったよ。


「おい、考えてることが手に取るように分かるぞ? 言っておくけど寝泊まりしてもらうってだけで、犯罪者扱いするだとか前科が付くってわけじゃないからな?」


「なーんだ。良かったです。でも、何故牢屋で寝泊まりを?」


「一応、念のためな。身分証が発行される前に街中で揉め事とか起こされると困るんだよ。この町は上流階級向けの施設もあって貴族なんかも滞在してるから、揉め事の内容によっては洒落にならんだろ? 貴族相手ともなれば俺らの責任問題にまでなりかねないからな」


 なーるほどねー。そりゃ、ごもっとも。

 ラノベや漫画でもよくあったな、貴族とトラブル。


「まあ、そういうわけだから、すまんが不自由は我慢してくれよな」


 その後、俺とシュリは別々に分けられ、暫く質問をされた。

 流石にスリのことは話してないし、キレートレにいる時点でシュリにも口止めしてあったから大丈夫だと思う。

 それよりシュリがまたおかしなことを言ってないかだけが心配だ。

 や・め・て・ね?


 それが終わると、俺とシュリに質問して取り調べていた二人が付き添いになって、町の中央の役所まで歩くことになった。

 犯罪者というわけではないので手を縛られたり腕を掴まれたりしているわけでもない。

 この二人も目立つ制服姿というわけでもなくその辺にいそうな外見なので、パッと見で目を引くわけでもない。

 同行されての町の案内と思えば、なんてことないだろう。

 実際、シュリは初めて見る大きな町に目を輝かせていた。


「わぁー! 凄いねぇー、サクー!」


「ウロチョロしないでくれよ? 一応は護送中って扱いなんだからな。無害な子供二人だから自由に歩かせてはいるが、何かあったら容赦無く抑え込むから、そのつもりでな?」


「はい、もちろ……うっわ、今の人、竜人ですよね? 角すっげー! あ! あっちの人、シロクマっぽーい!」


「サク、あっちに美味しそうな店があるよ! 後で絶対行こうね!」


「こいつら……」


 もう一人の護送付き添いの人は、俺たちの燥ぎっぷりにケラケラと笑っていた。

 いかんいかん、俺まで燥いでどうするよ。俺はしっかりしないと。

 って、誰が子供やねーん。さらっと子供二人とカウントしないでくださいませんか?


 そんな感じで観光客とガイドのような四人組は、中央区画のお役所へと向かって行ったのだった。



次回の投稿は4月28日の18~20時頃の予定です。

よろしくお願いします。

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