第22話 行くぜっ! 中心都市
本日もよろしくお願いします。
異世界生活九日目。
昨日は早く寝たから、かなり早くに目が覚めた。
いつの間にか、転生して一週間以上が過ぎていたんだなあ。
シュリのことで頭がいっぱいで、「今日で一週間か~」なんて気付かなかった。
充実していたとも言えよう。
『他人のことでそこまで一生懸命になれるとは、ホントお人好しですね』
あ、お早うございます。アルル様。
誰がお人好しですか。否定し切れないですけど。
『お早うございます、咲也さん。ほら、現地妻をおはようのチューで起こさなくていいんですか?』
誰が現地妻ですか。
てゆーか現地妻って何? 意味を知らないんですが。
『知らないなら無理して知らなくても。それより、これからどうするつもりなんです?』
隣では、シュリがすやすやと眠っている。
シュリには悪いがアルル様とゆっくり話すチャンスだし、もう少し眠らせておこう。
『まあ! 妻の横で他の女と堂々と浮気だなんて、見損ないましたよ! マイナス五万ポイントです!』
妻じゃねーし、浮気じゃねーし、マイナスポイント多過ぎるし!
朝イチからツッコミが追い付きませんわ。
あと五万ポイントはトラウマを呼び覚ますので、マジで止めてください。
こんなことばかりしてたら、あっという間に時間が経って、シュリが起きちゃいますよ。
『目覚めを遅らせる魔法でもかけましょうか? ……ハッ! しまった! そんな魔法がかかったとバレたら、咲也さんが肉欲の赴くままに、いたいけな少女の体を貪ってしま……』
しまいません。朝からそういうのは止めてください。
てゆーか昼でも夜でも止めてください。聞こえてないとはいえ、子供の前なんですから。
『あらあら、すっかり保護者の立場ですねー。自分だってそう変わらないというのにー』
くっ、どうせお子ちゃまですよ、俺は。
だけど自分よりずっと年下で、それなのに過酷な境遇で暮らしてきたこの子には情が移ってしまっている。
関係は親代わりでも、友達でも、兄妹でも、何であっても構わない。
これまで大変な思いをしてきた分、せめて俺と一緒の間だけでも守ってあげたい。笑顔にしてあげたい。
『……で、どうするつもりですか? 旅も停滞してますし、これ以上は延ばせませんよ? いつまでも一緒にはいられませんし、そろそろ先のことを考えておいてください』
……そう、彼女とは間もなくお別れしなければならないのだ。
色々と考えてはみた。
孤児院を探す道。
町中で預けられる人を探す道。
島中で預けられる人を探す道。
体力をつけてもらって、俺の旅に同行してもらう道。
いっそ俺が旅を中断、もしくは中止して彼女が自立出来るまで面倒を見る道。
この島や近くの島に定住して、彼女と一緒に暮らす道。
先送りして、暫くは楽しく暮らす道。
……まだ、決められていない。
『優柔不断というより、情が移り過ぎて現実逃避に近くなってますね。言っておきますが、旅の中断や中止が前提のプランは了承出来ませんよ。それを選択するのであれば、あとは自力でやってもらいます。アイテム類も回収しますし、私のサポートもそこで終了です』
分かってます。もとより、そのつもりはありません。
それは俺にとってもシュリにとっても、ためにはなりませんから。
『あら、意外。何でそう思うんですか?』
なんとなくです。なんとなく。
それに、アルル様がそこまでキツい言い方するってことは、良い未来にはならなそうかなって。
『ほう、なかなか考えてますね。未来についてはノーコメントですが、まあ旅は止めるべきではないとだけ言っておきましょうか』
現実的に考えると、やっぱり俺が面倒見続けるのには無理が生じる。
俺にはこの世界の常識も経験も何も携わってない。この旅でそれらを得ないといけない。
そうなると、やっぱり信用出来る第三者を探すしかないだろう。
それも、自分の目で見て判断する必要がある。
守るだけじゃ駄目だ。彼女は一人の人間なんだし、保護者の下で守られながらも、いずれは自立させてあげられないと。
『それでは、この島の中心都市に行ってみてはどうですか?』
中心都市?
『ええ。この町から北に行ったところにあります。この島で一番大きい町で孤児院などもあるので、この町で迷っているよりはマシになるのでは?』
なるほど。それはいいかもしれない。
隣の町ならシュリにも長旅させずに負担も少なく出来るし、孤児院がちゃんとしたところなら一番いい。
それが駄目でも、何か糸口が見つかるかもしれない。
よし、シュリが目覚めたら相談してみよう。
アルル様にお礼を言って、シュリより一足先に朝の支度を始める。
昨日は例の御馳走を食べて以降、何も食べていなかったのだ。
シュリはおかわりをしたが、俺は結局一皿だけしか食べなかったので、今はかなりの空腹。
ここの宿は食事無しで頼んでしまったので、手持ちの中から何かしら出して食べよう。
俺が朝食を摂っていると、漸くシュリも目を覚ましたようで、眠そうに目を擦りながら挨拶をしてきた。
「ふぁ~ぅ。おふぁ~よ~」
「お早う、シュリ。調子はどうだい?」
「う~ん……? ああ、おくすりのおかげか、なんともないよ? ホント、ありがとう」
寝起き間もなくだというのに、しっかりしてるなあ。
でもこれで、一安心だ。
シュリも朝支度を始めたので、顔を拭いて髪にブラシを掛けてあげる。
シュリは申し訳ないから自分で頑張ると言っていたのだけれど、昨日俺が世話を焼くのが楽しみになっていると話したせいか、させてくれと言ったらすんなりと受け入れてくれた。
シャンプーもトリートメントも、シャワーすら無いこの世界だが、毎日の手入れのお陰かシュリの髪の状態も日に日に良くなってきていると思う。
シュリの分も朝食を準備し、二人で食べながら今日の予定を話し合うことにした。
……あのことも、話さないといけないな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……結局、「お別れする」ことについては話すことが出来なかった。
単なる俺の度胸の無さによるものなのだが、話して泣かれるとと思うと言い出せなかった。
その代わり、隣の町に行く予定を相談したら、元気良く「わたしも行く!」と言ってくれた。
この町の知り合いなどに挨拶は?と聞いたのだが、「特にいない!」と元気良く答えてくれた。
身支度はいいかと聞いてみたが、「何も無い!」と元気良く答えてくれた。
心残りは?と俺が聞き終わらないうちに、「全く無い!!」と元気良い答えが返ってきた。
シュリよ……。
宿の人に尋ねてみると、この島の中心都市である隣町“ヴィアジルド”へは、一日に二~四本ほど乗合馬車が出ているのだそうだ。
思惑通りに中心都市の名称を聞けたので、全知全能の図鑑のマップ機能で地図を表示することが出来た。もちろん、このキレートレからの経路もバッチリだ。
とは言え、今回はシュリもいるので流石に歩くわけにもいかない。初となる乗合馬車を試してみようと思う。
出発は、今日だと昼前が一本、昼過ぎに一本あるそうなので、最後に町の散策と食べ歩きをしてから昼過ぎの便で行くことにした。
シュリにとっては楽しい思い出はあまり無いかもしれないが、一応は生まれ育った町だ。最後に楽しい思い出を残してやれたらいいな、と思う。
というわけで、食べ歩きじゃー!
「イエーイ!」
テンションの高まったシュリと一緒に、まるで東京の夢のランドでも巡るかのように燥いで歩く。
シュリの培ったグルメ舌によるガイドで、美味しそうな露店メニューを次々と買い漁って行った。
グルメと言っても、残飯拾いから得たものなのは残念極まりないが。引くわー。
子供ながらにアクセサリーなどにも興味があるのか、チラチラとその手の露店も見ていたので、「欲しいのがあれば買ってあげようか?」と言ってみたら、「これ以上は貰わないと言ったはずでしょ? それはそーしょくひんも同じよ」と大人びたことを言ってきた。
うん。君、さっきから「あれも、あれも」と食べ物をねだり続けてるけど、それはいいのかい?
色気より食い気。可愛いからいいか、なんでも。
昼頃までそうしてブラブラし、お腹も満たされて満足気なシュリに、もういいかと尋ねてみる。
「うん! これから行くところって、ここより大きいんでしょ? 楽しみー!」
もうすでに、次の町のことを考えているようだ。心残りは本当に無いんだね、シュリよ。
まあ、来ようと思えば来れないわけではないのだし、今生の別れというわけではないのだから、いいか。
そんなシュリを伴い、乗合馬車の乗り場がある北門の前へと向かう。
「うわー! 大きいー!」
乗合馬車を見て燥ぐシュリに、今日もほっこりだ。
かく言う俺も、馬車なんて見るのは生まれて初めてなので、内心はワクワクして堪らない。前世今世含め初だ。
シュリの前だから子供みたいには燥げないけど、俺も「うわー、大きいなー!」とか言いたいくらいにはワクワクしている。
「シュリ、馬車を見るのは初めて?」
「ううん。いつも見てたよ? でも、こんな近くで見たのは初めてだぁ。いつもは近付こうとすると追っ払われてたからなぁ」
シュリ、不憫な子っ。
今日は好きなだけ見たらいいさ。思う存分。
分かってるかい? 今日、これに乗るんだぜ? 嘘みたいだろ?
いつまで見ていても飽きないといった様子のシュリを残し、乗合馬車の手続きを済ませてしまうことにした。受け付けていたのは商人風のおじさんで、人数を伝えて料金を支払えばそれで終わりだった。
「ごめんなーあんさん、今日は豪い混みよって、あと一人しか乗れませんのや。堪忍したってなー?」
「な、なんだってー! じゃあ、シュリとはここでお別れだー!」
「いやーん!」
……なんてドラマも無く、普通に乗れた。
それに、おじさんも関西弁などではなく普通に「あいよ! 二名様ね。確かに承ったぜ!」と言っていた。雰囲気を楽しみたかったのだが、残念。
「乗れるって?」
「うん。今日は空いてるから、余裕だって」
「やったー!」
無邪気に喜ぶシュリに再ほっこりし、馬車の出発まで話をして待った。
シュリはこれまで一人だった分、色々話したくて仕方ないみたいだ。いい話し相手になれて何よりだ。
「サクは、何処まで行くの?」
不意に、シュリがそんな問いかけをしてきた。
何処まで、とは?
「シュリと一緒。隣の町のヴィアジルドまで行くよ?」
「その後は?」
「うーん……? 多分、港町とかじゃないかなあ。まだ分からないけど」
「じゃあじゃあ、その後は?」
「この島を出たら、隣の島じゃないかなあ? それからまた次の島、また次の島。そうやって、世界中を巡る予定だよ」
「……! ……!? ……そ、そうなんだー。すごいねぇー……」
シュリはそう言うと、急に黙ってしまった。
どうしたんだ? 世界とかいうスケールが想像出来なかったか?
あ、もしかして世界って概念自体が分からなかったのかな?
「あ、世界って言うのはね……」
「あっ、そろそろ馬車出そうだよ……! 早く乗りたいなー……!」
おっと、話に夢中で気付かなかった。
よく気付いたね、シュリ。偉い。
そう思って馬車の方を見るが、特に出発の兆しがあるようには見えなかった。
俺が気付かない出発の前兆みたいのがあるのか?
「ほ、ほら。早く行こー」
シュリに引っ張られて行くと、やはりまだ出発準備はしていないようだった。
だが、粋なおじさんが「お嬢ちゃん、もう乗りたいのかい? 仕方ない、特別だよ?」とシュリだけを先に乗せてくれた。
お礼を言って、馬車の中のシュリを見ると、「わー」と車内を見回して興味深そうにしていた。
「よかったね、シュリ」
「……」
「シュリ?」
「……ん? な、何?」
「……? いや、なんでもないよ……」
何か、さっきから様子がおかしい気がするな。馬車に興奮しすぎて疲れちゃったのかな?
まあ子供だし、仕方ないか。それ以外に何かあれば、自分から喋ってくれるだろう。
『……』
そんなこんなで、俺とシュリを乗せた馬車は中心都市ヴィアジルドへ向け、旅立とうとしていた。
この旅も漸く旅らしくなってきたなと、俺はのんきに構えていたのだった。
今話で十万文字を突破しました。楽しくて思うまま書いてると、早いものですね。
読んでくださった方々に感謝です。
次話は4月26日の19~22時の投稿予定です。
よろしくお願いします。




