第20話 シュリとカントロー
本日二話目です。
(一話目は午前)
「ごっちそー、ごっちそー♪」
無邪気に燥ぐ少女、シュリにほっこりする。
呼び名も無事決まったので、より一層友達っぽくなったはずだ。
一緒に歩く姿は兄妹にしか見えないかもしれないが、関係性は友達。友達との旅行中というシチュエーションだ。
お互いに「サク」「シュリ」と呼び合い、その度に照れを含んで嬉しそうにニヤリと笑うシュリは、マジ天使。可愛すぎる。
将来自分に子供ができたら、ぜひこういう子であってほしいと思ってしまった。これって父性?
ともあれ、約束通りに今日は彼女の好物をメインに御馳走を振舞おうと思い、宿を出て目的の店へと向かっていた。
快気祝いも兼ねるが、昨日の今日……どころか今朝復活したばかりなので、量は控えてもらうことにする。
因みに彼女の好物は「カントローの包み焼き」という料理らしい。
「肉!」とか「甘いもの!」とでも言うかと思っていたのだが、意外にグルメっぽいリクエストには驚いた。
多分、いや絶対、「寒トロ」じゃないよね? 寒ブリなら聞いたことあるけど。
何故それが好物なのか聞いてみたのだが、「残飯の中でも、食べ残しが包まれてるから他のと味が混ざってなくて特に美味しかった」という理由に少し引きつってしまった。聞くんじゃなかった。
てゆーか包み焼き全般、好物になるんじゃね?
しかしながら、彼女には「カントロー」とやらが美味しく感じられたらしく、他の包み焼きよりも好きだったのだそうだ。やっぱり他のも食べてたんだね。ちょっと引くわー。
今日はもう好きなだけ食べるといいさ。作りたての、食べかけじゃないやつを。
おっと、好きなだけ、は駄目だった。腹八分目ぐらいまでにしようね。
シュリは周りの孤児たちや大人の会話から学んだのか、意外と物知りだ。
料理名もそうだが、彼女の歳で高校生の俺と不自由なく会話出来るのは、実は凄いことなんじゃなかろうか?
ただの親バカ? 違うって、実際うちの子は凄いねん!
話は変わるが、店までの道中でふと思い出して「そういえば元々着てた服は捨ててもいいか」と尋ねたところ、あっさり了承を得られた。
「でも、この服って返さないと駄目だよね? そしたら着るもの無くなっちゃうから、また拾って来ないと」
おいおい。借り物だと思ってたの?
それはあげたんだよ、と言うと、目をキラキラさせて「いいの!?」と喜んでくれた。
せっかくだから食事の後で服屋でもう一、二着買おうかと提案したら、それは贅沢過ぎると断られた。
「こんなに良い服なら大事に着れば三年はもつ。わたしなら五年は着てみせる!」
「よし! 着替えるという文化を学ぶためにも、替えを用意しよう! 是非しよう!」
一着で五年過ごすつもりとは恐れ入った。
確かに今までの生活からしたら贅沢過ぎるのかもしれないけど、俺といる間は俺の基準でやらせてもらおう。
てゆーか、贅沢って何だっけとこちらが困惑するわ。
「でも……本当に恩返し出来ない。わたしが盗みとか野外生活術教えるとしても、全然釣り合わない」
「子供なんだから、恩返しとかあまり考えなくてもいいんだよ。こっちがシュリにしてあげたくてやってるんだから、素直に甘えてよ。それに、俺はきっと覚えが悪いから、技術を習得させるには相当苦労するかもしれないよ? 後で、もっと貰っておけばよかったって後悔するかもよ~?」
そう言うと、彼女はケラケラと笑い、分かったと納得してくれた。
友達同士としては対等ではないのだろうけど、保護者としての一面も時には必要なのだし、これでいいのだ。
そうこうしているうちに目的の料理屋へと到着し、中へと入った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺は今、ものすごく後悔している。
考え無しの行動は、時として取り返しのつかない結果を招くのだと現実をもって知ることとなってしまった。
俺は何て馬鹿なことをしてしまったのだろう。あそこで余計なことをしなければ、今頃シュリとの幸せな時間が続いていたはずだったのに。
だが、もう過去には戻れない。
ごめんな、シュリ。
君と一緒に笑っていられた頃に戻りたいよ。
ごめんな、シュリ……。
「食べないの? 先に食べちゃうよ?」
目の前に並ぶ待ちに待った御馳走に、シュリは一人、興奮していた。
俺とは雲泥の差だ。
「うん……。食べていいよ、気にならないなら……」
「美味しーー!! 幸せーー!!」
俺が言い終わらないうちから好物に齧り付き、シュリは心底幸せそうにそれを味わっていた。
そんな彼女とは対照的に、俺は目の前のそれに手を出せずにいた。
カントローの包み焼き。
見た目は鶏肉の照り焼きに近い。とても美味しそうだ。
だがそれは、「カントロー」とやらの姿を知る前なら、の話だ。
俺は迂闊にも、店での注文の際に「カントローって何?」と店員の前で呟いてしまったのだ。
そこからは早かった。
ちょうど捌く前のカントローがありますよと店員の親切心が芽生え、厨房からテニスラケットより一回りほど大きいサイズの実物を持って来て見せてくれたのだ。
初見の印象としては、ワニ×エビ、もしくはサソリといった感じ。
だが、単純に掛け合わせた姿ではなく、何と言うか……絶妙に気持ち悪い。
生き物としては特段不気味というわけでもないのだが、食べるとなると話は別。
その姿を知ってしまった後となっては、食欲は全く湧かなかった。
何故、無知なままで食そうとしなかったのか、過去の俺は。
その見た目も気にならないのか、シュリは一人黙々と食べ続けている。
そりゃあ食べ残しでも、捨てられて冷めきった状態でもないし、ひと際美味しいだろうさ。
店員がカントローの実物を持って来た時も、周囲から悲鳴などはあがらなかった。
つまり、周りの人たちもアレが調理されていると知った上で食しているということだろう。
俺がおかしいのか? よく見れば、何人か同じ料理を食べている人もいる。
食文化の違いって、怖ーい。
『“デビルフィッシュ”を喜んで食べる文化の人には言われたくないと思いますよ?』
デビルフィッシュ? 確かタコのことだっけ?
何で? 美味しいよ?
「おかわり!」
悶々としている俺をよそに、シュリは一皿目をペロリと平らげ、二皿目の注文を求めていた。
元気のいい「おかわり」の言葉に、周りからも微笑ましいものを見るようにクスクスと笑い声が零れた。
可愛いでしょう? うちのシュリは。
知らないでしょう? この子が数日前までこの町でスリとして生きていたことなんて。
ホント、関わって良かったよ、この子とは。
そんなことを思いつつ、目の前のシュリを眺めてほっこりと癒される。
決して、それよりさらに目の前にある料理から目を背けているわけではない。決して。
「……食べないの?」
二皿目も平らげたシュリが、俺が一切手を付けないことを気にして声を掛けてきた。
心配してくれているのかな? 優しい子だ。
「ああ、うん。何でもないんだ……よ…………あれ?」
シュリを見ると、目線は微妙に俺ではなく下の方に向いている。
口元にはヨダレ。
あっ、これ、俺の心配してるわけじゃないな?
さては、俺の分も狙っているだけだな?
「……これも食べる?」
手元の皿を差し出して尋ねると、「いいの!?」と目を輝かせて喜んだ。
まあ、俺は食えそうにないし、逆に助かったとも言えるが。
シュリは俺から料理を受け取ると、嬉しそうに食らいついた。今更ながら、今度からはテーブルマナーも少し教えないと。さっきからガッつき過ぎだ。
それはともかく、今日はこの辺でお終いだな。
三皿も食べたら食べ過ぎなくらいだし、また体調を崩されてもね。
そう思ってシュリに声を掛けようとしたら、何故か彼女は食事の手を止め、俺の方をじっと見ていた。
何だ? もっと食べさせるまでテコでも動かないとでも言い出すのか?
「……食べないの?」
シュリは、不思議そうに首を傾げ、俺を見つめた。
「……もしかして、わたしが食べ過ぎたからお金無い?」
そのセリフに、周りの客と近くにいた店員がざわつくのが分かった。
少し大きめの声で「お金は大丈夫だよ。ここで払う分も、この後で服を買う分も十分足りるから」とアピールした。
危ない危ない。無銭飲食かと疑われそうだったよ。
「じゃあ、何で食べないの?」
シュリはなお、不思議そうな目で見つめてきた。
これ、今度こそ俺を心配してくれているんだな。
「いやあ……お腹減ってなくてさ。気にせず食べていいよ?」
そう俺が言うと、シュリは数秒考え込むように下を向き、おもむろに手元の料理をひと口分取って、俺に差し出してきた。
「ひと口だけでも食べて? 絶対に美味しいから」
うおう、ノーセンキュー。
ありがた迷惑とは、このことか。
だが、心配そうに俺を見つめる純粋なシュリを無下には出来ない。
正直気は進まないが、仕方ない。ひと口だけ食べてみよう。
俺は目を閉じ、心を無にしてシュリの差し出した「カントロー」を口に入れた。
美少女に“あーん”してもらえるなんて贅沢だって? 今それどころじゃないっす。
モグモグモグモグ……ゴクン。
……意外と、美味しかった。
「美味しいね?」
「でしょ!」
そりゃそうだ。これだけ皆が食べているのに不味いわけがなかった。
完全に俺が食わず嫌いなだけだったな。
もしかしてシュリはそれを見抜いて、気を回してくれたのだろうか。
「わたしだけ食べてても楽しくないから、これで思う存分食べられる!」
違った。自分の為だった。
まあ、子供だし。俺を気遣ってくれたことには変わりない。
贔屓目だが、いい子だよ、この子は。
「おかわり!」
遂に三皿目を平らげ、再度のおかわり要求が発生してしまった。
本当は食べ過ぎだから、駄目と言いたいところなんだが……。
「じゃあ、次で最後だよ?」
「うん!」
俺も甘いなあ。
単品料理だし、今日だけは大目に見よう。魔法薬で腹痛は防げるみたいだし、わざわざ幸せそうな表情を曇らせる必要は無い。
店員さんに、同じ料理を二皿注文する。
食わず嫌いが解消した今、俺も食べない理由は無くなったのだ。
ごめんよ、カントロー。見た目だけで君を毛嫌いしてしまって。
せめてものお詫びに、美味しく頂かせてもらうよ。
カントローからは「結局食われるのねー?」と文句を言われそうだが、それはそれ。
運ばれて来た料理を二人で美味しく平らげ、味も量も満足そうなシュリと共に店を出たのであった。
当初の目標だった二十話を無事達成することが出来ました。ありがとうございました。
次の目標は五十話を目指しています。
ここで長々書くのもアレなので、活動報告を書こうと思っています。
もし宜しければ、そちらもよろしくお願いします。
次回は4月23日の19~22時の予定です。




