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第176話 モモのパワーレベリング③

本日三本目です。

よろしくお願いします。


若干説明回なので、ステータス表記などもあり文字数多めです。



 宿へと入った俺たちは、今日の成果を確認しつつ夕食を摂ることにした。


 採取の結果はココナが一番で、目的の三種類を確実に摘んでいた。

 モモも同じく三種類を順調に摘んでいたのだが――――


「あ、ご主人様。今回の目的とは違うんスけど、これとこれは他の薬の材料になるんで摘んでおいたッス。結構貴重で見付かりにくいんで、見付けた時に手に入れておいた方がいいかと思いまして。ご主人様の鞄なら保管しておけるみたいですし。それから、こっちは高級食材だったと思うッス。運良く一つだけ見付けられたんで、確保しておいたッス。それから……」


「……とっても負けた感じがするわ」


「え? いえ、よく分かんないッスけど、目的の薬草の採取ならココナさんの圧勝ッスよ? いやぁ、凄い量ッスよね。まさか自分が負けるとは、驚いたッス」


「くッ、純粋な目で見られると、余計に惨めだわッ!」


 モモはそもそも、端っから勝負を意識していない様子で、本当にただ純粋な感想を述べているようだった。

 それが余計に敗北感を感じさせるのか、ココナは一転して暗い表情になっている。

 なんでそこまで勝負に拘ってんの?


(ますたー、ボクも頑張ったんだけど、あんまり採れなかったの。ごめんなさい……)


「イチはそれでいいんだよ? それに目的の物とは違うけど、それ以外のをいっぱい採ってくれたんだし」


 イチはいつものように謎の素材を多種多様に集めてくれていた。

 前回と同じく紫斑茸や秋虫春草、カワイクワイの抜殻などもあるし、今回はそれに加えて謎の宝石のような物も入っている。



 ▷[ブロブの核球:ブロブノカクキュウ]

 怪物種(モンスター)ブロブの核。

 一定の確率でドロップする。

 宝石のような見た目からやや高値で取引されるが、魔導の分野では術の触媒としても扱われることがある。


 用途:観賞用、装飾品、魔導触媒、他



 ▷[シャドウの核球:シャドウノカクキュウ]

 怪物種(モンスター)シャドウの核。

 極低確率でドロップする。

 妖しい光を放つ見た目の美しさから、かなり高値で取引される。

 魔導の触媒としても活躍するが、その希少性からあまり気軽に扱える者は少ない。


 用途:観賞用、装飾品、魔導触媒、他



「うえっ!?」


「何!? どうしたの!?」


「ご主人様!? どうしたんスか!?」


 そんな鑑定結果に驚きの声を上げてしまったが、事情を説明すると二人も同じようなリアクションを取った。


「イッちゃん、凄過ぎるわ……。どうやってこんな物を……?」


「まさかモンスターのドロップアイテムなんてものが森に落ちてるとは……。よく見つけたねえ?」


「イチさん、尊敬するッス!」


(た、たまたまだよぅ……。ぷる~……)


 三者から絶賛に、照れて恥ずかしがるイチ、プライスレス。

 てゆーか、本当に凄いんだが、コレ。

 誰かの落とし物ってことは無いだろうけど、シャドウなんてモンスター見たことも無いし、希少性も高いみたいだし、今回のMVPはイチで決まりなんじゃないだろうか?


「くッ、悔しいけれど、イッちゃんなら仕方ないわ! 今回の勝者はイッちゃんで決まりね!」


「私との扱いの差は何なんスか!? でも、それには同意するッス!」


(ま、ますたー? なんか褒められすぎて恥ずかしいよぉ、助けて~)


 そう言って俺に密着してくるイチ、プライスレ……おっと鼻血が。

 あまりの可愛さにハアハアと息も荒くなるところだが、この成果には何かご褒美をあげないといけないよな?

 そう思い、イチに尋ねてみた。


(ボクは、ますたーが喜んでくれればそれでいいから、他には何もいらないかな?)


「イチ! 愛してる! 俺と結婚を前提に付き合ってください!」


(ぷ、ぷるーッ!?)


 おっと、いかんいかん。つい本心が口に出てしまったぜ。

 モモと正式に付き合う前に、早速浮気をしてしまうとは。

 イチ、魔性の女。

 イチ、恐ろしい子。


「ちょっと! イッちゃんは私の婚約者なんだから、取らないでよね! こんな素敵な子、他にいないんだから!」


「知ってる。でも、いくらココナが相手とはいえ、こればかりは譲れないよ?」


「ご主人様! 一夫多妻なんて珍しくもないし、自分はイチさんとなら妻同士仲良くやっていけると思うッス! なので是非!」


(す、すとーっぷ!!)


 久々にイチの「すとーっぷ」が聞けたところで、騒ぎは収まったのだった。

 でも、ホントにいい子だよね、イチは。


(もー、ますたー! ボクもますたーを愛してるけど、そういうのは冗談でも言わないで? ボクとますたーじゃ、種族が違い過ぎるんだから……)


「え? いや、冗談…………でも無いよ? 結婚とか一夫多妻制とかの制度的なことは別として、パートナーとしてずっと寄り添って行きたいなってのは、その……本気で思ってはいるよ?」


 そんな答えに、イチとココナが硬直して俺を凝視した。

 あれは、「こいつマジか!?」って顔だ。

 モモだけは、俺と同じく本気で言ってたらしく、特に動じてる様子は無いが。 


「咲也さん、本気みたいだけど……スライムでも構わないの? 人間とモンスター……よ?」


「え? うん、まあ。特に気にしないかな?」


 だって、異世界(ファンタジー)だし。

 以前は異種族だからと壁を感じていた部分も正直あったのだけれど、旅を続けてきた中でそれも消えつつある。

 こんな素敵な子と出会えたのにそんなところに拘ってたら、勿体ないと思うんだよね。


「そうッス。ご主人様は手足と顔の無い私を見て、「女の子」とか本気で言ってくれた人なんスから。それくらい不思議じゃないッスよ?」


(ぷ、ぷるん……)


 そんな話に暫し黙ってしまったイチだったが、少し間を置き、再び意思を発して来る。 


(……ますたーは、ボク……やココナちゃんを、ただのモンスターとか従者とか使い魔としてじゃなく、自分と同格の存在として見てくれてるんだね?)


「は? そりゃそうだよ。何を今更。俺の仲間になってくれた大切な存在なんだから、使い魔とか従者なわけないじゃん。モモだって隷従の関係を結んではいるけれど、だからってモモの人格が俺より劣るってことじゃないんだし。むしろ、あれだけの体験をしてもめげずにいる精神力は尊敬するし、そういうの含めて一人の素敵な女性だなって思って……」


「ご主人様!! キュンキュンして堪らないので、今すぐ私を滅茶苦茶にしてほしいッス!! 問答無用で全裸になりま……」


「モモ、“命令”です。正座して、その場から動かないでください」


「んぐッ! そんな生殺し、酷いッス! 言ってることとやってることが違うッス! でも大好きッス!!」


 真面目な話をしているのに、まったくこの子は。

 でも、そういう明るい……明る過ぎるところも長所なんだけどさ。


(……うん、分かった。それじゃあ、これからもよろしくお願いします、ますたー……)


「あ、うん。よ、よろしくね」


 異種族とはいえ、一応、割と本気で愛の告白をしたようなものだったから、その返事を少しドキドキして待っていたのだが……イチの答えはあっさりとしたものだった。

 少し、イチにしては()()()()ではあったけど、概ねいつも通りといった感じだろうか?

 こっちにとっては種族関係無いとは言っても、イチからしたら俺はやはり異種族の存在なのかもしれないし、まあそれならそれで仕方ないよな。


 ……ちょっと残念。



(……)


『……』


「……」



 話は戻り、採取した素材や食材をココナの収納から俺の魔法鞄へ移し、リストアップしておく。

 これで、明日にでもギルドへ持って行けばいいだろう。


 あとは皆のステータスやモモの称号なんかもチェックしておこうと思い、モモのおあずけを解いて三人に声をかけ、鑑定と辞書を使用する。

 なんだか随分と久々な気もするが、先ずはイチからいくとしよう。


 

 ▷イチ


 名前   [イチ?]

 種族   [モンスター

       〔ステムセル・スライム〕]

 性別   [女]

 年齢   [0歳]

 生年月日 [非表示]

 出身   [非表示]

 ジョブ  [モンスター]

 レベル  [24]

 称号   [-]


 スキル

  貪食、再生、低HP衰弱無効、

  分化、初期化、

  悪食、再生細胞付与、

  簡易迷彩、気配遮断、

  水属性魔法耐性、水属性魔法の心得、

  物理攻撃軽減、火属性魔法耐性、

  光属性魔法耐性


 所属   [春野咲也〈魂封印〉]



 イチも随分強くなったものだ。

 最初はレベル1で、俺が守らなければ一撃で消えてしまいそうなイメージだったのに。

 今ではスキルも増え、パーティの癒し担当としても、なくてはならない存在となっているな。



 次はココナだ。



 ▷ココナッツクラブ


 名前   [ココナ]

 種族   [モンスター

       〔寄居虫〕]

 性別   [女]

 年齢   [1歳]

 生年月日 [非表示]

 出身   [非表示]

 ジョブ  [モンスター]

 レベル  [22]

 称号   [-]


 スキル   ナビ

       (耐性:

       物理攻撃、水属性魔法、風属性魔法、

       毒、麻痺、混乱、鈍化、魅了、呪詛)


 所属   [春野咲也〈魂封印〉]



「あれ? 随分と耐性が増えてるね? 物理攻撃、水属性魔法、風属性魔法、毒、麻痺、混乱、鈍化、魅了、呪詛……。いつの間に?」


「え? ……物理攻撃、水属性魔法、魅了には覚えがあるけど、それ以外は知らないわよ? 特に呪詛って何よ?」


「……謎だけど、耐性が増えてる分には構わないんじゃない? 状態異常にもなってないから、今現在呪われてるってわけでもないようだし……」


「なんか嫌だなぁ……。まあ、後で聞いてみよ……いや、何でもないわ」


 そんな独り言を聞き流し、最後はモモを鑑定する。

 とは言ってもモモはこの前見たばかりだし、称号の調査の方がメインなんだけど。



 ▷モモ


 名前   [モモ・ソートレル]

 種族   [獣人族

       〔昆虫人族〕]

 性別   [女]

 年齢   [4歳]

 生年月日 [非表示]

 出身   [非表示]

 ジョブ  [奴隷(特殊)]

 レベル  [14]

 称号   [農業者、不幸、悲劇の人、

       清らかな心、呪術の才能、愛の人]


 スキル

  身体強化スキル、精神強化スキル、

  毒耐性、鈍化耐性、

  土属性魔法耐性、風属性魔法耐性、

  魔力感知、魔力操作スキル、

  風属性魔法の心得、

  跳躍、脱兎、呪詛攻撃、簡易迷彩、

  生命力上昇、攻撃力上昇、瞬発力上昇、

  棒術、

  鈍感、生命維持、瞬間止血、延命


 所属   [春野咲也〈特殊隷従〉]



 そんなモモの称号と、種族固有だという特殊スキルを辞書機能で紐解いていく。


・[農業者]

 農作物などの植物を育成する際、関連作業や育成結果にプラス補正がかかる。


・[不幸]

 幸運値に大きくマイナス補正がかかる。

 幸運上昇系スキルを所持している場合、この称号の効果はプラスに転じる。


・[悲劇の人]

 呪詛系以外の状態異常を受けた際、相手の成功率にプラス補正がかかり、効果の持続時間も微増する。

 呪詛系の状態異常を受けた際、相手の成功率に大幅なマイナス補正がかかる。


・[清らかな心]

 状態異常に関する耐性値にプラス補正。


・[呪術の才能]

 呪詛系スキルおよび呪術系魔法の使用時、効果にプラス補正がかかる。


・[愛の人]

 単独行動時、他者に回復効果を与える場合、回復力が上昇する。

 パーティを組んでいる場合、パーティメンバー全員のHp、幸運値、回復力にプラス補正がかかる。


 鈍感:

 精神的苦痛や精神へのダメージを感じにくくなる。

 また、それらによる思考へのマイナスの影響を大幅にカットする。


 瞬間止血:

 部位欠損などの大きな傷を受けた際、その部位の接合が困難になる代わりに、傷口の出血を瞬時に止める。

 小さな傷の場合、血が止まりやすくなり、傷口も塞がりやすくなる。


 生命維持:

 生命活動が低下し、HPの残量が一定値を割り込んだ際、生命の維持に必要な能力を上昇させる。

 代わりに、不要な能力を全て一時的に低下させる。


 延命:

 生命活動が低下し、HPの残量が一定値を割り込んだ際、生命の維持に必要な能力を大きく上昇させる。

 代わりに、不要な能力を全て永続的に消失させる。



 ……モモの境遇と苦労が垣間見えるな。

 これからは是非とも幸せになってもらいたいものだ。


 それにしても、最後の《延命》のスキル、最終的にこれのお陰でモモは手足を失ってもずっと生きていられたってことだよね?

 なら、モモのステータスとかは、一部が消失してしまったってことなのか?


『いえ、今は元に戻っていますよ。“女神印の魔法薬”は、生きてさえいればそれも元通りに出来るんです』


 うーわ、チートアイテムだー。

 やっぱ、とんでもなくヤバい薬だったんだね。

 最初、飲まなくてよかったわー。


 そうしてチェックしていると、少し気になるスキルが目に留まった。


 呪詛攻撃:

 対象者に状態異常「呪詛」の効果を与える。


「モモ、呪詛攻撃ってスキルがあるけど、これってどんな風に使うの?」


「え!? 自分、そんなの持ってるんスか!?」


「あれ!? メッセージとか届かなかったの?」


 それでモモに記憶の糸を辿ってもらったところ、奴隷商の部屋で苦痛に耐えかねて色々な人を恨み始めた頃、そんなメッセージが届いていたような気がすると話してくれた。

 《呪詛攻撃》なんて怖そうなスキルを得るくらい恨むだなんて、その当時は想像を絶する辛さだったんだろうな。

 改めて、助けることが出来て良かったと思う。


「……あッ!? もしかして……」


「え?」


「ココナさんに毒耐性とか呪詛耐性が付いたのって、自分が原因なんじゃ……」


「「は?」」


 突然そんなことを言い出したモモの話を詳しく聞いてみると、その予想は強ち外れているとも言い難いものだった。


 つまりは、手足の無い頃のモモに触れた時、汚れた体から毒が、無意識に発動していた可能性のある《呪詛攻撃》で呪詛が、それぞれ影響したのではないかという説なのだ。

 イチには耐性が生まれていないが、それは個体差なのか何なのかは分からない。だが、俺はそもそも耐性があったし、それならココナに知らず知らずのうちに毒や呪詛の耐性が付いていたのも説明が付く。


「それなら、残りの耐性って俺が原因なのかもね」


「え? なんでよ?」


「ほら、ココナを頭に乗せた状態で麻痺攻撃とか鈍化攻撃をよく使ってたじゃん? モモと同じようにそれが影響したと考えれば……」


「……なるほど。でも、なら風属性魔法と混乱は?」


「混乱は分からないけど、風属性魔法なら、すぐ傍で魔法の練習してたからかな? 他と違って周囲に影響しやすい属性だから、とか? なら、ちょっと試してみようか」


「何を?」


「えい!」


 そう言って、ココナの巻貝に向けて、他の属性魔法を飛ばしてみる。ダメージは無いし、安全だろう。

 火、土、光と試し、改めてココナを鑑定してみると、予想通りにそれぞれの魔法への耐性が新しく追加されていた。


「なら、この際だから全属性行っちゃう? えい!」


 そう言って全知全能の図鑑の機能で闇属性魔法の小さな塊を飛ばしてみると、ココナには闇属性魔法への耐性が加わった。


「……たった今、アイミスから《ナビ》に全属性の魔法耐性が加わったってメッセージが届いたわ。いいのかしら、こんな簡単に……」


 残るは狂化だけなので、思い切ってやってみる?と尋ねたのだが、それはお断りされた。

 まあ、この調子ならいずれ手に入るだろう。


 ……今度、意図的に狂化攻撃か自己狂化あたりを発動してみようかな?


「ココナさん、申し訳ないッス。自分を支えてくれたばっかりに……」


「全然構わないわよ。それでどうにかなったわけじゃないんだし。……そういえば、あの時はごめんなさい。私、あなたの前であなたのこと嫌がったり、汚いって言ったり酷いことして……」


「それこそ構わないッスよ。実際汚かったわけですし、それに抵抗無く触るご主人様やイチさんの方が凄過ぎるだけッスから。気にしてないッス! それに、結局は触れてくれてましたから……」


 モモはそう言うと、ココナの巻貝をヒョイと持ち上げ、ヤドカリの頬にチュッとキスをした。


「ちょッ!? モモさん、何を!?」


「ココナさんのことも大好きッスよ! これからもよろしくお願いするッス!」


「モモさん……」


 そんな女の子同士の友情を微笑ましく眺めていると、急にモモがクルリとこちらを見てきた。


「ご主人様! こういう女の子同士のイチャイチャには興奮しないんスか? なんならもっと凄いことするので、滾った情欲を私に……」


「モモさん、今すぐ離して? さもないと、このハサミでその触角をぶった切るわよ?」


「モモ、“命令”です。今すぐココナを降ろして、その場に正座しなさい」


 ホント、この子は……。


 ちょっと賑やか過ぎる気もするのだが、こうして仲間たちとの絆はまた深まっていくのであった。



称号と種族固有スキルに関しては、後日訂正する可能性もあります。


次回の投稿予定は10月21日です。

だいぶ寒くなってきましたので、皆さんも風邪などにお気を付けください。


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