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第17話 俺と〇〇になってください

本日もよろしくお願いします。


『その子が純粋無垢な子供なのは間違い無いですし、盗みを働いていたのも生きるために必死だっただけのようですから、咲也さんが激しく同情するのも仕方ありません。ですが、もし彼女が演技をしている詐欺師だったら、あなたは完全に引っ掛かっていましたよ?』


 ええ? この子を詐欺師なんかと一緒にしないでくださいよ。

 それにいくら俺が世間知らずでも、詐欺なんかにそうそう簡単には引っ掛かりませんって。


『羊人の既婚子持ちの女性に自ら小金貨を渡した人が、何を仰いますか』


 カハッ!! クリティカルヒット!!

 咲也は死んでしまった。

 おお、うっかり咲兵衛よ。死んでしまうとはなにごとだ。


『感情に任せて「この子は俺が幸せにしてあげないと」なんて考えているみたいですけど、駄目ですよ。元いた場所に返してらっしゃい』


「いや、犬猫じゃないんですから」


 思わず返答してしまった俺を、少女が不思議そうな目で見て、首を傾げていた。

 何でもないよ、気にせず食べてなさい、と少女に伝えてアルル様との会話に戻った。


 絶対にあり得ません。さっきの話を聞いて、この子を放り出すなんて。


『放り出すも何も、ただの旅人とスリという赤の他人ですよ。あなたが手を出さなくても、彼女は懸命に生きていくことでしょう』


 うー、冷たい。

 でも、俺ならお金にも余裕があるし、この子の面倒くらいは見れます。

 食うに困るほどの厳しい生活を送らせるよりはマシでしょう?


()()()()()()()()で養う、とでも言うつもりですか?』


 グハッ!


『確かに、あなたの徳に対しての報酬だとは言いましたよ。ええ。ですが、旅の資金にしてもらおうと用意したお金なのに、それを使って自分の財布を盗ろうとした浮浪児の面倒見ようとは。咲也さん、あなたどれだけお人好しなんですか?』


 グサ、グサ、グサリ。


『大金持って余裕のつもりなんでしょうが、あなたはこちらの常識すら、まだ学んでいる途中でしょう? それなのに、それを得るための旅そっちのけで子育てするんですか?』


 デュクシ!!


『自分の旅や生活すらままならないレベルなのに、人一人の人生を背負おうなんて考えが甘過ぎます。おまけに、あなたは「美味しいご飯と温かい寝床を毎日用意してあげよう」とでも考えていそうですが、そんなことをされ続けたその子はこの先どうなるんでしょう? 楽な生活を覚えてしまって、自力で生きていけない大人になるんじゃないですか? 責任を取って、一生面倒を見るとでも言うつもりですか?』


 スパパパーン! あふーん!!


『少し冷静になりなさい。一時の感情で決めていいことではないんですから』


 さ、流石は神様。俺の一歩も二歩も……どころか、終局までも読み切ってそうだ。

 将棋で例えてみたけど、そりゃあ神様だし、人間では勝負にならないか。

 それにしたって、俺ってどんだけ浅はかだったんだ……。


 ……な、なら、せめて当分食うに困らない程度のお金だけでも持たせてあげ――


『そんな金額をそんな子供に持たせたりしたら、他の犯罪者に襲われますよ。下手をすれば殺されるかもしれません』


 ――ダメ! 絶対!!

 安易過ぎた。ちゃんと考えないと。この子の行く末がかかっているかもしれないんだ。


 彼女が自力で生きて行けないと意味が無い。

 要するに、生活能力が付くまで彼女を守り、生き方を教えてあげられる人が必要なんだと思う。


 ……そうだ! 孤児院を探して――


『それが見つかるまで結局面倒見るんですよね? 自分の旅すら未だ不慣れなのに、子供を連れて旅できますか? 言っておきますが、この町には孤児院なんてありませんから』


 うぐぅ。考えた先から否定されていく……。

 なんだか今日のアルル様は、ちょっと意地悪だ。


『例えば次の町まで歩くとして、子供に長距離移動は酷ですよ? 仮に馬車などで行けたとしても、孤児院にすんなり受け入れてもらえるわけではないし、断られたり入った後で追い出されたらどうします? 暮らし慣れたこの町だったからこそ今までなんとか生きてこられたのに、新しい町で同じような生活をしようとしたら慣れる前に力尽きて死ぬかもしれませんよ?』


 そうだ。この案は無責任だった。他人に任せてハイ終わりでは、ただの俺の自己満足になるところだった。

 日本なんかと違って法的に守られているわけじゃあるまいし、テレビドラマに出てくるような悪徳孤児院にでも入ってしまったら大変だ。

 そうなると、やっぱり俺が……。


『それ以前に、今世は自由にしていいとは言いましたが、手当たり次第に孤児を育てるつもりですか? 同じような境遇の子供は他にも大勢いますよ? 次に同じような子供を見付けたら、また同じようにするつもりですか?』


 うう、それは……。


『あなたは世界一周の途中なんですから、孤児を保護するとかそういうことは他の人に任せるとして、お別れして旅を続けましょう。少なくとも、あなたよりは子育ての上手い人と巡り合えるはずですから』


 くっ、確かに。

 そうだよね、俺に子育ては難しいし、もっと大人の人に任せた方が――


 ――そう思って少女の方へ目をやると、ちょうど最後の一皿を空にした彼女と目が合った。

 彼女は皿をおいて、俺に一言だけ言った。



「ありがとぉ」



 そう言って、俺に屈託の無い笑顔で微笑んだ。


 …………。


 ……なんだかその笑顔で、逸れかけていた思考が戻った気がするよ。

 アルル様、ごめんなさい。やっぱり俺は――――


『少し惑わしてみましたが、やっぱり駄目でしたね。こんなにすぐに正気に戻るとは』


 ――――分かってます。確かに彼女の面倒を見るなら、もっと大人の人の方がいいのは。

 ですが……え?


『この先も同じように旅を中断して関わりそうなのは目に見えてますからね。今回拾えば次回も、またその次もとなるでしょう? だから、今回諦めさせて方針を固めようと試してみました。でも、こんなにあっさり元の考えに戻るのではやるだけ面倒……いえ、まあこうなると分かってはいたんですが』


 拾うって、だから犬猫じゃないんですから。

 てゆーか、今なんて?


『ですから、問題をすり替えて諦めさせようと惑わしてみました。てへ!』


 てへ!じゃなく。

 なんか思考が逸れてる気がしてたら、アルル様が仕組んでいたのか。

 目の前の少女の話なのに、いつの間にか孤児とか子育ての話になってた。

 彼女を育てるなら、そりゃ大人の方がいいかもしれない。

 けど、そんな大人がいないから彼女が今の状況にいるわけだし、俺が彼女を蔑ろにしていい理由にはならないよね。


 ……アルル様、ありがとうございます。


『はあ? 何故自分を惑わそうとした相手にお礼を?』


 いや、まあそうなんですけど。

 でも、俺のことを考えてのことだというのは分かりますから。

 そして、今一度、ごめんなさい。


『……』


 この先、同じような子供に出会ったら、それはその時に考えます。

 世界中の孤児を無くそうとか、孤児院を作りたいとか、そんな大層なことは俺の器では無理です。

 けど、今目の前で困っているこの子を見捨てるのは、もっと無理です。

 甘やかしてこの子の為にならないかもしれませんが、せめて出来ることだけでもしてあげたいです。


『……あなたがそうする義理も、必要性もありませんね。あなたと関わらない方が、将来大成するかもしれませんよ? それでも?』


 …………。

 ……義理とか必要性とかはどうでもいいかなって思います。

 この子が将来大成するなら、それは喜ばしいことです。

 けど、明日からも同じように飢えに苦しんで、()()()()()()()()()()()()()()するんですよね?

 それは俺には耐えられません。なので、俺は同情(・・)自己満足(・・・・)のために、この子に関わりを持とうと思います。

 どうか、お許しください。


『まあ、あなたがそういう人で、そういう行動を取るのを分かってて転生させたわけですから。もしあっさりと惑わされて彼女を見捨てていたら、彼女は九か月後に死んじゃってましたし、あなたの思うままにしていいんじゃないでしょうか』


 ありがとうございます。 それじゃあ改めて、この子の……って、HEY!?

 今、サラッととんでもないことを言ったね!?

 危なかったんじゃないですか!!


『で、どうするんです? 具体的には何も解決していませんが、彼女にプロポーズでもして、一生養うおつもりで?』


 マジかー。この子、死んじゃってたのかー。

 尚更、関わらないわけにいかなくなったねー。


 ……プロポーズとか聞こえた気がしますが、聞き流していいですよね?

 それも選択肢の一つでしょうが、話が飛び過ぎな気がします。


『それに彼女にも好みはあるでしょうから、光源氏計画のように洗脳紛いのことをしない限りはあなたを夫にするかは分かりませんけどね』


 グサーッ。まあソウデスヨネ。


 話は戻るけど、少なくとも関わると決めた以上、彼女にとって幸福と思える答えが出るまで関わり続けるつもりだ。

 信用出来る大人に託せるならそれが一番いいとは思うけど、俺には未だ知り合いと呼べる相手すら極めて少ない状態だ。伝手なんかも無い。

 旅路は彼女にとって負担が大き過ぎるだろうから、この島の中で探さないといけない。

 出来ることは限られるな。


 彼女だけじゃなく、相手も必要としてくれるような、そういう関係の相手と出会わせてあげられたらいいんだけど。そう上手くはいかないだろう。


 まあ、でも俺にはアルル様という心強い味方(神様)もついているのだし、頑張ろう。


『……自分を惑わそうとするような相手を、よくそこまで信用出来ますね』


 さっきも言いましたけど、俺のことを想ってのことなら、問題無いじゃないですか。

 それに、なんだかんだ言いながらも、この子のことも俺以上に考えてくれてましたよね?

 本当にありがとうございます。


『な、何故あなたがお礼を言う必要がありますか。 ……そ、それより、結局どういう関係になるつもりなんですか? プロポーズしてパートナー(ロリコン)? 親代わり(ロリコン)? それとも他人のまま(ロリコン)?』


 今、絶対おかしなルビ付いてましたよね!?

 それはともかく、一緒に行動するのに他人のままなのも淋しいか。

 関係性、か。


 …………よし、決めた。 これが良いと思う。


「ねえ、君。 もし良かったらなんだけど……」


 食べ過ぎて苦しそうで、でも幸せそうな彼女は、俺の声に反応してこちらに視線を移した。


「うん? なあに?」


遂にプロポ(ロリロリ)ーズですか(ロリコン)?』


 アルル様、ちょっと黙ってて。


「……俺と――――友達になってくれないか?」


 友達になろう。それが俺の出した答え。

 他人じゃ淋しい。

 親代わりなんて器じゃない。

 家族……とかは、将来の話だからよく分からない。

 今一番しっくりくるのは、ただの友達。

 それでいいんじゃないかと思う。


 俺のことだから、ここで、「はあ? 馬鹿じゃないの? 顔洗って出直して来て!」なんて断られるパターンも予想されるんだけど――――


「うん。 いいよ。 体キレイに洗えて、痛い思いもしなくて、お腹もいっぱいで、それに友達までできるなんて、今日は最高の日!」


 ――――今回は、恥はかかずに済んだようだ。


 こうして、短い間かもしれないけれど、俺の旅に初めてとなる同行者が出来たのだった。




短い間ですが、初めての同行者をよろしくお願いします。


次回の投稿は4月20日の19~22時の予定です。

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