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第172話 モモの本性……?

本日もよろしくお願いします。

モモって、実は……


 奴隷解放すると伝えたら、何故か泣き出してしまったモモ。

 何故だか理由が分からず、俺も戸惑いを隠せない。

 嬉し泣きってことでいいのかな?


「え? あの、ごめん。ど、どうしたの?」


「うぐッ、ヒック! す、すみません。突然のことで……色々な感情が押し寄せてきてしまって……」


「ああ、そうなんだ? ビックリした……。それは、嬉し涙……ってことなのかな?」


「……はい、確かにそれもありますね」


 そう言われ、ホッと胸を撫で下ろす。

 良かった。女の子を泣かせてしまったから、焦ったよ。

 だが――――


「でも、奴隷解放はお断りさせてください」


「……え!? 何で!?」


 ――――モモの申し出に、今度はこっちが混乱する番となってしまった。

 奴隷解放なら、当然喜んでくれるものだと思ったのに。


「その……ご主人様が嫌でなければ、私を傍にお仕えさせていただきたいのです。ご主人様のご意思に反した分の罰は、何なりとお与えくださって構いませんので、どうか……」


「い、いや、罰なんて与えないし、そんな改まった言い方しなくてもいいんだけど……解放されて故郷に戻る方が良いかと思ったんだけど、どうして……?」


「……」


 その言葉に、モモは複雑そうな表情で押し黙ってしまった。

 読心術スキルを持つ俺でも、彼女の考えは量れない。


「申し訳ありません。自分でもまだ、気持ちの整理がついていないんです。その……一時期、家族すらも恨んでしまったことがあって、そんな気持ちを抱えたまま帰郷したところで……」


 辛そうな表情で語る彼女を見て、俺は黙って話の続きを待った。

 そりゃあ、あれだけの状態になったのだから、俺では想像も付かないような心の葛藤もあったことだろう。


「それに、今解放されると、私は無一文で身寄りも()()も無いのです。ですから、どうか……」


「ああ、それは心配しないで。解放すると言っても、ちゃんと故郷までは送り届けるつもりだから」


 その言葉に、再び目を丸くしてポカンとするモモ。

 だが、徐々に険しい表情へと変わっていく。


「し、失礼ですが、ご主人様は何が目的なのですか!? 見ず知らずの私を買って、こうやって助けてくれて、しかも奴隷解放して、さらに村まで送り届けるだなんて……一体何がしたいんスか!? さっぱり分からないッスよ!?」


 口調も変わり、声を荒げてワナワナと震えるモモ。

 そんな姿に、俺はかつてのシュリやガイドさんを重ね合わせていた。

 そうだよ、あの時も、あの時だって言われたのに、なんで学習しないかな俺は。

 思わず、頭を抱える。


『……はぁ。だから何度も言ったじゃないですか。今の彼女は、心の拠り所も頼れる者もあなたたちだけなんですから、その相手の意図が分からないとなれば不安にもなりますよ?』


 うっ、その通りです。

 奴隷商で他の奴隷たちを見てた時にも注意されたのにね。


 息を荒くする彼女に、頭を下げて謝罪する。


「ごめん、ちょっと考え無しに喋り過ぎた。君の気持ちを考えてなかったよ」


「ちょっ……!? ご、ご主人様!? 奴隷に頭を下げるなんて、誰も見ていないとはいえ……!」


「……でもね、俺はこういう性分なんだ。困ってる女の子はもちろんほっとけないし、それが大人の男性でも、どんな種族でも、モンスターでも、ね」


 そんなことを言う俺に無言になったモモに、助け舟を出してくれたのはココナたちだった。


「冗談みたいだけど、それ本当よ? 私だって、海岸で他の人間に殺されそうになってたところを助けられて、ここにいるわけだし。本当に見境なく助けようとするお人好しなのよ、この人は。こう言っちゃなんだけど、例えあなたが男性でも年寄りでも同じことをしてたと思うわ」


(ぷるん! ボクも、モンスターだけど、ますたーが拾ってくれたからココナちゃんとも出会えたの! モモちゃんともそうだし、きっとますたーがいなかったら、今頃こうして幸せな毎日になってなかったよ?)


 イチは、すぐさまココナに抱き締められていた。俺も抱きしめたい。

 そんな言葉に唖然としていたモモだったが、少し考え込んだ後、溜息を吐いてから再び俺に向き合う。


「……そうなんス……いえ、そうなんですか。なら、それは信じます。けど、それでも解放はお断りさせてください。これだけの恩を受けて、さらに一方的に施されたとあっては、私にも一応プライドがありますので。せめてその恩義をお返しするまでは、従者としてお傍でお世話……いえ、お手伝いさせていただけないでしょうか?」


 真剣な眼差しの彼女に、俺もフッと微笑み、頷いた。


「まあ、そういうことなら。でも、いつでも解放出来るからさ、気持ちの整理が付いて帰りたくなったら、その時は遠慮なく言ってね? 俺が好きでやってることだし、恩義なんて感じなくていいんだから」


「あ、ありがとうございます! これだけの恩に報いるとなれば残りの人生で足りるか分かりませんが、精一杯頑張りますので、よろしくお願いします!」


「話聞いてた? 恩義感じなくていいってば。一生とか重いって」


 固いなあ……。

 これから一緒に旅するんだし、もっと緩い感じでいいんだけど……あ、そうだ!


 ふと閃き、魔法鞄から食料を出して並べる。

 イチとココナ、そしてモモにも「昼食にしよう」と声をかける。


「と、唐突ね? まあ、確かにお腹減ってたけど」


(ごはん、ごはん♪)


「うん、なんだかお腹も減ったし、と思って。モモ……さんも、続きは食べながら話そう?」


「モ、モモでいいです。そ、それより、奴隷がご主人様と食事の席をともにするのは……」


 ありゃ? 一緒に食卓を囲んだ方が打ち解けられるかなって狙いもあったんだけど、やっぱり固いなあ。

 でも、そんなルールなんて別に拘らなくてもいいよね?


「じゃあ、モモ? 俺たちにも気を遣わなくてもいいよ。パッと見じゃ奴隷なんて分かんないんだし。いいから食べよ?」


「いえ、奴隷はこの首のうなじのところに奴隷の紋章があるので、ひと目で奴隷と分か……ってあれ!? 無い!?」


 どうやら、特殊隷従契約にすると、奴隷紋章というのも消えるらしい。

 そういえば奴隷商人のファンネルさんに紋章の説明も受けてたっけ。

 もう消えたから関係無くなっちゃったけど。


「まあ、うちの()()()()は規格外なことが多いから、あなたも早めに慣れた方が良いわよ? なにせ、バックが……ゴホン、なんでもないわ」


「バック? 俺の後ろがどうかした? てゆーかご主人様は止めて、ココナまで……」


(ますたーは、凄いんだよ♪)


「は、はぁ……? 本当に、何者……?」


 そう言って諦めたようにヘタリと座り込んだモモに、食事を差し出す。

 昆虫人族とはいっても、菜食中心なだけで肉や魚なども何でも食べれるそうだ。

 ココナといい、こっちとしては助かるけどね。


「ほら、遠慮しないで。これも美味しいから食べて?」


「モモさん、こっちも美味しいわよ? ほら」


「うぅ、グシュッ!」


 モモは何故か、食事を摂りながらまたも泣き出してしまった。

 どうやら俺たちを優しいと感じ、気が緩んだらしい。

 そんな彼女に、イチもココナも声をかける。


「ほら、モモさん。泣きながら食べたら味が変わっちゃうでしょ? 涙拭いて?」


(モモちゃん、泣かないで? 辛い時はボクが話を聞くから。ずっと傍にいるから、ね?)


「ううぅ……。あ、ありがとうございます! イチさん、ココナさん! 自分、こんな温かい……うぐッ! 温かい食事、久し振りッス!」


「「「ッス?」」」


「……あッ!? いや……その……」


 薄々感付いてはいたのだが、もしやと思ってそれから話を聞いてみると、どうやら体育会系っぽいその喋り方の方が素だったようだ。

 ちょくちょく口調が変わっていたのは、感情が高ぶって素が出てしまっていたらしい。


「なら、気を遣わず話しやすいように話してよ。口調だって気にしないからさ?」


「で、ですが奴隷としてそのような……」


「はい、自分を奴隷扱いするのも、変に遠慮するのも禁止! ありのままの自分で接してください!」


「うぐッ!? ご、ご主人様がそう言うのであれば、分かりました……ッス」


 緊張のせいか取って付けたようになった語尾に、俺もココナたちも思わず笑ってしまう。

 モモはそのせいで顔を赤くし、照れを隠すように渡されたパンをもしょもしょと齧るのであった。





 ……





「……じゃあ、モモはそのジェミナス王国ってとこから来たんだ? ここはバルゴ……マース島って場所だからなあ……」


「すみません、私、自分の生まれた島以外のことはサッパリで。ここがどの辺なのかも分からないんス。でも、私の故郷とか気に掛けなくていいんで、それとは関係なくご主人様の旅には喜んで同行させてほしいッス!」


「うーん、そうだね。でも、多分いずれは通るだろうから、それまでに解放の件も含めて考えておいてよ。その先も俺たちと一緒に来るなら、それはそれで構わないからさ?」


「了解したッス!」


 暫く話をしていると、モモも打ち解けて来たのか、素の口調で話してくれるようになった。

 軽い口調ではあるが、思いやりのある良い子って印象だ。

 イチとココナにも偏見なく接してくれているようだし、良い仲間になれそうだ。


「……ところでご主人様? 自分からも一つ、お願いがあるんスけど……?」


「いいよ? 気にせず遠慮なく言ってみてよ?」


「そうっスか!? 良かったー、断られたらどうしようかと……」


「ハハハ、大丈夫だよ。で、何?」


「はい! 自分に罰を与えてほしいんス!」





 ……それまで穏やかで平和だった場の空気が、一瞬凍り付いた気がした。

 何故なら、それまでのような「奴隷として」という話ではなく、今のは「モモ個人の願望」を言っているように聞こえたからだ。いい笑顔だし。

 だからこそ、イチもココナも様子を窺っている。


「……罰なんて必要ないって。モモを奴隷扱いする気は無いんだって、さっきも言……」


「いえ! ご主人様が何と言おうと、自分が奴隷であることには変わりないんス! だから、さっきからご主人様に対して失礼な口を利いてたり、ご主人様の命に反した発言や態度の分の罰はやっぱり必要だと思うんス。これは、奴隷を購入した者の義務でもあるんスよ? なので……どうぞ!」


「何が「どうぞ」なの!? いや、俺がいいって言ってるわけだし……」


「駄目ッス! ああ、またご主人様に逆らってしまったッス! なら毎回とは言わないんで、せめて一日一回はお願いしたいッス!」


「せめての意味が分からないよ? よし、ちょっと黙ろうか?」


「……」


「黙って服を脱ぎ始めんなああああ!? ちょっ、モモ酔ってる!? さっきまで、全然こんな子じゃ無かったよね!?」


「はい。自分、元々はこうじゃなかったんスけど、気が狂いそうな痛みに耐える毎日から解放された今、何故だかご主人様に痛くしてもらいたい願望が……」


「「痛くしてもらいたい」とか言うな! 服を着て! 解放されたんだから、幸せを噛み締めようぜ!?」


「でも、ご主人様、なんでも言えって……」


「性癖を暴露しろとは言ってないから! いいから服を着て!?」


 振り返ると、イチとココナの姿は無かった。

 逃げたな二人とも!


 こんな変態チックな少女相手に、俺一人でどうしろと?

 こういう時こそ助けてよ! 仲間でしょ!?


「あの……自分、奴隷としてもご主人様をお慕い申し上げているんスけど、女の子としてもご主人様を好きになっちゃったみたいなんス! だから、その……ご奉仕、させていただきたいんス! 自分、初めてなんで……なるべく痛くしてね?」


「昨日会ったばかりなのに!? いや、モモ可愛いし、その告白自体はめっちゃ嬉しいんだけど、状況が状況だけに素直に喜べないッス! 好意を示された上に目の前で脱がれるなんて、本来なら男冥利に尽きるけど、今はまず服を着てほしいッス! パニクって口調もうつっちゃったッス! てゆーか「なるべく痛くしてね」って、なんだーーッ!?」


 やあ、ご無沙汰!

 混沌(カオス)だよ! 元気だった?

 まさか、自分が起こされる側に回るとは予想だにしてなかったぜ!

 もひとつまさか、こんな混乱極まる告白をされることになるとも予想だにしてなかったぜい!!


 どうやら俺は、とんでもないものを抱え込んでしまったようだ。

 アルル様、まさかこんな子だとは夢にも……。 


『……』


 ……ねえ? まさかと思いますが、ここまで分かった上でミッション出したんじゃないですよね……?


『テッテレッテテーッ! ミッションコンプリート! 咲也は無事、奴隷少女を身請けしたー! 報酬のポイントは適当に入れておくんで、末永くお幸せにーっ!』


「逃げんな! 思い出したように言いおって!」


「わ、分かりました! どんなに痛くても逃げませんので、何なりと!!」


「違ああああーーう!! 服着てええええ!!」


 その後、混乱は俺が「特殊隷従契約」の力を行使して命令すればいいと気付くまで続いた。

 あらゆる意味ではっちゃけた三人目の仲間は、いつの間にか言葉も流暢に戻り、無事に俺たちの仲間へと加わったのだった。


 これが「無事」と言えるかどうかはさておき……。




  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ――――その夜、俺のベッドへの接近禁止命令をモモに出して休んだ、暫し後。

 俺が夜中に、宿屋のトイレから部屋に戻った時のことだった。


 ふともう一つのベッドを見ると、そこで眠るモモの肩が小刻みに動いていた。

 ……耳を澄ませると、声を殺して必死に耐えているモモの様子が窺えた。


「……はあ……」 


 ()()()俺は、モモのベッドへと近付くと、「隣に入っていい?」と声をかける。


「え? ご、ご主人……様? や、やっぱり、ご奉仕が必要になったん……スね……? もちろん、入ってもいいッスよ? でも、自分、その……ちょっとむくみとヨダレが酷くてお見せ出来ない顔になってるので、後ろからご主人様の好きに触ってもらえれば……」


「そんな涙と鼻水まみれの顔で強がんなくていいから。入らせてもらうけど、そういう目的じゃないって」


 そう言ってモモの隣に入り、俺は彼女の体を後ろから包み込むようにして寄り添った。


「俺を襲ったりしないんなら、朝までこうしてるからさ? 辛い時は傍にいてあげるって約束だったし」


「お、男前ッスね。私、早くも惚れ直しそうッス。で、でも、ご主人様の手を煩わせるのは申し訳ないので、後でしっかり、そ、その分の罰を……うぐッ、ヒック……」


「そういうのいいから、ほら。ココナのスキルで泣き声は部屋の外には漏れないから、我慢しなくていいから」


 そう言って彼女を俺の方に向かせ、最初に洞窟の中でしたように優しく抱き寄せた。

 正直自分の気障ったらしさに寒気がするし、改めてちゃんと知り合った後でモモを抱き締めるのは、恥ずかしいったらありゃしないが。


 それでも――――



「ふぐッ…………うええええーーーー……!!」



 ――――すぐには消えるはずも無い、彼女の心の痛み、苦しみ。

 消えない恐怖と混乱の記憶に苛まれる彼女の辛さを、少しでも肩代わりして和らげてあげられるように。

 

 今夜も、彼女が泣き疲れて眠るまで、俺はモモに寄り添い続けるのであった。



はい、若干変態です(笑)


口調についてですが、0.5話(モモ視点)で披露しなかったのは、一話丸々「ッス」だと読み辛いかと思って避けました。

今後も基本的には仲間と話す時だけ、この口調(素)を出すと思います。

一人称は「私」時々「自分」です。


次話は、今夜21~23時頃に投稿予定です。

どうぞ、よろしくお願いいたします。


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