第184話 一家との出会い①
本日もよろしくお願いします。
新・異世界生活六十三日目。
本日は、あいにくの雨模様だ。
新たな町で一泊した俺たちは、そんな天候の中、町を軽く散策して冒険者ギルドを見付けて立ち寄り、貼り出された依頼を眺めながら次なる探索地に目星をつけていた。
この町を拠点に探索出来るのは、ここら一帯にそびえる山地と盆地、そしてその周辺の川ぐらいだ。
だから、前のように今日は森、明日は岩地とかじゃなく、山地のどの辺りに向かうかという決め方になるだろう。
そんなわけで、受けられそうな依頼を受注して早速町の外へと向かうことにする。
「今日は近場なんスね? なら、ゆっくり移動出来るッスよね? ね!?」
「……昨日は悪かったって。ちょっと意地悪し過ぎたから、俺も反省してるよ」
「……モモさん、あの後、宿屋のトイレに随分長く行ってたけど……いや、何でもないわ」
「ちょっ!? ココナさん、中途半端に触れないでほしいんスけど!? 聞くなら聞くで、「もしかして下着洗ってた?」くらい聞いてほしいッス!」
「いや、自分で暴露してんじゃん!? 気を遣ってたのに、無駄じゃない!」
「だって、三人ともあの後なんにも聞いてこないんスもん! ちょびっとだけアレしたから確かに洗ってたんスけど、その後履かずにご主人様をドキドキさせようと企んでたのに、何も聞いてくれないからタイミング逃して、結局そのままベッドインしたんスよ!? 逆にいつバレるかとこっちがドキドキしてしまって、寝つきが悪かったんスから!」
「おおい!? そんなことしてたのかよ!? 寝つきが悪かったのは自業自得だろ!」
むしろ、その状態で眠れたのかよ、と思う。
そんな、今日も相変わらずな仲間たちとともに町を出て東にある山の方角を目指して歩いていると、ふと《天の知らせ》の反応があったように感じた。
それは、ココナの時ほどでは無いもののまたもハッキリせず、なんとなく「気がする」程度のもので、一応直感に従って進路を変更してみる。
その知らせが齎した方角は進んでいたのよりほんのわずかに南だったのだが、どこかの地点を目指せというなら山の麓に着いてからでもよかったんじゃないかと思う。
なぜ、今?
不思議に思いながらも、何かあるのかもなと周囲を警戒しながら進んでいると、そのワケが分かった。
山地に向かう途中で、前方からモンスターの反応が近付いて来たのだ。
なるほど、これじゃ確かに麓に着いてからじゃ遅いし、進路を変えずにいたらすれ違って終わっていたな。
だが、かなりの速度で進んで来る四つの反応に、俺は仲間交渉を諦めつつあった。
今現在雨は止みつつあるものの、この天候の中でこんなスピードだと、声をかけて止まってもらうのは難しそうだし、悠長なことをしててモモに飛びかかられても困る。
なら力ずくで止めるしかないが、現時点でモンスターの種類も分からないのに、濡れて足場も悪い中でそんなのどうやったらいいんだか……。
……濡れて?
そこでハッとイチの魔法の存在に気付き、モモが抱いて歩いていたイチを受け取って相談を持ち掛けてみる。
「咲也さん! モンスターの気配が……」
「うん、ちょうどそのことを相談しようと思ってたんだ。イチ、例の中位ランクの水の壁、今から出せないかな?」
(ぷる? 出来るけど……どうしたの?)
「実はね……」
そうして、突進してくるモンスターの前に水の壁を作れないかという案を話してみた。
これならどうしてもスピードを落とさないといけないし、その隙に声をかけたり、駄目なら駄目でモモに危険が及ばないようにしながら麻痺させることも可能になるだろう。
「でさ、なるべく近付いたところで不意を突くように出現させてほし……あれ?」
(ぷる? どうしたの?)
「いや、なんか反応が増えたんだけど……何か違和感が……」
そう言って気配察知の反応に意識を集中してみると、最初の四つの反応の向こうから、さらに二十ほどのモンスターの反応がこちらに向かって来ていたのだ。
いや、正確に言うとこちらではなく、最初の四つの反応目指してと言うべきか?
その四つが微妙に方向を変えると二十の方もそれに合わせるように変え、まるで追いかけ回しているかのような動きだ。
モンスターがモンスターを?
「咲也さん!? なんか、反応が一気に増えたんだけど……これ、逃げた方がいいんじゃない? いくら咲也さんでも、この数と正面切っては……」
「それが、ちょっと変なんだ。最初の反応を追いかけてるみたいな動き方しててさ。いざ逃げるとなったら瞬動ですぐだから、もう少し近付くまで待ってみて良いかな?」
「追いかけてる? 仲間同士でってこと?」
「よく分からないな。イチ、水の壁、いつでも出せるように準備って出来る?」
(ぷる? う、うん、やってみる。ちょっと待ってね?)
「無茶言ってごめん。モモ、いつでも動き出せるようにしてて。肉眼で見えたら判断するからさ」
「わ、分かりたッス!」
(ますたー、声をかけてもらえたら、その少し後になら出せるよ。間髪入れずにってのは、ごめん、まだ無理みたい)
「いや、充分だよ。ありがとう」
なんて頼もしい仲間たちだろう。
俺みたいな下手な指揮でも、こんなにスムーズに動いてくれるとは。
そんな仲間たちを信頼出来るお陰で、目視による確認に集中することが出来る。
遠くに小さく見えてきた土煙を《身体強化スキル》で強化された視力で凝視すると、どうやら狼か犬のような姿のモンスターが走って来ているようだ。
だが、やはり様子がおかしい。手前の四体のモンスターのうち一体が、後方の集団に向けて下位ランクの魔法の球を打っているように見える。
仲間割れなのか?
「じ、自分にも見えて来たッス! あれは……狼?」
モモも、俺から譲渡された《身体強化スキル》の力で遠視が可能のようだ。
てゆーか、よく考えたらこの世界に“犬”がいるとは限らないんだよな。
前世の犬は、狼が人間と一緒に暮らしているうちに変化した姿らしいし。
この世界じゃ狼は狼のままかもな。
あれ? でも、モンスターの中に犬に似た種類がいたような……?
「ちょっ、ご主人様!? その後ろから凄い数が続いてるッスよ!?」
モモの声でハッとなり、逸れかけていた意識を視界に戻す。
いかんいかん、今は目の前のことに集中だ。
モモの言う通り、狼たちの後ろから続くモンスターたちの姿も見えて来た。
こちらは色々な姿のモンスターが混成した集団のようだ。
中には決して小さくないサイズの個体もいるせいか、かなりの砂煙が上がっている。
町からはほどほどに離れているから騒ぎにはなってないだろうけど、このまま俺たちのところを通過して進んだら、確実に町の方へ向かってしまう。
直撃せずとも接近するだけでも大騒ぎになりそうだ。
「私にも見えて来た……けど、あれ? 二体しかいない?」
今度はココナがそう告げる。
そう言われて漸く気付いたが、そういえば反応は四つのままなのに走っているのは二体……?
いや、違った。
「口だ、口に小さいのが銜えられてる! 二体とも器用に銜えながら走ってるけど……」
「まさか!? 子供ッスか!?」
「わあ!? どした、モモ? 急に大声で?」
「ご主人様はなんで驚かないんスか!? だってあれ、モンスターの子供ッスよね!?」
モモが何故驚いているのか分からず、首を傾げる。
モンスターの子供って、そんなに珍しいの?
だけど、そんなことを悠長に話してる暇はもう無くなってきた。
完全に目視で全ての個体を捉えられるほど近付いて来たし、モンスターの側もこちらに気付いたみたいだ。
イチに合図するタイミングを考えればそろそろ決断しなければ。
さて、全体を纏めて壁で遮断してしまうか?
それとも、追われている二……もとい四体を庇うように壁を作りだすか……?
最終判断のために考え込んでいると、狼のうちの一体が口に銜えていた子供らしきものをもう一体の背中に移し、そちらと分かれてこっちに向かって来るのが見て取れた。
子供二体を預けられたもう一体は、ぬかるむ地面の上でも器用に俺たちの横を掠め、俺たちをニ十体の集団のバリケードにする軌道で走り抜けて行った。
こちらに来た一体がどう動くかと警戒して構えてみたものの、そのモンスターは俺たちに背を向けるように反転して、まるで俺たちを守っているかのようにモンスターたちの集団の前に立ちはだかった。
いったい、何がどうなってるんだ?
(言うても伝わらんだろうが、我らの事情に巻き込んでしまったことを申し訳無く思う! せめて其方らだけでは死なせん! 儂もともに逝こう!)
そんなイケメン過ぎる武士っぽいセリフが翻訳されて伝わって来たことで、漸く俺にも状況が把握出来た。この狼たち、やっぱり追われていたみたいだ。
そして信じがたいことに、見ず知らずの俺らを巻き込んでしまったからと、命を捨てて俺たちと一緒に戦おうとしているのだと思われる。
……ヤダなにこのラストな侍、超カッコイイんですけどー!
俺はたまたま言ってること分かるけど、普通の人間だったら伝わらないのに。
そんな人たちのために、しかも攻撃されかねないのに背中を向けて……。
ヤバい、男だけど惚れる。
こんな素敵なモンスター、話もせずに死なせるわけにはいかないな。
あっちのニ十体には悪いけど……。
……よし、決めた!
「ちゃんと伝わってるよ! なんだか、まるで武士道とか侍道みたいだけど、そんな死に急がなくてもいいよ。事情は後で詳しく聞くから、とりあえずそこから動かないでね?」
(…………は?)
そう言葉をかけられ、その意味が分からず……いや、“分かったから”か、キョトンとする狼さん。
だが話している暇も無いし、作戦実行だ!
「イチ、あの狼さんと向こうのモンスターたちの間に、水の壁出せる?」
(うん、今ならまだ間に合うよ!)
「よし! イチ、頼んだ!」
その合図とともに、イチから放たれた魔法が大きな水の壁へと変わる。
二回目とあってか、イチも冷静そうだ。
ポカンとそれを見つめる狼さんの目の前で、突進の勢いのまま急停止の間に合わなかったニ十体のモンスターたちが、次々とその壁に突き刺さる。
ある者は後続に押し出されるように壁のこちら側まで突き抜け、その衝撃に気絶した。
ある者は突っ込んだまま壁の中でもがいている。
またある者は、急ブレーキをかけたがために壁に当たって跳ね返り、引っ繰り返って腹を見せてもがいていた。
「水」の壁なのに、不思議な現象だな。
そのうち俺にも使えるようになったら、色々と検証する必要がありそうだ。
(ふう。ますたー、一応安定してるみたいだから、暫くはこのままだよ。今のうちに戦う?)
そう言われて、慌ててイチをモモに預けて、転がるモンスターたちの間を駆け抜ける。
麻痺と鈍化の状態異常を与えつつ、封印可能な個体は二周目で封印してしまう。
今回は壁にぶつかった衝撃のお陰か、俺と同程度のレベルの個体までは運良く一発で封印成功し、二体を残すだけとなった。
その二体、俺より高レベルだったトロルと森猿も麻痺のお陰で動けず、“発勁もどき”一発を当てただけで簡単に封印出来たのだった。
イチが声をかけてくれなかったら、この上々の成果に見惚れて封印のタイミングを逃すところっだったよ。
危ない危ない。
【特殊封印による経験値移譲が行われました】
【〔ココナ〕のレベルが上がりました】
【ステータスが上昇しました】
【各種補正率が修正されました】
【スキルランクの上限が上方修正されました】
【スキルランクに変化はありません】
【特殊スキルの解放条件は満たしていません】
【領域が拡張しました】
【特殊隷従契約による経験値移譲が行われました】
【〔モモ〕のレベルが上がりました】
【ステータスが上昇しました】
【各種補正率が修正されました】
【スキルランクの上限が上方修正されました】
【スキルランクに変化はありません】
【特殊スキルの解放条件は満たしていません】
【領域が拡張しました】
【特殊隷従契約による経験値移譲が行われました】
【〔モモ〕のレベルが上がりました】
【ステータスが上昇しました】
【各種補正率が修正されました】
【スキルランクの上限が上方修正されました】
【スキルランクに変化はありません】
【特殊スキルの解放条件は満たしていません】
【領域が拡張しました】
今の封印で、ココナはレベル24から25に、モモは21から23に上がったな。
俺とイチは残念ながら上がらなかったか。でも、モモが二つ上がったってことは、俺らもたぶん次で上がるだろう。
(やったね! ボクの魔法、役に立って嬉しいよ♪)
「ご主人様、凄いッス! あれだけいたモンスターの群れを一瞬とは、凄過ぎてキュンとなっちゃったッス!」
「魔法、凄いわ……。これなら、私みたいなのでも頑張れば、そのうち咲也さんの力になれるかも……」
三者三様の反応を見せる中、気配察知でさっき遠ざかって行った他三体の狼さんたちの反応がこちらにUターンするのが分かった。
こちらの様子を見ていたのか分からないが、状況が変わったことに気付いてくれたのだろう。
未だ茫然自失となっているこの場の狼さん含め、話を聞いてみないとな。
こちらとともに戦おうとしてくれるくらいだ、警戒は解いて構うまい。
「よし、これで片付いたね。狼さんも、もう大丈夫だよ。あとはゆっくり話せるね?」
俺に声をかけられた狼さんは、顎が外れたような表情のままゆっくりこちらを向いたものの、ビックリし過ぎて半分気絶しているようになっていた。
復活したての頃のモモに似てるね。あっちの三体と合流するまで話は無理かな?
一方で、役目を終えた水の壁がイチの手によって分解されていたのだが、二回目にしてそんな難しそうなことを易々と熟してしまうとは……イチ、恐ろしい子!
そんな俺たちの周囲ではいつの間にか雲の切れ間から陽の光が差し込み、その光が俺たちを照らしていた。
仲間交渉を前に、幸先の良い感じだ。
さて、今回はどうなるかな?
今日、一気に投稿するつもりで準備していたら、風邪を引いてしまいました。一日で治ったけど。
無理せず内容の精査は後日に回しますので、「一家」との関係は次回に持ち越させてください。
申し訳ありません。
次話は11月7日の予定です。
体調次第で10日まで延びる可能性もありますが、たぶん大丈夫だと過信しておきます。
どうぞ、よろしくお願いいたします。




