第171話 三番目の仲間
本日もよろしくお願いします。
なんか、前話で「書き切った感」があって、その後から筆が進まなくなってしまいました……。
こ、これがスランプってやつか!?(笑)
一年越しの目標達成で一時的に気が緩んでるんでしょうかね。まあ、マイペースに続けたいと思います。
……どれくらい経っただろうか。
泣き疲れてそのまま眠ってしまった昆虫人族の少女。彼女をココナに巻貝の中へと運んでもらって休ませ、俺たちは町へと戻ることにした。
“女神印の魔法薬”の効果で肉体以外に体力、精神力も回復したとはいえ、それで何事もなかったかのように出来るというわけでは無い。
流石に心労や混乱による負担も大きいだろう。
話なら後でゆっくりとすればいいし、今はゆっくりと休んでもらおう。
てゆーか、この洞窟まで移動しておいて正解だった。
“女神印の魔法薬”の使用時にあんなに激しく光るだなんて、もし宿屋で行うというBプランだったりしたら、その後の少女の泣き喚く声も含め大変な騒ぎになっているところだ。
危ない危ない。
『無事に終わったようですね。お疲れさまでした。彼女が目覚めたら、“特殊隷従契約”を結んであげてくださいね?』
はい、了解……って、アルル様!?
アレ、やっぱりとんでもなくヤバい薬で……。
『それじゃあ、あとはよろしくお願いしまーす』
ちょっと!? 早っ!?
……逃げられたか。まあ、いいけど。
気を取り直して洞窟から出ると、外はもう暗くなっていた。
彼女の気の済むまで泣かせてあげようとした結果、こんな時間帯になってしまった。
でも、無理もあるまい。どれほどの間、酷い目に遭って来たのか分からないが、あの状態を見るに並大抵のことでなかったのは容易に想像が付く。
よく精神が崩壊しなかったものだ。感心するよ。
俺たちが洞窟内に入った時に封印したモンスターも、気配察知の範囲外から新たに移動して来たらしく、俺たちの周辺にも何体かの反応が現れていた。
まだ距離はあるし、暗闇の中ではリスクも大きいし、今はスルーして町へ戻るとしよう。
俺はココナをいつものように頭に乗せると、気配察知で感じるモンスターの合間を縫うようにして移動し、町へと引き返したのだった。
そうして宿屋に入り、ツインの部屋を取って片方のベッドにまだ眠っている少女を寝かせ、俺たちも休むことにした。
ココナの中の方が環境は良いらしいのだが、俺は中に入れてもらえないので、目覚めて目の前にモンスターしかいなかったらパニックを起こす可能性が高いと思ったので、安全策を取ったのだ。
中に入れない理由は、ココナが俺を抱きかかえるのを拒否してるからなのだが……。
ココナって、俺とのスキンシップを異常に恥ずかしがったりして、まるで人間の女の子みたいだよなあ。
実は俺と同い年くらいの女の子が化けてたりして。
……って、んなわけ無いか。それは流石に妄想が過ぎるよね。
……
そうして翌、新・異世界生活五十八日目の朝。
俺たちが目覚めても、少女はまだ眠ったままだった。
心配になり、一応鑑定をかけてみるが――――
▷モモ
名前 [モモ・ソートレル]
種族 [獣人族
〔昆虫人族〕]
ジョブ [奴隷]
レベル [11]
スキル
悪食、視覚強化、聴覚強化、触覚強化、
腕力強化、脚力強化、大食い、精神力強化、
毒耐性、鈍化耐性、土属性魔法耐性、
風属性魔法耐性、魔力感知、魔力操作スキル、
風属性魔法の心得、跳躍、脱兎、呪詛攻撃、
簡易迷彩、生命力上昇、攻撃力上昇、
瞬発力上昇、棒術
鈍感、生命維持、瞬間止血、延命
所属 [春野咲也〈隷従〉]
特に状態異常なども出ていないし、大丈夫だと思うんだが……?
ついでに、少女の名前が「モモ」だということが分かった。
まあ、もう少し様子を見るとするか。
イチとココナと朝食を摂り、その後の話し合いの結果、少女を見守りながら三人で魔法やスキルの練習をして過ごすことにした。
ココナも、徐々にマナを感じられるようになってきたらしく、マナ感知のスキルで見ると僅かながらに周囲のマナを操作出来そうな兆しが見られた。僅かながら。
まあ、その横でマナで「スライム」とか「ヤドカリ」なんかを形作っては散らし、また集めては作り、を繰り返しているイチに比べたら雲泥の差があるんだが。それは言わないでおいてあげよう。
てゆーかイチ、そんなことをやりながらも、感じやすいようにとの配慮なのかココナの周りのマナの濃度も濃い目に調整してくれている。
何なの? この愛に満ちた天才スライムは。
さて、人にばかりかまけてもいられまい。
自分の練習もしなければ。
というわけで、いつもは夜にやっている日課を熟すことにした。
そうして昼近くになり、漸く少女は目を覚ます。
「……あれ? えっと……?」
目覚めた少女は辺りをキョロキョロと見回し、その後で昨日と同じように再生した頭部や手足に驚き混乱し始めるが、間もなく落ち着きを取り戻したようだった。昨日の今日なのに、タフな子だなあ。
そして、俺たちの存在に気付いてこちらを見たまま固まってしまうが、それもほんの僅かの間だけだった。
昨日のことをしっかり思い出せたのか、少し恥ずかしそうに布団で顔を覆い隠してしまう。
「おはよう。調子はどうかな? まだ眠ければ、無理に起きなくてもいいからね」
そう声をかけると、彼女はそーっと布団をずらしてこちらを覗き込み、俺たちを順番に目で追った。
「……その……昨日は、みっともないところを、お見せしました。ごめんなさい」
「そんなことないよ。色々と大変だったんでしょ? また泣きたい時とか、他にも何でも気兼ねなく言ってね?」
少女は俺を無言でじっと見つめると、暫くしていそいそと布団から出だし、床に正座して頭を下げた。
「どなたか存じ上げませんが、感謝いたします。改めて、ご挨拶申し上げます、ご主人様。わたくし、昆虫人族の、モモ・ソートレルと申します。ご主人様より授かった、新しい体で、どんなことでも、ご奉仕させていただきますので、何なりと、お申し付けください」
「ご、ご主人様……?」
そんな呼ばれ方にキョトンとするが、そういえば奴隷なんだった。
でも、ご主人様はちょっとなあ……?
「ええと……初めまして、春野咲也と申します。よろしくお願いします。それで呼び方なんだけど、ご主人様というのは仰々しいので普通に名前で呼んでほしいんですけど……?」
「それは出来かねます。仮にも、私は奴隷の端くれ、ご主人様の名を軽々しく呼ぶなど、あってはならないことです。それと、私に敬語など不要です。物と思ってご命令ください」
「えー? 物と思えと言われても、君は人間だし……そもそも俺、物も大切にするからなあ……」
戸惑う俺に、少女が一瞬気の抜けた表情を見せた。
だが、すぐに表情が引き締まる。
「……お優しい方なのですね。あの……奴隷を買われたのは、初めてでございますか?」
「うん。そうだね」
「左様でございますか。ですが、奴隷は人にあらず、でございます。物扱いは難しくとも、徐々に慣れていっていただきたく、思います。では、まずは何からいたしましょう? 買い物でも、炊事でも……なんでしたら、せ……性的なご奉仕でも……」
「いや、それはいいや」
てゆーか、この子何歳なんだろう?
どう見ても年下だよね?
「し、失礼いたしました。ご主人様は、昆虫人はお好みではございませんでしたでしょうか?」
「え? いや、お好み……とかじゃなく、君がどんな種族でも関係無いけど……」
「え……? でしたら、遠慮なく私の体を、お使いください。恥ずかしながら、技術はございませんが、ご主人様のご満足いただける形で、お役に立てるのであれば、私は……」
「ストーップ!」
俺の声に驚き、少女が目を丸くする。
さっきから、なんだか話がアレなんだが?
「あのね、最初に言っておくけど、俺は君を奴隷扱いするつもりは無いんだ。だから、君も普通に人として接してほしい。君が女の子としてそういうことを言ってくれてたなら嬉しいんだけど、奴隷として……とかで言われても、手を出す気は無いからさ?」
「え? ……なら、どうして私を、お買い上げいただけたのでしょう……?」
「え? それは……君が苦しんでて、俺ならどうにか出来そうだったから、だけど?」
「へ?」
少女は、困惑した様子で固まってしまった。もう何度目だろう。
いや、まあ無理もないよね。アルル様のミッションと関係無く考えたら、とんでもない善行だし、まるで正義のヒーローみたいだからな。
「いえ、あの……ご主人様は、天の遣いか何か、なのですか?」
「そんなわけ……無いでしょ。ただの人間だよ。特殊なアイテムを持ってるだけの、ね」
そんなわけ、あるんだけど。
一瞬、アルル様のことを伝えようか迷ったのだが、軽はずみに言っていいことではないし、あとで相談してからにしよう。
なお、例の魔法薬のことについては口外しないようにお願いをしておいた。
「そ、そんなアイテムが……? で、ですが、隷従契約を結んだ身ですので、普通にと申されましても……」
「あ、そうだ。それで、一つお願いがあるんだけど」
そう言って、俺は全知全能の図鑑のメニューを開きながら、彼女に「特殊隷従契約」の件を話してみた。
「特殊……? 普通の隷従契約と、何が違うのでしょうか? 申し訳ございません、それについて存じ上げないのですが……」
「うん。俺もよく知らないんだ。でも、アル……いや、悪いようにはならないと思うから、とりあえずやってみようか?」
「……分かりました。承諾いたします」
そう言ったものの、どうしたらいいのかよく分からず、まずは「特殊隷従契約」のメニューを開いてみる。
すると、メニューの中に「モモ」の名前が表示されていた。
【〔モモ・ソートレル〕と契約可能です。特殊隷従契約を行いますか? はい/いいえ】
これを選択すればいいのかな?
モモに「いくよ?」と声をかけ、その選択肢の“はい”を選択する。
すると――――
【〔モモ・ソートレル〕と特殊隷従契約が結ばれました。通常の隷従契約に上書きされました】
――――なんとなく、彼女との間にほんのりと温かいものが感じられた。
だが、特に目立ったエフェクトも無く、あっさりと終わったようだった。
「……なんだ、緊張して損し……」
【特殊隷従契約により、領域の一部共有化を行いました】
【領域の一部共有化により、経験値移譲の経路が構築されました】
【領域の一部共有化により、一部上位スキルの貸し与えを行います】
【《身体強化スキル》が複製され、〔モモ〕に移譲されました。劣化率は0.01%未満です】
【悪食・下、視覚強化・下、聴覚強化・中、触覚強化・中、腕力強化・下、脚力強化・中、大食い・下が《身体強化スキル》に統合されました】
【《精神強化スキル》が複製され、〔モモ〕に移譲されました。劣化率は0.01%未満です】
【精神力強化・中が《精神強化スキル》に統合されました】
【〔モモ〕のステータス情報が開示されました】
……なんて?
やっぱり、そんなあっさりとは終わらなかったか。
でも、アルル様の言ってた通り、特殊封印の奴隷版という感じなのかな?
「えっ? えっ?」
どうやら、彼女にも聞こえてたみたいだ。
ステータス情報開示という知らせを受けて、再度彼女の鑑定を行ってみる。
▷モモ
名前 [モモ・ソートレル]
種族 [獣人族
〔昆虫人族〕]
性別 [女]
年齢 [4歳]
生年月日 [非表示]
出身 [非表示]
ジョブ [奴隷(特殊)]
レベル [11]
称号 [農業者、不幸、悲劇の人、
清らかな心、呪術の才能、
愛の人]
スキル
身体強化スキル、精神強化スキル、
毒耐性、鈍化耐性、
土属性魔法耐性、風属性魔法耐性、
魔力感知、魔力操作スキル、
風属性魔法の心得、跳躍、脱兎、
呪詛攻撃、簡易迷彩、
生命力上昇、攻撃力上昇、
瞬発力上昇、棒術、
鈍感、生命維持、瞬間止血、延命
所属 [春野咲也〈特殊隷従〉]
おお、称号なんかも見れるようになったようだ。
「呪術の才能」なんてちょっと怖いのもあるけど、これまでの苦労が窺えるな。
でも、「清らかな心」とか「愛の人」なんてのもあるし、悪い子じゃなさそうだ。
それより気になるのは……。
「4歳!?」
そう言って驚く俺に、少女が説明してくれる。
「あ、いえ。それは昆虫人族としての、年齢ですので。生まれて四年しか、経ってはおりませんが、他の……例えばご主人様のような、猿人族で考えますと、大体14~15歳に、相当するかと思います。昆虫人族は成長も寿命も、他の獣人族とは大きく異なりますので」
なるほど、だから4歳でも見た目同い年くらいに見えるのか。
ビックリしたよ。一瞬、随分大人びた幼児だなと思ってしまったじゃないか。
ファンタジー。
「あの、申し訳ありません。質問させていただくことを、お許し願えますでしょうか?」
「あ、うん。もちろん。あと、さっきも言ったけど、普通に喋っていいから」
「……かしこまり……、いえ、分かりました。えーっと、何から……? それでは、まずさっきの声、領域や経験値について、よく分からなかったのですが、ご主人様にも聞こえていたのでしょうか?」
普通と言ったのに、まだまだ固い気がするなあ。
まあ、いきなりは無理か。
でも、ご主人様は直してほしいんだけど。
ともかく、経験値の移譲や一部のスキルの共有と思われる部分に関して、分かる範囲で教えてあげる。
イチやココナの特殊封印を参考にしただけだから、間違ってないといいけど。
その説明を聞いた少女は、俺を疑いの眼差しで見つめていた。
だが、不審な人物を見るというよりは、「この人、本当に人間?」という畏れの感情が伝わって来る。
「……すみません。もう一つよろし……いいでしょうか? こちらのモンスター、ご主人様に従っているように見えるのですが、ご主人様はモンスターテイマー……なのでしょうか?」
「いや、俺は……モンスターテイマー……? では無い……よ?」
「何故、疑問形なのですか?」
とは言っても、なんと説明したものか……。
封印スキルのことも話さないといけないが、それは後にしようかな。
「とりあえず、この二人はスライム……ステムセルスライムのイチと、ヤドカリのココナだよ。モンスターだけど人に危害は加えないから、安心して。仲間同士、仲良くしてね?」
「ご主人様のご命令とあらば、言葉の通じぬモンスターといえど精一杯意思疎通を……」
(よろしくね、モモちゃん)
「よろしく、モモさん」
「……よろ……しく……。はぇ……?」
ポカンとした顔で俺とイチ・ココナを何度も見るモモ。
そっか、特殊隷従契約と特殊封印した間でも言葉が伝わるようになるのか。
これは助かるなあ。
「あ、あ、あの、今、モ、モン、モンスターの、言葉が、分かった、ような……?」
「うん、そうみたいだね。さっきの特殊隷従契約の効果みたい。これで二人とも話せるね」
「やった! 改めてよろしく、モモさん!」
(ぷるるん♪ よろしく、モモちゃん!)
「ふえ!? は、はい。よろしく……お願いします……。えっと、イチ……さん、ココ……ナ……さん……?」
二人は順応性高くキャピキャピと喜んでいるが、流石にモモはまだ状況に付いて行けていないようだ。
口を半開きにして二人を見つめたまま、動かなくなってしまった。またかよ。
「……さあ、それじゃあ縁もタケナワではございますが、挨拶も無事に済んだところで……」
「ちょ、ちょっとお待ちいただけないでしょうか、ご主人様!? 自分、まだ処理し切れて無いッス!」
「……自分? ッス?」
「あ、いえ! 失礼いたしました! す、少しお待ちいただけないでしょうか?」
普通に話を進めようとしたら、流石にモモからストップがかかってしまった。
タケナワの意味なんて知らないしな。
でも、一瞬モモのキャラが違ってたような……?
モモが落ち着くのを待ち、改めて本題を切り出してみる。
「それで、モモ……さん? さっきの特殊隷従契約のことなんだけど」
「あ、はい。もう大丈夫です、ご主人様。何なりと」
「うん、それで……奴隷から解放出来るけど、やっちゃっていいかな?」
「解放ですか? それなら……………………は?」
モモは、再び固まって動かなくなった。
うん、何度もゴメンね。
でも、こう言う以外にやりようが無いと思うんだよね。
モモが再起動するのを待ち、改めて尋ねてみる。
「どうやら、この「特殊隷従契約」は俺が自由に解放することも出来るみたいなんだ。というわけで、君を自由の身にしようと思うんだけど?」
「解……放……?」
喜んでくれるかな?
故郷にも帰してあげられるし、飛び上がって嬉しがるかもな――――
――――そう思っていた俺の目の前で、モモは何故か、ボロボロと泣き出してしまったのだった。
前書きにも書きましたが、筆が進まない……。
ストックの準備が一話しか進まず、こんな中途半端な時間になってしまいました。
次話は10月14日の投稿予定とさせていただきたく思います。




